AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

頭部ツボ名の由来

2023-11-17 | 古典概念の現代的解釈

経穴の学習は大変だが、その中にあって最も難しいのが頭部になるだろう。頭部の経穴は、取穴となる目印が少なく、ツボ名自体も抽象的なものが多い。そこで今回、自分の学習を兼ねて、頭部の経穴の由来を整理してみることにした。ツボ名の由来には合谷、百会、手三里など各人一致した見解をみる穴も多いが、絡却・本神・懸顱・天衝・浮白・承霊など漠然としたイメージにしか浮かばない経穴もあり、こうした経穴の語源はやはり各書で意見が異なっている。結局何が正しいのは今となっては分からいので、最も興味深く印象に残る意見に従った。なかには書物の記述に満足できず、漢和辞典を調べた上、自分の考えを記した部分もある。

 

1.頭顔面経絡の流注概念

①頭顔面には督脈と6本の陽経が集まっている。陽経のうち、ツボが多数存在しているのは、膀胱経・胆経・三焦経それに督脈である。

②膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
③胆経:側頭部の側頭筋領域。陽がよく当たる処。
④三焦経:耳と側顔面の頬骨上域支配→老人になると耳遠くなり、頬上部(こめかみ部)がこける。頬上部がこける原因、加齢や栄養不良による側頭部脂肪体の減少。
⑤膀胱経:後頭部~頭頂部~前頭部(前頭~帽状腱膜~後頭筋)の矢状領域
  

2.前頭部~頭頂部のツボ

①神庭(督) 脳は元神の府であり、「庭」は前庭(神社の拝殿に相当すると思う
) ※本神穴と呼応している。
②上星(督) 天空の星を見上げた時、星に最も近い場所。
③顖会(督) 顖=大泉門のこと
④前頂(督)  百会のすぐ前にある穴   
⑤百会(督)  多くの経絡が集まる部位。
⑥後頂(督)  百会のすぐ後にある穴
⑦曲差(膀)  「曲」=曲がる、「差」=不揃い。睛明からここまで膀胱経の流れは一直線ではなく、曲がることを示している。      
⑧五処(膀)  五処は承光の前、曲差の後にある。五処の両脇には上星と目窓がある。本穴を含めたこの5穴はどれも眼疾患に効果がある。さら五処は
 胱
経の5番目の穴である。  ※膀胱経の流注:①睛明→②攅竹→③眉衝→④曲差→⑤五処...
⑨眉衝(膀) 眉頭の上方の髪際にある。眉毛を動かすとこのツボまで、突き上げるような動きがある。
⑩承光(膀) 天からの光を拝受するツボ。目に効くことを示す。 
⑪通天(膀)  天に届くほど高いこと。頭頂部の意味。
⑫絡却(膀) 「絡」は絡脈のことで小さな静脈、「却」は退却。眼の充血を消す効能がある穴。頭頂導出静脈関連?
⑬頭臨泣(胆)太陽経膀胱経最初の穴である睛明と少陽胆経最初の穴(内眼角)である瞳子髎(外眼角)は、ともに泣くと涙が出る処。本穴はこれら2穴
       の
上方で、瞳孔線上。
⑭目窓(胆) 「窓」は光を入れる窓のこと。眼疾患を治し、眼の窓(瞳孔)を散大させる。
⑮正営(胆) 「正」=正確、「営」=営(現代でいう血液)。脳が正確に血を動かし全身に栄養を回している処。    
⑯本神(胆) 神庭(拝殿)の横にあるのが本穴で、本殿に相当する。外方には骨に段差があって、頭維をとる。正門(神庭)→本殿(本神)→御神体(頭維の奧にある脳)という境内は神社の様式である。古代中国に神社はないが、代わりに道教寺院がある。道教寺院は、神仙思想すなわち仙人のようになって長寿を得るための修行の場だった。しかし現在中国にある道教寺院はすっかり観光化してしまった。もっとも観光化したからこそ中国共産党を脅かすものではないと判断され、当局の弾圧を免れたのだろう。
 この段差から骨中に入り、奧には御神体(=脳)がある。脳は元神の府である。

上の写真は、埼玉県坂戸市にある台湾系の道教寺院。日本国内にも道教寺院が数カ所あるが、「聖天宮」が最大規模である。
漢詩<月落烏啼霜満天(月落ち烏啼いて霜天に満つ)で知られる寒山寺も、中国蘇州にある道教寺院である。


