6.後頭下筋
後頭下筋は、頭半棘筋の下層の、最深部にある筋で、大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋の4筋からなり、前方へ移動しようとする頭部を後ろに引いて支える役割がある。
天井にペンキを塗るなど上を見る姿勢や、体幹部が前傾姿勢である時に頭を引き起こす姿勢が長時間続くと、本筋は過緊張を起こし、側頭部に放散痛を生じる。
頸椎全体のROM:前屈60°後屈50°回旋60°(ハイとイイエは60°と記憶する)
後頭骨-C1間ROM:前後屈のみで、前屈10°後屈25°
すなわち後屈動作の半分は後頭骨-C1間の動き。
C1-C2間のROM :回旋のみで、左右回旋45°
すなわち左右回旋の大部分はC1C2椎体間の動き。
後頭下筋は、C2頸椎棘突起と下項線部の間に位置するので、上天柱・上風池・天柱・下天柱といった経穴からの深刺で治療できる。(浅刺では対応できない)
8.後頭前頭筋
後頭前頭筋とは、顔面神経支配の顔面症状筋の一つで、後頭筋と前頭筋の総称で、間に帽状腱膜を挟んで一体として機能している。後頭筋は後頭部痛を引き起こし、前頭筋は眼や前額部の痛みを引き起こす。
前頭筋緊張では、頭維から前額髪際方向に水平刺し、後頭筋緊張では玉枕から脳戸方向に水平刺する。
8.側頭筋
側頭筋は、咀嚼筋の一つで、三叉神経第Ⅲ枝が支配する運動神経である。側頭筋のトリガー活性は、上歯痛、顎関節症などで生ずる。
側頭筋部の経穴は下記のようになるが、局所治療として頭部周囲の緊張している筋に水平刺(たとえば頭維から頷厭、懸顱、懸釐に向けて水平刺置針)し、筋緊張を改善させることを目的とする。
9.総括
1)側頭筋部に痛みがあったからといって、側頭筋が悪いとは限らない。後頭下筋・頭板状筋・頭半棘筋・胸鎖乳突筋・僧帽筋などは、どれも側頭部に痛みを放散するので、後頸部、肩甲上部・胸鎖乳突筋部を触診し、反応点を見出して刺針するべきである。
2)後頸部の筋は種類が多く、症状のみからどの筋が悪いかを推定するのことは難しいが、指頭感覚や解剖学的知識を総動員し、おおよその検討をつけることは可能であり、刺針して悪化することはまずないので、治療的診断(刺針した直後の症状の改善をみる)を行うこともできる。
3)一応の傾向として次のことがいえるだろう。直下深部に骨性組織(頸椎部分)のある部分、例えば頭・頸半棘筋や後頭下筋には深刺し、骨性組織のない部分、例えば頭・頸板状筋や僧帽筋、胸鎖乳突筋には、骨に至るまでの深刺は行わない。