ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

報道: 福島県立医大医師会の声明

2006年03月17日 | 報道記事

朝日新聞

県立病院 産婦人科医師逮捕・起訴
2006年03月17日

 「事例、治療難度高い」―産科婦人科学会

 県立大野病院に務める産婦人科医、加藤克彦被告(38)の逮捕・起訴=業務上過失致死と医師法違反の罪=に対し、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は16日、厚生労働省で記者会見を開いた。同学会の岡井崇常務理事は「癒着胎盤という今回の事例では、治療の難度が高い。医師の力が及ばなかったことに対して、刑事責任を問うのはどうか」と疑問を投げかけた。

 また、岡井常務理事は会見で、加藤被告が行った手術について「これが『過誤』というなら、すべて医療過誤になってしまう」と述べ、不当な医療行為とは考えていないという見解を示した。

 警察に異状死を届け出ることを義務づけた医師法について、同学会の稲葉憲之常務理事は「異状死の基準をどうすべきか議論すべきだと思う」と述べた。

 また、東京女子医大病院で医療事故などにあったとする患者やその家族でつくる被害者連絡会は、この日、加藤被告の逮捕・起訴を受け、厚生労働相に対し、「医療(過誤)が起きた際の行政処分の基準を明確にして、省内に調査委員会を設けてほしい」とする要望書を提出した。

 「1人責任、不当解釈」―県立医大医師会

 県立医大医師会(山本悌司会長)は16日、加藤克彦被告の逮捕・起訴に対し、「現在の社会が抱える医療の問題を、地域医療に献身してきた一人の医師の責任ととらえる検察の不当な解釈に抗議する」などとする声明を発表した。

 同医師会の会員は189人。加藤被告の起訴を受け、14日に開かれた総会で、会員の意見を声明として集約し、議決したという。

 声明は、県の事故調査報告書が県内の医師3人によって作られたことについて、「専門家の意見をもっと広く求め、その内容、判断ともに、より詳細に検証する必要を感じる」などとした。

 また、医師法の「異状死」について、あいまいな解釈が医療現場を混乱させているとして、「医学会と司法当局の両者は『異状死』を医療上避けられない『合併症による死』と明瞭(めいりょう)に区別する基準を提示していただきたい」と訴えた。

(朝日新聞・福島)

***** Yahoo!ニュース-毎日新聞、福島ニュース

大野病院医療ミス:医師起訴に抗議 県立医大医師会が声明 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届出義務)違反の罪で同院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)が起訴されたことを受け、県立医大医師会(山本悌司会長)は16日、逮捕、起訴に抗議する声明を発表した。
 同会は声明で、「現在の社会が抱える医療の問題を、地域医療に献身してきた一人の医師の責任ととらえるのは不当」と批判。そのうえで、▽癒着胎盤を予見できたとの前提で、判断を誤ったとする解釈は臨床医学的に同意できない▽医学的に起こりうる合併症での死亡で、異状死とは認められず、届出の必要がなかったと判断できる――などと指摘している。
 また、医師法21条の異状死の解釈があいまいにもかかわらず届け出義務違反で逮捕、起訴したのは医療現場の混乱を引き起こすとし、異状死と医療上避けられない合併症による死を明りょうに区別する基準の提示を、医学会と司法当局に求めた。【松本惇】

3月17日朝刊

(毎日新聞) - 3月17日13時2分更新


日本産科婦人科学会と日本婦人科医会の合同記者会見(報道)

2006年03月16日 | 報道記事

****NHKオンライン

“医師の起訴は疑問”と学会

福島県立大野病院では、産婦人科の医師が帝王切開の際の手術ミスで女性を死亡させたとして、今月10日、業務上過失致死などの罪で起訴されました。これについて全国の産婦 人科の医師で作る「日本産科婦人科学会」と「日本産婦人科医会」が16日、東京で記者会見し、異例の声明を出しました。

会見で日本産科婦人科学会の稲葉憲之常務理事らは、 「女性は、胎盤が子宮に付いてはがれにくくなるという最も難しい事例で、高い医療技術を備えた施設でも対応はきわめて困難だった」と強調しました。

そのうえで、起訴された 医師が1人で産婦人科を担当していた実態に触れ、「今回の問題は全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制に深く根ざしており、医師個人の責任を追及するのは疑問だ」と 述べました。

厚生労働省によりますと、産婦人科の医師は年々少なくなり、全国的に深刻な状況が続いていて、産婦人科を休診する病院が相次ぐなど各地で問題になっています。

03/16 22:24

****Yahoo!ニュース JNN(TBS系)

「医師逮捕は不当」と2学会が会見

 福島県の県立病院で帝王切開手術中に患者が死亡し、担当医師が業務上過失致死などの罪で逮捕・起訴された問題で、日本産科婦人科学会など2つの学会が「最も難しい症例であり、ミスではない」として、改めて医師逮捕は不当であると訴えました。

 「(今回の件は)診断そのものが難しいし、その程度がどうであるかということを正しく事前に判定することも難しい。ですから、癒着胎盤は産科の中で最も難しい病気のひとつになっている」(日本産科婦人科学会・岡井崇常務理事)

 会見を開いたのは、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会の2つの学会です。会見で、今回のケースについて「癒着胎盤という診断も対応も難しい症例で、医師が誠意をもって医療を行ったが力が及ばなかった。過失や故意はなく、逮捕・起訴するなど刑事責任を追及するのはおかしい」と改めて訴えました。

 この事件では、担当医師は無理に胎盤を剥離して輸血の対応が遅れた上、「異状死」として届出を怠ったとして、業務上過失致死と医師法違反で逮捕・起訴されています。

(16日18:12)

************ 毎日新聞

日産婦:帝王切開中の死亡 医師を起訴に反論

 福島県立大野病院(同県大熊町)で帝王切開手術中に患者が死亡し産婦人科医、加藤克彦被告(38)が業務上過失致死と医師法違反の罪で逮捕・起訴された事件を受け、日本産科婦人科学会(日産婦)と日本産婦人科医会は16日、厚生労働省で会見し「加藤医師に過失や故意はなく、刑事罰に問うのは不当」と主張した。

 常務理事の岡井崇・昭和大教授は「産科特有の極めて困難な事例であり、胎盤をはがしたことは過失に当たるとは言えない」と指摘。「検察側は輸血の対策を怠ったというが、輸血用血液は1、2日しか持たず、大量に発注して使わなければ無駄になる。血液が不足する中、万が一のためにそこまでの対策は考えない。今回の手術は応援の医師がいたとしても難しいケース」と分析した。

 日産婦によると、患者の死につながった癒着胎盤による大量出血は1万例に数例程度の低い確率である上、実際に胎盤をはがすまで大量出血が起きるかどうかの判断は難しいという。

 この事件では、福島県は昨年3月、(1)癒着胎盤の無理なはく離(2)対応する医師の不足(3)輸血の遅れ--のミスがあったとする最終報告書をまとめている。【山本建】

毎日新聞 2006年3月16日 19時55分

************ 共同通信

難しい症例で逮捕は不当 関係学会が会見で訴え

 福島県立大野病院で帝王切開を受けた女性が死亡し、医師が逮捕、起訴された医療事故で、日本産科婦人科学会(武谷雄二理事長)と日本産婦人科医会(坂元正一会長)は16日、東京都内で合同記者会見を開き、「非常に難しい症例で、適切な処置が行われたとしても救命できないこともある」として「逮捕は不当」と訴えた。
 起訴状は、女性に胎盤の癒着で大量出血の可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったのに医師がこれを怠った、としている。

