ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の抗議声明

2006年03月10日 | 大野病院事件

 声明

福島県の県立病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が、平成18年3月10日、業務上過失致死および医師法違反で起訴された件に関して、コメントいたします。

はじめに、本件の手術で亡くなられた方、および遺族の方々に謹んで哀悼の意を表します。

このたび、日本産科婦人科学会の専門医によって行われた医療行為について、個人が刑事責任を問われるに至ったことはきわめて残念であります。
本件は、癒着胎盤という、術前診断がきわめて難しく、治療の難度が最も高い事例であり、高次医療施設においても対応がきわめて困難であります。
また本件は、全国的な産婦人科医不足という現在の医療体制の問題点に深く根ざしており、献身的に、過重な負担に耐えてきた医師個人の責任を追求するにはそぐわない部分があります。

したがって両会の社会的使命により、われわれは本件を座視することはできません。

平成18年3月10日

 社団法人 日本産科婦人科学会
 理事長 武谷 雄二

 社団法人 日本産婦人科医会
 会長 坂元 正一


朝日新聞記事(福島)

2006年03月10日 | 報道記事

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県立病院医師逮捕/応援の提案応ぜず
2006年03月10日

 県立大野病院で04年12月、帝王切開手術ミスで女性(当時29)を死亡させたとして同病院の産婦人科医、加藤克彦容疑者(38)が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕された事件で、女性が大量出血した後、院長が加藤容疑者に対し、ほかの医師への応援要請の提案をしたが応じなかったことが、県警の調べでわかった。県警は、加藤容疑者が提案に応じなかったことが、医療過誤が起きた原因の一つとみて調べている。福島地検は拘留満期日の11日までに起訴する方針だ。

 医療関係者が05年3月に公表した事故報告書によると、04年12月17日午後2時過ぎ、手術が始まった際、手術室には加藤容疑者と、外科医1人、麻酔科専門医1人、数人の看護師がいた。その後の県警の調べで、作山洋三院長も、同日午後3時15分に輸血用血液を、いわき市の血液センターに発注した後に、手術室に入ったことも分かった。

 県警は、手術時の様子を捜査するため、複数の病院関係者から事情を聴いてきた。

 県警によると、女性の胎盤をはがし、大量出血が起きた後、手術室に入った作山院長が、加藤容疑者に、ほかの医師に応援を頼むことを提案したという。だが、加藤容疑者が提案に応じず、1人で手術を続けたという。これについて、複数の捜査関係者は「(加藤容疑者が)自分の技術を過信していたことが、医療過誤に影響したのではないか」などと話している。

 関係者の話では、加藤容疑者は手術前、大野病院と以前から連携している民間病院の産婦人科医に、緊急時に応援に来てもらえるように依頼していた。女性やその家族に対しても、この病院名を挙げて、もしもの場合は応援してもらうと説明していた。

 女性は、子宮に胎盤が癒着する「癒着胎盤」の状態だった。癒着胎盤をはがす際には大量出血するおそれがあるが、加藤容疑者は手術前、女性が癒着胎盤かどうかを、強く疑ってはいなかったという。

 県によると、加藤容疑者は、大野病院ではただ1人の産婦人科医だったが、癒着胎盤の手術経験はなかったという。加藤容疑者は弁護士に「あんなに血が出るとは思わなかった」などと説明しているという。

(以上、朝日新聞記事)

****** 大阪府保険医協会の抗議声明
http://osaka-hk.org/cgi/topics/s_news.cgi?action=show_detail&txtnumber=log&mynum=150

福島県立大野病院の産婦人科医師の逮捕に抗議する

■まず、はじめに今回の産科手術で亡くなられた患者さま並びにご遺族の方々には心からお悔やみ申し上げます。

■平成18年2月18日に福島県立大野病院の産婦人科医師が業務上過失致死と医師法違反容疑で逮捕されました。我々大阪府保険医協会は、検察および福島県警の不当逮捕に強く抗議するとともに、直ちに産婦人科医師を釈放することを求めます。

■大阪府保険医協会では30年前より産婦人科医療の問題点を列挙し、社会保障を充実させるべき責任を負っている政府が早急に改善すべきであると指摘してきました。

■地域医療を担ってきた医師個人の崇高な精神に甘え、産科医療を軽視した福島県、また行政改革の名で推し進められている政府の財政優先の国民医療軽視政策が招いた不幸な結果であると考えています。

■今回の問題も、個々の産婦人科医師の事例として矮小化することは許されません。

■いつ何時、危機的に急変するかもしれない産婦人科医療の特殊性を何ら配慮することもなく、産婦人科医師を24時間休まる暇もない1人医長という過酷な環境のまま放置し、不可避であったかもしれない今回の医療事故における最悪の結末を迎えたとたん、医師個人の責任に転嫁する姑息な福島県および県立病院の姿勢にも強く抗議します。

■医師としてリスクを最小限にする努力遂行の義務は当然のことですが、医療上行われた行為は、結果責任を犯罪として問われる類のものではないことは世界的にみても当然のことです。

■現在、産科医療で蔓延している結果責任の追及の風潮により、産婦人科医師の減少、産婦人科の閉鎖、分娩施設の減少、それによる労働環境の悪化、一層の産婦人科医師の減少という悪循環が現実に起こっています。また、他の診療科においても同様の事態が波及する危険性が高く、医学的根拠に基づかず結果責任だけを犯罪行為として裁けば、萎縮した医療が蔓延して国民医療は後退することは明らかです。

■我々はあらためて、刑事事件として扱われた今回の不当逮捕に対して強く抗議するとともに、産婦人科医師の一日も早い釈放と、荒廃しつつある医療の改善に向けての全面的な支援を表明いたします。

