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『インドネシアの絣(イカット)』② -イカットの魅力- 富田和子

2017-06-30 11:09:15 | 富田和子
◆ 島ごとの特色

◆東ヌサ・トゥンガラ州 ロテ島

2005年7月10日発行のART&CRAFT FORUM 37号に掲載した記事を改めて下記します。

『インドネシアの絣(イカット)』② -イカットの魅力- 富田和子

 ◆絣とイカット
最初に習い覚えた絣の技法は緯絣であった。織幅に合わせて緯糸用の糸束を作り、何カ所かをきつく縛って染まらない部分を作ったり、色を染め分けたりして絣糸を作る。絣糸はそのまま入れても良いが、緯絣の場合は左右にずらし、経絣の場合は上下にずらして別の模様を作り出すことも可能である。日本で一般的に使用されている織機は高機なので、経糸に絣糸を使う経絣には緯絣よりも高度な技術が要求される。数メートルの経糸に絣括りをして染め、その模様を崩さぬように織機に掛けるのは至難の業で、織り出す前にゆがんでしまった模様に泣かされることもある。それでも、糸を打ち込むたびに浮かび上がり、形作られる絣模様を織るのは魅力的な作業であった。日本の絣では、絣括りをして染め分けた糸束をいかに組み合わせるか、あるいは、いかにずらすかということが絣模様を作り出すポイントになる。そのことばかりに頭を巡らせていた頃、インドネシアの絣であるイカットを見て非常に驚いた。布一面に緻密で不思議な絣模様が織り出されていて、その存在感に圧倒される思いであった。いったいどのようにしてその絣は織られたのだろうか…。そして、インドネシアの島々へイカットを訪ねる旅が始まった。

 ◆絣の宝庫
インドネシアは予想以上に大きい。 赤道を挟んで南北に約2,000km、東西に約5,000kmという広大な海域に浮かぶ18,000の島々から成る東南アジア最大の国である。その領域を地図で比較してみると、北欧を除くヨーロッパ大陸がすっぽりと収まってしまう以上の広さである。人口は現在2億人を越え、中国、インド、アメリカ合衆国に次いで世界第4位を占めている。その中で300以上の民族に分かれ、250以上の言語が話されているという多民族国家である。インドネシア語はこの海域で広く交易に使われていた公用語としてのマレー語を基盤としたもので、1945年に国語とされた。以来、ほとんどの国民が各自の民族語とインドネシア語を併用するバイリンガルである。このように広大なインドネシアの各地において、特色ある染織品が製作されてきたことが、インドネシアが染織品の宝庫であり、絣の宝庫であると言われる所以である。インドネシアの染織品の中でも代表的なものは、染物の「バティック」、織物の「イカット」と「ソンケット」である。バティックはジャワ島を中心に行われている蝋纈染めで、日本ではジャワ更紗として知られている。イカットはインドネシアの絣織である。「イカット」という言葉は現在インドネシアの絣の総称として、また「絣」を表す世界共通の染織用語として使われているが、もともとは、インドネシア語の括る・結ぶという意味の動詞「ikat」が転用されたものある。ソンケットは浮織で、地を織る経糸と緯糸のほかに別糸を使用し、糸を浮かせて模様を織り出す技法であり、イカットとの併用も多く見られる。その他の技法としては絞染、縫取織、綴織などもある。インドネシアの広範な地域に渡ってイカットは織られ、経絣、緯絣、経緯絣のすべてがある。中でもバリ島の東に位置するヌサ・トゥンガラ地方の東部の島々では、今でも木綿の経絣がシンプルな腰機で盛んに織られている。

 ◆自由で多種多様なデザイン
 イカットの魅力のひとつは布いっぱいに広がる自由なデザインである。大きな布に人や動物や植物が自由に生き生きと表現されているもの、布全体が大小の幾何学模様で埋め尽くされたダイナミックなものや緻密なもの、シンプルではあるけれど味わい深いもの等々、インドネシアの島々では各民族、地域ごとに特色のあるイカットが織られている。