「犬鍋さん,ノーベル賞のニュース見ましたか」
「ああ,また日本人がとったみたいね」
「違いますよ,文学賞です。ペルー人がとりました」
同僚のペルー人が興奮の面持ちで話しかけてきました。
「翻訳もけっこうありますから,こんど読んでください」
受賞者のバルガス・リョサ氏を調べようとして,意外なことがわかりました。今年のノーベル文学賞の有力候補が,韓国の詩人だったんだそうですね。
高銀(コ・ウン)という詩人。
韓国の新聞によれば,8年連続で候補になっていたということです。韓国では大いに期待していたけれど,結局,ラテンアメリカの代表的作家,パルガス・リョサにさらわれた。
なぜ韓国がノーベル賞をとれないのか。これは毎年議論になっているようです。5年前に出た中央日報の記事(→リンク)から抜粋すると,
「西欧文学が20世紀後半から自我分裂の段階を越えて自我の微細化現象を見せているのに比べ、韓国文学を含む第3世界文学は堅固な敍事構造と人間の鮮やかな情緒が生き、人類平和を熱望する思想が多いことから、ノーベル文学賞にふさわしい作品が多い」
「文学的歴史や作品でみた場合、国内の文学家らは世界文学に決して遅れをとっていないし、何より文学的技量をもっているだけでなく、高銀氏は国内外でも評価が高い」
( 任軒永・韓国文学評論家協会会長)
「数年前から韓国文学翻訳院などを中心に韓国文学の海外翻訳が比較的活発に行われているが、まだ政府の体系的な支援が不足で、作家個人で自分の作品を広報するという水準にとどまっている」
「韓国文学がノーベル文学賞を受けるためにはグローバル化に向けた各界各層の努力が必要」
(詩人の李時英氏)
「日本などと比べた場合、韓国文学の海外翻訳や広報は不十分すぎる」
「韓国文学の優秀性や特性を一定の水準にまで到達させるのには海外に多く伝えることが必要で、文化政策を行う行政家や関連者たちもノーベル文学賞受賞に向けて多くの努力を傾けなければならない」
(前出,任会長)
記事によれば, 川端康成、大江健三郎という2人のノーベル文学賞受賞者を出した日本は、早くから日本文学を国際化することに力を入れてきており,文学作品を映画化して日本文化や文学を世界に知らせる努力を常に行っている。川端作品はノーベル賞受賞以前に133作品が26言語に訳され,大江は150作品が19言語に翻訳された。これに比べて韓国文学の海外への紹介は1990年代に入ってから始まり,翻訳の質も低い。
韓国外大ソン・ギョンスク教授 は『ノーベル文学賞と韓国文学』という本の中で、韓国文学がノーベル文学賞を受賞するための対策として次を挙げる。
▽スウェーデン文化界、王立アカデミーの関係者にも韓国文学愛好家が出るなど、間に入る役割をする人が必要
▽ノーベル図書館にフランス語、英語、スウェーデン語などの韓国文学関連資料を送らなければならない
▽韓国文学の世界的研究者と翻訳者を養成しなければならない
▽いくつかの大学や機関をエージェントに指定し、集中管理しなければならない
要するに韓国文学はすぐれているが,あまり翻訳されておらず,海外に知られていないためにノーベル文学賞が受賞できないということのようです。
でも,韓国という国の努力で韓国文学を愛する海外知識人を作ったり,韓国文学研究者や翻訳家を海外に養成するなんでできないでしょう。
翻訳が盛んになるためには,まずすぐれた作品があり,それにほれこんだ外国人がいて,ぜひ翻訳して自国の読書人に紹介したいという気持ちにならないといけない。
韓国に,海外の読者をうならせる文学作品があるかというと,疑問です。私も韓国関係の仕事をしているとき,日本で手に入るかぎりの韓国文学(翻訳)を読んだけれど,韓国の歴史と文学史の勉強にはなったが,感動した作品は少ない。
反共文学や反日文学あるいは家族間の葛藤を描く儒教的ストーリーは,世界的な普遍性を持たないのではないでしょうか。
今候補として騒がれている高銀氏についても,次の記事を読むかぎり,可能性は低いのでは。
