図版:韓国外国語大学通翻訳大学院(1979年創設)
私が韓国に赴任したとき、駐在員事務所の職員は全部で5人。日本人2人と韓国人3人という小さな所帯でした。韓国人のうち、2人は日本での留学経験があり、もう1人も、日本に住んだことはなかったけれども、大学の専攻が日本語でした。
通訳が必要な時は、留学経験者の2人のどちらかに頼みました。
私は、通訳ができるほどの韓国語力はありませんでしたが、日本の上司と、提携先韓国企業の重役が飲みに行くときに、酒の席での会話の通訳を頼まれることがありました。
初めての通訳は、犬鍋屋。私はそれまで何回か犬鍋を食べていて、好きだったのですが、そのときは通訳の負担で料理を楽しむことができなかったことを覚えています。
その後約10年間で、社員は30人にまで増えました。私以外の日本人は短期で交代するため、常に通訳が必要でした。
最後のころは、通訳・翻訳専門の社員を採用するようになりました。
通訳担当社員は、日本の大学を出て日本語がよくできるという人もいましたが、日本には行ったことがないけれども、韓国で通翻訳の専門教育を受けたという人もいる。
韓国には、通訳・翻訳の学科のある大学/大学院があります。韓国外大とか、梨花女子大とか。
通翻訳大学院を出た人の実力は、際立っていました。逐次通訳も同時通訳もこなし、誤訳や訳もれはほとんどありません。
テレビなどで、外国で重大事件が起きたときなど、英語の同時通訳が流れることがあり、「すごいな」と思ったりするのですが、日本語と韓国語も場合、同時通訳はそれほどすごいことではない。語順が同じなので、日本語の順番に訳していくことができるのです。主語と動詞が文の前半に来る英語にくらべてずっと容易です。
私も同時通訳をやったことがあります。単語を聞こえた順番で片っ端から訳していく。翻訳機械になり切るのですね。ただ、この場合、話の内容はほとんど頭に残りません。
難しいのはむしろ逐次通訳。
30秒とか、1分間の話を暗記するのは無理ですし、メモを取ろうにも、話のスピードが速くて追いつかない。それで、聞いた話を素早く要約して訳したりすると、「ずいぶん短いね。ほんとうに訳したの?」などと疑われる。
通翻訳大学院で学んだ人は、メモの取り方がすごい。ハングルやかな漢字交じり文でメモをとるのではなく、速記用の特殊な文字を使います。また、頻出語はその場で記号を考えて、記号一文字で表すらしい。そうやって、2~3分におよぶ長大な話を、「訳漏れなし」に、正確に訳すことができるのです。
私は、韓国語がわかるようになってから、日本語と韓国語の訳を比べて、通訳の質を評価できるようになりましたが、通翻訳大学院出の社員の通訳の正確さは驚くべきものです。
日韓間の通訳は、さきに言及した語順の共通性だけでなく、会議などで多く使われる漢字語が共通しているので、日英などと比べると、ニュアンスなども含めて、そっくりに訳すことができるのです。
通訳というと、普通の社員より低くみられることがあるかもしれませんが、「専門能力」を評価して、一般社員と同じ給料を払っているはずです。
まあ、いずれはAIなどに取って代わられてしまうかもしれませんが。
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