趙廷来は「ハンギョレ21」(2001年4月17日)の記事に次のように書いています。
「日本は植民地支配36年にわたって,韓国人を六百万人以上殺した。不逞鮮人だと言って銃で撃って殺し,戦地に連行して殺し,労務者を連行し生き埋めにして殺し,焼き殺し,挺身隊として連行して思う存分陵辱したあとに殺した。それだけでなく,米をはじめとした農産物,金をはじめとした鉱産物,原始林をはじめとした林産物,鯛をはじめとした海産物にいたるまで,36年間,休みなく略奪し韓半島の地を荒廃させたと同時に,韓国人の絶対多数を飢餓に喘がせた。そして韓日併呑の十余年前から恣に行なわれた文化財略奪と盗掘行為は,敗戦のその日まで続いた。」
1 不逞鮮人だと言っては銃で撃って殺し,
2 戦地に連行して殺し,
3 労務者を連行し生き埋めにして殺し,
4 焼き殺し,
5 挺身隊として連行して思う存分陵辱したあとに殺した。
これらの合計が,600万人以上だと。
1は、主に、関東大震災時の虐殺や三・一運動がらみだと思いますが、前者は約6,433人(朝鮮罹災同胞慰問班ほかの調査)、後者は7、509人(『韓国独立運動之血史』,実際はこれより少ないと思われる)。
2は、太平洋戦争での軍人・軍属の死亡で2万3千人弱(厚生省資料)。
3は、徴用された労働者の死亡で1万人(厚生省資料)。
4は、堤巖里教会における23人の虐殺事件(→リンク)だと思われますが、これは1の三・一運動の犠牲者に含まれているはず。
5は、挺身隊として引き立てて慰安婦にした例はなく、秦郁彦によれば軍慰安婦総数は2万人、うち韓半島出身者は2割、4000人で、ほぼ全員が生還とのこと。
一方,北朝鮮社会科学院歴史研究所のチョン・ヨンニュルは,「告訴状」で次のような数字を挙げています。
1)義兵、独立軍、政治運動弾圧などで、13万9600余人
2)強制連行(徴用、徴兵、「挺身隊」)などで、71万1600余人
3)国内での獄死などで、1万9900余人
4)収監者のうち虐殺された者、9900余人
5)植民地統治に起因するその他の死亡者、12万3900余人
計100万500余人
その内訳をみると,
1)義兵、独立軍、政治運動弾圧などで、13万9600余人
「1919年3・1運動で、3月1日から5月末までに死者7500余、負傷者1万5900余、検挙4万6900余。その後数万人を殺傷」
死者は、朴殷植『韓国独立運動之血史』第7章にある独立運動犠牲者の総計、「国内八道と西北間島、樺太島についての3月1日から5月末までの統計、死者7509、負傷者1万5961、検挙4万6948」と一致する。ただし同書第12章には「最初の一か月間に即死者3750余人、重傷を負い後に死亡した者4600余、獄中死者は探知できず」とあり、これだけで第7章の数字を上回るという矛盾がある。
「その後数万人を殺傷」の根拠は不明。
「1920年10月、間島事件(庚申年大惨変)で、3万余人を殺害」
朴前掲書には「被殺人3106人、被検挙238人、被強姦76人、焼失家屋2507」とあり、犠牲者数が一桁違う。
「1923年、関東大震災のとき、東京だけで9月1日から18日までに6160人を虐殺、日本各地で2万3000余人を殺害」
これは、朝鮮罹災同胞慰問班が23年10月末日までに調査し、吉野作造がまとめた2、610に、その後の調査で明らかになったものを加えた朝鮮人犠牲者6433人(他に中国人200人以上、日本人聾唖者数十人)をやや下回る。
「日本各地で2万3000余人」の根拠は不明。
「数多くの朝鮮人たちを捕らえ,生体実験の対象とし,虐殺」
これは,731部隊のことを指すと思われます。常石敬一『七三一部隊』によれば、43年7月までの犠牲者が850人、総犠牲者数は不明。大部分は中国人で、スパイ容疑でつかまった朝鮮人も含まれるというが、その比率は不明。