⑰頭維(胃) 「頭」は頭部、「維」は額の髪とヒゲをつないでいる部分。

⑱強間(督) 後頭部の人字縫合にある部。小泉門部。

3.後頭部のツボ

①瘂門(督)  瘂=唖(おし)。声を出せない者のこと。発声するのに要となる部位

②完骨(胆)  完骨=乳様突起
③玉枕(膀)  玉=頭蓋骨のこと 寝る時にマクラが当たる部位。
④天柱(膀)  天を支える柱。天とは頭蓋骨のこと。頸椎を天柱骨とよぶ。
⑤脳空(胆)  「空」は孔や陥凹。脳戸の横で、外後頭隆起上の陥凹部に挟まれている。
⑥脳戸(督)   出入りする処を「戸」と呼び、脳の気が出入りする場所になる。
⑦風府(督)   風邪があつまるところ。風邪は頭項部を冒しやすい。
⑧風池(胆)   後頸部の陥凹部で風の吹きだまり。
                                                        

4.側頭部のツボ

①翳風(三)    翳とは、鳥の羽。鳥の羽により風よけとなっている部位。
②角孫(三)    角とは耳上角、孫とは小血管=孫絡のこと。
③頷厭(胆)  「頷」は頭を下げてうなづく。「厭」とはいやになる。頸が回らなかったり、うなづくことができないなどの症状を治す。
④頭竅陰(胆) 竅は強くひきしまった細い穴の意味。頭竅陰は頭部にあって眼、聾、舌強直、鼻閉、咳逆、口苦などの「竅」の病を治す。
 ちなみに足竅陰穴は足にあり竅の病を治す。
 ※人体の九竅:陽竅=耳孔(二)、目孔(二)、鼻孔(二)、口孔(一) 陰竅=前陰と後陰(二)
⑤曲鬢(胆)「鬢」=額の左右にある髪の生え際のこと。
⑥瘈脈(三)「瘈」はひきつけ、痙攣の意味で、「脈」は絡脈の意味。耳後浅静脈の上にあり、小児の痙攣やひきつけなどの病症を治す。
⑦顱息(三)「顱」=頭部。横向きに休息する際は、この部がマクラに当たる。
⑧懸顱(胆)「懸」=ぶら下がる。「顱」=頭部。側頭から出た髪毛がぶら下がる部位。
⑨懸釐(胆) 「懸」=ぶら下がる。「釐」=整える。側頭から出た髪毛を整える。
⑩承霊(胆)「承」は受ける、「霊」は神。本穴は頭の最も高い場所である「通天」の傍らにあり、神の思惟活動に関与している。
⑪率谷(胆)「率」は寄り添う。「谷」とはここでは側頭骨の縫合をさす。
⑫天衝(胆)「天」は頭頂にある百会穴のこと。「衝」はつきぬける。本穴は百会へとつきぬける道としての役割がある。
⑬浮白(胆)    脈気が軽く浮いて上昇し、天衝を経て、頭頂の百会に到る処。白は百に通じることから。
      
     
     

引用文献
①森和監修 王暁明ほか著「経穴マップ」医歯薬
②周春才著 土屋憲明訳「まんが経穴入門」医道の日本社
③ネット:翁鍼灸治療院 HP
④ネット:経穴デジタル辞典  ALL FOR ONE

 

 

 

 

 

 

 

 


円皮針こぼれ話 ver.1.2

2023-11-17 | 雑件

   皮内針は1950年代、周知のように赤羽幸兵衛により発明された。その頃の話は過去の医道の日本誌で知ることができる。 
 
医道の日本プレイバック(10)赤羽幸兵衛「皮内針法こぼれ話」(1976年)
        https://www.idononippon.com/topics/4313/
   
圧痛点にただ皮内針を貼り付ければよいというのではなく、症状部膚を緊張状態にしておき、圧痛点に皮内針をすると効果があるとの記述が一つの示唆を与える。

 

一方、皮内針にヒントを得たのか中国では円皮針を造りだし、1975年頃から中国から日本に円皮針が輸入され始めた。一袋10個入400円ぐらいだった。当時中国針も10本入800円~1000円程度と高額だった。その頃は、中国は近くて遠い国だったので、中国の物価事情もよく分からなかった。輸入ブローカーがボロ儲けしたのだろう。ちなみに医道の日本社製のステンレス皮内針(針体長6㎜、太さ0番)は、100本1700円だった。昔、針の製造工場を見学する機会があった。皮内針の製造は針金を入れるとオートメーションで加工されるのだが、小箱に入れたスポンジに並べるのは手作業だったので驚いた。
 