メディカル・トゥデー10月8日(→リンク)
高銀氏,ノーベル文学賞で苦杯…国民たち「残念だ。ところで彼の作品ってなんだっけ?」
ノーベル文学賞受賞を期待したコ・ウン詩人が苦杯をなめ、国民みなが残念がっているが、実際彼の作品を知っている人は珍しい。
スウェーデンのノーベル賞委員会がマリオ パルガス氏を2010年ノーベル文学賞に選定したことがわかると国民の失望は大きかった。 しかし失望はコ・ウン氏に対する応援に変わった。また苦杯をなめたコ・ウン氏が残念という意見も出た。
これは最近6年間、ノーベル文学賞受賞者中5人が小説家、1人が劇作家で詩人がいなかったことと、同期間ヨーロッパ作家5人、トルコ作家1人などヨーロッパの小説家が文学賞を受賞したことを挙げて、「非ヨーロッパ出身の詩人」コ・ウン氏が高得点を挙げると予想したためだ。
7日夕方、彼の苦杯のニュースが入ったときから8日現在まで、ネット上でもそれ以外でも、彼が受賞できないのを惜しんでいる。
あるネチズンは
「韓国民族はノーベル賞と縁がないのか。コ・ウン氏が今回もしりぞけられ、日本は化学で受賞した。大韓民国文学家と科学者よ、立ち上がれ」
と書き込み、我が国が今回もノーベル賞を輩出できなかったことを惜しんだ。
しかし彼の作品は、一部の文学に関心のある人々以外にはあまり知られていない。海外の場合のような、ノーベル文学賞受賞者の作品に対する国民的な関心とはあまりにも違う実態だ。
また他のネチズンは
「コ・ウン氏のノーベル賞受賞資格に関する談話はあふれるほどなのに、いつも決まって「自分は読んでいないが」という前置きで始まっている」
と書き、国民のコ・ウン氏に対する関心の不足を指摘している。
自国民から読まれていない作家のノーベル賞受賞を待望するというのは韓国独特の現象です。
「ああ,また日本人がとったみたいね」
「違いますよ,文学賞です。ペルー人がとりました」
同僚のペルー人が興奮の面持ちで話しかけてきました。
「翻訳もけっこうありますから,こんど読んでください」
受賞者のバルガス・リョサ氏を調べようとして,意外なことがわかりました。今年のノーベル文学賞の有力候補が,韓国の詩人だったんだそうですね。
高銀(コ・ウン)という詩人。
韓国の新聞によれば,8年連続で候補になっていたということです。韓国では大いに期待していたけれど,結局,ラテンアメリカの代表的作家,パルガス・リョサにさらわれた。
なぜ韓国がノーベル賞をとれないのか。これは毎年議論になっているようです。5年前に出た中央日報の記事(→リンク)から抜粋すると,
「西欧文学が20世紀後半から自我分裂の段階を越えて自我の微細化現象を見せているのに比べ、韓国文学を含む第3世界文学は堅固な敍事構造と人間の鮮やかな情緒が生き、人類平和を熱望する思想が多いことから、ノーベル文学賞にふさわしい作品が多い」
「文学的歴史や作品でみた場合、国内の文学家らは世界文学に決して遅れをとっていないし、何より文学的技量をもっているだけでなく、高銀氏は国内外でも評価が高い」
( 任軒永・韓国文学評論家協会会長)
「数年前から韓国文学翻訳院などを中心に韓国文学の海外翻訳が比較的活発に行われているが、まだ政府の体系的な支援が不足で、作家個人で自分の作品を広報するという水準にとどまっている」
「韓国文学がノーベル文学賞を受けるためにはグローバル化に向けた各界各層の努力が必要」
(詩人の李時英氏)
「日本などと比べた場合、韓国文学の海外翻訳や広報は不十分すぎる」
「韓国文学の優秀性や特性を一定の水準にまで到達させるのには海外に多く伝えることが必要で、文化政策を行う行政家や関連者たちもノーベル文学賞受賞に向けて多くの努力を傾けなければならない」
(前出,任会長)
記事によれば, 川端康成、大江健三郎という2人のノーベル文学賞受賞者を出した日本は、早くから日本文学を国際化することに力を入れてきており,文学作品を映画化して日本文化や文学を世界に知らせる努力を常に行っている。川端作品はノーベル賞受賞以前に133作品が26言語に訳され,大江は150作品が19言語に翻訳された。これに比べて韓国文学の海外への紹介は1990年代に入ってから始まり,翻訳の質も低い。
