生まれて初めてボンカレーを食べたときは、やっぱり不味いと思いました。
家で食べていたカレーと、味も香りも全く違うものだったからです。
そのころは、カレーをわざわざ外で食べるようなことはしなかったので、作っているときから、台所から香りが漂ってきたものでした。
食べものの香りには、調理のうちに味を受け止める用意をさせる効果もあるようです。
1969年7月に月面着陸したアポロ11号が、宇宙食としてボンカレーを使っていた話は、ずっと後になって聞きましたが、それから半世紀後の今は、驚異的な味の向上を見せています。
しかし、味が育つということは、多くの人に受け入れられるようになるということなので、良くなっているかどうかとはまた別の話ではあります。
味に人気を持たせるには、ごくわずかずつ驚きの感覚を刺激し続けていかなければなりません。
味を削り取って驚きを得させるのは難しいので、何かが加わることになり、だんだん複雑になっていきます。
複雑な味では、どこかに濃厚な部分がなければ特徴は出ません。
これでもか、これでもかと続ければ、味はどんどん濃くなります。
複雑濃厚な味のなかから気に入ったところを探し出すには、舌のほうも、働きを変えていかなければ追いつきません。
ものの味ではなく、つけられた味が幅を利かせることになります。
鍋の底が見えなくなるほど鰹節を放り込んだ、出汁とは言えないような駄し汁で、鈍くなった味覚を掻きたてる、ばかげたことがしきりに宣伝されます。
そのうちに、調味料が超味料に化け、形を持たない味だけの瓶詰めがスーパーの棚に並ぶようになるのでしょうか。
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