犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

日本書紀の謎を解く②

2008-03-08 09:40:53 | 韓国雑学
 森博達『日本書紀の謎を解く』の韓国語版が刊行されると,いくつかの新聞に書評が出ました。次は,「ハンギョレ新聞」のもの(→リンク)。


ハンギョレ2006年8月31日


「日本書紀は唐の人と新羅留学僧の作品」

古代史歪曲の温床「日本書紀」,漢字・仮名の用法を分析して誕生と捏造過程を暴く

 この本の結語は次のような文で始まる。

「〈日本書紀〉成立の秘密はこの本によって解明された。」

 高慢なまでに堂々としている。森博達京都産業大学中国語学科教授の自信には,理由がある。彼は720年に成立した日本最初の正史〈日本書紀〉が,唐から渡って来た二人の中国人学者と,新羅出身で,新羅で学んだ学者によって,それぞれ違う時期に書かれたことを論証した。その挑発的結論に至る研究内容を,淡々とした文章の中にも学問的情熱を込め,300ページ以上にわたって記した。

〈日本書紀〉は,韓国人にとって愛憎の対象だ。日本古代史はもちろん東アジア古代史を論ずるとき,〈日本書紀〉は決して欠くことのできない史料だ。百済をはじめとした古代韓半島の国々の歴史書を引用したり,独自にその歴史を書いたりしている。一方,韓半島南部を日本が支配したという「任那日本府説」の主な根拠として,日本の学者たちが援用している文献でもある。天皇を神格化した一節を含むいくつかの記述が,その真偽を疑われてもいる。

 韓国の読者にとってやや残念なことだが,〈日本書紀の秘密〉はそのような歴史的論争について,ただの一言も言及していない。森教授の注目する「秘密」は別のところにある。「古代史研究は文献批判だ。言葉の研究こそ文献を解き明かす基盤だ。言葉を検討し文体を分析すれば,巧と拙,虚と実が判明し,著者の意図や立場まで窺い知ることができるはずだ」。森教授は古代の漢字音と文章を研究した学者だ。彼は〈日本書紀〉編纂当時の中国の漢字の用法と,日本の漢字・仮名の用法を比べて,〈日本書紀〉の「虚と実」を腑分けした。

 彼は,〈日本書紀〉に中国式の漢文を使った段落と倭式(=和式)漢文を使った段落が混ざっていることを立証した。漢字の音韻学と漢文の文体論などを用いて緻密に分析した。いちいち紹介するにはあまりにも複雑なその研究のために,森教授は30年以上の歳月を捧げた。実証的研究の過程は複雑だが,その結論は明快かつ豊かな霊感を投げかける。

 全30巻より成る〈日本書紀〉を,森教授は「α群」(巻14~21,巻24~27)と「β群」(巻1~13,巻22~23,巻28~29),そしてどちらにも属さない巻30に分類し,続いてそれぞれの執筆者を追跡した。α群を執筆した人物は中国の「正統的漢文」に精通していたものの日本の事情には疎かった,唐の学者というのが彼の結論だ。一方,β群の〈日本書紀〉を執筆したのは「正統的漢文」は下手だが仏教の漢文の教養を備えた学者だ。

 驚くべきことに森教授は,一歩踏み込んでそれぞれの執筆者を特定した。さまざまな歴史書の記録を研究した結果をもとに,彼はα群の執筆者が新羅・唐連合軍と百済の戦いで百済の捕虜になり,後に日本に渡って来た唐の学者続守言と薩弘恪であると断定した。さらには二人が分担して執筆したそれぞれの巻を明らかにした。

 β群は,この二人の学者の死後に書かれた。今度は山田史御方(ヤマダノフヒトミカタ)という学者が主導して〈日本書紀〉を執筆した。御方は新羅に留学した僧侶だった。森教授は「史(フヒト)」という姓からわかるように,御方は韓半島からの渡来人がその先祖」であり「β群の表記と文章には新羅漢文の影響がある」と書いた。

 さらにはβ群に使われた一部の漢字は中国にはなく,韓半島の三国時代に作られた異体字で,いくつかの文章は新羅時代の吏読の用法と一致するという点も明らかにした。新羅人もしくは新羅人二世あたりの人が新羅で勉強してから帰国し,新羅式漢文を取り混ぜて〈日本書紀〉を書いたという推定が可能だ。そして最後の巻30は紀朝臣清人(キノアソミキヨヒト)という日本人学者が仕上げた。

 この研究が示唆することは少なくない。彼は〈日本書紀〉のさまざまな歴史の叙述についてはまったく言及していないが,「神道が〈日本書紀〉を聖なるものに祭り上げ自らの宗教観を説明するのに利用」した結果,〈日本書紀〉が科学的研究の対象ではなく神格化された文書として受けとられてきたことを批判した。〈日本書紀〉の実証的研究に先鞭をつけた18世紀の学者,本居宣長についても「編纂の意図を無批判に信じたため〈日本書紀〉に創作(造作=捏造)があるということから目をそむけた」と批判した。つまるところ,森教授が挙げた学問的業績は〈日本書紀〉の「神話」を越え,事実と虚構を腑分けできる新しい道を開拓したことにある。

アンスチャン記者 ahn@hani.co.kr

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