春を求めるのは人の気持ちというものでしょう。
午前中は仕事に出ていた彼女と、昼過ぎに本郷三丁目の駅で待ち合わせ、
ぶらりと半日の町歩きです。
駅を出てすぐ、春日通りを湯島方面に歩き出します。
12時40分に集合でしたので、まずは腹ごしらえ。
「神勢」かむせさん。渋い男子2人がカウンター奥で寡黙に働く、
「豚骨魚介醤油」「鶏塩・醤油」で自家製麺のお店です。
食べログ情報です、ちなみに:
インスタントラーメンと社食のラーメンばかりだったので、
久しぶりと言えるかどうかわからない、外食ラーメンです。
特製豚骨魚介醤油は、トロリと煮込まれたチャーシューが3枚、
小さめの丼とはいえ、麺が見えないほどの量です。
これは並盛り850円、大盛りでもお値段は同じですが、
小さなお腹のふさおまき夫婦には適量でした。
魚介の香りと、豚骨のまろやかさがうまく溶け合って、
細めのしなやかな自家製麺にふるいついてきます。
うま味に甘み、塩味に海の味、複雑な絡まり具合がラーメンというものでしょう。
楽しく美味しく頂きました。
とはいえ、動物性のパワーはややお腹を重くするので、
おいしいコーヒーを飲みに行くことにしましょう。
ぶらり・・
その前に、江戸あられがありました。
竹仙さん。笑顔と気遣いのあふれる、たぶんご夫婦だと思われるお二人が店を守っていました。
花形のあられを2種類いただき、木の扉がしなって、はめ込んだガラスがきしむ、
年季の入った建物をあとにします。
住所は湯島に入ります。
TIESさん。
オールドビーンズをご主人が一杯一杯ネルドリップしてくれるお店です。
この前来たときは一人だったので、今度は彼女と来ようと決めていました。
主張しない店内、は人が佇む空間です。
ダウンライトに暖かく包まれて、静かに席に向かい合います。
私は入り口を見る席に座ったので、彼女は背に街の光を受けています。
こういうとき、つくづく可愛いなあ、と思うのです。
静かに座るしかない場所だからかもしれませんが、
輪郭が輝いて、しっとり開く椿。ということにして、
オーダーしたのは20グラムのオリジナルブレンドと、私はオールドビーンズ「匠」。
それに、前回はほとんど売り切れていたケーキが今日は沢山並んでいたので、
レアチーズをいただきました。
これはね、見ただけでは分からない。
でも、細く丈の高いカップにしているのは、香りに対する配慮でしょう。
煙突のよう、といえば少し読んでいる方の鼻孔にも届くでしょうか。
深く落ち着く香りを嗅覚の細胞に刻み、一口流し込んだ黒の液体は、口に柔らかく広がります。
雑味の無い苦みは、決して苦渋を表す文字と同じ感覚ではありません。
純粋なニガミという味。そして綿のような柔らかい味が表面に浮かび上がります。
ほのかな甘みさえ、という言い方が近いのかもしれません。
考えながら飲むコーヒーというのは、時間を楽しむ嗜好品なのですね。
すっかり、ゆったりした後、歩いて数分で湯島天満宮に到着。
梅祭り期間で、受験前の天神さんは大にぎわいです。
文京区の、梅を額に打ち込んだ、眉毛りりしい、ゆるくはないキャラも大活躍。
でも、梅はまだ三分も開いていませんでした。
今年は都心もなかなか暖まらないからでしょう。祭りは2月8日から始まりもう2週間が過ぎています。
そういえば一昨年、小田原の梅がなかなか開かず、梅祭りの会期を延ばさざるをえなくなって、
農家がそれ以外の農作業に入ることができず頭を悩ませた、というニュースがありました。
湯島から坂を下って不忍池にでました。
冬の水辺は風がやっかいです。水気を含んであたりがきつい。
琵琶湖畔に住んでいたころの冬を思い出してしまいました。
彼女の横に積み上がっているのは、枯れた蓮の茎や花の跡です。
ユリカモメやシロサギ、キンクロハジロの姿も見えました。
2分立ち止まって体が震え、今日のメインイベントへ。
国立博物館は久しぶりです。
平成館で開催中の王義之(義、はもっと複雑な漢字です)展。
書聖の称号を得た人の文字とは・・・・
力尽きました。
一時間後、私はソファに突っ伏しました。
漢字を山ほど見て脳が処理するエネルギーは、
昨年夏に科学博物館で見た元素記号展示よりもずっと上でした。
要するに蘭亭の曲水宴で記された歌を、代々篆書し、地理を広げ時代をくだり、
中国書の規範となったことが、数々の資料で語られるのですが、
その書かれたもの自体への理解が全くできないのです。
書聖といわれるからうまい、はず。
もちろん、下手に見えるはずはないのですが、うまいかどうかはどう分かる????
でも、4世紀に書かれた文字を、明の時代も、清の時代も評価している。
さらに悩ましいのは、王義之自身の自筆が何処にもなく、全ては写しというストーリーマジック。
理解ができないことが、思考の回路にこれほど無駄な力を使わせるとは思いませんでした。
これまでにない経験ができたと言うことでは、すこぶる愉快な観覧でありました。
エネルギー補充に、上野の松坂屋に行き、大きな巻きずしと、
大好きなお芋やさん”興伸”の大学芋を買ってみたりもしたのですけれど。
今日はまだ、NHKスペシャル「シリーズ 激動イスラム 第2回」で頭を使いますから。