(共同通信) - 3月16日19時59分更新


報告書 結論ありき

2006年03月16日 | 報道記事

****** 私見

今日の朝日新聞の記事から、『事故報告書はご遺族に補償する目的で作成されたもので、結論は最初から決まっていた。これを県病院局側も認めている。』という疑惑が浮かび上がってきました。朝日新聞が記事にしてインターネット上に配信した以上は、記者が単なる想像で書いているのではなく、多くの関係者の取材からそのような証言が得られたということだと考えます。

(以下、3/16の朝日新聞の記事より引用)

報告書 結論ありき

 県立医大・産婦人科講座の佐藤章教授は、医局のまな弟子、K医師(38)の突然の逮捕に驚き、憤慨した。

 全国の医師から、メールや電話が大学側に殺到した。「仲間を見殺しにするのか」。インターネットの掲示板に名指しで批判が書き込まれた。何か行動を起こそうと思ったが、弁護士から「警察を刺激する。K医師のためにならない」といさめられた。

 ネットで署名活動を始めたのは、K医師の勾留期限が目前に迫った今月9日だった。

 東京大学医科学研究所の知人たちが、佐藤教授の名で呼びかけのホームページを立ち上げた。開設から数時間でアクセスは約2千人に達した。大半が医師だった。

 14日午前6時現在、署名は6220人。医療関係者に混じって「K先生にお産でお世話になった」という地元の人もいる。

 「医療現場の事故は個人の責任ではなく、システムの問題」として、近く厚生労働相や国家公安委員会などに、署名を添えて陳情書を出すつもりだ。

予想外の逮捕

 県病院局が、05年1月に事故調査委員会を設置したのは、「原因を調べて再発防止に役立てるため」(秋山時夫局長)だった。2カ月後に公表した報告書は、「無理に胎盤をはがした」点などについて医療過誤を認めた。

 だが、佐藤教授は「報告書は、始めから結論ありきだったのでは」と指摘する。

 「『過誤がない』という結論では、遺族に補償ができないから困る。そういった示唆が、県側からあった」と、調査にかかわった複数の関係者が声を上げているからだ。

 報告書をまとめる際に遺族との交渉が念頭にあったことを、県病院局側も認める。ただ、その当時、加藤医師が逮捕されるとは思っていなかったという。

 その報告書が、当初の目的を果たしているとも言えない。

 県病院局は、県立病院長の会合で報告書を配布し、注意を促した。しかし、各病院で何がどのように改善されたのか、把握していない。

 手術時の人員や血液などの準備、そして危険な患者への対応……。実態は今も執刀医の判断に委ねられ、何かあれば医局の人脈に頼る「医局まかせ」(県立病院の医師)が続いているという。

 県病院局は「医師が足りない。コマがなければ、(改善は)難しい」とする。

 産婦人科医は確かに減っている。約10年前、県立医大の医局に産婦人科医が30人以上いた。現在は20人を割る。うち十数人は出張先の地方病院や医大でそれぞれ月10回前後の宿直をこなす激務が続く。

 ある産婦人科医は「産婦人科医が減るから仕事が忙しくなり、それを見た若い医師が、また産婦人科を敬遠する」とため息をつく。

 今回の事件で、さらに産婦人科医の志望者は減る、と関係者は危機感を募らせる。

 だが、ある捜査関係者は「地域医療の問題と事件を結びつけるべきではない。必要があったから逮捕した。医師を特別扱いするつもりはない」とする。捜査当局では、県が改善策をまとめていないことも問題視しているという。

(以上で引用終わり)


福岡県産婦人科医会・日本産科婦人科学会福岡地方部会の抗議声明

2006年03月15日 | 大野病院事件
        抗議声明
福島県立大野病院産婦人科医師逮捕に抗議する

 はじめに、今回、この医療事故で亡くなられた患者様ならびにご遺族の方々に対し、心より哀悼の意を表します。
      
 平成18年2月18日福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦先生が逮捕・勾留され、3月10日に起訴されました。容疑は、平成16年12月前置胎盤で帝王切開術中、出血多量で死亡した件と、医師法21条による異状死体等の届出を警察にしなかったためとのことです。
  
[業務上過失致死容疑について]
 癒着胎盤を『予見できた』との当局の判断は、産科の専門医の考えに照らしてみて妥当とは思えません。何故、あえて刑事罰が科せられるか理由が見当たりません。医療上不可避なことまで刑事責任を問われるなら、医師は医療行為そのものが出来なくなってしまいます。

[医師法21条違反について]
 本件のような部分前置胎盤に合併した癒着胎盤による出血死は臨床的に『異状死』とみなさず、当然警察への届出義務違反には当たらないと考えます。

[逮捕・勾留について]
 私達は、現在医療過誤を巡り、関係者全員が納得出来る医療システムを国民・医療者・行政と共に作り上げようと最大の努力を払っております。そのような時に、今回のような逮捕・勾留・起訴は周産期医療のみならず、いたずらにすべての医療現場を混乱させ、さらには日本国民がよりよい医療を享受する機会を損ねる結果となり、国益に反する行為に他なりません。
 このような事態を避けるためにも、今回の逮捕・勾留・起訴に強く抗議します。

          平成18年3月15日

                福岡県産婦人科医会
                    会長  福嶋 恒彦
        日本産科婦人科学会福岡地方部会
                   会長  瓦林 達比古

大分県産婦人科医会・日本産科婦人科学会大分地方部会の抗議声明

2006年03月15日 | 大野病院事件
          抗議声明

福島県立大野病院産婦人科医師の不当逮捕に抗議する

はじめに、今回亡くなられた患者犠とそのご遺族に対し、心より哀悼の意を表します。

 平成18年2周18日福島県立大野病院産婦人科医師加藤克彦氏が、業務上過失致死及び医師法違反の容疑で逮捕・勾留され、 3月10日起訴されました。
 大分県産婦人科医会と日本産科婦人科学会大分地方部会は、検察及び福島県警の不当逮捕・勾留に強く抗議すると共に、直ちに加藤克彦医師を釈放することを求めます。

〔業務よ過失致死容疑について〕
 本件の業務上過失致死容疑の理由は、術前診断が極めて困難な、現代の医療水準をもってしても完全に予見できない癒着胎盤を、『予見できたはず』との誤った前提に基づいており、到底認めることはできないものです。また、癒着胎盤による出血が多量となった後の対応措置についても、その状況下における最善の治療を施しており、結果的に不幸な転帰をたどった事をもって、診療上一定の確率で起 こり得る不可避なできごとにまで刑事責任を問われ、逮捕・勾留・起訴されるのであれば、医師は何の治療もできなくなってしまいます。

〔医師法違反-「異常死 」 の届出について〕
 臨床の立場から、『異常死』とは診療行為の合併症としては合理的に説明できない『予期しない死亡』であり、予期される死亡は『異常死』には含まれないと考えます。本件は癒着胎盤による出血であり、当然『異常死』ではありません。また、届出については、県立大野病院の『医療事故防止のための安全管理マニュアル』に従って、 病院長へ報告しており、届出義務違反にも当たりません。

〔不当逮捕・勾留〕
 平成 17 年 3 月に県立大野病院事故調査委員会が事故調査を行い、報告書を作成し、行政処分が行われ、同年 4 月には県警が提査・証拠書類の押収を行っています。さらに加藤医師は、その後も大野病院唯一人の産婦人科医師として、献身的に勤務し続け、逮捕当日も診療中でありました。 この様な状況下にあるにも拘らず、 「証拠隠滅及び逃亡の恐れがある。」として、逮捕・勾留が行われたことは、県警・検察の強権的暴挙と言わざるを得ません。
 産婦人科医師不足の中、過酷な勤務条件のもとに医師の使命感を唯一の支えとして、診療に従 事している多くの産婦人科医師にとって、今回の逮捕・勾留・起訴は到底容認できるものではあり ません。 予測不可能、或いは医師がその置かれた状況下で、現在の医療レベルの処置を施しても不幸な 転帰となった場合に、これが業務上過失致死として逮捕・勾留されるのであれば、その様な職業に誰が進んで身を投ずることができましょうか。日本の周産期医療の崩壊にも繋がる今回の事件は、極めて重大であります。

