盧武鉉を自殺に追い込んだ韓国社会

　逮捕が近いと噂されていた盧武鉉前大統領が自ら命を絶ちました。

　新聞に載った経歴を改めて読むと，政治家としての能力とは別に，一本筋の通った生き方をしていましたね。大統領選挙で落選していれば，もっと幸せな人生を送っていたのではないかと思います。

　金泳三を見ても，金大中を見ても，民主化闘士の時代は光っていたけれど，大統領になってからは失政が目立った。何でも反対していればいい野党政治家とは違って，国政を担うのは荷が重すぎた。盧武鉉も人権弁護士として生き続ければよかったのにと思います。

　私の友人に金泳三大統領時代の秘書官がいました。韓国の大統領秘書官というのは１００人ぐらいいて，そのうちの一人は「親戚担当秘書官」。親族からの陳情処理係だそうです。

　韓国では，一族の中で誰かが出世すると，突然遠縁の親族がどこからともなく湧いてきて，冠婚葬祭に金をせびってくる。名家になると，「族譜」に載っている一族だけで数万人に達するといいますからたまらない。

　大統領になっちゃったら，専任の秘書官が一人いても足りないほどの陳情の山でしょう。

　そして，そういう人々の面倒を見てやるのが「情」のある人。

　金泳三，金大中がともに息子に足をすくわれたので，同じ轍は踏まないだろうと思っていたら，盧武鉉の場合は兄と甥と妻にやられた。成功した人が親戚に冷たくすると，「冷情（ネンジョン）な奴」と言われて人間失格扱いですから，盧武鉉も断りきれなかったのでしょう。

　警察に，親族の素行を監視させたのは朴正煕でしたが，親族からは相当な恨みを買った（リンク）。

　もともと贅沢とは無縁だったであろう奥さんやお兄さんが，なんで財閥に金をせびるようになったのか。

　これも韓国の「見栄社会」に原因があるような気がします。２０年前ぐらい，まだマイカーがステータスだったころ，学校の先生が大衆交通機関（バス，地下鉄）に乗って学校に通うと馬鹿にされたそうです。教師という指導的な立場にある者は，それなりの格を見せなければいけないというのです。

　とはいえ，教師の給料は決して高くない。それで，保護者に「寸志」を要求することになる。悪循環です。

　私が韓国にいたころの日本人学校のある校長先生は，学校のそばに居を構え，自転車通勤していた。学校の中でも，用務員のおじさんのような格好をしていました。

　そのため，韓国人の職員から，「どうか自転車で通うのだけはやめてください」と懇願されていたらしい。

　ファーストレディも，アメリカで暮らす姪夫婦も，大統領の妻だ，親戚だということになれば，自分の懐具合とは無関係に，それなりの家に住み，車に乗らないと格好がつかなかったのでしょう。

　血縁社会，見栄社会。このような悲劇を繰り返さないためには，韓国的価値観からの脱却が必要だと思います。