その円皮針はリング径2㎜、針長2㎜、太さ8番程度と大きく太いものだった。小袋のラベルには、華佗牌 撳針(きんしん)(中国語発音 チェンゼン)と書かれていた。「撳」は手で押すの意味。しかし我が国では馴染みのない漢字なので、医道の日本社が円皮針という名前をつけた。当時私は針灸学校通学の一方、医道の日本社新宿支店でアルバイトをしていた。すでに死去したが医道の日本社前社長の戸部雄一郎氏の妹君(薬剤師)も働いていて、その本人から「アタシが考えた名前なのよ」と教えてくれた。まさにぴったりなネーミングで、以来、一商品の名称を越え、わが国では一般名称として「円皮針」の名称が定着することになるのだった。なお初期の頃に、リング針という名称も誕生したが、こちらは普及せず自然消滅した。


皮内針を施術する時には、皮内針の他に、皮内針専用ピンセット、皮内針用テープ(マイクロポアを使うことが多い)が必要である。さらに皮内針用テープを切るためのハサミ、皮内針のマクラの作成など、いろいろ手間がかかる。痛みをほとんど与えず刺入するテクニック、刺入方向なども勉強する必要があって手間のかかるものだった。円皮針の場合も、円皮針を刺入した後、テープを1㎝長ほどにハサミで切って円皮針を固定する必要があった。この時のテープは皮内針用のものを流用できた。マクラを必要としないのは手間がかからずよかった。

今日ではテープつき円皮針が市販されるようになり、かっての皮内針の面倒くさい手技は不要になり、皮内針を行う機会はほとんどなくなった。このように書くとテープつき円皮針は良いことづくめのようにも思えるが、皮膚に対して円皮針を直刺するのが難しくなった。テープはしなやかなので、普通に刺すと直刺することは難しく、針体が斜めに入ると刺痛が出たり、施術直後は問題なくても、施術部が動いたりして数時間後に痛みが出た。直刺するには、しなやかなテープではなく、板のような硬質のテープを使う方法もあるが、そうすると皮膚になじまず剥がれやすくなる。セイリン社はしなやかなテープ(=3M社のメディカルテープ、マイクロポア)を使いつつ、樹脂でテープに針を直角に保持する構造にすることでこの問題を解決した。

現在の円皮針は、セイリン社の円皮針(商品名パイオネックス)では、5種類のタイプが販売されている。そのどれもが、昔の中国製円皮針と比べて細く短い。5種類の規格があるとはいえ、すべて針長は1.5㎜以内になっている。この理由は円皮針を入れた状態で、皮膚が動いても痛みを与えないためだろうと推測した。

昔、月刊医道の日本誌を見ていたら、「皮下針」を考案したとする者が現れた。しかし知人等にそのことを話しても、少し長い皮内針に過ぎないとして、大した評価してくれなかった。そこで当時大御所だった柳谷素霊に「皮内針とは何か?」という質問をしてみた。すると素霊は、「皮内針とは小さく短い針を水平刺して針先を皮内にとどめるものなり」と返答したという。引き続き「皮下まで入れる針も、皮内針と呼んでいいものでしょうか」と質問を続けた。すると「皮下に入れるのは皮内針とはいえない」と答えた。この問答をもって、自分の考案した皮下針は、従来の皮内針とは異なることのお墨付きを頂戴したとユーモラスに語っていた。

表皮は0.2㎜、真皮は1~3㎜の厚みがある。皮内針とは針先が真皮にとどめるべく水平刺する。もし皮下組織に入るようなら、日常動作で、皮膚と皮下組織間にあるファシアがずれる際、チクッと刺痛を生ずることが多くなる。真皮の厚みは手関節・足関節より末端は薄いが、このあたりでは合谷穴を例外として円皮針を行うことはまずない。ということで真皮が2~3㎜の厚みのある身体部位に円皮針を使うことになる。針のメーカーであるセイリンも当然このあたりのことは研究しているだろうから、針先は皮下組織に到達しない深さということで最長でも針長は最長でも1.5㎜にとどめたのだろう。