最後におまけです。ふとATLLを書いていなかったことに気がついたので、最後にこれを書いてみようと思います。
ATLLはCD4陽性CD25陽性T細胞にHTLV-1が感染することによって稀に発生するT細胞腫瘍です。HTLV-1の分布が九州や沖縄に多いため、南西日本の発症頻度が多い腫瘍になります。
CD25陽性T細胞は制御性T細胞の特徴を有するためか、免疫不全による感染(発熱)で発症する患者もいる(細胞性免疫の低下)し、副甲状腺ホルモン関連タンパク(PTHrP)により高Ca血症が引き起こされ、それによる口渇・多飲・多尿・腎不全などが起きることもあります。皮膚浸潤や皮下結節、紅皮症などを起こす患者もいるし、リンパ節が腫れる患者もいます。
病型が4つに分かれますが、急性型とリンパ腫型は中央生存期間がかなり短いため、治療を急ぐ必要があります。それでは、少し説明文を書いてみたいと思います。
Zさん(60代、男性)は口渇、多尿、皮疹を主訴に近医を受診し、血液検査で軽度の白血球増加、血小板減少、乳酸脱水素酵素上昇、腎機能低下を認め、血液疾患が疑われ当科に紹介となりました。
外来で腎不全の進行と高カルシウム血症があることから、すぐに入院とし、必要な検査をすすめました。外来で出身地の確認なども行いました。
(以下説明です)
Zさんは口渇、多尿と全身の皮疹を主訴に、近くのクリニックを受診されて、血液の数値の異常から当科に紹介となりました。
当科での血液検査でも白血球は16000/µl、ヘモグロビン 14.5 g/dl、血小板 9万/µlと白血球増加、血小板減少を認めています。さらに腎臓の老廃物である尿素窒素やクレアチニンという値がかなり上昇しており、その原因はカルシウムが高いことにあると思われました。この治療を緊急に行わないと命に関わると判断し、緊急入院していただきました。
現在、点滴で脱水の補正をしているほか、いくつかの薬剤を用いてカルシウムを下げる治療を行なっています。
その他、特徴的なものとして形の変わったリンパ球が10%程度血液中にでています。それは花びらのような「核」を持ったもので、「フラワー セル」と呼ばれたりするものです。
Zさんの出身地は九州と聞きましたが、どちらでしたでしょうか?
Zさん:鹿児島県です。
ご家族に血液の病気の方がいらっしゃいますか?
Zさん:少し離れた親戚が、血液の癌で亡くなったと聞きました。
今、いくつかの検査を提出中ですが、九州地方に多いウイルスであるHTLV-1というウイルスが感染していることが検査結果でわかりました。もちろん、偽陽性という可能性もあるのですが(HTLV-1キャリアの方(もしくは調べに来た方)への説明(アンフェタミン版)参照してください)、九州地方であること、ご家族にも同じような症状の方がいるのではないかと思われることから正しい検査結果ではないかと思います。
Zさんの病気は現時点では成人T細胞白血病リンパ腫(ATLL)だと思われます。これはHTLV-1というウイルスが感染したCD4リンパ球が「がん化」してしまい、血液の数値をおかしくしたり、腫瘍細胞から出る因子(PTHrP)で高カルシウム血症になったりします。また、CD4リンパ球が減っていることや、CD4の中でも免疫抑制性のT細胞(制御性T細胞)が癌化していることから、免疫力はかなり低下しています(普通は感染しないような菌・カビによる感染:日和見感染が増えます)。
この病気の診断確定には「サザンブロット」という方法で増えているリンパ球が腫瘍であることを確認する必要がありますが、この検査結果が判明するまで2〜3週間かかります。検査結果を待ってから治療を初めていると、後手に回ってしまう可能性が高いです。
臨床的にATLLと診断し、できるだけ早期に治療を開始したいのですが、Zさんはそれでよろしいでしょうか?
(ATLLは調べればわかりますが、まだ予後が良いとは言えない疾患です。もちろん、これから先はわかりません。少しずつ武器も増えてきましたので。)
Zさん:はい。宜しく御願い致します。
Zさんは検査結果から急性型のATLLと診断できます。
(病型診断のためのフローチャートがありますが、リンパ腫型は末梢血中にフラワーセルが1%以下でなくてはいけないので、症状があればほとんど急性型になります)
この病気で同種骨髄移植が実施できる患者さんは、基本的に同種骨髄移植を行う方針で治療をします。それはATLLが「抗がん剤が効きにくくなりやすい腫瘍」であり、一方で免疫療法(同種移植)が有効であることもわかっている(GvATLL効果:移植片対ATLL)からです。
Zさんはご兄弟がいらっしゃいますでしょうか?
Zさん:兄と弟が2人います。
可能であれば、了承をいただいた後にご兄弟のHLAなどを確認して、血縁者間移植を行うか、合わなければ骨髄バンクに調整をして移植を行いたいと考えています。
治療に関してはmLSG15(VCAP-AMP-VECP療法)で治療を行います。これは多数の抗がん剤を使用する治療法で、だいたい4週サイクル(患者さんによっては5週間間隔くらいになる方も)で治療を行うものです。これで治療効果を得ている間に移植を調整して、同種移植を実施するのが長期的な治療計画になります。
Zさん:宜しく御願い致します。
こんな感じでしょうか。実際はかなり時間をかけて説明すると思います(mLSG15の説明や移植の説明が必要なので)が、大まかにこんな感じと・・・。
ATLLにもいくつか有望な薬が出てきています。まず、かなり昔からありますがモガムリズマブ(抗CCR4抗体)です。CCR4はATLLの90%以上に発現しているとされ、急性型のATLLには有効です。ただ、正常な制御性T細胞にも出ているため、この薬を使用した後に間を空けずに骨髄移植を行うと、GVHD(移植片対宿主病)が強くでる可能性があります。
そのため移植を念頭に置いている場合は避けるかもしれません。移植をしないという選択肢であれば、他の合併症(自己免疫疾患があるなど)の状況を見て使うと思います。
あとは再発難治のATLLにレナリドミドが適応追加になりました。
PD-L1の過剰発現が30%くらいのATLLの患者さんで見つかったという報告もあり、免疫チェックポイント阻害剤も将来的には使われるようになるのかもしれません(今はな〜んにも決まっていません。一部の患者さんにPD-L1の過剰発現があるだけです)
個人的には再発後にソブゾキサン(ペラゾリン)とエトポシドの内服で引っ張った患者さんがいました。発症から3年くらい頑張られた(多分、内服期間が1年半くらい)ので(放射線治療の併用など色々やりましたが・・・)、こういう薬も捨てたものではないかなと思っています。
まだまだ治療が発展途上の病気だと思いますが、今年適応追加になりましたレナリドミドなどもありますし、医学の発展に期待したいと思っています。
2017年度版の患者さん向け説明文書の作成はこれで終了します。他にこのような病気について記載してほしいというご依頼がありましたら、コメントをいただければと存じます。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。
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それでは、また。
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