2006年3月9日
大阪府保険医協会第11回理事会

****** 新生児医療連絡会の声明
http://www.jnanet.gr.jp/htmls/seimei.htm

新生児医療を担う医師からの声明

はじめに、亡くなられた患者さんとそのご遺族に深い哀悼の意を表します。

福島県の県立病院で帝王切開術を担当した医師の逮捕について、平成18224日に日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会から共同声明が出されました。周産期医療を新生児の立場から支える新生児医療の専門集団としても、今回の逮捕の妥当性については疑問を抱かざる得ません。各地域における周産期医療の混乱を避ける責務のある本会としても、日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の共同声明を強く支持します。

平成1839

新生児医療連絡会  長 堺 武男事務局長 楠田 聡

役員一同


加藤医師を支援するグループの声明

2006年03月09日 | 大野病院事件

http://medj.net/drkato/index.shtml

産婦人科医、加藤克彦医師の逮捕に抗議します
                 賛同者一覧(798名)

            声明

はじめに、お亡くなりになられた方、そしてご遺族の皆様方に深甚なる哀悼の意を捧げます。

平成十八年二月十八日、福島県立大野病院に勤務していた産婦人科医が、帝王切開中の大量出血により患者さんが死亡した件において業務上過失致死罪、および異状死の届出義務違反(医師法違反)で逮捕されました。

逮捕直後から、インターネット上で逮捕拘留という事実に対しての驚きや憤り、今後の診療上の不安など産婦人科に限らず多くの診療科の医師より意見が寄せられ、有志が集まり当グループを発足しました。三月七日時点で四百五十名を超える医師が参加しております。

この件におきましては、一年前に家宅捜索は終わり、主要な関係者の調書作成も終了しております。また福島県は事故調査を行い、報告書が作成されたうえで処分も行われております。さらに加藤医師はその後も大野病院唯一の産婦人科医として献身的に勤務し続けており、『逃亡のおそれ』『証拠隠滅のおそれ』とする福島県警の逮捕・勾留理由は到底我々には理解出来ないものであります。

前置胎盤、ならびに現在の医療水準では事前の診断が困難とされている癒着胎盤が大量出血の背景にあったということに関しまして、医学的な見地からも議論を重ねてまいりましたが、大野病院の置かれた環境、輸血供給の現状での加藤医師の判断は妥当であったと考えられます。
 我々は加藤医師の不当な逮捕に対して抗議致します。

我々は日常の診療において、いかなる状況に於いても最善の医療を提供することを目標としております。病との戦いから助けるべく、持ちうる技術や能力を最大限に駆使して治療を行っております。しかし医学がこの数十年で飛躍的に発達したとはいえ、百%安全と言える薬や百%安全と言える手術はこの世に存在しません。今後いかに医学が発達しようとそれは事実として変わらないでしょう。
 今回の件のように、診療上ある一定の確率で起こり得る不可避なできごとにまで責任を問われ、逮捕、起訴されるようであれば、もはや医師は危険性を伴う手術など積極的な治療を行うことは不可能となり、医療のレベルは低下の一途をたどると思われます。
 地域医療への影響も大きく、既に福島県内において、今回の逮捕を契機に産婦人科医の一部病院への集約が予定されている事実は、報道に於いて既知の通りです。今後、福島県内のみならず、全国的に過疎地域における医療従事者の減少が更に加速し、結果として地域住民に対し多大な影響が及ぶことが懸念されます。

もし、この件が逮捕に相当するのであれば、今後、通常の医療業務を行っている医師の中からも相当数が逮捕されるであろうと予測されます。この状況では日本の医療は崩壊します。
 このような医療の崩壊への流れを食い止めるためにも、今回の件に限らず警察や司法に適切な医学的考察にのっとった判断をしていただくよう要請致します。

加藤医師を支援するグループ 発起人

木田博隆          三重大学・神経内科
神田橋宏治      都立駒込病院 ・化学療法科
網塚貴介         青森県立中央病院・新生児科
池澤孝夫         いけざわレディースクリニック・産婦人科
植田良樹         市立長浜病院・眼科
大野明子         明日香医院・産婦人科
金澤信彦         草加市立病院・消化器内科
加部一彦         愛育病院・新生児科
北澤 実          きたざわ眼科・眼科
小林 高          小林産婦人科医院・産婦人科
佐藤秀平        青森県立中央病院・産婦人科
高田慶応        大阪厚生年金病院・小児科
鍋島寛志        岩手県立磐井病院・産婦人科
新村 進         石橋総合病院・内科
原 崇文         原レディースクリニック・産婦人科
淵上泰敬        淵上整形外科・整形外科
船戸正久        淀川キリスト教病院・小児科
松崎 徹         足立クリニック・産婦人科
室月 淳         岩手医科大学・産婦人科

賛同者一覧(798名)


夕刊いわき民報: 浜通り3医師会が大野病院の医師逮捕で声明文

2006年03月09日 | 報道記事

夕刊いわき民報(3月8日)の記事
http://www.iwaki-minpo.co.jp/

平成16年12月、双葉郡大熊町の県立大野病院で帝王切開手術中の女性が死亡し、執刀していた男性医師が逮捕された事件で、相馬医師会(奥山孝会長)、双葉医師会(鈴木市郎会長)、いわき市医師会(石井正三会長)は8日、市役所内で記者会見を開き、「福島県立大野病院産婦人科医逮捕および拘留延長に関して」と題する声明文を発表した。 声明文では、医師の逮捕を「地域医療を守る努力を重ねてきた加藤医師の尊厳を踏みにじる異例の事態」と指摘。逮捕により、浜通り地区全域の産婦人科医療においては混乱が起きているとして、「医療現場と医療を求める地域住民の混乱を最小限とするよう、関係機関と連携して取り組んでいきたい」と表明している。 会見には、奥山、鈴木、石井会長が出席。石井会長は「地域医療の担い手が減っている中で、がんばっている医師が逮捕された」ことを遺憾としながらも、報道陣の「逮捕拘留が医師会としては納得できないということなのか」などといった問いには、「そうとってもらってかまわない」と直接的な表現を避けた。

