新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

僕の血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)についての説明(2017年度版)

2017-12-26 20:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は溶血性貧血と血小板減少を主徴とし、発熱や動揺性精神症状、腎不全などを生じる疾患です。

 

上の5つの症状を5徴候としていますが、すべてで揃うまで待っていたら厳しいことになります。TTPは無治療での死亡率は90%以上とされ、早期に治療を行う必要がある病気です。

 

この病気の原因がADAMTS13というvon willebrand因子という「血小板のノリ」のような物質のマルチマー(活性型だと思ってください)を切断する酵素に対する自己抗体によるものだとわかりました。

 

自己抗体のせいで通常時は活性型を不活性型に常に変えているのに、それができなくなったために身体中の血管で血小板がひっついて血栓ができてしまいます。それにより脳梗塞のような症状が起きたり、腎不全が起きたり、身体中で大変なことが起きてしまいます。

 

溶血性貧血は機械的溶血と言われるもので、赤血球が血栓に引っかかって破れて起きています。

 

この病気の治療は血漿交換を行うことで、不足しているADAMTS13を補充し、さらに少しでも自己抗体を減らすこと。そしてステロイド剤で自己抗体を産生するB細胞を潰すことです(新規に自己抗体ができないようにする)。ステロイドが効かなかったらリツキシマブを使います(まだ保険適応外のはずですが)。

 

 

ということで、慌ただしい病気ですが、簡単に説明を書いていきます。

 

 


 

Xさんは貧血と血小板減少を認めたため、血液疾患疑いで当科に紹介となりました。血液検査で白血球数は8000/µlとやや高めくらいでしたが、ヘモグロビンは10g/dl、血小板は0.5万/µlとかなり低下していましたので、すぐ入院していただきました。

 

血液像という検査で赤血球が破れたようなもの(破砕赤血球)が多数認められ、クームス試験という自己免疫性溶血性貧血で陽性になるものは異常になりませんでした(クームス試験陰性)。

 

まだ、確定ではありませんが血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の可能性が高いです。

 

この病気は血小板という物質の補助をするvon willebrand因子というものがあるのですが、それを抑えるADAMTS13という物質に対する抗体を作る病気です。

 

難しいのですが、ADAMTS13という物質は血小板を相互に活性化させるものを抑える働きがあります。体の中で血が固まらないようにする物質です。

体の中に血が固まらないようにしている物質がなくなると、身体中で血が固まります。そういうものを血栓症と言います。

 

身体中で血栓症が起き、血小板というものが消耗性に減少しています。もはや使う血小板もなくなったため、症状の進行は治っていますが、止血する物質が限界まで低下したため、出血しやすくなっています。

 

また、身体中にある血栓に赤血球が引っかかり、壊れてしまっています。それにより貧血が進んでいます(微小血管障害性溶血性貧血:MAHAと言います)。

 

この病気は5徴候を満たすか、ADAMTS13という物質の活性が低下していることと、インヒビター(自己抗体)の確認をする必要があるのですが、検査結果はすぐには出ません。しかし、治療はすぐに必要になります(遅れれば致死的です)。

 

検査を提出した上で、すぐに治療に入りたいのですが、よろしいでしょうか?

 

Xさん:よろしくお願いします。治療はどのようなものを行うのでしょうか?

 

治療は主に2つのことを行います。一つは血漿交換というものです。これは今のXさんの中にある血漿(血液の中の液体成分)を輸血用の血漿と入れ替えます。そうすることでADAMTS13の補充ができますし、自己抗体を減らすことができます(対症療法)。

 

それを行いながらステロイド剤の治療を行います。これは自己抗体を作っているB細胞を抑える治療です。ステロイド剤が効果を発揮して自己抗体が作られなくなれば、この病気は治ったと言えます(再発する可能性はあります)。

 

Xさん:出血していることに対して、減っている血小板を補ったりはしないのですか?

