犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

原爆記念日の朗読劇

2024-08-13 07:21:44 | 日々の暮らし(2021.2~)

 広島(日)と長崎(日)、二つの原爆記念日に挟まれた8月8日、ある「朗読劇」を観ました。

手紙・届かなかったラブレター
作・演出:得丸伸二
出演:高山佳音里(劇団昴)、髙橋耕次郎(文学座)
場所:TBスタジオ


 芝居の世界に疎いので知らなかったのですが、「朗読劇」という芝居のジャンルがあるんですね。

 舞台はシンプル。

 2人の出演者が並んで座り、台本を読んで、ストーリーが進行します。

 ときどき、立ち上がって身振り手振りを含めた「芝居」もしますが、ほとんどは椅子にすわったままです。

 役者の前にはアクリル板があります。少し前の「感染予防対策」を思わせますが、違います。

 客からは見えないのですが、アクリル板にはパソコン画面が投影されていて、役者はその台本を「朗読」するのですね。

 朗読なので、台詞を全部覚える必要もない。一般的な芝居に比べると、演じる負担は少ないのでしょう。

 朗読劇として名高いのは、1988年に初演されたアメリカの劇作家、ガーニーの『ラヴ・レターズ』。アメリカだけでなく、世界各地で上演され、ロングランになっているそうです。

「幼なじみの男女が1930年代から1980年代の半世紀にわたり、往復書簡により綴られる恋物語。互いを意識しつつも別々の道へ進んだ2人がやがて再会し激しく惹かれ合うさまを描いた作品」だそうです。

 日本では、PARCO劇場が上演権を獲得、日本語版が1990年に役所広司と大竹しのぶの出演で初演され、その後、さまざまな出演者によって30年、500回以上公演されたとのこと。

 今回観た「手紙・届かなかったラブレター」は、「ラヴ・レターズ」をリメイクしたもの。

 戦後すぐ、広島で出会った小学生の男女がそれぞれの道を歩みながら激動の時代を生きていく姿を、「往復書簡」に綴ったもの。時代や舞台は異なりますが、別の世界を生きる男女の恋物語という全体のストーリーは原作を踏襲しているようです。

 二人の登場人物のうち、和江は広島生まれで、母親は被爆者。昭夫は大阪出身だが、広島の小学校に転校してきて和江と知り合う。

 被曝は、ストーリー全体の鍵を握る重要なテーマですので、今回の上演日時が原爆記念日に合わせられたのでしょう。

 和江は演劇に興味を持ち、芝居、映画、テレビなど、さまざまな媒体で女優として活躍する。

 昭夫は、左翼思想にかぶれ、大学紛争、ベトナム戦争の従軍カメラマン、共産党議員のかばん持ちなどを経て、社会党から代議士になります。

 二人の個人史とともに、終戦から現代にいたる日本社会の出来事が網羅的に語られます。イデオロギー対立だけでなく、さまざまな差別問題(被爆者差別、朝鮮人差別、被差別地域…)も扱われます。

 1961年生まれの私は、戦後史の後半部分を、自身の経験と重ねて懐かしく想起できました。

 ミニ劇場は40席ほどで、満席。中には若い人たちもいましたが、そのような人たちにはチンプンカンプンだったかも。

 台本の巧みさと、出演者の熱演で、大変感動的な作品になっていました。

 観劇に誘ってくれた知人は、女優さんと旧知の仲。

 上演後、劇場近くの焼き鳥屋さんで女優さんを囲んで劇の舞台裏や苦労話などを聞けたのも、大変有意義でした。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« なぜ人を殺してはいけないのか | トップ | フィリピン男子初の金メダリスト »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

日々の暮らし(2021.2~)」カテゴリの最新記事