改めて、今回の不当逮捕・勾留・起訴に強く抗議します。

                平成 18 年 3 月 13 日

             大分県産婦人科医会
                  会長 松岡幸一郎
     日本産科婦人科学会大分地方部会
                     会長 楢原久司


朝日新聞記事(福島) 医師逮捕・詳細(上・中)

2006年03月15日 | 報道記事

朝日新聞の記事
医師逮捕・詳報(上)~声なき子宮の訴え~
2006年03月14日

 大熊医師逮捕・詳報(上)~声なき子宮の訴え~町にある県立大野病院の産婦人科医、加藤克彦医師(38)=業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴=が帝王切開手術で「医療ミス」を起こし、女性(当時29)が死亡した――。

 (遺体なき捜査) 

 県警がこの事実を知ったのは05年3月。県が公表した事故調査報告書についての報道からだった。報告書は、死亡した女性が、出産後に自然にはがれるはずの胎盤が子宮に癒着している「癒着胎盤」で、十分な輸血用血液を待たずに胎盤をはがそうとしたことに「はがすのをやめ、子宮摘出に進むべきだった」と指摘していた。

 県警は手術の状況を把握するため、捜査に着手した。病院を家宅捜索してカルテなどを入手した。しかし、手術からすでに4カ月が経過し、遺体がないため、司法解剖は出来なかった。

 「物証」の一つとなったのが、死亡した女性の子宮だった。県警は、保存されていた子宮やカルテの鑑定を専門家に依頼。鑑定の結果、子宮のどの部分に胎盤が癒着していたかが裏付けられ、子宮から胎盤を強引にはがしたことも分かった、とする。

 癒着胎盤にどう対応するか――。医学生向けの教科書(『STEP産婦人科(2)産科』可世木久幸監修、海馬書房)には、「まずは胎盤用手剥離(胎盤を手を使ってはぐこと)を行いますが、ここで無理をすると、大出血や子宮内反を招くので注意が必要です。胎盤用手剥離が難しい場合には、原則として単純子宮全摘術を行います」と記載される。

 県警は専門家から話を聴くなどして、多くの血管が密集する胎盤を無理やりはがすと、大量出血して母胎に危険が及ぶ可能性があり、通常なら、無理にはがすべきではないと結論づけた。

 「無理やりはがすこと自体が過失」と、捜査関係者は言う。

 県警によると、加藤医師は手術後、院長に「医療過誤はなかった」などと説明したという。「うそをついているのか、もしくは、医学的知識が不足していたのか。どちらかだろう」と、捜査関係者の一人はみている。

 (真っ向対立に)

 一方、弁護側は、加藤医師の行った一連の手術について「担当医として講ずべき処置を行ったもの。業務上過失致死罪に問われる過失はない」とする。

 逮捕について、捜査関係者の一人は「(加藤医師を)病院の関係者と遮断して話をする必要があった」と説明した。

 今月10日の起訴に際して、福島地検の片岡康夫次席検事も「罪証隠滅のおそれ」を挙げた。

 片岡次席は「遺体やビデオ、心電図が残されておらず、関係者の供述が不可欠な状況で、身柄を確保した上で話を聴く必要があった」とし、また、「海外を含めて逃亡のおそれがあった」とも付け加えた。

 「医療ミス」を知ってから逮捕まで約1年を要したことについて、片岡次席は「専門的な捜査で県警と地検が内容を理解するのに時間が必要だった」とした。

 捜査当局の主張に対して、弁護側は、(1)カルテなどの証拠物が押収されていて、廃棄や書類の偽造など罪証隠滅はあり得ない(2)発生から長時間が経過していて、証拠隠滅や口裏合わせをしているのであればすでにしている――などとして、真っ向から対立する姿勢を示している。

                     ◇

 医療関係者から批判が相次ぐ中で、捜査当局は、公判維持に自信をのぞかせる。約4時間半の手術で、いったい何が起きたのか。何が捜査で明らかになったのか。一人の命と引き換えに県と医療界は何を学んだのか。事件を検証した。
(この連載は、神庭亮介、斎藤智子、田中美穂、八木拓郎が担当します)

医師逮捕・詳報(中)~血液あふれ出てきた
2006年03月15日

 04年12月17日――県立大野病院で、女性(当時29)の帝王切開手術が午後2時26分に開始された。

 主治医の加藤克彦医師(38)のほか、麻酔科専門医と外科医、看護師4人が手術室にいた。

 女性は、手術前の検査で、子宮の口を胎盤が覆う「前置胎盤」と診断された。帝王切開手術しか選択肢はなく、第1子の出産時に続き、2度目の手術に臨んだ。

 手術は順調だった。11分後に無事、女の子が産まれた。捜査関係者によると、女性は、生まれたばかりの赤ちゃんを抱かされ、見つめたという。のちに、全身麻酔で意識を失った。

 「はがれない」

 その後――「事故」を調査した医師や関係者によると、加藤医師は手順通り、子宮収縮剤を注射し、胎盤を外しにかかった。だが、へその緒を引っ張ればつるりととれるはずの胎盤が外れなかった。子宮を手でマッサージしたが、変わらない。胎盤を手ではがし始めたが、途中ではがれなくなった。

 「ひっぱってもとれなかった」「血液があふれ出てきた」。加藤医師は逮捕後、そう関係者に話している。はがれないため、クーパー(手術用はさみ)の先を子宮と胎盤のすき間に入れ、空間を作るようにして、癒着胎盤をはがしたという。

 胎盤は、いわば血の塊だ。お産の際、胎盤がとれると子宮が収縮し、血管が縮んで血が止まる。通常のお産なら、「1千ミリリットルぐらい出血しても気にしない」と、複数の産婦人科医はいう。

 見えない手元

 だが、癒着胎盤の場合は別だ。癒着胎盤の手術を経験した産婦人科医は「血がどんどん吹き出して手元が見えない。どこから出ているのかもわからない」と話す。

 加藤医師は9年目の「中堅」(県病院局)だが、癒着胎盤は初めてだった。県の事故報告書によると、胎児をとり出してから胎盤摘出までの13分間に約5千ミリリットルの血が失われていた。

 準備した血液製剤5単位(1単位、200ミリリットル)はすべて輸血。午後3時15分に血液製剤2千ミリリットルを、いわき市にある赤十字血液センターに注文した。同3時35分には子宮摘出に向け、全身麻酔に移った。

 このころ、作山洋三院長が手術室に入り、加藤医師に、ほかの医師の応援を頼んではどうかと提案している。加藤医師の返事はなかったという。

 血液センターから、注文した血液製剤が届いたのは、午後4時30分。ただちに輸血。総出血量は1万2千ミリリットルに及んでいた。

 午後4時5分に追加注文した血液製剤も午後5時30分に届き、子宮を摘出した。ところが午後6時ごろから、女性の脈が弱まった。作山院長が再び手術室に入った時は蘇生の真っ最中だったという。午後7時1分、死亡が確認された。

 作山院長は、加藤医師と麻酔科医を呼び、手術の経過を聴いた。「異状死」なら、医師本人が24時間以内に警察に届けなくてはならない。県のマニュアルでは、院長に届け出義務があった。

 作山院長は、取材に対して「医師2人の話を聴き、医療過誤にあたらないと判断した。血管を切ってしまったり、臓器を傷めたり、そういうことが医療過誤と考えている」と答えた。