いわき市医師会の声明文
「katou.jpg」をダウンロード


産科医逮捕に困惑

2006年03月08日 | 報道記事

****** コメント

総出血量20リットルの修羅場で、必死の思いで、孤軍奮闘していた担当医師には、一瞬たりとも手を離して説明に行く余裕などあろう筈がありませんから、手術中に御家族のもとに説明に行けなかったのは、状況から仕方がなかったと思います。

しかし、ご家族にとっては、何の説明もなく何時間も待たされた挙句に、手術中に患者さんが亡くなられたとあとから知らされた場合は、納得できないお気持ちになるのも当然だったと思います。

患者側の立場からすれば、いくら担当医師があとから詳しく説明したとしても、こういう結果になってしまったことに対する怒りの気持ちの持って行き場がどうしても担当医師に向ってしまい、何か隠しているのではないか?何か重大な医療ミスがあったのではないか?という気持ちにもなってしまうのも、最初は仕方がないことと思われます。

必死の救命の努力にもかかわらず、残念な結果になってしまったことに対して、心より哀悼の意を表したいと思います。その思いは、担当医師が一番強く感じていることです。

今回の事例で、そもそも一番の問題だったと私が思うのは、県や病院の幹部達の初期の対応として、医療供給システムの問題(輸血供給体制の不備、マンパワー不足)を、担当医師の犯した医療ミスという形ですべて個人の責任に押し付けてしまったことで、担当医師に減俸などの処分を科して、それで事を何とか収めようとしていた県や病院の幹部達の姿勢にこそ、非常に大きな問題があったのではないか?と私は推察します(私見)。

それが、今回の担当医師逮捕の直接の原因にもなってしまったのではないか?と私は推察します(私見)。

このような暴挙を許してそれが前例となってしまえば、今後、普通に診療をしている全国の臨床医達が診療の結果次第で続々と逮捕されることにもなりかねず、特に産科業務はこの国では全く成り立たなくなってしまいます。(妊娠したら外国に行って産んでくださいということにもなりかねません!)ですから、我々はこれを黙って見過ごすわけにはいきません。全国の医師達が事件の推移を、重大な関心を持って、見守っています。

******

朝日新聞 2006/03/08

 帝王切開手術のミスで、福島県の県立病院に勤める産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の疑いで逮捕された事件の波紋が広がっている。県警は「逮捕は病院関係者と遮断す るため」としているが、医療関係者らは「逮捕する必要があったのか」と疑問の声を上げ、産科医療の担い手不足に拍車がかかると心配する。国が明確な基準を示していない「異状死」の届け出義務違反に問われたことも医療現場を困惑させている。
 (斎藤智子、八木拓郎、田中美穂)

福島県立病院・帝王切開ミス死

■事故の概要
 県立大野病院で04年12月17日、帝王切開手術を受けた女性(当時29)が約4時間半後に手術室で死亡した。
 05年1月、外部の産婦人科医3人による医療事故調査委員会が発足。同年3月に公表された報告書は、死因を「癒着胎盤の剥離による出血性ショック」と認定し、事故の要因 として、 ①癒着胎盤の無理な剥離②対応する医師の不足③輸血対応の遅れ- を指摘した。

手術の経緯(県立大野病院医療事故調査委員会の報告書から)
04年11月23日 切迫早産などで入院
12月3日 超音波検査などで子宮後壁に付着した部分前置胎盤と診断
14日 女性と夫に輸血と子宮摘出の可能性を説明、女性は子宮温存を希望
17日 加藤医師に外科医、麻酔科専門医、看護師4人(のち5人)が手術を担当。輸血用の濃厚赤血球5単位(1単位は血液200ミリリットル中の赤血球に相当)を準備
14時26分 手術開始
37分 胎児を取り出す。手で胎盤をはがし始めるが子宮下部は剥離が困難なためクーパー(手術用ハサミ)を使用
50分 胎盤をはがす。総出血量約5千ミリリットル。濃厚赤血球5単位輸血
15時15分 いわき市の血液センターに濃厚赤血球10単位発注
15時35分 全身麻酔に移行
16時05分 濃厚赤血球10単位を追加発注
30分 1回目発注の濃厚赤血球が到着、輸血。
    総出血量1万2千ミリリットル
    子宮摘出手術開始
17時30分ごろ 2回目発注の濃厚赤血球が到着、輸血。
    その後、子宮摘出
18時00分ごろ 心室細動、蘇生開始
19時01分 死亡確認

 写真 (謝罪する福島県病院局の幹部)

