2000年に発表された『タイ語急行物語』は、なぜか2007年に絶版になり、『新タイ語急行物語』として生まれ変わりました。二人いた著者のうち一人は離脱。どういう事情があったのか、定かではありません。
さて、新しい物語の登場人物は2人。ストーリーは前作に比べてシンプルになっています。やはり男女の物語ですが、今度の話では、タイ人男性と日本人女性の話になっています。
物語は大学のキャンパスで二人が出会うところから始まります。日本人女性はユキ。タイ人男性はタウィースィット、ニックネームはカイ(卵)。これは前作のタイ人女性と同じです。タイ人のニックネームは男女共用で使えるものが多いのです。
カイは大学生、ユキは社会人。ユキはタイに観光で来たわけではなく、タイで仕事をしていることが、第2課でわかります。
出会った二人は学食で食事をします(第3課)。社会人のユキさんがなぜ大学に来ていたのかよくわかりませんが、タイ語を習いに来ていたのか、それとも自分の仕事の営業で来ていたのか。この大学は、学生数が2万7000人であることから、前作のカイと同じくチュラロンコーン大学と思われます(もう一つの名門大学、タマサートは3万3000人)。
カイ君はそこで「広報マスコミュニケーション学部」という長い名前の学問を専攻しています。そしてユキさんは、バンコクの中心部、シーロムの旅行会社に勤めています。ユキは家族についていっさい語っていないのでたぶん独身で、バンコクで一人暮らしをしているのでしょう。
意気投合した二人は、BTS(スカイトレイン)に乗っていっしょに帰ります。カイ君が「電話するとしたらいつが都合がいいですか」と聞いていることから、この初めての出会いで電話番号を交換したことがわかります(第7課)。
カイ君はさっそくユキさんに電話をかけ、食事に誘います。木曜日はユキが都合が悪く、金曜日はカイがお母さんといっしょに買い物に行く。男の大学生が母親といっしょに買い物に行くというのはタイでは普通のことなんでしょうか。ひょっとしてマザコン?
それはともかく二人は土曜日に夕食をすることにします。ユキが屋台で食べたいと言ったため、待ち合わせはサーラーデーン駅。この界隈には、タニヤというアジア最大の歓楽街があります。
そして11課は会食場面です。
カイ「ユキさんは何を飲みますか。お茶ですか、それともビールですか」
ユキ「タイウイスキーをいただいてもいいですか」
なんと、ユキさんは食事のときにウイスキーをのむほどの飲んべえだったのです。タイウイスキーとはお米とサトウキビを原料にした蒸留酒。別名メコン。かなりくせのある強い酒です。いっぽう、カイ君は下戸。
食事が終わり、御勘定を払う段になって、社会人であるユキさんは自分が払うと言いますが、カイ君は自分が誘ったのだからといってユキに払わせない。ユキは次の食事で払うことにします。
食事の後、何が起こったか詳らかではありません。しかし、何かが起こったことは確実です。なぜなら、この食事のときまで、ユキはカイを呼ぶときにクン・カイ(カイ君)と呼んでいたのに、次の14課のカフェでの場面では、「カイ」と呼び捨てにしたうえ、文末のていねいな語尾「カー」をつけなくなったからです。そしてカイのほうも、それまでの「クン・ユキ」(ユキさん)ではなく、「ピーユキ」(ユキ姉さん)という呼び方になっている。二人の親密度が増したことは確かです。
15課では二人の年齢が明らかになります。ユキは仏暦2521年生まれ。仏暦から543年を引けば西暦になりますから、西暦では1978年生まれ。この物語の時点(2007年)で29歳です。一方、カイは1988年生まれの19歳です。10歳の年齢差…。
ところで、29歳でバンコクの旅行会社で働いているユキさんは、どういう経歴を持っているんだろう。旅行会社の駐在員? それとも現地採用? タイ語はペラペラのようですから、すでに在タイ数年が経っているようです。あるいは外国語大学でタイ語を専攻していたのかな。駐在員の妻として来泰し、タイが気に入って、夫が帰任したあとも残ったという可能性もないわけではない。情報があまりにも限られているので、確かなことはわかりません。
さて、第16課では、二人の仲をさらに進展させる事件が起こりました。それはユキの入院です。ユキは喘息の持病をもっていて、ある日咳が止まらなくなり、バンコクの病院に入院します。その消息を知って、カイは病院にかけつける。これを契機に、二人は一気に親密度を増したと思われます。いっしょにショッピングをし(17課)、カラオケを歌います(18課)。
そして最終回の第20課。カイ君は酒が飲めないにもかかわらず、ユキにつきあってフアラムポーンの大衆居酒屋に行きます。しかし、ユキがこんな庶民的な店が好きなことがカイ君には解せない。
「ユキさんはなぜフアラムポーンにお酒を飲みに来るのが好きなんですか」
「ここの雰囲気が好きで、そして地方から来た、あるいは地方へ帰る人と交流できるから」
「そうですか。僕は何も特別なものはないと思います」
「たとえ何も特別なものはないとしても、でもタイ人の普通の生活があるんじゃないの」
「タイ人の普通の生活がおもしろいんですか」
「私は普通であればあるほど興味深いと思うわ」
ここで物語は終わります。10歳の年齢差、飲んべえと下戸、そして世の中の見方の違い…。
二人の恋が成就するためには、乗り越えるべき壁があまりにも高いというのが私の感想です。
(水野潔著『ニューエクスプレス タイ語』2007年、白水社)
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最近割りにディープな市場を見つけました。なんと私の自宅からバスで3分のところです。今度行きましょう。
それはそうとフアラムポーン駅。私、ホアヒンだったかウドンターニーだったか、地方からバンコクに帰るとき、そこで降りた記憶があります。懐かしいです。
いつか行ってみたいものです。