ART&CRAFT forum

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「アイデンティティーのかご」高宮紀子

2016-11-28 13:55:08 | 高宮紀子
◆高宮紀子(ツヅラフジ、シュロ・14×14×10cm・1996年) 

◆アメリカ・南西部地域のインディアンの伝統的なパターンのかご

2001年10月1日発行のART&CRAFT FORUM 22号に掲載した記事を改めて下記します。

民具のかご・作品としてのかご⑧
 「アイデンティティーのかご」高宮紀子

 先日、アメリカインディアンのかごを見に、ニューメキシコ州サンタフェ付近に行ってきました。実はこの原稿も時差ぼけの状態で書いています。
サンタフェはお金持ちの別荘が並ぶ美しい町で、高級なギャラリーがあり、いろいろな美術品を売っていました。現代のインディアンの作家の絵とか、彫刻、かごなども売られていて、見て歩くだけでも、(ほんとうは高くて買えないのですが、)楽しい所でした。
サンタフェにはインディアンの物質文化の研究所がいくつかあり、Museum of Indian Arts&Cultureにはかごの展示がありました。他にもリサーチセンターがあり、公開されていないのですが、古いかごをたくさん収蔵しているようです。

一口に、アメリカインディアンといってもたくさんの部族がいます。それぞれの地域にあった生活をしていたわけですから、さまざまな文化的違いがあり言葉も異なります。私が博物館で見たのはニューメキシコ州、アリゾナ州を中心にした部族のかごでしたが、さまざまなものがありました。毎日の生活の中で使われていた、とうもろこしなどの食物を入れるかごのほか、焼いた石を入れて鍋にしたり、水を入れる壺状のかご、儀式やゲーム用のかごもありました。周辺には遺跡がたくさんあり、そこから出た編み組み品の断片なども見ることができました。

右の写真は、この地方で作られたかごですが、同じようなデザインのものを他の博物館でもみかけました。そのデザインの発祥については不明との記載がありましたが、その意味は一目瞭然です。
人間が一人いて、その周りにこの人間が行こうとする道があります。壁に遮られた迷路です。この道をたどると、中心に行けなく、かごの外側に抜けてしまいます。まるで人生の現実を映したようなパターンですが、かごに編みだしたことが面白い、と思いました。
このかごはコイリングという技術で作られています。中心から渦巻き状に束を巻きつないで作るものです。この他にもさまざまな技術で作られたかごを見ましたが、コリイングのかごの模様が印象的でした。模様には、人間や動物、波や雷などのいろいろな意味の形があり、部族の中で長い時間をかけて継承されたものです。だから、インディアンのかご作りというのは作り手の部族に対するアイデンティティーの意味がありました。力強くて存在感を感じるのはそのためだろうと思います。

このようなかごを目前にしますと、私自身も自分と自分の作品との結びつきを再考することを、つきつけられたような気がしました。作り手として、自分で作ったということ以上に、自分と作品との関係が必要なのですが、ここのところの深さをどんどん掘り下げて考えていけばいくほど、作りたい!という衝動にかられる領域でもある、と思います。ただし、アメリカインディアンのように部族としてのアイデンティティーではなく、非常に個人的な意味での関係、造形に対する自分の考えの何を形にするか、という所まで掘り下げる必要が出てきます。

写真は少し以前の作品ですが、同様な疑問があった時に作ったものです。もともとかごには物を入れるための空間があります。だから、その空間には存在理由があります。私が作る作品にも空間があるのですが、物を入れるための空間ではありません。空気が入っている、といえばそれまでですし、空間が閉じられていて物が入らない、という答えでは、自分で納得できませんでした。それで、中に何か入れてみよう、と思いシュロの繊維を詰め込んだのです。スペースが黒っぽくなり、形が明白になったのですが、この行為が、私が出した一つの答えでした。

作品を作りだすプロセスは、言いかえれば、自分と作品とのあるべき関係を現実にする行為だと思います。作品そのものからは、技術的な問題だけでなく、形のでき方、全体の構築の在り方などに対する自分の考えが全てあらわれることになります。だから、作品を実際に作る以外に、自分の造形的なアイデアについて時間をとって考え、練り直すことが必要だと思います。アメリカインディアンのかごを見に行く旅は、その重要性を改めて感じたいい機会になりました。