聴取1年「なぜ今…」

 「1人でがんばっている医師の逮捕は非常な衝撃だ」。県立大野病院の産婦人科医、加藤克彦医師(38)が先月逮捕されて以来、県や県警には全国から抗議のメールや電話が 殺到している。
 事故調査委員会の報告書が公表されたのは05年3月。県は医療ミスを認めて遺族に謝罪し、加藤医師を減給1カ月の処分にした。その後も、遺族との和解に向けて交渉を続け てきた県は「なぜ今になって逮捕なのか」といぶかる。最初の聴取から約1年。加藤医師も「良心に恥じる行為は何らしていない」と弁護士に話している。
 報告書は、十分な輸血用血液の到着を待たずに癒着胎盤を無理にはがそうとしたとして「はがすのをやめ、子宮摘出に進むべきだった」と指摘した。癒着胎盤とは、通常なら出 産後に自然にはがれる胎盤が子宮にくっついてはがれない状態だ。
 死亡した女性は出産前に、胎児が出る子宮の出口を胎盤が覆う「前置胎盤」と診断されていた。
 癒着胎盤を出産前に確実に診断することは難しい。ただ、前置胎盤の場合、癒着胎盤の可能性が高くなる。
 加藤医師は癒着していた場合に備え、子宮摘出の可能性を事前に女性や家族に説明していた。報告書は、女性が20代で子宮温存の希望があったため、「摘出の判断の遅れが生じた」とみる。
  一方、遺族は県や病院側の謝罪を受け入れていない。夫の親族は、「病室の外で待っていたが、何も教えてくれなかった」。
 県警は、①大量出血の危険があるのに高度な医療が可能な病院に転送するなどしなかった②癒着胎盤を手術用ハサミで無理にはがした -などを業務上過失致死容疑の根拠に挙げた。ある捜査幹部は、逮捕まで踏み込んだことについて「加藤医師を関係者から離し、話を聴く必要があった」とだけ説明する。
  逮捕後、東京と地元の弁護士8人の弁護団が結成された。弁護士の一人は「刑事罰を科さねばならない過失があるのか。事実関係を徹底究明したい』としている。

「異状死」の基準不在

 加藤医師は、24時間以内に女性の死亡を所轄の警察署に届け出なかったとして医師法違反にも問われている。
 「手術で大量出血したが、異常なもの、医療過誤があったとは考えなかった」。 大野病院の作山洋三院長は、2月20日の県立病院長らによる緊急会議で、警察に届けなかった理由をこう説明した。日本外科学会や国立病院の指針を参考に作られた同病院のマニュ アルでは「医療過誤または過誤が疑われるケースに院長が警察署に届け出る」(事務長)と定めているからだ。
 だが、この規定は「あらゆる診療行為中、または比較的直後における予期しない死亡」が異状死に含まれるとした日本法医学会の指針とは食い違っている。
 99年に都立広尾病院で起きた薬剤取り違え事故では、24時間以内に届け出なかったとして当時の院長が医師法違反に問われ、04年に最高裁で有罪が確定した。
 しかし、異状死の定義を具体的に定めた国の基準は存在せず、解釈はそれぞれの医師に委ねられている。
 3日、東京都医師会と都病院協会の代表が厚労省で会見し、「医師法21条の解釈を含めた法律の整備を早急にしなければ、医師の不安は増大し、結果として萎縮診療になり患者 さんの不利益にもなる」という声明を出した。

「訴訟リスク」医師離れ拍車

 厚生労働省の人口動態調査によると、妊産婦の死者数は、95年に85人だったが04年は49人で、減少傾向にある。ただ、出産の時の原因不明の出血などもあり、死者はなかな かゼロにはならない。
 ある産婦人科医は「お産は無事が当たり前のように思われているが、常に危険は伴う」と話す。
 医師側からみると産科は医療訴訟を起こされるリスクの高い診療科と言える。厚労省研究班が04年に約2500人の産婦人科医を対象に意識調査をしたところ、4人に1人が「産科をやめたい」と答えた。主な理由は「診療業務の負担が大きい」と「医 療事故・医療訴訟が多い」だった。
 厚労省の調査では、産婦人科医と産科医の合計数はこの10年、下降線をたどっている。日本産婦人科学会の関係者は「今回の逮捕で新人医師を含めますます産科離れが進むのではないか」と心配する。
 福島県では、県立病院9院のうち4病院に産婦人科があるが、いずれも医師1人の体制だ。加藤医師も事故当時、1人で年に約200件のお産を扱っていた。
 加藤医師の逮捕後、4院に産婦人科を派遣している県立医大は、大野病院を含む3病院への医師派遣を取りやめ、1院について2人体制に増員する方針を決めた。
 県病院局は「産婦人科医を広く薄く配置するという方針のツケが、今回の事件とすれば、考えを改めざるを得ない」としている。


母体死亡となった根本的な原因は?(私見)

2006年03月08日 | 大野病院事件

はじめに、今回亡くなられた患者様とその御遺族の皆様に対し、心より哀悼の意を表したいと思います。

以下、私見 ***************

今回の福島県立大野病院で起こった母体死亡事例において、

1)癒着胎盤を分娩前に診断することは不可能であり、現代医学においてもいまだ解決されてない問題である。すなわち、癒着胎盤は、現時点では、最高の医療水準であっても分娩前には診断できない。従って、今回の事例において、分娩前に癒着胎盤を予見し得たという主張には何ら根拠がない。

2)妊娠36週、後壁付着の前置胎盤の診断による帝王切開の手術適応にも問題はなかった。同病院で帝王切開を実施したことは、適正な手術適応による通常の医療行為であり、違法行為ではなかった。

3)今回の手術にあたって、術前に子宮摘出および輸血などの可能性も説明されており、患者本人・家族への説明にも特に問題はなかったと考えられる。1000mlの輸血用血液を術前に準備し、麻酔科医の全身管理のもとに、外科医に助手を依頼して手術を実施しており、同病院の医療体制下で考えられる最大限の安全対策が取られていたと判断される。

