先日、高島屋の外商を取り上げたテレビ番組を見ました。
担当者は、お得意様のお金持ちを特別の部屋に案内し、とっておきの高額商品をお勧めする。
そのときに、ある病院の院長さんに勧めていたのがスイスの高級時計、フランク・ミュラーの時計で、その額なんと2億円!
そのお医者様御夫婦、一瞬絶句したあと、
「ちょっとデザインが若向きで、僕には似合わないなあ」
などと言いつつ、やんわりと断っていました。
しかし、2億円の時計なんてあるんですかね。
調べてみると、やはり高島屋を取り上げた記事で、こんなのがありました。
3億円の品も…日本最大級の時計売り場、高島屋大阪店に(リンク)
「フランク・ミュラー」の3億6396万円(税込み)の時計は、1千年間調整がいらないカレンダーなど複雑な機能を備える。
3億6396万円!
1千年間って、もはや人類が滅びているかもしれないのに…
私が持っている「フランク三浦」の9万倍以上の値段です。
ところで、一か月ほど前のことになりますが、フランク・ミュラーとフランク三浦の商標権をめぐる争いが報道されていました。(リンク)
朝日新聞2017年3月6日
フランク三浦、勝訴確定 最高裁、ミュラーの上告退ける
スイスの高級時計「フランク・ミュラー」のパロディー商品名「フランク三浦」を商標登録できるかが争われた訴訟の上告審で、商標を有効とした昨年4月の知財高裁判決が確定した。最高裁第一小法廷(小池裕裁判長)が、2日付の決定で「フランク・ミュラー」の商標権管理会社(英領マン島)の上告を退けた。「フランク三浦」の名での時計販売が続けられることになる。
大阪市の会社が2012年に「フランク三浦」を商標登録。この商標を無効とするようミュラー側が申し立て、特許庁が「ミュラーへの『ただ乗り』だ」として無効とした。「三浦」側がこの判断の取り消しを求めて提訴し、無効を申し立てたミュラー側と争った。
知財高裁判決は「呼称は似ているが、外観で明確に区別できる」と指摘。「三浦」の時計が4千~6千円程度であることも考慮し、「多くが100万円を超える高級腕時計と混同するとは到底考えられない」として特許庁の処分を取り消した。
この裁判については、約1年前にもこのブログで取り上げました(リンク)。今回は、そのときの判決が最高裁で確定したというもの。
この裁判は、商標権に関するもので、「フランク三浦」と「FRANCK MULLER」という二つの商標が、類似しているかどうかが問題になりました。時計そのもののデザインの類似性ではなくて、あくまでも「商標」の争いなんですね。
判決文はこちら(リンク)。
さすが判決文。難しい言葉で長々と論じられていますけれども、要は、フランク三浦という商標を見た(聞いた)人が、FRANCK MULLERと混同するかどうかということ。
二つの商標が「類似商標」と認定されるためには、商標の「外観」、「観念」、「称呼」が似ていなければならない。
フランク三浦の商標は、
「フランク」という片仮名および「三浦」という漢字(ただし「浦」の漢字の右上の「、」を消去したもの)を手書き風に同じ書体、同じ大きさ、等間隔で横書きしたもの」
そこから「フランクミウラ」という称呼が生じる。
そして、「三浦」は日本人の姓、「フランク」は外国人の名の観念が生じ、両親が外国人と日本人の名前、また英単語と日本人の姓を組み合わせた芸名を思い起こさせるので、「フランク三浦」という名の人物という観念が生じるんだそうです。
一方、「フランク ミュラー」という商標は「片仮名を標準文字で書して成るもの」であり、「FRANCKMULLER」という商標は、「欧文字を黒色で書して成るもの」であって、両者ともにそこから「フランクミュラー」という称呼(音声)が想起される。そして、そこから多くが100万円を越える「外国の高級ブランド」という観念が生じる。
ここで、先の三点について類似性を吟味すると、
まず、外観については、
欧文の「FRANCK MULLER」は問題外として、片仮名だけからなる「フランク ミュラー」と、手書き風の片仮名及び漢字を組み合わせた「フランク三浦」は、「明確に区別し得る」ので、類似してはいない。
次に称呼については、
「フランク三浦」から生じる「フランクミウラ」の称呼と「フランク ミュラー」から生じる「フランクミュラー」の称呼は,第4音までの「フ」「ラ」「ン」「ク」においては共通するが,第5音目以降につき,本件商標が「ミウラ」であり,引用商標1が「ミュラー」であって,本件商標の称呼が第5音目と第6音目において「ミ」「ウ」であり,語尾の長音がないのに対して,引用商標1においては,第5音目において「ミュ」であり,語尾に長音がある点で異なっている。しかし,第5音目以降において,「ミ」及び「ラ」の音は共通すること,両者で異なる「ウ」の音と拗音「ュ」の音は母音を共通にする近似音である上に,いずれも構成全体の中間の位置にあるから,本件商標と引用商標1をそれぞれ一連に称呼する場合,聴者は差異音「ウ」,「ュ」からは特に強い印象を受けないままに聞き流してしまう可能性が高いこと,引用商標1の称呼中の語尾の長音は,語尾に位置するものである上に,その前音である「ラ」の音に吸収されやすいものであるから,長音を有するか否かの相違は,明瞭に聴取することが困難であることに照らすと,両商標を一連に称呼するときは,全体の語感,語調が近似した紛らわしいものというべきであり,本件商標と引用商標1は,称呼において類似する。
最後に観念については、
「フランク三浦」からは、「「フランク三浦」との名ないしは名称を用いる日本人ないしは日本と関係を有する人物との観念が生じるのに対し,引用商標1からは,外国の高級ブランドである被告商品の観念が生じるから,両者は観念において大きく相違する」
したがって、二つの商標は、「称呼においては類似するものの,外観において明確に区別し得るものであり,観念においても大きく異なるものである」というのが裁判所の判断。
これに対し被告(フランクミュラー側)は、
「「フランク三浦」が著名ブランドとしての「フランク ミュラー」の観念を想起させる場合もあることから、「観念」においても類似する」、
「「フランク三浦」が「フランク ミュラー」と外観が酷似した商品を売っているので、その出所について混同を生ずるおそれがある」
と主張している。
これに対し、裁判所は、確かに「フランク三浦」から「フランク ミュラー」を連想することはありうるが、明らかな日本名である「三浦」を含む商標から、外国の高級ブランドと混同することはないし、「フランク ミュラー」が「多くが100万円を超える高級腕時計であるのに対し、「フランク三浦」の価格は4000円から6000円程度の低価格時計であって、フランク三浦の代表者自身がインタビューにおいて、「ウチはとことんチープにいくのがコンセプトなので」と発言しているように、「フランク ミュラー」とはその指向性を全く異にするものであって、取引者や需要者が、双方の商品を混同するとは到底考えられない」
要するに、「フランク三浦」という商標を見たり聞いたりした消費者が、「フランク ミュラー」の時計だと混同して商品を買ってしまい、あとから「フランク ミュラー」じゃなかったことがわかって「騙された!」と思うなんてことは、ありえないでしょう?という判決です。
裁判所は、「多くが100万円以上」と言っていますが、冒頭で見た通り、フランクミュラーには、2億円とか3億円のもあるんですね。
そして、この判決文を読んでの収穫は「フランク三浦」という商標の「浦」には点がない!ということを知ったことでした。
あらためて自分の時計に、老眼の進んだ目を凝らすと、確かに点はありませんでした。
〈参考〉
謎の天才時計師
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