中国の古い堆朱大花瓶です。
口径 16.8cm、胴最大径 21.3㎝、底径 14.3㎝、高 55.7㎝。清時代?
非常に細かい彫りが施されています。
上下に分けて見ると、
もう少し拡大してみます。
この品には四面に窓がとられ、それぞれ樹下人物が表されています。
上の写真以外の三面の人物です。何かの物語を表しているのでしょうか。
樹木の彫りは、深くダイナミックです。
樹木や人物が彫られた厚みは、7mmほどもあります。低い面にも、地紋がビッシリと彫られています。
堆朱の本場は中国ですが、私はこれまで何度も痛い目にあってきました。堆朱の見分け方は本当に難しく、今も自信はありませんが、これまでの教訓を頭に入れて、今回の品を見ていきます。
堆朱は、彫漆の一種で、木の胎に漆を塗り重ねて、分厚い漆層を刃物で彫り、模様を浮き出したものです。赤漆を塗り重ねた物を堆朱、黒漆の物を堆黒と呼んでいます。いきなり分厚く塗ると強度に問題が出ます。物の本には、漆を50回、100回と塗り重ねるとあります。しかし、固まった純漆は非常に硬いので、細かい彫りは無理です。ですから、通常の堆朱では、穀物粉、木粉、珪藻土などの固形物や油を混ぜた漆を10回程度塗り重ねてあるようです。詳細はわかりません。
巷でよく目にするのは、真鍮や銅の器胎の上に塗った漆を彫った品です。漆の親和性は木にあるわけですから、木胎でない品は現代物と考えて良いでしょう。また、色調も重要です。朱漆の色合いがどぎついもの、明るすぎるものは現代の工芸品です。年月を経た品は、朱色に深みがあります。
もう一つ厄介な品があります。木胎でも金属胎でもなく、内部まで全部堆朱(のように見える)の品です。おそらく、樹脂や木粉などを樹脂で固めた物で出来ていて、精巧な型を用いて作られたと思われます。いわゆる名品のコピーに多くあります。長い時代を経て生じるき裂や断紋さえ、見事に再現しています。壊れた品物を一度見たことがあります。割れ口を見ると、内部は黒の樹脂、もちろん、塗り重ねた形跡はありませんでした。例の水に浮くか沈むかで見分けられますが、店頭の品を水没させるわけにもいきません(^^; まあ、名品が我々の手の範囲にあるはずがない、という厳然たる事実を胆に銘じておくほかはありません(^.^)
さて、今回の堆朱です。
口元を補修しています。大きな花瓶ですから、倒れた時に縁が欠けたのでしょう。少なくとも、金属胎ではありません。
口元内側は黒漆で塗られていますが、その下方には木肌がのぞいています。ざっくりと粗い削りです。
この大花瓶は、木を刳り貫いて作られていることがわかります。
漆を削った断面を見てみます。
平行に何本も筋が走っています。漆を塗った層です。8本ほどあります。漆は、10回ほど塗り重ねられているようです。
地には細かい模様がビッシリと彫られています。
こんな彫りがよくできるものだと感心します。実は、先ほどの見分けるのが困難な樹脂製型物堆朱の場合、このような地紋の中に、小さな丸い玉がポツポツと見えることが多いのです。こんな玉は、鑿で漆を掘り進む場合には、絶対に生じることはありません。おそらく樹脂が冷える時にできるのでしょう。
ということで、今回の品はとびきりの名品ではありませんが、ボツにする駄品でもない。まあ、分相応の堆朱として、部屋の片隅に置いてあります。
こんなに大きな堆朱は見たことがありません。
堆朱については、漠然と見ているだけでしたので、堆朱というものは、すべて、何十回、何百回と漆を塗り重ねて作ったものだと思っていました(~_~;)
大変に勉強になりました(^-^*)
一概に堆朱といっても、いろいろとあることが分りました(^_^)
確かに、これだけの大きさと繊細な彫りが施されていれば、それなりのものであることに納得です。
あの~、上の説明の「漆を削った断面」を示す写真の中には「平行に何本も筋が走っています」と書かれていますが、その写真の中で、どのように筋が平行に走っっているのでしょうか、、?
でもそれでは硬すぎて彫れません。何よりも、分厚く塗ろうとすると、手間がかかるだけでなく、莫大な量の漆が要りますから、すごいお値段になってしまいます。漆層を柔らにするためだけでなく、増量の意味もあって、混ぜ物をした漆を塗っているのだと思います。
それにしても、よくこんな彫りができるものですね。ちょっとでも失敗したらもう終りですから(^^;
写真ではわかり難いですね。崖に見られる層のような感じです。青線で、目安となる印を入れました。