1.古代中国におけるフイゴの重要性
これまでも私は、内臓機能が蒸し器に例えられることを指摘してきた。現在でもその見解に変化はない。しかし蒸し器に安直なフイゴを取り付けた図をもって、肺機能を説明した経緯があり、これに関しては部分的に誤りが発見できた。今回はそれを修正する。
中国におけるフイゴは、紀元前5世紀には発明され、紀元前4世紀には広く使用されていたと推測されている。文明水準の基準となるものの一つに、鉄製品があるが、鉄製の武器や農機具は、当時の最先端技術によって製造されたものだろう。鉄をつくるには、鉄鉱石や砂鉄を炉に入れて高温で溶かすのだが、強い火力が必要となるため、フイゴは重要な道具だった。
中国で考案されたフイゴは、箱フイゴである。取っ手を押し引きして動かすが、この呼吸運動に似ている。
人体においては、セイロ外部とセイロ内部の2系統に分かれて空気を供給していたらしい。
2.中医学における肺の機能
1)気を主る
清気を吸入し濁気を呼出して呼吸を行う。
→現代でいう呼吸機能とほぼ同じ。
清気と水穀の精気から宗気を生成する
→体幹腔を、大自然と捉えた時、宗気とは、空にできる雲に相当する。
2)水道を通調する
呼気時の宣散機能と吸気時の粛降機能により水液を全身に散布。
→呼気時、加熱された腎水から、水蒸気が立ち上る(海から空へ水蒸気が昇る)。吸気時、体幹内部は空気を取り込むことによって冷やされ、内部の水蒸気は水滴に変化して腎水中にもどる(空から雨が降って海に戻る)。
3)百脈を朝ずる
「朝ず」とは「~に向かう」こと。つまり「全身の血管が肺に集まる」という意味。吸気時に肺は陰圧となり血が集まり呼気時に肺は陽圧となり血を推し出す。
呼吸数と脈拍数の相関は肺の作用で、精神興奮と脈拍数の相関は心の作用。全身の血を集めてまた全身に送り出し血液運行を調節する。心(君主の官)を補助するので「相傅(ふ)の官」(宰相の意味)と呼ばれる。
→肺ポンプの上壁はしなやかな物質でつくられており、それを血管が取り巻いている。呼気時、その血管部分に圧がかかり、血を押しだそうとする。押し出された血は、四肢へと向かう。
上図は旧版である。フイゴを体幹内部に入れた状態、そして「百脈を朝ずる」(全身の血を集める)」の概念も含めた図が、次の改訂図となる。
4.「古代中国の臓腑観」ブログの改訂
以前、私は本ブログで、「手所属經絡と足所属經絡の意味 --古代中国の臓腑観」のタイトルで一文を書いたことがある。肺に関する新たな認識を得たので、その内容も、この場で一部変更したい。
上記図と、例の蒸し器の図はともに古代中国人の内臓観を示すものだが、まったく内容が異なっている。一口に古代中国といっても、数百年の長さがある。上図に示すものは、蒸し器の図より単純なので、さらに年代がさかのぼるものであろう。
以前のブログで、五行論から、肺と大腸は「金」に属し、金は金属全般をさすのではなく、ゴールドをさすと指摘した。また心包と心、そして三焦と小腸は、「火」に属すので、胸部と腹部で、それぞれ炉にゴールドを入れ、火で溶かしているのだと説明した。
しかし鉄造りには、フイゴがいるほど高温が必要だったことを踏まえると、肺と大腸は火に空気を供給する装置だったと考えられる。
ところで胸部における肺は空気の出入に関係あることは当然としても、なぜ大腸も空気の出入と関係するのだろうか。当時の道教思想では、長寿を得るため、腹いっぱいに空気を溜め(現代でいう腹式呼吸法)、そのまま息を出さないで我慢するという修業を行った。そこから類推するに、胸式呼吸では空気は肺に出入りし、腹式呼吸では空気は大腸に出入りすると考えたのではないだろうか。