4)帝王切開で児娩出後に胎盤用手剥離を行うことは通常の医療行為である。癒着胎盤で用手剥離中に大出血が始まった場合には、短時間の間に10リットルを超える大量の術中出血量となる場合も時にあり得る。術中大量出血となった場合の母体救命のためには、大量緊急輸血、十分なマンパワーが必要となる。『事故報告書』を見る限りにおいて、今回は、同病院の不十分な輸血供給体制、マンパワー不足の医療体制の下で、緊急救命処置は可能な限り実施されたと考えられる。

5)担当医は、この手術中の死亡事故について、病院長への報告・相談もしており、病院のマニュアルに従い、医療過誤ではないため届け出の必要がなかったと判断したと聞いている。

1)~5)より、担当医師は、与えられた医療環境下で、医師として果たすべき義務はすべて果たしていたと考えられる。過失は特になかったと考えられる。

今回の手術中の死亡は、医学的に合併症として合理的に説明できる死亡であり、臨床医の立場からは異状死とは断じて認められない。

ただし、この手術が、輸血供給体制・マンパワーが十分に整備された高次医療機関(総合周産期センターなど)で実施されていた場合は、術中死とはならなかった可能性が高いとも考えられる。従って、術中死となった根本的な原因は、同病院の不十分な輸血供給体制、マンパワー不足にあると考えられる。すなわち、医療供給体制の問題であり、担当医個人に帰する問題ではない。

警察が今回の担当医師逮捕の根拠にした『事故報告書』の記載内容にも、個人的には疑問を感じている。県が御遺族への補償金を出すに当たって、現行の法律上では担当医師の医療行為に『過誤』があったことにしないことには補償金を出せないという便宜上の理由から、担当医の『過誤』を認定するような『事故報告書』が作成されたという疑惑も拭いきれない。もしそうであったとするならば、『事故報告書』を作成した県や病院の責任者の初期対応にこそ大きな問題があったのではないか?と考えざるを得ない。今後、このようなことが2度と繰り返されないようにするためにも、『無過失補償制度』の産科医療への早期導入が望まれる。


福島県産婦人科医会からのメッセージ

2006年03月06日 | 大野病院事件

 福島県産婦人科医会

当医会では、3月1日臨時地区幹事会及び役員会を開催し、「加藤克彦先生を支える会」を立ち上げました。

 募金趣意書

 平成18年2月18日、福島県立大野病院の産婦人科医、加藤克彦先生が逮捕されました。容疑は平成16年に前置胎盤で帝王切開した女性が、術中出血多量で死亡した件に関し、業務上過失致死、並びに検死報告を警察に提出しなかった医師法違反のためとあります。医療に携わる我々として、この医療事故にて死亡された患者様、ならびにご遺族の方々には、大変痛ましく、また残念に思います。今後このような事故が二度と起こらないよう、今後の事故の徹底的究明、さらには地域における医療供給体制のあり方や医療内容の改善点の有無についても検討していきたいと思います。

 本事故に関しては、福島県の事故調査委員会で調査をし、昨年3月に関係者の行政処分は済んでおります。一年後の今回突然の逮捕については、私どもも大変驚いておりますし、地域医療に携わる多くの医師にも動揺が見られます。

 地域住民のため、私生活を犠牲にして連日連夜、身を粉にして働いてきた加藤医師にとって、今回の逮捕という事態は無念この上ないものと思われます。加藤医師のこの無念さを晴らすため現在できうる限りの情報収集や真相の究明がなされているところであります。加藤医師には今後多額の保釈金、公判費用等がかかることが予想されます。

 そこで今回、加藤医師の一刻も早い名誉回復のために、物心両面より加藤医師を支える会を立ち上げることと致しました。先生におかれましては、何卒私どもの意をお汲み取りくださり、募金にご協力頂きますようお願い申し上げます。

 平成18年3月1日

 加藤克彦先生を支える会
 発起人

  永井 宏、斎藤 勝、小林 高 、村田純治、川越慎之介、幡 研一、本田 任、古川宣二、鈴木幸男、大杉和雄、武市和之、野口まゆみ、新妻和雄、武田正吾、山内隆治、山田吉兵意、菅原延夫、高橋秀輔


神奈川県産科婦人科医会の抗議声明

2006年03月06日 | 大野病院事件

 抗議声明

 はじめに、今回亡くなられた患者様とそのご遺族に対し心より哀悼の意を表したいと存じます。

 平成18年2月18日、福島県立大野病院産婦人科医師、加藤克彦先生が業務上過失致死ならびに医師法違反の容疑で逮捕された。神奈川県産科婦人科医会は、この逮捕が不当であると判断し、この暴挙に対して強く抗議すると共に、今後、この様な過ちが二度と起きぬよう、司法当局に強く要望するものである。

 本件の業務上過失致死容疑の理由は、現在の医療水準をもってしても完全には予見できない癒着胎盤を、あたかも超音波断層法やMRIを施行していれば予見できたはずとの誤った前提に基づいている。また当然のことながら、剥離を開始した癒着胎盤の出血量や子宮全摘術中の胎盤剥離部の出血量は、正確に予見できるものではない。神奈川県産科婦人科医会は、このような医学的にも未だ解決されていない医療結果に、刑事介入が起こり、更には医師を不当にも逮捕するという暴挙を断じて許すことはできない。

 「異状死の届け出」については、本件は医学的に合併症として、合理的に説明できる死亡であり、臨床医の立場からは異状死とは認められない。さらに、病院長への報告・相談もしており、病院のマニュアルに従い、医療過誤ではないため届け出の必要がなかったと判断したと聞いている。以上より、加藤医師が医師法違反で逮捕されるようなことでは断じてないと考える。