 家族はこの間、ずっと手術室前の廊下で待っていた。すべてが終わってから、加藤医師に、女性の死を告げられた。

 「結果論」の声

 医学書によると、帝王切開の回数が増えるほど前置胎盤での癒着胎盤の確率は増す。

 米国の臨床例では、前回の帝王切開の傷跡部分に胎盤が付着している場合、35歳以下で前置胎盤の妊婦のうち、6人に1人が癒着胎盤だった。

 加藤医師の手術前の診断では、女性は「前回の帝王切開の傷跡に胎盤が付着していない前置胎盤」とされた。子宮後壁に付着し、傷跡とは無関係の場合、癒着胎盤となっている確率は27人に1人に下がる。

 事故調査委員会は、カルテや超音波診断写真などから、加藤医師と同じ判断を下した。だが、県警は残された子宮を鑑定し、胎盤が前回の帝王切開の傷跡にかかっていたと結論づけ、福島地検は起訴状で加藤医師もそれを「認めていた」と指摘した。

 「手術前、かりに帝王切開の傷跡に胎盤が付着していたと診断していれば、血液の準備や医師の確保などで、もっと何とかなったのではないか」。そう指摘する医療関係者もいる。

 その一方、ある産婦人科医は「すべては結果論。現実にはわからなかった。これが臨床診療の限界です」と話した。


加藤先生、保釈のニュース

2006年03月15日 | 報道記事

福島民友新聞社
http://www.minyu.co.jp/morning/morning.html#morning3

執刀の産婦人科医保釈

 県立大野病院(大熊町)の産婦人科医による医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された医師の加藤克彦被告(38)=同町下野上字清水=は14日、保釈された。福島地裁は同日、加藤被告の保釈を決定。これに対し福島地検が同日中に決定を不服として準抗告したが、却下された。関係者によると、加藤被告の保釈金は500万円で、保釈の条件として病院関係者との接触や海外渡航の禁止などが盛り込まれているという。加藤被告の保釈をめぐっては、弁護団が13日に「逃亡や証拠隠滅の恐れがない」などとして福島地裁に保釈を申請していた。同被告は2月18日に富岡署に逮捕、3月10日に起訴されていた。

****************
毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/chihou/fukushima/

大野病院医療ミス:加藤医師の保釈認める--福島地裁 /福島

 県立大野病院(大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地裁は14日、業務上過失致死と医師法違反の罪で10日に起訴された同院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の保釈を認める決定を出した。これに対し、福島地検は、決定取り消しを求める準抗告を同地裁に申し立てたが、却下された。【松本惇】   (毎日新聞 2006年3月15日)


茨城県産婦人科医会、日本産科婦人科医会茨城地方部会、茨城県医師会の抗議文

2006年03月14日 | 大野病院事件

 抗議文

 平成18年3月10日

             茨城県産婦人科医会 会長 石渡  勇
     日本産科婦人科学会茨城地方部会 会長 吉川裕之
                                   茨城県医師会 会長 原中勝征

  
 先ずは、ご逝去された患者様とご家族ご親族の皆様に対し哀悼の意をささげたいと思います。
 さて、平成18年2月18日、福島県立大野病院産婦人科医師、加藤克彦氏(以下、医師)が業務上過失致死および医師法違反の被疑により逮捕、富岡警察署に勾留、3月10日福島地裁に起訴された件に関し、茨城県産婦人科医会(以下、医会)、日本産科婦人科学会茨城地方部会(以下、学会)、茨城県医師会(以下、医師会)は、誤った医学的判断および医師法解釈による不当な行為と考え、遺憾の意を表明すると共に抗議するものであります。

1. 医療上の過失の有無に関する意見

 国内外の論文をみても、前置胎盤症例は全分娩の0.5%に見られ、多くは帝王切開となる。この場合留意すべきものは癒着胎盤である。癒着胎盤を伴う前置胎盤の頻度は0.1%未満である。また、子宮全摘出が必要な癒着胎盤は全分娩の0.01%と考えられる。一般にこの頻度は経産回数、高年齢、帝王切開術等手術既往と相関するとされる。癒着胎盤症例でMRI検査によって事前に診断されるのは2.5%との報告もある。
 報告書(県立大野病院医療事故調査委員会;平成17年3月22日)をみると、本症例においては、前回帝王切開がなされているが、その創部と胎盤付着部位は離れており、前置胎盤症例の中で特別な危険因子が存在していたわけではない。また、超音波検査やMRIを用いて癒着胎盤を診断する試みは論文に出始めているものの、日常診療の中で標準的な取り扱いになる程、診断の信頼性は高くない。すなわち、これらの機器を用いた癒着胎盤の診断は医療水準となっていないと判断する。また、医師は超音波検査で前置胎盤と診断し、妊娠36週6日に、麻酔医、外科医、看護師4-5名のスタッフを確保し、輸血用血液を5単位用意するなど慎重な準備の下に手術を開始している。特に、本症例は胎盤剥離が極めて困難であったが、摘出された子宮・胎盤の病理組織診断では癒着胎盤(placenta accrete)であり、胎盤の剥離ができない嵌入胎盤(placenta increta)や穿通胎盤(placenta percreta)ではなかった。本症例は出血量速度とも極めて予想外のことであり、手技の問題ではなく、極めて特異的疾患によるもので避けがたいことと判断する。また、今回のように子宮を摘出せねばならないほど大出血になることは極めて稀であり、子宮の温存を強く希望する患者に対して、胎児娩出後、胎盤剥離を試みず直ちに子宮全摘を行うことを患者に説明することは困難である。胎盤剥離を試みて剥離困難かつ多量の出血があった場合、子宮全摘出を行うのが一般的である。
 本症例は、子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を予知することは困難であり、ここに過失は存在しないと判断する。

2. 患者・家族への説明義務違反について

 報告書には、手術中に大量出血が見られた時点、子宮摘出を判断した時点において家族に対する説明がなされていない、と記載されているが、救急救命に全力が傾注されている最中に説明をすることは不可能であり、本件において説明義務違反は存在しない。

3. 警察への届出について

 医師法21条(医師は、死体又は妊娠4ヶ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない)と規定されている。「異状死」の概念や定義には曖昧な点が多い。日本法医学会は「診療行為に関連した予期しない死亡、およびその疑いがあるもの」を「異状死」に含めるとした。一方、外科関連学会協議会は、診療行為の本質を考慮し、説明が十分になされた上で同意を得て行われた診療行為の結果として、予期された合併症に伴って患者の死亡・傷害が生じた場合については、診療中の傷病の一つの臨床経過であって、重大かつ明らかな医療過誤によって患者の死亡・傷害が生じた場合と同様に論じるべきではないとし、「何らかの重大な医療過誤の存在が強く疑われ、また何らかの医療過誤の存在が明らかであり、それらが患者の死亡の原因になった場合、所轄警察に届出を要する」としている。本件は、結果的には医学的に合併症として合理的に説明できる死亡であり、異状死とは認めがたい。また、子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を予知することは困難であり、過失は存在しない。また、説明義務違反の存在もなく、重大な医療過誤が存在するとは言いがたい。

4. 地域の医療事情

 県立大野病院は過疎地域にある中核的な総合病院であり、産婦人科医一人でも分娩・手術を実施しなければならないという事情があった。しかも、大出血をおこし子宮全摘出となる程の癒着した前置胎盤を事前に予知することが困難な症例を、施設の整った他病院へ紹介転送することは一般的ではない。

