AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

感冒の発熱に対する針灸治療

2014-03-10 | 耳鼻咽喉科症状

感冒にかかったことを自覚すれば自分で安静にし、時には医者にかかるのが普通なので、針灸治療の出番はないかのようにみえる。しかし実際には鍼灸の常連患者に限られることなのだが、「早く風邪を治して欲しい」などいう訴えがある。 
感冒症状とは、咽痛、鼻汁鼻閉、咳痰などの一連の上気道症状の他に、発熱やだるさなどの全身症状がある。本稿では後者の全身症状の針灸治療を取り上げることにする。 


1.延髄の体温中枢に働きかけることで下熱させる

以下は代田文彦先生の持論である。カゼの初期とは、これから体温がぐんぐんと上昇する時である。これは免疫機能を高める目的で、延髄の体温中枢が示した設定体温が高いことを示している。身体はこの設定温度にまで体温を上昇させようとするのだが、視床下部あたりに血流低下があれば、身体の深部温度の情報を正確に視床下部に伝達できず、その結果視床下部はご判断をしてしまう可能性がる。

代田先生は、銭湯で湯が熱過ぎて湯船に入れない時、首や肩にその湯を桶で何杯もかけ、そうした後に湯船に入る人をみて、こうした着想を得たという。それは視床下部の設定温度を一過性に狂わせるので、風呂の熱さに関して鈍感になるのではないかと考えたという。
この針灸治療としては、頸肩のコリを緩めるような治療をすることになる。その代表が風門の多壮灸(20~30壮)であろう。

2.発汗させることで下熱させる
 
これから熱が上昇する気配(悪寒など)があったり、高熱時でも発汗しない情況では、発汗法を行なう価値がある。

針による発汗法としては、人体で最も汗のかきやすい部とされる肩甲上部~肩甲間  部の領域に、速刺速抜を行なうことで発汗が促進されるという考え方がある。ただし散鍼では浅すぎて補法になる。交感神経緊張させることが必要なので、座位で施術し、1㎝程度の深さに刺すような速刺速抜法が好ましい。

※ 中医学でも外感風邪に対しては、清熱解表法すなわち「汗法」による解熱を行い、発汗作用のある葛根湯を処方する。

3.交感神経緊張に移行させる(安保徹の考えをヒントに) 
   
カゼの経過は、発病後5日前後までは進行期(=副交感神経優位状態)であり、その後に回復
期(=交感神経優位状態)に変化して発病7~10日程度で治癒するという。副交感神経優位の 症状とは、鼻水・発熱・だるさ・食欲不振などで、交感神経優位症状とは硬い黄色の鼻水出現で あるが、この段階では元気を回復しており、日常生活ができるまでになっている。

 

しかし7~10日どころか、数週間もカゼをひいている、カゼが抜けないなどという者がいる。これは、なかなか交感神経優位状態に移行できない者なのだろうと筆者は考えている。

この時のカゼの治療は、交感神経を優位にするような施術を行う。言い換えれば 「身体に活をいれる治療」を行う。具体的には「座位にての施灸、針であれば浅針で速刺速抜」という方法が西条一止らの研究により明らかになっている。熱いバスタブに短時間入るというイメージである。
   
この肢位にて上気道に対応したデルマトーム(Th1~Th3中心)上の起立筋上すなわち膀胱経の背部兪穴ラインまたは同じ高さの夾脊にに施術する。