さて、それでは予定通り慢性骨髄性白血病(CML)を書いていきたいと思います。過去の記事(慢性骨髄性白血病に対する説明(患者さん向け))を見てみましたが、ほとんど同じで良いなと思ってしまいました。そのため流用が多いです。しかし、最初から第2世代を使用することやBCR-ABL ISが基本になった(CML-Ampがなくなった)ことから、治療効果判定や治療目標などは変わってきています。
最初ではないですが、5年前と違うのは使用できる薬剤が5剤に増えていることでしょうか。ボスチニブ(ボシュリフ)は初発に対しては臨床研究が始まったところですし、ポナチニブ(アイクルシグ)は当分ないでしょうけど、選択肢は増えています。
ということで、CMLの説明に入ります。
○○さんは先日、白血球などが多いということで当科を紹介受診されました。
採血では白血球が23000/μlと上昇しており、ヘモグロビン(Hb)が15g/dl、血小板が65万/μlと白血球増加、血小板増加を認めました。この白血球の中身に関してですが骨髄球などの血液中にはめったに出てこないものも認めますが、特徴として好塩基球という普通は1%くらいしか認めないものが8%と多く認められ、好酸球も10%と多いです。
この採血結果から慢性骨髄性白血病という病気を疑い、精密検査を行ってきました。
結論を申し上げますと慢性骨髄性白血病という診断になりました。これから病気に関して、治療法に関して説明してまいります。
慢性骨髄性白血病は造血幹細胞と言いますが、血液を作るおおもとの細胞に異常が生じ起きる病気です。この異常は遺伝子レベルで分かっていて「bcr-abl」という異常なたんぱく質ができることで生じてしまいます。
この異常の名前はどうでもいいのですが染色体という遺伝子の船が壊れて、他の船の頭と船尾(おわり)を交換してしまったことで起きます。(染色体の絵をかいて、交換してみせる)この9番と22番という染色体で交換が起きてしまい(フィラデルフィア染色体:Ph染色体と言います)、「bcr-abl」という異常な遺伝子ができます。
この遺伝子の出す命令は「増えろ~、増えろ~。とりあえず増えろ~」という命令です。この病気になったばかりの時は「増えろ」「増えろ」と言われているだけで、機能的には正常な白血球が増えてきます。もしかしたら普通の時よりも抵抗力はあるかもしれませんね。
ただ、このまま放っておくと白血球は10万、20万と増えていってしまいます。この際限なく増えていくうちに「追加の異常」が加わってきます。この遺伝子にひずみが生じて、今後話をする「特効薬」が効かなくなることもあります(新しい基準での移行期の定義の1つ)し、他の遺伝子異常が加わり「正常な白血球」が作れなくなる。正常な白血球が作れなくなったら、それは「移行期」「急性転化」などと言いますが、急性白血病の状態に移行し死亡に至ります。
今回、現在での骨髄の状態を把握することも含めて、骨髄穿刺を行い先ほど申し上げた遺伝子の変異がないか調べたところ、この異常を認めました。この時点で慢性骨髄性白血病と診断いたしました。
今の時点では「急性白血病」の細胞の増加は認めていません。慢性期のCMLでよいと考えます。
この病気の治療ですが、2000年までは若い人だけが同種骨髄移植で完治するだけで、ほとんどの患者さんは3年ほどで急性白血病に進行し死亡していました。2001年にグリベック(イマチニブ)という薬が発売され、これによって多くの人(8割~9割)の方が長期生存(IRIS試験という有名な試験で全生存率85%、病気が進行せずに生存している割合が92%:他の病気が原因で死亡がいてCMLでの死亡は7%)されます。
治療の選択には3つの薬があります。先ほど説明したグリベックという薬が1つ目。2つ目はタシグナ(ニロチニブ)という薬、3つ目がスプリセル(ダサチニブ)という薬です。
グリベックは昔からある薬ですが、効果は後者2つより弱く、副作用として皮疹、浮腫(流涙など含む)、こむら返り、血液毒性などがあります。癌細胞が多いうちは「皮疹」はよく出てきます。
また、血液毒性というのはほかの薬でも出るのですがイメージしてみてください。今は骨髄の中に癌細胞ばかりです。先程も血液の中に癌細胞がどのくらいいるかを第2段階で評価するといいましたが、がん細胞はいっぱいいます。それを押さえつければ、今までいた正常な細胞が増えてくるまで血液って減りそうにありませんか?体の中の血液の作る能力の95%が癌細胞、残りの5%が正常な血液だとすれば、正常な血液が工場を奪回するまでの間は血液の産生能力は落ちます。ですので、薬を使用し始めたばかりの時期に血液は減りやすいです。ですので、この副作用などを見ながら調整をしていきます。必要に応じて薬をいったん休薬して、再開して・・・などですね。
しかし、グリベックという薬は最も長く使用されていますので、長期の安全性が確立されていることと、血管などに対するダメージは少ないと言われています。また、一日1回の内服で良い薬です。