5. 社会的な影響

 警察当局の予期せぬ介入、医師の不当逮捕があれば、医療側は過剰診療・防衛医療、消極的医療(リスクが高い医療を拒否)にならざるを得ず、産科医療からの撤退、産科医の減少、分娩機関の減少に拍車をかけ、周産期医療は崩壊し、国民は分娩する場所を失い、国是とする少子化対策に暗い影を落すものである。事実、地元の福島民友新聞には“医師派遣をおこなっている福島県立医大は、医師逮捕の事態を受けて、「患者の命を守るためには1人態勢を改善すべき」として、県立大野病院と同様、産婦人科医が一人しかいない会津総合、三春の2県立病院への産婦人科医派遣を取り止める方針を固めた”と記述されている。この動きは全国に波及するものと思われる。行政には、患者にとっては安全・安心な医療が受けられるよう、また医師にとっても安全・安心な医療が提供できるよう、複数の医師を確保するなど、速やかな善処をお願いしたい。

 医会・学会、医師会は、ここに加藤医師の逮捕、起訴に対し強く抗議するとともに、加藤医師への全面的な支援を表明する。また、診療行為に関連した患者死亡の警察への届出、事故の真相解明、再発防止について協議する中立的専門機関を早急に創設されることを切に望む。


手術ミス?産婦人科医逮捕で波紋広がる

2006年03月14日 | 大野病院事件

************ 私見

日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会が共同で抗議声明を発表し、多くの産婦人科専門医達が異口同音に癒着胎盤の分娩前の診断は不可能で、大出血の予測は困難だったと主張しているというのに、手術前に病院側(専門外の院長?)が「大きな病院に患者を移すべきだ」などといちいち助言するなんてことが本当にありうるのだろうか?

手術前に1000ccの輸血の準備をしていたのに、輸血の準備をおこたった過失があるということであれば、これから帝王切開を実施するたびに、一体全体、輸血の準備をどれだけすれば過失を免れるというのだろうか?

警察や検察の言っていることは、全く理解に苦しむことばかりである。このような全く理解できない理不尽な理由によって、献身的に地域医療に取り組んできた医師を、凶悪な殺人犯と全く同様の扱いで逮捕するとは、前代未聞のはなはだしい人権侵害である。

****** 以下引用

TBS News-i HEADLINES

手術ミス?産婦人科医逮捕で波紋広がる

 福島県の産婦人科医が帝王切開の手術で女性を死亡させたとして逮捕・起訴されたことが大きな波紋を呼んでいます。事態は、日本産科婦人科学会などが逮捕を批判するまでに発展しています。

 先週10日、業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された産婦人科医の加藤克彦被告(38)。加藤被告はおととし、福島県立大野病院で出産のため、帝王切開した当時29歳の女性を手術のミスから死亡させたとされています。

 女性の胎盤は子宮の入り口に癒着するという極めてまれな状態にあり、警察と検察は、加藤被告がこうした胎盤を無理にはがしたことで大量出血したことが死亡の原因だとしました。

 今回のケースは、「治療の難易度が高く、対応が極めて困難。医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分がある」と日本産科婦人科学会が異例の抗議声明を出したほか、多くの医師が今回の逮捕・起訴を批判しています。

 「我々は輸血なんか用意しませんよ、普通の帝王切開では。この場合に1000ccの輸血を用意したこと自体がもうすでに予見はしてた訳ですよ。十分に。ただ(大量出血まで)見通せるかどうかは今の医療・医学では無理だった」(日本大学客員教授【産婦人科】 佐藤和雄氏)

 法律の専門家で医療過誤訴訟を専門とする弁護士も、逮捕したこと自体に否定的な見解を示しました。

 「報道で見る限りは、逮捕の必要性はほとんど感じられないですね。逃亡のおそれも罪証隠滅のおそれもほとんどないと言っていいと思いますね。刑事上の過失が明白な事案とは言い切れないと思いますね」(医療問題弁護団代表 鈴木利廣 弁護士)

 警察や検察は、加藤被告が、大きな病院へ患者を移すべきだという病院側の助言を聞かず、輸血の準備を怠ったなどの過失があると判断、逮捕については、証拠隠滅のおそれがあったと説明しています。(13日17:20)

(引用終了)


医師の拠点集約へ

2006年03月14日 | 大野病院事件

****** 私見

医師の点在化か?集約化か?は究極の選択である。

福島県では、今回の事件を契機に、拠点病院への医師集約化が一気に進む方向のようである。県庁内では、医師が各地に点在するより、拠点病院に集約した方が県民に良い医療を提供できるとの意見が大多数を占めるようになったとのことである。

確かに、医師を各地に点在させて高度なことは何もできないような状況下に追いやりながら、一方で、治療水準だけは日本最高レベルを要求して次々に医師の逮捕者を出していくような状況になってしまえば、地域医療が完全に崩壊してしまうことは明らかだ。

福島県と同様の条件下で地域医療に従事している全国の医師達の中にも、今回の事件を受けて、自分達の現在置かれている状況下ではもはや医療は継続できなくなったと感じている者が少なくないと思う。

(以上、私見)

(以下、3/13の毎日新聞の記事からの引用)

医師の拠点集約へ

議論、事件で一気に加速 県、矢継ぎ早の対策

 「逮捕は確かにアクセルになった。ブレーキを掛けられないくらいのうねりになり、正直、このまま突き進んで良いのかなと思う」。自らも小児科医で、県保健福祉部健康衛生領域の今野金裕総括参事は困惑気味だ。

 K医師の逮捕後、県庁内では、医師が各地に点在するより、拠点病院に集約した方が県民に良い医療を提供できるとの意見が大多数を占めるようになった。今野総括参事は「本来『究極の選択』であるはずの問題が、一気に振り子が振れた感がある」と話す。

 逮捕以降、県は矢継ぎ早に医師不足対策を打ち出している。来年度から県立医大に新たに助手20人を配置し、支援要請があった公的病院に派遣することを決め、今月1日には、県立医大医学部長の菊地臣一教授に、派遣の調整役となる「医師派遣調整監」を委嘱した。

 また、民間の病院で危険性の高い手術が行われる際には、これまでも行われていた県立病院からの医師派遣を、県として制度化できるかどうか検討に入った。いずれも県が見据える医師集約化の流れに沿う施策だ。

 さらに、県は市街地の医療機関をネットワーク化し、医師を相互に派遣し合う新システムを導入する方針も明らかにしている。これにはネットワークの外にある都市部以外の医療過疎を招く恐れもあり、医師が少なくなる自治体からの反発も予想される。いずれも今回の事故以前から議論されてきたものだ。それが一気に加速した。

 03年度の「県立病院事業改革委員会」と04年度の「県立病院改革審議会」で検討された結果、県は現在10カ所ある県立病院と診療所のうち4カ所を07年3月に廃止、2カ所を統合することに決めている。財政難対策の意味合いが強かった統廃合が、今回の事故を契機に加速しつつある医師の拠点集中化の流れに合致する形となった。

 ただ、今野総括参事のように「地方の切り捨てにならないようにしたい」と慎重派の県職員もおり、揺り戻しが起きる可能性はある。

 10日午前の2月定例県議会福祉公安委員会。橋本克也議員(自民)が「事件の内容について十分な情報がなく、県民が混乱している。あえて聞くが逮捕の必要性はあったのか」と県警幹部にただした。委員会で、捜査中の特定の事件について聞くのはあまり例がないという。荒木久光刑事部長は「総合的に判断して証拠隠滅の恐れがあった」と述べるにとどめた。

 橋本氏は「本来、事件は事件として処理し、医師確保の問題とは、切り離して考えなければいけない」としつつも「(福祉、治安の)両方を所管する委員として逮捕の理由を聞かなければいけないと思った」と異例の質問の理由を説明する。