 このような当局の医療結果に対する誤った介入、医師の不当逮捕により、産婦人科医師は日常の産婦人科医療に対しても常に防御的、消極的となり、産婦人科医療の衰退を招き、結果的に国民から優れた産婦人科医療を受ける機会を奪う結果になることを認識されたい。神奈川県産科婦人科医会は、加藤医師不法逮捕に対し厳重に抗議すると共に、加藤医師への全面的な支援を表明する。

 2006年3月6日
 神奈川県産科婦人科医会


日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会からのお知らせ

2006年03月06日 | 大野病院事件

 お知らせ

過日、福島県の県立病院で平成16年12月に腹式帝王切開術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が平成18年2月18日、業務上過失致死および医師法違反の疑いで逮捕されたとの報道がなされました。詳しい事情は不明ですが、報道された内容ならびに関係者の状況説明による限りでは、本件が逮捕拘留の必要があったのか否か理解しがたい部分があります。産婦人科医療体制の整備向上に対し社会的責任を有する両会としては本件の推移を重大な関心をもって見守っていきます。

平成18年2月24日

 社団法人日本産科婦人科学会
  理事長 武谷雄二

  社団法人 日本産婦人科医会
  会長  坂元正一


東京都医師会の声明文

2006年03月06日 | 大野病院事件

 唐澤祥人東京都医師会会長と河北博文東京都病院協会会長は、3月3日、厚生労働省内の厚生労働記者会、厚生日比谷クラブにおいて記者会見を行った。

 この記者会見は、福島県県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性が死亡した事例について、異状死を24時間以内に警察に届け出なければならない医師法21条違反等の疑いで担当医師が本年2月逮捕されたことを受け行われた。

 唐澤会長は、早急に関係団体および自民党と協議を行い、二度とこのような事例が起こらないように、医師法の改正を含めた法整備をすすめて行く見解を述べた。

 河北会長は、医師法21条における異状死と届出に関する明確な基準が必要であり早急に結論を出すように当局に要求するとともに、医師の偏在問題も本件根本問題であると見解を述べた。

 この記者会見で下記声明文を発表した。

          声明文 

県立病院医療ミス、医師逮捕のニュースに関して

 福島県立大野病院で平成16年12月に腹式帝王切開手術を受けた女性が死亡したことに関し、手術を担当した医師が平成18年2月18日、業務上過失致死および医師法違反の疑いで逮捕されたとの報道がなされました。

 現在詳しい事情については資料を集め検討中ではありますが、住民の生涯にわたる地域での医療を担当する私どもといたしましても、重大な関心をもっております。

*はじめに、今回亡くなられた患者さんとそのご遺族に対し深い哀悼の意を表したいと存じます。

*今回の場合は、異状死の場合には24時間以内に警察に届け出なければならないという医師法第21条に違反した容疑も逮捕の理由の一つと理解しております。

 医師法21条にある異状死とは警察へ届出なければならない死のことであり、その届出の性質については本来、殺人など犯罪の認知と通報を通じた司法警察への協力であると意識されてきました。しかし昨今、医療事故や医療過誤に対する医療界内外からの批判が高まり、医療に厳しい目が向けられる中で医師本来の業務である医療行為を警察への通報対象とする傾向が現れてきました。

 このような状態での24時間という制限は非常に大きな問題を含んでいます。まず当該医療が過誤や事故であるかどうかは、しばしば判断自体が難しい事柄であり、医療行為の評価が専門的になされてはじめて判明するような難問であることも少なくありません。判断には多大な時間と手間が必要であることがあります。

 胸を刃物で刺された人が病院に運ばれてきて死亡したといった事例と同様に扱おうというのは無茶な話です。しかしこのような事例が今後増加することは容易に考えられます。これらに対応するためには医師法21条の解釈も含めた法律の整備を早急にしなければ、医師の不安は増大し、結果として萎縮診療になり患者さんの不利益にもなります。

 私は関係団体、自民党と精力的に協議をし早急に医師法の改正を含めた法整備を最重要課題として取り組み、さらに産科医師の不足の問題も含めて、医療の安全と国民の安心の環境づくりを目指します。

  平成18年3月3日

  東京都医師会 会長  唐澤祥人
  東京都病院協会 会長  河北博文


癒着胎盤に関する個人的な経験談

2006年03月05日 | 周産期医学

当医療圏では、麻酔科、小児科の併設された産科2次施設は当科しかなく、3次医療施設は医療圏から100km以上離れていますから、当科が医療圏内の最後の砦となっています。分娩前でも分娩中でも分娩後でも、何か母児の生命に関わる事態になれば全例が当科に搬送されてきます。ですから、(子宮全摘を要するような子宮筋層内に侵入した)癒着胎盤例が医療圏内で発生していたとすれば、必ず当科に搬送されていたはずです。

最近17年間の当医療圏内の総分娩件数はおそらく約35000件程度で、その期間内に(子宮筋層内に侵入した)癒着胎盤は当科では2例しか経験してません。1例は当科での経膣分娩例で、もう1例は他院で経膣分娩後に胎盤が娩出されなかった例です。2例とも前置胎盤例ではありませんでした。その間に、前置胎盤例は恐らく200~300件はあったはずで、そのほとんどすべてを当科で帝王切開してますが、単に前置胎盤というだけの理由で3次医療施設に母体搬送した症例は1例もありませんでした。結果的に癒着胎盤を合併した前置胎盤例は1例もありませんでしたので、幸い、逮捕されずに現在に至っております。

私自身の少ない経験の範囲内では、二十数年の臨床経験で、前置胎盤に癒着胎盤を合併した大変な症例は、大学卒業したての駆け出しの頃に1例経験しただけです。しかも、その症例は、たまたま大学の医局で、先輩医師が夜中に関連病院から応援依頼の電話を受けた時に偶然同席していたので、先輩について行って無理にお願いして手術に第2助手として参加させてもらったケースでした。

