天安事件

　韓国の哨戒艦天安が３月２６日に爆沈し，４６人の犠牲者が出たあと，約２カ月後の５月２０日，韓国軍・民間合同調査団（英米豪スウェーデンの専門家を含む）が北朝鮮の小型潜水鑑から発射された魚雷によるものと調査結果を発表し，爆沈の原因が確定しました。

　調査結果が出るまで，いろんな憶測が飛び交いました。北朝鮮の発射した魚雷以外に，１９７０年代に韓国が設置し未回収のままの機雷ではないかとか，すごいのは天安と米原子力潜水艦コロンビアによる同士討ち，なんていうのもあった（→リンク）。

　結果がわかったあとにとやかくいうのは気の毒ですが，限られた情報の中では見当違いな憶測が出て来るのも仕方ないでしょう。ＫＢＳにしろ，田中宇さんにしろ，結果的には誤報でしたが，思い切って発表した勇気はほめるべきかもしれません。

　ところで，南北間にこうした事件が発生するたびに出て来るのが北擁護の論調。事件は北朝鮮（やソ連）の犯行ではなく，米韓の謀略だという説がささやかれる。

　古くはソ連による８７年の大韓航空機撃墜事件，８３年の大韓航空機撃墜事件，ラングーン事件，８７年の大韓航空機爆破（真由美）事件など…。読物としては面白かったけれど，結局はソ連や北朝鮮の仕業だったことが明らかになった。

　当の韓国の人々がこうした陰謀説をまことしやかにささやくというのは，軍事独裁政権時代に謀略が横行した経験によるものでしょうか。一方，共産圏（ソ連，中国，北朝鮮）の中のもっとすごい謀略（粛清，収容所，文化大革命）などについては，韓国内ではあまり伝えられておらず，かえって運動圏の大学生の間では北が美化されていたからでしょうか。

　調査結果発表以後の動きをみると，２１日には北朝鮮は調査結果を「特大の謀略劇」と非難。真相究明のために調査団派遣を提案するも韓国は拒否。韓国はＦＭラジオによる対北宣伝放送再開。風船によるビラ散布，軍事境界線付近での大音響スピーカー放送，大型電光掲示板の設置を順次行う計画を発表。米議会では北をテロ支援国家に再指定する法案が提出される。２６日には，北朝鮮が「韓国政府との関係のすべて断絶」を宣言。日本も，２８日，北朝鮮への送金限度額を引き下げる制裁措置を発表。

　北朝鮮はどんどん国際的な孤立を深めています。

　結局，この攻撃の狙いはなんだったのか。金正日は訪中時に，自分たちはやっていないと言ったらしいけれど，こんなことを軍が金正日に無断でやるわけはないし，攻撃のあと，担当部隊が金正日に誉められたらしいので，金正日じきじきの指示によるものと見るのが妥当でしょう。

　直接的理由は２００９年の交戦での敗北に対する報復，軍部の士気高揚です。でも，その後，国際社会が制裁に出ることも折り込み済み。制裁への報復を唱え，「戦時態勢」を演出，国民に対してさらなる窮乏に耐えさせるための口実に使うのではないかと思います。

　そして国際的には注目を自国に集め，「核」をカードにして危機感を煽り，援助を引き出そうとするお決まりの筋書きが…。