 

血小板輸血はこの病気に関しては原則禁忌と言われています。やってはいけないという意味です。理由は血小板を入れれば、入れたところから血栓ができてしまいます。そうすると病状が進行してしまいます。今できることは早期に血漿交換を行い、消費する血小板を減らすことです。

 

Xさん:よくわかりました。検査結果が出る前に治療が必要なこともわかりました。宜しく御願い致します。

 


 

 

こんな感じでしょうか。

実際にTTPを見たらかなり慌ただしくなると思います。医師主導治験でリツキシマブの有効性は示されていますので、ステロイドが無効の場合はリツキシマブを入れて抗体産生を抑えることになります。

 

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孫を見せに実家に帰ります:しばらくコメントの返信できません

2017-12-26 10:02:34 | Weblog

おはようございます

 

明日から実家に帰る予定です。来年からはゆっくりとした年越しはできないと思いますので、今年はゆっくり年越しする予定です。

 

年末年始になりますが、いつのまにか人気ブログランキングは2位に浮上しておりました。2位まで来たのは初めてです。

 

これも皆様の応援のおかげと感謝しております

 

このブログもできるだけ長く続け、皆様のご質問などにもお答えできるようにしたいと思っております。引き続き応援していただけますと嬉しく存じます

 

実家のネット環境が整っていない(ような気がする)ので、おそらくコメントの返信はできません。また、家族で何やら遊びに行くことも多いと思いますので、あまりパソコンを開く時間もないかと思います。

 

コメントに関しましては、年明けに返信いたしますので、少しお時間をいただけますと嬉しいです。

 

12月27日の夜、28日、大晦日に予約投稿もしておりますが、まずは皆様へのお礼をさせていただきます。

 

 今後ともよろしくお願い致します。

 

 

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僕のPTCLの説明(2017年度版:ALK陰性未分化大細胞型リンパ腫を題材に)

2017-12-26 08:00:00 | 患者さん用(説明の仕方シリーズ2017年版)

依頼がありましたALK陰性未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)について少し書いてみたいと思います。

 

しかし、これだけについて書くというのはなかなか難しいので、末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)全体を書いていきたいと思います。

末梢性T細胞リンパ腫は非ホジキンリンパ腫のうち中等度悪性度(月単位で進行)のリンパ腫にあたります。基本はCHOP療法ですが、成績がそれほど良くないので、治療法に絶対これが良いというものではないです。

 

 

しかし、新規薬剤が多数出て来ました(ブレンツキシマブ ベドチン、モガムリズマブ、ロミデプシン、ボリノスタット、フォロデシン、プララトレキサートなど)。それゆえ、再発などの際は選択肢がたくさんあります。初発時はDLBCLと同じような説明をします。IPIではなくてPITやATPIなどを使うくらいです。DLBCLの説明を少し読み替えていただけると嬉しく思います。

 

 

ということで、少し書いてみたいと思います。


×△さん(60歳、男性)はリンパ節腫脹と発熱のために近医を受診され、リンパ腫が疑われて当科に紹介となりました。

 

リンパ節生検の結果、未分化大細胞型リンパ腫(ALCL)という悪性リンパ腫であることがわかりました。

 

悪性リンパ腫は細かく分けると70以上に分かれてしまいます。そこでまず、悪性リンパ腫をホジキンリンパ腫と非ホジキンリンパ腫に分けます。これは治療法が異なり、ホジキンリンパ腫ではABVD療法、非ホジキンリンパ腫ではCHOP療法を行います。

 

非ホジキンリンパ腫も大きく分けるとB細胞性リンパ腫とT細胞性リンパ腫に分かれます。B細胞リンパ腫が90%近く、T細胞リンパ腫は10%前後とT細胞リンパ腫の方が稀です。

 

治療法はだいたい同じような治療を行いますが、B細胞性リンパ腫ではR-CHOPというものが標準治療とされています。それに対して、T細胞リンパ腫はCHOP療法やCHOEP療法というような似た治療を行うことが基本ですが、症例数が少ないこともあり、「これが標準治療」というほど決まった治療法がない状況です。ですので、患者さんの年齢や合併症などをみて、対処を決めていくことが多いです。

 

今回のALCLという悪性リンパ腫はT細胞リンパ腫の中でも末梢性T細胞リンパ腫(PTCL)というグループに入ります。その中では予後が良い方になるのですが、ALK(未分化リンパ腫キナーゼ)というものが陽性のグループ、陰性のグループ、皮膚型のグループがあります。皮膚型は特殊系になるため、積極的な治療をするかは検討材料になります(NCCNのガイドラインでは、原発性皮膚ALCLは皮膚ですぐに再発するが、経過はゆっくりであり、5年全生存率は90%とされています)。

 

ALK陽性ALCLとALK陰性ALCLはALK陽性群が生存率が良いとされていますが、それはCHOP療法が効きやすいことと若い患者が多いことが挙げられています。ALK陰性ALCLでは先ほども申し上げた通り、患者さんの状況に合わせてCHOP療法でいくのか、エトポシドという抗がん剤を加えてCHOEPという治療でいくのか(それでも成績は満足いくものではないです)、自家移植併用大量化学療法を「初回寛解」からだめ押しで使用する(臨床試験)のかなどを決める必要があります。

 

×△さん:確認ですが、標準治療はないのでしょうか?