私自身の感覚でも、(臨床的に問題となる)癒着胎盤の発生頻度が分娩1万件に1例程度という教科書的記載は、あながち間違ってはいないと感じています。

私自身は分娩前に癒着胎盤と診断できたことはまだ一度もありません。将来、たまたま運よく分娩前にMRIなどで診断できた場合は、手術前に十分な輸血の準備をして計画的な二期的手術を行いたいと思っています。しかし、よほど典型的な穿通胎盤例でもないと、分娩前の診断は難しいのではないかと思っています。

ただし、一口に『癒着胎盤』と言っても、胎盤の剥離とその後の止血にちょっと苦労する程度の臨床的にほとんど問題とならない軽症例(子宮摘出を要しない例)はもっとはるかに多数例あります。臨床統計の報告で癒着胎盤の件数が桁違いに多い場合は、もしかしたら、軽症例も入っているような報告もあるのかもしれません。詳細につきましては当ブログの『癒着胎盤の定義について』をご参照ください。私の個人的経験談はそういう軽症例は全く無視しての話です。


福島県の地元紙の報道内容

2006年03月03日 | 大野病院事件

****** 私見

癒着胎盤を分娩前に予測することは非常に困難(ほとんど不可能)です。どの妊婦さんでも癒着胎盤の可能性は否定できません。児娩出後に胎盤剥離徴候があるかどうかで癒着胎盤の有無を判断しているのが現状です。従って、従来のままの一人医長の不備な医療体制を続けていれば、次にいつまた産婦人科医が逮捕されるか全くわかりません。もしかしたら、今日にでもまた誰かが逮捕されるかもしれません。福島県立医大産婦人科が一人医長の病院に対する医師派遣を取りやめる決定をしたのは(患者さんと医局員の身の安全を守るためには)止むを得ない当然の判断だったと思いますし、ぐずぐずしないで即刻実行すべきだと思います。

地元マスコミの報道内容から判断すると、警察は拘留の延長を決定して取調べを続行し、警察サイドの一方的な情報を地元マスコミにリークして、あくまでもK医師を有罪にしようと必死になっているような印象を受けます。

産科診療に従事していれば、癒着胎盤の大出血に遭遇する可能性はいつでも誰にでもあり得ます。万一、『この国では、産科診療中に癒着胎盤の大出血に遭遇した場合には、診療の結果次第で、担当医が逮捕され有罪となることを覚悟しなければならない(!?)』ということになれば、危なくてこの国では誰も産科診療には従事できなくなってしまいます。はたして警察は事の重大性をちゃんと認識しているのであろうか?

(以下、引用)

****** 2006年3月3日、福島民友

忠告無視し執刀か 逮捕の産婦人科医

 大熊町の県立大野病院で一昨年十二月、産婦人科医が帝王切開した女性を死亡させた医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の疑いで富岡署に逮捕、送検された執刀医の○○○○容疑者は、手術前に病院関係者から手術の危険性を指摘されながら独断で手術に踏み切った疑いが強いことが、二日までの同署の調べで分かった。○○容疑者は、女性の手 術に当たって十分な設備やスタッフがそろったほかの病院に移送すべきといった忠告も受けていたという。同署は引き続き、病院関係者から事情を聴くなどして手術の経緯や対応 などを調べるとともに、当時の病院側の対応も含め事件の全容解明を進めている。同署は事件発覚後、医療の専門家に分析を依頼するなど約一年にわたり捜査。その結果、○○容 疑者が手術の危険性を認識していたとの見方を強め、逮捕に踏み切ったとみられる。調べでは、○○容疑者は一昨年十二月十七日、胎盤の癒着で大量出血する可能性を知りながら 、十分な検査や高度医療が可能な別の病院への転送などの安全対策をせず、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀。癒着した胎盤を手術器具で無理にはがし、大量出血で女性を死亡 させた疑い。また、女性の死体検案を医師法で定められている二十四時間以内に警察に届けなかった疑い。

医師派遣取りやめへ/県立医大産婦人科

 勤務する産婦人科医が逮捕された大熊町の県立大野病院への医師派遣取りやめを決めている県立医大産婦人科は2日までに、産婦人科のあるほかの3つの県立病院のうち会津総合、三春両病院の医師派遣を取りやめる方針を固めた。県などとの調整は残っているものの、同科は「専門医1人では医療事故を防ぎきることはできない」として理解を求めていく。大野病院への医師派遣を10日で取りやめる同科は、医師逮捕の事態を受けて、同病院と同様、産婦人科医が1人しかいない会津総合、三春、南会津の3県立病院の現状を検討してきた。その結果、「患者の命を守るためには1人態勢を改善すべき」として会津総合、三春の両病院への派遣を取りやめる方針を固め、「時期は流動的だが、できるだけ早く実現したい」(同科)としている。

(以上、引用終わり)


癒着胎盤の定義について

2006年03月03日 | 出産・育児

日本産科婦人科学会・用語解説集(改訂新版)、金原出版、342頁~343頁。

癒着胎盤 ゆちゃくたいばん placenta accreta
 胎盤の絨毛が子宮筋層内に侵入し、胎盤の一部または全部が子宮壁に強く癒着して、胎盤の剥離が困難なものをいう。絨毛はときに筋層から漿膜に達するものもある。原因としては既往に子宮内膜炎・内膜掻爬術・粘膜下筋腫・帝王切開術・子宮形成術などのあることが多い。絨毛が筋層の表面のみに癒着し、筋層内に侵入していないものを(狭義の)癒着胎盤placenta accreta、絨毛が子宮筋層深く侵入し、剥離が困難な状態になったものを嵌入胎盤placenta increta、さらに絨毛が子宮壁を貫通し、漿膜面まで及んでいる状態のものを穿通胎盤placenta percretaとよぶ。