韓国外大ソン・ギョンスク教授 は『ノーベル文学賞と韓国文学』という本の中で、韓国文学がノーベル文学賞を受賞するための対策として次を挙げる。
▽スウェーデン文化界、王立アカデミーの関係者にも韓国文学愛好家が出るなど、間に入る役割をする人が必要
▽ノーベル図書館にフランス語、英語、スウェーデン語などの韓国文学関連資料を送らなければならない
▽韓国文学の世界的研究者と翻訳者を養成しなければならない
▽いくつかの大学や機関をエージェントに指定し、集中管理しなければならない
要するに韓国文学はすぐれているが,あまり翻訳されておらず,海外に知られていないためにノーベル文学賞が受賞できないということのようです。
でも,韓国という国の努力で韓国文学を愛する海外知識人を作ったり,韓国文学研究者や翻訳家を海外に養成するなんでできないでしょう。
翻訳が盛んになるためには,まずすぐれた作品があり,それにほれこんだ外国人がいて,ぜひ翻訳して自国の読書人に紹介したいという気持ちにならないといけない。
韓国に,海外の読者をうならせる文学作品があるかというと,疑問です。私も韓国関係の仕事をしているとき,日本で手に入るかぎりの韓国文学(翻訳)を読んだけれど,韓国の歴史と文学史の勉強にはなったが,感動した作品は少ない。
反共文学や反日文学あるいは家族間の葛藤を描く儒教的ストーリーは,世界的な普遍性を持たないのではないでしょうか。
今候補として騒がれている高銀氏についても,次の記事を読むかぎり,可能性は低いのでは。
メディカル・トゥデー10月8日(→リンク)
高銀氏,ノーベル文学賞で苦杯…国民たち「残念だ。ところで彼の作品ってなんだっけ?」
ノーベル文学賞受賞を期待したコ・ウン詩人が苦杯をなめ、国民みなが残念がっているが、実際彼の作品を知っている人は珍しい。
スウェーデンのノーベル賞委員会がマリオ パルガス氏を2010年ノーベル文学賞に選定したことがわかると国民の失望は大きかった。 しかし失望はコ・ウン氏に対する応援に変わった。また苦杯をなめたコ・ウン氏が残念という意見も出た。
これは最近6年間、ノーベル文学賞受賞者中5人が小説家、1人が劇作家で詩人がいなかったことと、同期間ヨーロッパ作家5人、トルコ作家1人などヨーロッパの小説家が文学賞を受賞したことを挙げて、「非ヨーロッパ出身の詩人」コ・ウン氏が高得点を挙げると予想したためだ。
7日夕方、彼の苦杯のニュースが入ったときから8日現在まで、ネット上でもそれ以外でも、彼が受賞できないのを惜しんでいる。
あるネチズンは
「韓国民族はノーベル賞と縁がないのか。コ・ウン氏が今回もしりぞけられ、日本は化学で受賞した。大韓民国文学家と科学者よ、立ち上がれ」
と書き込み、我が国が今回もノーベル賞を輩出できなかったことを惜しんだ。
しかし彼の作品は、一部の文学に関心のある人々以外にはあまり知られていない。海外の場合のような、ノーベル文学賞受賞者の作品に対する国民的な関心とはあまりにも違う実態だ。
また他のネチズンは
「コ・ウン氏のノーベル賞受賞資格に関する談話はあふれるほどなのに、いつも決まって「自分は読んでいないが」という前置きで始まっている」
と書き、国民のコ・ウン氏に対する関心の不足を指摘している。
自国民から読まれていない作家のノーベル賞受賞を待望するというのは韓国独特の現象です。
アメリカに渡る研究者は,経済的利益に直結する分野(医学など)に進む者が多く,基礎研究に向かわないということも読んだことがあります。
アメリカで生まれ育って韓国的メンタリティーから自由な人たちも増えているはずですね。
その場合,韓国は原則として二重国籍を認めていないから,韓国の受賞にはならないはずですが,たぶん韓国は韓国認定をするでしょう。