遅生の故玩館ブログ

中山道56番美江寺宿の古民家ミュージアム・故玩館(無料)です。徒然なる日々を、骨董、能楽、有機農業で語ります。

ピアーズて何?

2019年01月08日 | 絵画
ピアーズを知ってますか?

今回もかわいらしい品です。

                 オークランド市内

【ニュージーランドの骨董市で遭難?】
20年ほど前、ニュージーランドのオークランドに滞在していた時のことです。
 街角で、大骨董市のポスターが目にとまりました。場所は、郊外の競馬場。
 バスを乗り継いで、見当をつけておいた停留所で降りてました。が、それらしきものは何も見あたりません。人口の少ないニュージーランドで人を探すのは至難の技。道を尋ねようにとしても、こんな田舎では、近くに誰もいません。競馬がお休みの日ですから、なおさらです。やむなく、数km歩き回って、ようやく広大な芝生が続く場所に出ました。見渡す限り、芝、しば、シバ。でも、やはり、それらしき物は何も見あたりません。
 そこへ、突然の豪雨。辺りはかすんで、数m先しか見えません。普段なら、何でもない芝生の上を、幾筋もの小川が出現し、水がドウドウと流れてきます。川は太くなる一方です。あちこちには、小さな池も。
 オーストラリア南部でもそうですが、NZは一日のうちで、天気がめまぐるしく変わります。快晴だったのが、いつのまにか土砂降り、そしてまた、すぐに晴れ。だから、雨が降っても街中で傘をさす人は少ない。
 ところが、この日の豪雨は30分以上も続きました。あたりはもう見渡す限り池・・・・・・こんな所で遭難か?
 すると、モヤのなかからヘッドライトの明かりが見え、水しぶきをあげながら、一台の車が近づいてきました。
「骨董会場はどこですか?」
 聞いたのは私ではありません。車に乗っていたNZ人の老夫婦の方なのです。かれらも、雨の中をうろうろしていたにちがいありません。ほうほうの体で、同乗させてもらい、小降りになった雨の中を走り回って、競馬場の一角にある会場にようやくたどり着きました。

【まぼろしのインデンチュア】 
 大きな建物の中には60程のブースが並んでいます。数百の業者が出展する日本の主要骨董市に較べれば、こじんまりしています。でも、人口が500万人に満たないこの国では、最大規模の骨董市でしょう。
 年に一度の大アンティークフェアとあって、正装しているご婦人もちらほら。何よりも、ブースのグレードが高いことがうれしかぎりです。英国の植民地であった関係で、家具や宝飾類の店が多いですが、我々向きの品を置いている店もあります。
 そのうちの一つ、30代の男性がやっているブースに、見たこともない品が、額に入って鎮座していました。
私「これは何ですか?」
店主「Indentureさ」
私「?・・・・・・・・・」
 ひげ文字で書かれた重厚な品です。Indenture(インデンチュア)というのは、どうやら契約書のことを指すらしい。店主によれば、イギリスの貴族と執事の間でかわされた雇用契約証書で、17世紀の品だとのこと。ちょうど、グレゴリア楽譜のような雰囲気です・・・・価格は、600ドル・・・・欲しいけれど・・・「後でもう一度来ます。それまでとっておいて下さい」

ぐるっと会場を回って、元のブースに戻ってきました。
んっ!無い!
 店主によれば、若い女性がどうしても欲しいと言って購入していったとのこと。もう後の祭りです。逃がした魚は大きい!?

【ピアーズ】
気をとりなおしてこの店の品をもう一度見渡してみると、奇妙な絵が目に入りました。
「これは何ですか?」
店主「Pearsさ」
またもや、Pears(ピアーズ)も知らんのか、という顔。どうやら、アートポスターの一種であるらしい。英国圏では人気のコレクターズアイテムで、良い図柄の品は、高額になるという。オリジナル品は石版画です。

 後に調べてみると、18世紀後半、イギリスの石けんメーカーPears社が、販売促進用に作成したもので、商業ポスターの草分けとあります。当初は、かわいいい女の子や男の子が描かれていましたが、やがて、石けんとは関係のない絵柄も含め、多くのポスターが作られました。ほとんどに、人物が描かれていて、かわいいもの、ミュシャふうのもの、滑稽な絵、そして、奇妙な絵も。

 このポスターは、教授風の老紳士とゴイサギのような鳥がシュールに描かれています。左上には、Pearsのサイン。
「これは、レアもんですよ。インテリはみな欲しがる」
巧みな言葉につられながらも、400ドルを350ドルに値切って買いました。

               『博士の休日』(仮題)


【かわいいピアーズ】
こうなったら、次は、かわいい女の子が描かれた、ピアーズ初期の品が無性に欲しくなります。でも、それこそ超レアもの。ちょっとやそっとで手に入る品ではありません。で、後日、街の小さな骨董屋で、プリントを見つけて購入。10ドルでした。

            ピアーズ石けん 初期ポスター(複製プリント) 


 後日、日本のネットオークションでPearsを見つけました。落札値は、開始価格の3000円。かわいい男の子が描かれたミラーです。ガラス絵の手法で描かれています。英国のパブには定番の品で、人気があります。西洋版画もそうですが、こういった品は、日本の方が、安価かつ容易にゲットできるようです。

               ピアーズ石けん化粧鏡


追記1: 5年ほど前に、同じアンティークフェアに行きました。が、ひどく様変わり!ガラクタばかりの市になっていて、ガッカリでした。
追記2: 日本では、Pears社を、ピアーズ社と表記しています。果物Pearsの場合は、なぜか、ペアーズです。
 英国より、e を i に近く発音するといわれているニュージーランド英語ですが、彼らの発音を何回聞いても、私には、Pearsは、ペアーズと聞こえるのですが。



 


コメント
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