 起訴を受け県病院協会は11日、「逮捕、起訴は地域医療に携わる医師ならびに安全で質の高い医療を求める地域住民に対して大きな混乱を招いた」との緊急声明を発表した。全国的にも医師側の反発は続く。こうした動きに捜査関係者は「公判が始まれば、今までの同情論がひっくり返る。それが過失の証明になる」と自信をのぞかせる。医学関係者と捜査当局が真っ向から対立する形となった今回の逮捕、起訴。波紋は広がるばかりだ。(坂本昌信)

(引用終わり)


医師法21条の解釈

2006年03月12日 | 大野病院事件

************ 私見

当院の病院管理部門職員に確認してみたが、今回と同様のケースの場合は、院長に報告しておけば、院長が警察に届け出るかどうかを判断することになっているので、担当医は届け出なくてもよいとの回答だった。

癒着胎盤の診断は、分娩以前には不可能である。分娩後に胎盤遺残を認め、胎盤娩出促進法を行っても胎盤剥離徴候が認められない場合には癒着胎盤が疑われる。確定診断は摘出子宮または胎盤の病理組織学的な検索によってのみ得られる。

臨床的に問題となる癒着胎盤はきわめてまれ(1万分娩につき1件以下の低頻度)で、癒着胎盤の経験のある産婦人科医の方がむしろ少ない。

麻酔科医の管理、外科医の助手、輸血準備1000mlでも、万一に備えた準備が不十分な違法手術であったということであれば、日本で行われている帝王切開はほとんどすべてが準備不十分の違法手術ということになってしまう。

産婦人科医が2人いて、輸血準備量が2000mlであったのなら適法だったということなのだろうか?その程度の準備では結果は全く同じだったろう。これからは、結果が悪ければ、万一に備えた準備が不十分と言われてすべて断罪されてしまうのだろうか?

また、胎盤の剥離が非常に困難な場合であっても、ほとんどの場合は強引に用手剥離すれば実際は子宮温存が可能な場合が多い。患者さんが子宮温存を望んでいる場合は、まず胎盤の剥離を試みるのが一般的だと思う。事故報告書の記載内容からは、今回の加藤医師の実施した処置は決して無謀なトライアルには当たらないと私は考える。今回の事例ように胎盤を剥離したとたんに大量出血となるケースは数万分娩に1件という非常にまれな頻度である。

私自身は今まで胎盤を剥離しないで子宮摘出を試みたことは一度もない。私の少ない経験でも、通常の胎盤用手剥離で全く剥離できなかった症例で、止むなく、強引に胎盤をばらばらに引きちぎって(「ちぎっては投げ、ちぎっては投げ」という要領で)胎盤を子宮壁から無理矢理むしり取って、子宮を温存したことが何度か記憶にある。(そのような子宮を温存できたケースでは、子宮摘出病理標本がないため本当に癒着胎盤だったかどうかの証拠が全くない。)

しかし、今後は、「経験上、99%以上の確率で子宮温存が可能であろう」と判断したとしても、へたに子宮温存を考えると万が一でも逮捕される可能性があるということになれば、胎盤剥離困難例では子宮温存は一切考えずにすぐに子宮を摘出する産科医が増えることは間違いないだろう。

************

(以下、3月12日付けの毎日新聞からの引用)

医師法21条の解釈

◇分かれる「異状死」の定義--「届け出」判断左右
 04年4月、最高裁判所で全国の医師が注目した裁判の判決が言い渡された。99年2月に起きた東京都立広尾病院での医療ミス隠し事件で、医師法21条(異状死体の届け出義務)違反などに問われた元院長に対し、被告側の上告を棄却した。
 医学界では、医師法21条が「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」と規定する憲法38条に違反しないか長く論議されてきた。最高裁は「公益上の高度の必要性に照らすと届け出義務を課すことは憲法に違反しない」と初めての判断を示した。
 県立大野病院の事故では、県が公表するまで県警には連絡がなかった。今回の事故は最高裁判決の8カ月後。重要な判断が示されたにもかかわらず、警察への届け出がなかったことが、逮捕のきっかけになったとみる医学関係者は多い。
   ◇   ◇
 ただ、医師法に定められる「異状死」の定義そのものの見解が分かれているのが現状だ。あらゆる診療行為に関連する予期しない死亡はすべて異状死とする法医学会に対し、外科系の学会は反発している。福島地検も法医学会の見解に沿う。届け出のための中立的な専門機関をつくろうという動きもある。
 一方、県病院局は学会でもばらつきのある異状死の定義にあえて踏み込まず、「医療過誤または、その疑いがある場合に施設長が届け出る」という立場だ。
   ◇   ◇
 医師が診療行為に絡み業務上過失致死容疑で逮捕されるのはきわめて異例だ。97年以降からデータをとっている警察庁によると、今回のケースを含め、01年3月の東京女子医科大学病院で起きた心臓手術、02年11月の東京慈恵会医科大学付属青戸病院で起きた前立腺がん摘出の腹腔(ふっくう)鏡手術の医療事故の3件に過ぎない。
 「今回(県立大野病院)の事件は『青戸』に似ている」と、県警幹部は指摘する。青戸病院の事故は、泌尿器科の医師3人が業務上過失致死容疑で逮捕された。千葉県の男性(当時60歳)に、前立腺摘出の腹腔鏡手術をした際、止血や輸血が不十分だったため、大量出血となり、1カ月後に死亡させた疑いが持たれた。
 当時、同病院でこの手術は初めてだった。逮捕された医師は調べに対し、「高度先進医療をやってみたかった。自分たちで研究して問題点を探したかった」と供述した。
 起訴された加藤克彦医師は癒着胎盤という症例の少ないケースの手術は初めてだった。ともに、経験のない症例の手術だった点では、共通点がある。ただ、加藤医師が難度の高い手術にあえて挑もうとしていたとは医療事故調査委員会の調査報告書や関係者の証言からはうかがえない。
 福島地検の片岡康夫次席検事は、手術について「一生懸命やっていたのは間違いない」としつつも「判断ミスがあった。手術には危険なものはいっぱいある。そういう手術をやるならやるで、万が一の備えをしなくてはならない」と指摘した。

(引用終わり)


今後、産科医療はどうなってしまうのだろうか?

2006年03月12日 | 地域周産期医療

人間が妊娠すれば、一定の確率で、母体死亡、子宮内胎児死亡、死産などが起こる可能性があります。どの病院でも、『妊娠管理した妊婦さん全員がすべて正常分娩で、すべての患者さんの満足度が100%』なんてことは絶対にあり得ません。医学が進歩し、昔と比べれば分娩もはるかに安全になりましたが、予測不能で、発症すれば、誰が主治医で、どの病院で管理していても、母体死亡となる可能性の高い産科疾患(羊水塞栓症、血栓性肺塞栓症、癒着胎盤の大出血、など)は未だに多く存在します。

人間誰しも、結婚して、妊娠して元気な子供を産んで、幸せに暮らしたいと願っています。母体死亡の危険を承知で妊娠する人なんていません。ですから、妊娠すれば「おめでとうございます」とみんなに祝福され、本人も家族もまさかそれが不幸のどん底の始まりになるかもしれないなんてことは全く考えていません。不幸にも分娩時に母体死亡となった時には、思い描いていた将来の幸福な家庭生活の夢が一瞬のうちに崩れ去り、不幸のどん底に突き落とされてしまいます。その現実を受け入れるのに時間がかかるのも止むを得ないことだと理解できます。怒りの感情の持って行き場が、一時的にでも、担当医に向いてしまうのも、人間の感情としては、止むを得ないことなのかもしれません。

