水の門

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歌集『カインの祈り』

澤本佳歩歌集『カインの祈り』
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ひなまつり

2006年03月02日 20時38分49秒 | 旅に寄せて
5ヶ月程前、渡辺葉の『ニューヨークで見つけた気持ちのいい生活』という本を入手し、私にしては珍しく短期間でつるりと読み切った。海外での暮らしを綴ったこの手のエッセイは、その土地や文化によっぽど興味が無いと読破が難しいため、食指が動きかけてもパラパラと頁をめくっただけで買わずじまいになることが殆どなので、自分でも意外だった。
本業のダンサーのかたわら翻訳やエッセイの連載をしている著者は、椎名誠と作家の渡辺一枝の娘と奥付にあり、ナルホドと合点がいった。自分の好きなことを追求しながら、軽やかに生活を楽しむ様子と、水が流れるような独自の文体から、只者でない作者像がうっすらと伝わってきていたからだ。
渡辺一枝の名前は聞いたことがなかったが、以来少し気になる存在として記憶に留め置かれた。ブックオフで彼女の『ひなまつり』という本を発見したのは、その二月ばかり後だった。長らく携わっていたという保母の仕事の合間を縫って、雛人形の手作りに励んだり、各地の雛祭りの催しを訪ねたりする姿は、渡辺葉の生き様と重なって見えた。
二十代前半まで女の子らしいことは極力忌避してきた私には、雛人形と言えば本来最も縁遠いもの。でも頁を繰るたびに目に飛び込んでくる、豊かな着想のおひなさまの写真を見ていると、自然と顔がほころぶのが分かった。
本を読み終えてまだ間もない頃だった。いつもは地味な勤め先の最寄り駅構内の一角が、目も眩むばかりの赤の鮮やかなポスターで明るい輝きを発していたのは。見れば、塩山の甘草屋敷に古式ゆかしい雛人形と吊るし雛が飾られているという。気持ちが湧き立った。
2月最後の金曜日、母と連れ立って塩山を訪れた。屋敷に足を踏み入れると、ぶり返した寒さも一気に吹き飛んだ。夢中でシャッターを切る。飛騨高山で昨年初めてお目にかかった「さるぼぼ」の他、毬、大根、苺など、日常のものをかたどった色鮮やかな吊るし雛は、無条件にかわいらしかった。
コメント (2)
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