1.涙の産生と排出
涙は主に主涙腺で作られて、瞬きによって目の表面に運ばれる。また、瞬きによって鼻側ある上下二つの涙点から排出される。通常では涙の10%が眼の表面から蒸発する。
2.涙液膜の三層構造
1)外側:薄い油膜のような「油層」
睫毛の生え際にあるマイボーム腺より分泌。瞬きで上下の瞼がくっついて離れる時に涙の表面に油膜をはる。涙の水分蒸発防止の役割。
2)中間:栄養分と水分をたくさん含んだ「水層」
涙の主成分。主涙腺で産生され、瞬きによって眼の表面に運ばれる。 瞬きには、角膜(三叉神経第1枝支配)を刺激し、涙腺からの涙の分泌を促す作用もある。汚れた涙を涙点(目頭にある涙の排出口)へ運ぶのも、またたきの働きである
3)表面:タンパク質でできた粘りのある「ムチン層」
結膜にあるゴブレット細胞から主に分泌。水層を眼の表面にとどまらせる接着剤のような役割。
目やにの主成分は、ムチンである。
3.ドライアイの原因
眼精疲労を訴える者の6割はドライアイである。ドライアイはその原因によって大きく二つのタイプに分けられる。
1)涙液蒸散型
涙の蒸発量が増える。軽度のドライアイに多い。マイボーム腺の分泌量低下であり、涙分泌量は正常。分泌減少する者は高齢者に多い。マイボーム腺が分泌減少する原因は、油の性状が変化して固まりやすくなり、ときには腺が詰まることもある。
この改善の目的で行う眼瞼マッサージは、油が固まっていると効果がない。固まった油を溶かすには、40℃程度のおしぼり(または遠赤外線。赤外線ではまぶしすぎる。マイクロウェーブは禁忌)で、眼瞼を5分間以上温める方法がある。
2)涙液減少型
シェーグレン症候群(皮膚、粘膜、眼の乾燥症候群)が代表。シェーグレン症候群は膠原病の一種で、免疫異常が原因。涙腺と唾液線を自分の体の免疫が攻撃して腺組織が破壊。涙腺分泌減少すると、目のかさつきや乾燥性角膜炎が起こり、唾液分泌減少すると口腔乾燥による齲歯等が起こる。その他に、気管支腺分泌低下で気管支炎、膣液分泌低下で性交障害が起こることもある。40~60歳女性に多い。治療法はなく対症療法として人工涙液や人工唾液を使用。基本的には鍼灸不適応であろう。 4.ドライアイの症状
「眼が乾く」と感じる人は意外に少なく、はじめは、なんとなく目の違和感、目の疲労感として自覚症状が出現する。めやに、流涙、ゴロゴロ感、乾燥感、かゆみ、視界がかすむ、重たい感じ、まぶしい感じ、不快感、充血なども出る。
5.ドライアイの針灸治療
瞬き数は交感神経緊張で減少することが知られている。またたき回数は、読書では通常の1/2に、車の運転やパソコン操作では、通常の1/4にまで減少する。
このような交感神経緊張性涙液抑制が針灸適応になる。
治療は三叉神経涙腺枝への働きかけを行う目的で上眼窩内刺、涙点刺激目的で睛明刺を行う。本治的には、交感神経緊張状態の是正すなわちストレス改善目的で天柱や百会に置針する。
ドライアイは眼精疲労の原因にもなるので、眼精疲労と同様の針灸を考える。眼精疲労の代表穴は、天柱、百会、太陽である。太陽は側頭筋刺激として、緊張性頭痛の治療としても用いることが多い。