会社の中国人同僚二人から仕事の後の夕食に誘われました。
一人は大阪からの出張者で、中国出身の帰化日本人。もう一人は首都圏在住で、日本には20年近く住んでいますが、帰化はしていません。
「犬鍋さん、池袋にいい中華料理の店を見つけたんです」
「へー、どこ?」
「千里香という店です」
(知ってるけど…)
「私は上野店に行きましたが、池袋はその支店です」
(この前、上野店でレジの女性に聞いたら、池袋の店は「関係ない」って言ってたけど)
朝鮮族とのマンナム
「基本的に、東北地方の料理ですけど、四川料理も本格的です」
(それは知らなかった。いつも羊の串焼きばかり食べていました)
「その店のすごいのは、串が自動で回転して、手でひっくり返す必要がないんです!」
(10年前からそうだけど…)
池袋代理戦争
「楽しみだね」
( )内のつぶやきは飲み込みました。
仕事が長引いて、私は20分遅れで店に着きました。
「今、注文したところです。犬鍋さんの好きそうなものを頼んであります」
(ぼくの好きそうなもの?)
「狗肉(犬肉)?」
「いえ、この店には犬はないみたいです」
運ばれてくると、定番の羊の串焼きといっしょに、見たことのない串がありました。
「何、これ?」
「蚕(カイコ)のさなぎです。韓国でも食べましたよね?」
そういえば、私の韓国駐在中に二人が日本から出張で来て、何かの料理の前菜に「ポンテギ」を食べたことがあるのです。
「でも、でかくない?」
大きさも色(真っ黒)も違うような気がします。
「韓国のは、濃い味で煮てありましたけど、これは生です」
(生…)
「といっても冷凍でしょうけど」
「これ、ほんとうにカイコかなあ」
韓国語のポンテギは、料理名であると同時に「さなぎ」を意味する普通名詞でもあります。これも何かのさなぎらしいので「ポンテギ」と言っても間違いではないでしょう。よくわかりませんが、蚕とは別の、「スズメガ」のさなぎのような気がします。
それ以外に「羊の腎臓」もあり、こっちも初体験。
飲み物は生ビールの後、紹興酒を頼みました。チャミスルもありましたが、1本1100円と高かったので、中国酒にしました。
「まず、ふつうの羊肉からいこう」
中国系日本人(帰化者)のほうは、「自動串焼き装置」を初めて見たらしく、しきりに感心していました。
羊肉をあらかた食べ終えた後、さなぎを炭火の上に置きます。
一串に3個ついていて、それが3本ありますから、一人一串(3個)が義務です。
オーナーらしき女性が、いかにも四川料理っぽい、真っ赤な魚入りスープを持ってきました。
「わっ、辛そう!」
「いえ、見た目ほど辛くないですよ」
「あの、上野にも「千里香」ってありますよね」
「はい、同じ店です」
「姉妹でやっているって聞いたんですけど」
「そうですよ。よくご存じですね」
「どちらがお姉さんですか?」
「それは…、秘密です」
意味ありげににやりとしながら答えます。
(なぜ秘密? 妹なのにもっと老けてると思われるのが嫌なの? 姉妹の仲が悪いのかな? ひょっとして「骨肉の争い」が…)
想像が広がりますが、「姉妹説」の裏付けをとることができました。上野店の店員が「関係ない」と言っていたのは、たんに知らなかっただけでしょう。
「そろそろ食べごろですよ」
連れがさなぎの串を指さします。
「もう少し焼いた方がいいんじゃない?」
「多少レアのほうがおいしいです」
「そう?」
さりげなく、小さめの串を選び、東北地方風のスパイス粉をまんべんなくつけて口に含み、一思いに咀嚼します。
「クリーミーだね」
蛾の内臓というか体液が口の中にどろりと広がります。確かに、韓国のポンテギと一脈通じる風味がします。韓国人は、ポンテギの味を称して「コソハダ」(香ばしい)と表現していたことを思い出しました。
食べてしまえばどうということのない味です。
羊の腎臓のほうは、レバーに似た味わい。美味しくいただきました。
それ以外にも、ハチノスの炒め物や、満州風焼き餃子などを追加し、お腹いっぱいになるまで、東北地方料理と四川料理を堪能しました。
紹興酒を3本空け、しめて19000円というのは、安くはないけれど、高すぎるわけでもない。妥当な金額でしょう。
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