どんな病院でもどうしても救えない命があります。必死で救命しようとして頑張りぬいた医師が、結果が悪ければ、通常の殺人事件と同様に殺人者として裁かれるということであれば、誰もそんな危険なギャンブルのような仕事に従事しようとは思いません。裁判ということになれば、無益な法廷闘争のために、莫大なエネルギーと時間を費やさねばなりません。弁護士や裁判官は、それがお仕事なので、いくらエネルギーや時間を費やしても全然惜しくはないと思いますが、医師にとってはそれは本来の仕事ではありません。そんなことのために無駄なエネルギーや時間を費やしたくありません。最終的に無罪を勝ち取ったとしても、最終的な判決がでるまでに10年以上かかってしまうようでは、それこそ人生台無しです。定年退職の年齢になってから無罪放免なんて言われても、人生やり直しはできませんから、もう手遅れでうれしくも何ともありません。

地域医療のために一生懸命に努力して、地域には多大な貢献をしてきたのに、たまたま極めてまれで治療困難な症例に遭遇して結果を出せなくて厳罰に処せられるとすれば、それは悲劇としか言いようがありません。

逮捕されるのも覚悟をして不十分な態勢で産科診療をやるなんてことはもはやこの国では到底考えられません。だとすれば、今後、どの程度、医師を集約化すればいいのでしょうか?理想を言えば、夜間でも最低2人は産科当直医がいて、当直回数も1週間に1回以下というような勤務体制ということになりますが、そこまで徹底的に産科医を集約化することになれば、地方によっては県内に1~2施設でしか分娩できないというような異常事態も十分にあり得ると思います。


福島県立医大:佐藤章教授のコメント

2006年03月11日 | 大野病院事件

****** 私見

実際の現場の状況がどうだったのかは全くわかりませんが、今回の佐藤教授のご意見が、癒着胎盤の大出血を経験した産婦人科医の普通のコメントだと思います。

私自身、前回帝王切開の前置胎盤例は今まで何度も数限りなく経験しましたが、胎盤剥離困難な例であっても、力ずくでむりやり胎盤をむしりとり、迅速に子宮の切開創を閉じ、子宮底を圧迫し子宮収縮を促進すれば、今までたいていの場合は子宮温存できました。

二十数年前に、胎盤用手剥離を開始したとたんに、すさまじい勢いの大出血が始まった癒着胎盤例の手術(帝王切開→子宮摘出、大量新鮮血輸血)にたまたま参加させてもらった経験があります。その症例では、手術中にたまたま大量の新鮮血を集めることができたので、運よくギリギリのところで母体を救命することができました。そういう症例は数万分娩に1件の非常にまれな発生頻度だと思います。ほとんどの産科医は一生涯一度も経験しないで済むと思いますが、万一、そういうケースに運悪く当たれば、どの病院であっても救命は難しいと思います。

(以下、3/11の毎日新聞の記事より引用)

「僕だって同じ判断を」 「教科書通り」の手術なし

 「手術が教科書通り進むことなんてない」。県立医大産婦人科学講座の佐藤章教授は力説した。起訴された加藤克彦医師は佐藤教授の弟子だ。

 04年12月17日の事故から1週間後。佐藤教授は加藤医師を大学に呼び、直接事情を聴いた。加藤医師は落ち込んだ様子だったが、手術の経過について冷静に答えたという。説明からは、逮捕されなければならないような重大な医療過誤とは思わなかったという。

 県の事故調査委員会は昨年3月、女性(当時29歳)の死因を「癒着胎盤の剥離(はくり)による出血性ショック」と結論づけた。報告書では、女性は胎盤が子宮内部の筋肉に強く付着する癒着胎盤だったため、加藤医師は胎盤を子宮から手ではがすことができず、手術用はさみで無理に剥離させたことが大量出血をまねいたとしている。医師不足で、医師の応援体制や輸血対応の遅れも要因として指摘した。

 報告書発表の際、調査委委員長の宗像正寛・県立三春病院診療部長(現院長)は「胎盤の剥離が難しい時点でやめていれば助かる可能性は高かった」と述べた。手術用はさみで胎盤をはがす方法も通常あり得ないとも指摘した。

 だが、佐藤教授の見方は異なる。手術用はさみで切ったのではなく、そぎ落としたもので、このケースで使用するのはありうるという考えだ。「手ではいで傷口の表面積が広くなるよりは合理的な決断とも言える」との見解も示した。

 報告書では、女性が20歳代と若く、子宮温存の希望があったため、摘出の判断の遅れが生じたと考えられるとされていたが、佐藤教授は「教科書的には、手ではがせなければ、子宮摘出に移るとされているが、摘出すれば、もう子供は産めなくなる。(子宮を)温存できるという判断が加藤にはあった。僕だって同じ判断をしたと思う。なぜこれが逮捕になるのか」と疑問を投げかける。

(引用終わり)


福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月11日)

2006年03月11日 | 報道記事

********* 読売新聞です

医師逮捕の波紋 (2006年3月11日~3月12日)

(上)医療ミスか難症例か

医療関係者「手術ができなくなる」 検察側「胎盤無理にはがした」

 「地域医療を守る努力を重ねてきた加藤医師の尊厳を踏みにじる異例の事態」――。いわき市医師会の石井正三会長は8日、相馬郡、双葉郡医師会長とともにいわき市内で会見を開き、3医師会の連名で逮捕に抗議する声明を読み上げた。県内の医師約1500人で構成される「県保険医協会」(伊藤弦(ゆずる)理事長)も県警に「(逃亡や証拠隠滅の恐れがなく)逮捕は人権を無視した不当なもの」とする異例の抗議文を送付した。

 県立大野病院で唯一の産婦人科医として年間約200件のお産を扱ってきた加藤容疑者の逮捕後、県内外の医師や関係団体が次々と反発する声を上げている。

 神奈川県産科婦人科医会は「暴挙に対して強く抗議する」との声明を出し、産婦人科医を中心に県内外の医師19人が発起人となった「加藤医師を支援するグループ」は10日現在、全国の医師約800人の賛同を得て、逮捕に抗議するとともに募金活動を行っている。

 こうした医師らの反応の背景には、医師不足による産婦人科医1人体制や緊急時の血液確保に時間を要する環境など、事故の要因として医師個人だけの責任に帰すべきではないと考えられる問題が指摘されている事情がある。また、子宮と胎盤が癒着する今回の症例は2万人に1人程度とされ、治療の難易度も高いことも「下手すると捕まると思うと、手術ができなくなる」(浜通りの産婦人科医)との心情を引き起こしているようだ。

 一方、事故調査委員会が「癒着胎盤の無理なはく離」を事故の要因の一つとし、医療ミスと認定しているのは明白な事実。「医療事故情報センター」(名古屋市)理事長の柴田義朗弁護士は「あまり情報がないまま、医者の逮捕はけしからんという意識に基づく行動という気はする」と指摘する。

 片岡康夫・福島地検次席検事は10日、逮捕や起訴の理由について説明し、「はがせない胎盤を無理にはがして大量出血した」とした上で、「いちかばちかでやってもらっては困る。加藤医師の判断ミス」と明言。手術前の準備についても「大量出血した場合の(血液の)準備もなされていなかった」と指摘した。

 加藤容疑者の弁護人によると、加藤容疑者は調べに対して「最善を尽くした」と供述し、自己の過失について否認している。公判では、過失の有無について弁護士8人による弁護団と捜査当局の主張が真っ向から対立すると見られる。判決の内容次第では、医師の産婦人科離れに拍車がかかる可能性もはらんでおり、全国の医療関係者がその行方を見守っている。

(読売新聞 3月11日)

********* 朝日新聞記事

産科医起訴/適切な処置とらず
2006年03月11日

 福島地検は10日、帝王切開の手術ミスで女性(当時29)を死亡させ、異状死を警察署に届けなかったとして、業務上過失致死と医師法違反の罪で、県立大野病院の医師、加藤克彦容疑者(38)を福島地裁に起訴した。加藤容疑者は容疑を否認している。