タシグナはグリベックよりも20倍ほど強くbcr-ablという遺伝子を抑えます。また、bcr-abl以外の遺伝子に与える影響は少ないと言われています。この薬の副作用は血液の数値の異常や心電図の異常のほか、初期には頭痛や皮膚のかゆみなどを訴える方がいます(頭痛は初期は起きますが、3ヶ月くらいで消えます)。ただ、最も大きいのは血管に対する影響で、まれな副作用ではありますが、血管が詰まったりする方がいます。あと糖尿病が悪くなるとも言われていますので、糖尿病のある方は避けるかもしれません。症状の出る副作用は少ないので、使いやすい薬ですが一日2回、空腹時に内服する必要があります。
スプリセルはグリベックよりも300倍くらい強くbcr-ablを抑えます。ただ、他の遺伝子に対する影響も大きく、胸に水が溜まったり、消化管出血を起こしたりする患者さんがいると言われています。肺の病気があったり、他の病気の状況が悪かったりすると使いにくくなることもあります(色々影響与えるので。最近は糖尿病や血管病変の有無でオススメの選択肢を示します。何も合併症がない人だと、スプリセルもいい感じで効きます)。これも一日1回の内服で良い薬です。
新しい2つの薬剤は早く白血病細胞を抑えることができ、より良い可能性はあります。しかし、長期的な成績はまだ出ていません。ただし、最近の一般的な選択肢は第2世代の薬物になってきています。
「では、新しい薬のどちらかにします」
この病気には4つの目標があります。
1つは血液学的完全寛解と言いますが、見た目が正常になるかどうかですね。先ほども言いましたが、最初に白血球などが多くなっていて、その中身に好塩基球や好酸球などの割合が多くなっていました。これは普通の人ではありえません。これが普通の人と同じような血液の数値になり、なかっも正常な内容になるかどうか。これが第1の目標です。新しい薬を使用する場合は、これを治療開始1〜2ヶ月程度で達成するというのが目標です(2世代だと1ヶ月くらいで改善している印象です)。仮に達成でいそうになかった場合は、他の薬剤に変えます。
2つ目は細胞遺伝学的寛解と言っていますが、例の異常なPh染色体と言われるもののパーセンテージを調べていきます。血液中に出てくる白血球の中のがん細胞の割合を見る検査ですね。この病気はこの異常によって引き起こされていますので、これが多いか少ないかがわかれば、病気の治療評価になります。0%~100%までありますが半年以内に0%になるのを目標にしています。細かいことを言うと3ヶ月で35%以下が望ましいとか、半年の時点で35%未満であれば治療薬は変更するなどがありますが、細かいものはこちらで診ていきます。すなわち第2段階は数値でみれるもので半年以内に0%にしてしまいたいというのが目標です。
3つ目はこの目標が達成できた後に、血液の中を流れている遺伝子そのものをはかります(分子生物学的寛解)。血液の中に出てくるがん細胞は0%ですが、骨髄の中などに隠れているわけです。そいつらが存在しなくなれば血液の中からも「遺伝子」そのものが消えてなくなると考えられます。実際は先ほども言いましたが「検査の限界」がありますので、本当に0になったのか、まだ検査の限界を下回ったが存在しているかはわからないわけです。まぁ、難しい話は置いておいてより細かい検査があるわけです。これでMMR(Major molecular response)というものが次の目標ですが、BCR-ABL ISという数値が0.1%未満になることが目標です。この数値を1年以内に達成することが目標ですが、臨床試験では1年で達成できなくても使用を継続していると達成率が増えてくることもわかっています(12ヶ月でMMR達成は約50%で、継続すると増えていきます)。そのため、移行期になったとか明らかに治療反応性が落ちたということがなければ少し様子を見ることもあります。もちろん、薬を変えるのも選択肢です。治療効果がなかった場合は、BCR-ABL遺伝子の突然変異がないかなども確認します。
さらに4つ目の目標としてBCR-ABL IS 0.0032%未満になることがあります。このレベルをCMRとかDMRと言います(もしくはMR4.5)が、腫瘍細胞がかなり減った状態になっています。 この状態を長期に維持できれば、休薬できる可能性があるとも言われています。これはまだ臨床試験の段階ですので、一般臨床には反映されていませんが、将来はそうなる可能性もあります。

これから薬を使用してこの目標を達成に行きます。まずはどの薬を選択して、目標を達成しながら治療をするかを決める必要があります。
この病気は治療を継続することが非常に重要だと考えられています。今の時点では治療を継続していれば、多くの方は病状を安定させることができます。
休薬を目標にするか、安定を目標にするかなど考え方もありますが、副作用や効果を見ながら、うまく治療が継続できるように頑張っていきましょう。
こんな感じになるかと思います。5年前の記事と比較して、考え方が変わったのは「最初から第2世代のチロシンキナーゼ阻害薬を使う頻度が増えた」こと、それに伴い「評価基準が少しずつ厳しくなったこと」、以前は「基本的に治療は継続」という考え方であったものが、「治療をストップできないか」という考え方になったことでしょうか(治療の最終目標が継続治療から、休薬して安定・・に変わった)。
参考になれば幸いです。
いつも読んでいただいてありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。