犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

白濠主義~先住民迫害

2022-10-16 23:56:38 | 言葉
写真:シドニー五輪の金メダリスト、キャシー・フリーマン

 前にも書いたように、オーストラリアは1987年以降、LOTE(Language Other Than English、英語以外の言語)の教育に力を入れています。

 日本なら外国語(Foreign Language)と言うはずのところをLOTEというのは、オーストラリアが移民国家で、さまざまな言語が自国で使われているため、「外国語」というのは適切ではないからでしょう。

 ビクトリア州の例では、学習者の多い上位10言語の中に、中国語、日本語、インドネシア語、ベトナム語、アボリジニーに言語と、5つのアジア言語が入っています。

 ここにはオーストラリアの「多文化主義」が反映されています。

 オーストラリアは移民国家。先住民のアボリジニー以外は、すべて、いずれの時期かにオーストラリアに渡ってきた移民の子孫です。

 移民は現在も続いています。現在の人口のうち、オーストラリアで出生したのは約75%。全人口の25%が出生後にオーストラリアに渡ってきた移民なんですね。

 多文化主義というのは、それぞれの移民(とその子孫)のもつ文化を尊重しようとする考え方。

 オーストラリアの教育で、さまざまな言語を学ぶことができ、奨励されているのは、国民の祖国の言語と文化を継承しようとしているからでしょう。

 実は、多文化主義は、それ以前の「白濠主義」に対する反省と反動によって、1970年代前半に生まれたポリシーです。

 白濠主義というのは、白人以外の人種に対する差別政策です。

 大英帝国は、1788年、オーストラリア大陸を植民地化しました。最初の移民は、英国の犯罪者(流刑者)たちでした。

 彼らは先住民であるアボリジニを征服・迫害しました。

 入植者たちは、先住民を「スポーツハンティング」の対象として面白半分に殺戮したということです。

 タスマニア島では、これが徹底されました。

 タスマニア先住民は、1800年に2500~7000人いたそうですが、1830年、兵士2000人を投じた先住民掃討作戦により約300人を残して壊滅。

 その後、1876年、最後の生き残りのトゥルガニニというおばあさんの死によって、純血のタスマニア人は絶滅しました。

 もっとも、先住民の人口減少は、殺戮よりも感染症の犠牲になった人のほうが多かったというのが、現在の定説です。

 オーストラリアへの入植者は、無菌の地だったオーストラリア大陸にさまざまな病原菌(天然痘、インフルエンザ、麻疹、梅毒)を持ち込み、アボリジニはそれらの疫病にかかって、ばたばたと倒れたそうです。入植時に30万~100万人(諸説あり)いたものが、1930年代には5万人になっていたとのこと。

 旧大陸の伝染病の多くは、家畜が起源です。古くから牧畜と農耕の歴史を持っていた旧大陸では、歴史上さまざまな感染症が流行し、その結果、多くの人々が免疫をもつようになっていました。

 しかし、新大陸(南北アメリカ、オーストラリア)は、牧畜をほとんどやっていなかったので、伝染病が少なく、免疫もありませんでした。

 20世紀に入って、オーストラリア政府は、先住民族を保護するという名目で人種隔離政策を行いました。1910年頃からは、政府や教会が主導して、「アボリジニの子供も白人の進んだ文化の下で立派に育てられるべき」と、アボリジニの子供を親元から無理やり引き離し、白人家庭や寄宿舎で育てるという政策も行われ、子供の約1割が連れ去られたそうです。

 この政策は、なんと1970年代まで続きました。

 オーストラリア政府がこれらの迫害について謝罪したのは、2008年。当時の首相、ケビン・ラッドがオーストラリアの議会で謝罪しました。

 2000年のシドニーオリンピックでは、アボリジニー出身の陸上選手、キャシー・フリーマンが開会式で聖火を灯しました。そして、400mでは見事金メダルを獲得。これは、オーストラリアで100番目の記念すべき金メダルだったそうです。

 フリーマンは白人とアボリジニの混血。母親が白人に強姦されて出生したが、隔離政策によって母親から引き離され、フリーマン自身も実母が誰かも知らないということです(高山正之『白い人が仕掛けた黒い罠』、ウィキペディアより再引用)。

 今のオーストラリア人に、アボリジニーに対する偏見や差別意識がないかというと、そんなこともないようです。

 10年ほど前に、日本在住のあるオーストラリア人男性(奥さんは日本人)と、酒を飲みながら話していた時、彼が

「アボリジニーは人間よりサルに近い」

と言ったのを聞いて、目が点になったことがあります。

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