2)強制連行(徴用、徴兵、「挺身隊」)などで、71万1600余人
「1939年1月、国民総徴用令を公布したあと、600余万人を強制動員し、そのうち150余万人以上を、日本の炭鉱や軍事施設工事現場などへ連行、後に「秘密厳守」という口実で集団虐殺。平壌ミリム飛行場で800余人、クリル列島で5000余人、エムジ島で2500人を集団虐殺。
1939年から45年に、強制連行し、奴隷労働を強要し、殺害された朝鮮人労働者の数は、57万余人」
労務動員数は、朴慶植『在日朝鮮人・強制連行・民族問題』(三一書房1992)にある「国民徴用令で日本に動員された朝鮮人は150万人、朝鮮内の動員は450万人」という推算とほぼ一致する。平壌ミリム飛行場、クリル列島、エムジ島のケースを扱った資料を、私は見たことがない。
「57万余人の殺害」という数字は驚くほかありません。
厚生省の記録では,浮島丸事故の約2、000人を含め,死者約1万人。朴慶植は前掲書で、炭鉱の事故状況を細かく調べ、死亡者(主に炭鉱事故)を6万人と推定している。
なお、北朝鮮は、クマラスワミ報告書において、「20万人の朝鮮人女性を慰安婦として強制徴集し虐待、ほとんどを殺害」などという報告をしており、「57万余人」のうち20万人は慰安婦ということなのかもしれない。秦郁彦は1999年刊の著書で「軍慰安婦総数は2万人、そのうち朝鮮人は2割、4000人、そのほとんどが生還」という見解を発表している。
「強制連行(徴用、徴兵「挺身隊」)などで、71万1600余人」と「57万余人」の差、「14万1600余人」が徴兵による死者となるが、これは1993年厚生省の名簿、朝鮮人軍人・軍属の「動員24万3992人、死亡2万2182人(その他は復員)」と大きく食い違う。
3)国内での獄死などで、1万9900余人
4)収監者のうち虐殺された者、9900余人
5)植民地統治に起因するその他の死亡者、12万3900余人
3)~5)について,具体的言及は
「1931年末~32年初にかけて4万余人の朝鮮人を殺害。1933年に「思想法」という名のもとに6万6000人を検挙、投獄、虐殺」
しかない。文章後半の「6万6000人」がすべて「虐殺」にかかるのか、文意があいまいだが、いずれにしても根拠不明。
参考に,私の計算を以下に書きます。
1)関東大震災時の虐殺で約6500人(朝鮮罹災同胞慰問班ほかの調査)
2)3・1運動弾圧で約7500人(朴殷植『韓国独立運動之血史』、やや誇張あり)
3)太平洋戦争での軍人・軍属の死亡、約2万3000人(戦犯処刑者23人含む)。
4)徴用における死亡者、約1万人(厚生省資料。150万人強制連行説をとる朴慶植の推算では6万人。しかし炭鉱事故犠牲者を虐殺と呼べるか疑問)。
5)アメリカの原爆投下による虐殺2万人(4万人説もあり)
計約6万7000人(多めに見積もっても約10万人)
思うに、趙廷來の600万人説は、ナチスのホロコースト(ユダヤ人600万人が犠牲)よりひどかったと言いたいがための捏造、チョン・ヨンニュルの100万人説は、太平洋戦争時の日本人犠牲者330万人(310万人)に、人口比で合わせたもので、日本と同じぐらいの比率で死んでいるんだと強弁したいがための捏造でしょう。
北朝鮮の御用学者はともかく,韓国の著名な作家がこのような荒唐無稽な数字を掲げ,それを一流新聞社系列の雑誌がノーチェックで通してしまうことに,あきれざるをえません。
こと,日本を糾弾するためなら実証的である必要はない。道徳的な高みに立って,居丈高に断罪する。目的さえ正しければ,論理の過程はどうでもよく,数字は修辞としていかようにでも誇張してよい,というのが,韓国言論の現在の水準です。
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