 起訴状によると、手術前の検査で、加藤容疑者は「前回の帝王切開の傷跡に胎盤が付着していると認識していた」とされる。県の事故調査報告書では、帝王切開の傷とは無関係の子宮の後壁に胎盤が付着しているとしていた。帝王切開の傷の部分に付着した場合、子宮の後壁に付着した場合に比べて、癒着胎盤の確率が高まるとされる。

 また、起訴状では、手術中、胎児を取り出した後、手で子宮から胎盤をはがそうとして癒着胎盤と認識した。剥離(はくり)を続ければ大量出血するおそれがあったにもかかわらず、子宮摘出などの適切な処置をとらず、クーパー(手術用ハサミ)で癒着部分を剥離し、女性を失血死させたとされることが業務上過失致死罪にあたるとした。

 福島地検の片岡康夫次席検事は、「術前で『付着』に気づいた時点で罪に問うているわけではない。手術中、手ではがれなかった時点で子宮摘出に移行すべきだった」とする。

 医師法違反の罪について、片岡次席は「大量出血すべきでない状況で大量出血しており、過誤に関係なく、異状死と認識できる」とした。「異状死」について定まった定義はないが、「判例や実務でとらえられている通常の法律解釈に基づいて異状死と判断した」と述べた。

 医療過誤事件としては異例の逮捕に踏み切った理由について、片岡次席は「遺体やビデオなどがなく、関係者の協力が不可欠な状況で、真実を見極めるため、身柄を確保した上で話を聞く必要があった」とした。

 同地検は、福島地裁に対し、加藤容疑者の勾留(こうりゅう)継続を請求している。

 癒着胎盤

 分娩後に自然とはがれる胎盤が、子宮の壁にくっつき、はがれにくくなる疾病。癒着の度合いは様々で、単なる付着から子宮の筋層に深く細胞が侵入しているケースまである。事前の検査では、癒着の有無を確実に診断するのは難しいという。

 通常、発生率は2万人に1人。しかし、帝王切開や人工中絶の前歴があると、さらに確率は高まる。胎児が子宮から出る口をふさいだ形で胎盤ができる「前置胎盤」が、帝王切開の傷跡の残る「子宮前壁」に付着した場合、確率は20%以上になる。

 事故調査報告書では、調査の結果として、帝王切開の傷跡とは関係のない「子宮後壁に付いた前置胎盤だった」と指摘しており、「このため加藤容疑者は癒着の可能性は低いと考えていた」と分析していた。

全国の医師795人抗議声明
2006年03月11日

 全国の産婦人科や新生児科、小児科などの医師795人が10日、「加藤医師の逮捕・起訴に強く抗議する」とする声明文を連名で発表した。

 名前を連ねるのは、県立や国立の病院、厚生病院、クリニックなどで働く医師で、診療科目は様々。声明文では「診療上ある一定の確率で起こり得る不可避なできごとにまで責任を問われ、逮捕、起訴されるようであれば、もはや医師は危険性を伴う手術など積極的な治療を行うことは不可能」と指摘し、警察や司法に「適切な医学的考察にのっとった判断」を求めている。

 発起人の1人で全員の肩書や所属を確認した東京都杉並区の産婦人科医師、大野明子さんは「今回の事故への立場や意見はさまざまだが、『逮捕は不当だ』という点では一致している。加藤医師とは何の利害関係もないが、だれかが声をあげなければと思った」と話している。

(朝日新聞 3月11日)

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加藤医師を支援するグループの抗議声明
http://medj.net/drkato/index.shtml

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福島産科医師不当逮捕に対し陳情書を提出するホームページ
http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/index.htm


福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月10日)

2006年03月10日 | 報道記事

************* 私見

癒着胎盤の術前診断は不可能で、治療難度が最も高い産科疾患であり、対応が極めて困難であることは、多くの産婦人科専門医達が一致して主張しているところである。今回の症例は、たとえ高次医療機関であったとしても救命できたかどうかわからないと考えている。多くの専門医達が口をそろえて同様の主張をしているのに、なんで医学には全くの素人である地検検事が、「大量出血は予見できたはずで、予見する義務があった。判断ミスだった」などと断言できるのだろうか。

現時点では、癒着胎盤の術前診断が不可能である以上、今後、(少なくとも福島県では、)産科業務を継続することはあまりに危険すぎる。不可能なことを要求され、理不尽な逮捕が堂々とまかり通るようなところでは産科は消滅するしかない。

加藤医師不当逮捕・起訴の暴挙に対し厳重に抗議すると共に、微力ながら加藤医師への全面的な支援を表明する。

********** 読売新聞

帝王切開手術中に死亡、福島県の産婦人科医を起訴

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に同県内の女性(当時29歳)が出血性ショックで死亡した事故で、福島地検は10日、手術を執刀した産婦人科医師の加藤克彦容疑者(38)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪で福島地裁に起訴した。

 起訴状によると、加藤容疑者は、事前の検査で胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出などを行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたとされる。さらに、医師法で定められた24時間以内の警察への届け出をしなかったとされる。

 この事件を巡っては、医師や関係団体が加藤容疑者の逮捕に抗議する動きを見せている。同県内の開業医らで構成する「福島県保険医協会」は3日、「(逃走や証拠隠滅の恐れはなく)逮捕は人権を無視した不当なもの」とする異例の抗議文を県警に送付。日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会なども抗議声明を出している。

 一方、同地検の片岡康夫次席検事は10日、「罪証隠滅の恐れがあり逮捕した。血管が密集しているところを無理にはがした。大量出血は予見できたはずで、予見する義務があった。判断ミスだった」と起訴した理由を説明した。医師法違反罪については「通常の法解釈をした。大量出血しており、異状死にあたる」とした。

(読売新聞) - 3月10日20時39分更新

********** 毎日新聞

帝王切開医療事故:産婦人科医を起訴 福島地検 

 福島県立大野病院(同県大熊町)で04年12月、帝王切開手術中の女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、福島地検は10日、同院の産婦人科医、加藤克彦容疑者(38)を業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪で福島地裁に起訴した。

 起訴状によると、加藤被告は04年12月17日午後に帝王切開手術中、女性が胎盤をはがせば大量出血の恐れがある「癒着胎盤」と知りながら、子宮摘出手術などに移行せず、手術用はさみで胎盤をはがし、失血死させた。加藤医師は関係者に「こんなに出血があるとは思わなかった。医師として最善の努力をした」などと話しているという。【坂本昌信】

 ◇産科婦人科学会などが声明

 起訴を受け、日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は連名で「本件は癒着胎盤という治療の難度が最も高い事例。全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない」との声明を発表した。
(毎日新聞) - 3月10日 21時36分更新

********** 共同通信

帝王切開の執刀医を起訴 福島県立病院医療事故で

 福島県大熊町の福島県立大野病院で2004年、帝王切開した女性=当時(29)=が死亡した医療事故で、福島地検は10日、業務上過失致死と医師法違反の罪で、執刀した医師加藤克彦容疑者(38)=同県大熊町=を起訴した。
 起訴状などによると、加藤被告は04年12月17日、帝王切開の手術を執刀した際、胎盤の癒着で大量出血する可能性があり、生命の危険を未然に回避する必要があったにもかかわらず、癒着した胎盤を漫然とはがし大量出血で福島県楢葉町の女性を死亡させた。また女性の死体検案を24時間以内に警察署に届けなかった。
 日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会は、加藤被告の起訴について「術前診断が難しく、治療の難度が最も高い事例で対応が極めて困難。産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に根差しており、医師個人の責任を追及するにはそぐわない部分がある」との声明を発表。

(共同通信) - 3月10日21時43分更新

福島産科医師不当逮捕に対し陳情書を提出するホームページ
http://www006.upp.so-net.ne.jp/drkato/index.htm