筆者が針灸学校学生時代(今から35年ほど前)の教科書「漢方概論」には、肺の宣散粛降作用に関する記述はなかった。当時の針灸師の認識にはこうした概念はなく、明らかに中医学の導入による内容刷新である。
人体の正常な水液の総称を津液とよぶ。唾液、胃液、汗、涙なども津液である。脾で合成された血は、正確には血球成分とよぶべきであり、それに津液が混じって初めて現代の血液と同様の概念となる。津液は、蒸し器の中で、腎水を加熱することで蒸気として発生する。それは蒸し器内を上り、蒸し器上部に空いた穴から身体各所に向けて放出される。蒸気の一部は上るにつれて冷やされ、やがて水滴になって再び腎水に戻ってくる。この一連の水の循環を「通調水道」とよぶ。ただしこの仕組みだけでは身体末梢まで蒸気を送り届ける力としては不足で、肺の呼吸運動がこの作用に協力する。
まさしく地面にある水の蒸発→雲→雨→地面に戻るという自然界の一面をみているようである。ちなみに雲に相当するのが、宗気である。
血の循環力の源が心であるのに対し、気の循環力の源は肺である。呼吸運動で、息を吸う時には空気中の清気を体内に取り込まれ(=静粛降作用)、息を吐く時には濁気を外部に放出する一方、蒸し器内で合成された蒸気を身体の隅々まで送る原動力となる(=宣発作用)。
一般的にも「深呼吸は体によい」といわれている。東洋医学では、息を吸えば、空気を肺に取り込むが、それで終わりでなく、蒸し器にフイゴをつけたように、蒸し器内の蒸気を積極的にコントロールするという意味がある。
吸気による空気(=清気)の流入は、とくに大きく吸気する場合、肺に留まらず臍下丹田かで行き、精を活性化すると考えた。これは腎の作用(納気作用)によるものとした。つまり通常の呼吸は、肺の宣発粛降作用により行われるが、深呼吸時には、これに腎の納気作用が加わるということである。「気の主は肺、気の根は腎」とはこのことをさしている。腎不納気とは、この腎の作用が弱ったため、腹式呼吸が困難になった状態である。
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