 

繰り返しになりますが、基本はCHOP療法になります。診療指針でもCHOP類似療法と書かれていますし、CHOP療法を選択する施設が多いと思います。

 

ただし、CHOP療法で満足できる成果が出ているかというと、再発する患者さんも多いという状況です。標準治療と書いてしまうと、現時点ではこれが推奨・・・という位置付けになりますが、患者さんによってはCHOEPというものにしたり、初回から自家移植を入れたりなど、まだ固まった位置付けではないという状況です。

 

×△さん:再発したら、どうなるのでしょうか?

 

×△さんは60歳と自家末梢血幹細胞移植が実施できるので、再発時にはそれを行うことを考えます。ただ、自家移植というものは「抗がん剤の効果」に依存しています。それゆえ、再発時に抗がん剤が効きやすいか、どこまで腫瘍細胞を減らせているかも重要です。

 

ただ、ALCLという疾患はCD30というアンテナを持つことが特徴になります。初回からは使用できませんが、再発時には「アドセトリス(ブレンツキシマブ ベドチン)」を使用する可能性があります。この薬は抗CD30抗体というものに、抗がん剤を結びつけた新しい抗がん剤です。CD30というアンテナに結びつき、腫瘍細胞の中に抗がん剤を入れ込み、腫瘍細胞を殺していきます。

 

こういった薬も出てきているため、必ず自家移植に行くかどうかもわからないと思います。

 

×△さん:私はどうしたら良いのでしょうか?

 

基本的な方針として「多剤併用化学療法」を行った方が良いとは言えますが、強度に関しては患者さんによりけりです。×△さんの年齢を考慮すると自家移植もできますので、初回から自家移植を行うかが問題になります。

 

ですので、CHOP療法をまず行い、それで寛解にはいれば再発するまでは経過観察という案が1つ。CHOP療法で寛解に入れて、初回から自家移植を併用し、だめ押しをする方針にするか(上のフローチャートの示す「臨床試験」になります)・・・がもう1つでしょうか。

 

前者はCHOP療法で完治していれば、余計な治療をしなくて済みます。再発しても救援化学療法(ESHAPやEPOCHなど)が効いて、自家移植に持ち込める可能性があります。ただし、再発時に腫瘍の悪性度が高くて、なかなか再寛解状態に入らないこともあり得ます。その場合は自家移植は難しいかもしれません(アドセトリスはできます)。

 

後者では初回から自家移植を行いますので、再発する可能性は下がると思います。しかし、実はいらない治療をしていた可能性も否定はできません。再発時はアドセトリスなどを考えるか、同種移植を検討するかになりますが、これは再発する時期がいつかなど検討事項がありますし、やるのであれば治しに行きますので、再発することは考えないようにしたいところです。

 

余計な治療をしたくない。CHOPで治る可能性にかけるのであれば、前者。自家移植ができるうちに確実に潰すのが後者の考え方になります。×△さんがどちらに重きをおくかです。

 

なお、なかなか寛解に入らない場合は、治療方針を変えて(救援化学療法)、自家移植を目標にします。それでもダメならば新規薬剤を投入します(アドセトリス含む)。

 

×△さん:わかりました。私はまずCHOP療法を選択して、寛解に入ったら少し様子を見たいと思います。


こんな感じでしょうか。

 

基本的に初回から自家移植というのは「臨床試験」のレベルであって、絶対推奨ではないです。ただし、患者さんがどう考えるかで考え方には含まれるかもしれません(絶対にしてはいけないならば、最初から書いていません)。

 

このようにPTCLの領域はまだ決まっていないことも多いです。

 

ですが、新規薬剤が色々出てきましたので、色々期待したいとは思っています。

 

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