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産婦人科研修の必修知識2004(日本産科婦人科学会)、267~271頁。

癒着胎盤 placenta accreta
(1) 定義
 胎盤の絨毛が子宮筋層内に侵入し、胎盤の一部または全部が子宮壁に強く癒着して、胎盤の剥離が困難なものをいう。組織学的には、床脱落膜の形成が欠如しているものを癒着胎盤という。絨毛は、筋層から漿膜に達することもある。なお胎盤が子宮壁に付着しているが、筋層との結合が蜜ではなく、床脱落膜の欠損を伴わない真の癒着ではないもを付着胎盤 adherent placenta と呼ぶことがある。臨床的には、胎盤用手剥離に伴い大出血をきたすことから、二次的にショックやDICを引き起こす。母体死亡に占める割合も約3%にものぼり、産科的に重要な疾患である。
(2) 分類
①癒着胎盤の病理組織学的分類(Irving & Hertig)
癒着胎盤の分類は、子宮を摘出した後に子宮筋層の組織学的な検索により以下のようになされている。
a.絨毛の子宮筋層内への侵入の程度による病理組織学的分類
 (a)楔入(せつにゅう)胎盤(placenta accreta)
 絨毛が子宮筋層表面と癒着するが筋層内には侵入していないもの。
 狭義の癒着胎盤
 (b)嵌入(かんにゅう)胎盤(placenta increta)
 絨毛が子宮筋層深くに侵入しているもの。
 (c)穿通(せんつう)胎盤(placenta percreta)
 絨毛が子宮筋層に侵入し、かつ子宮筋層を貫通し子宮漿膜面にまで及ぶもの。
b.癒着の占める割合による分類
 (a)全癒着胎盤
 胎盤の全面が子宮筋層に癒着しているもの。
 (b)部分癒着胎盤
 胎盤の一部(数個の胎盤葉)が子宮筋層に癒着しているもの。
 (c)焦点癒着胎盤
 一個の胎盤葉が子宮筋層に癒着しているもの。

②癒着胎盤の臨床的分類(Thierstein et al.)
第一群(付着胎盤)
 a.用手的に容易に剥離できる。
 b.癒着部位は粗、小さなポリープ葉突起を認める。
第二群(付着胎盤)
 a.用手的に剥離できるが困難
 b.剥離部位に繊維素様の索を認める。
 c.剥離の際かなりの出血を認める。
第三群(癒着胎盤)
 a.用手的に剥離は不能
 b.癒着部位を用手的に剥離すると必ず胎盤片が残る。
 c.出血を多量に認める。

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『狭義の癒着胎盤』という用語を、私は今まで臨床的分類の第三群(すなわち、癒着胎盤の高度のもの)を念頭において使用してきました。しかし、上記のように、『狭義の癒着胎盤』の意味するところは、絨毛が筋層の表面のみに癒着し、筋層内に侵入していないもの(すなわち、癒着胎盤の軽度のもの)という考え方もあります。 癒着胎盤の議論をする場合に、どの定義に従って議論しているのか、各自バラバラでは全く議論がかみ合わなくなってしまいます。癒着胎盤の統計の数字に報告者によりバラツキが大きい理由は、もしかしたら、報告者によって癒着胎盤の定義が微妙に違っているからなのかもしれません。


癒着胎盤について

2006年03月01日 | 周産期医学

産婦人科研修の必修知識2004(日本産科婦人科学会)、267~271頁、より抜粋

癒着胎盤 placenta accreta
(1) 定義
 胎盤の絨毛が子宮筋層内に侵入し、胎盤の一部または全部が子宮壁に強く癒着して、胎盤の剥離が困難なものをいう。組織学的には、床脱落膜の形成が欠如しているものを癒着胎盤という。絨毛は、筋層から漿膜に達することもある。なお胎盤が子宮壁に付着しているが、筋層との結合が蜜ではなく、床脱落膜の欠損を伴わない真の癒着ではないもを付着胎盤 adherent placenta と呼ぶことがある。臨床的には、胎盤用手剥離に伴い大出血をきたすことから、二次的にショックやDICを引き起こす。母体死亡に占める割合も約3%にものぼり、産科的に重要な疾患である。

***** 中略 *****

(4) 頻度
 付着胎盤を含めて約0.3%の発生率で、癒着胎盤だけでは約0.01%とまれな疾患である。癒着胎盤の中では、楔入胎盤が最も多く約80%を占める。次に嵌入胎盤が約15%で、穿通胎盤は5%とまれである。癒着面の広さについては胎盤面の部分癒着および焦点癒着が多く、全癒着は少ない。初産経産別では、経産婦に多い(約80%)。

***** 中略 *****

(6) 診断
 分娩以前には、その診断は不可能である。しかし、分娩後に胎盤遺残を認め、胎盤娩出促進法を行っても胎盤剥離徴候が認められない場合には、癒着胎盤が疑われる。分娩後の超音波診断法では、正常胎盤付着部に認められる retroplacental hypoechoic lesion の欠如または消失する所見として、癒着胎盤が認められる。確定診断は摘出子宮または胎盤の病理組織学的な検索によってのみ得られる。

***** 以下略 *****

「産婦人科研修の必修知識」は、日本産科婦人科学会が刊行した本であり、我が国においてコンセンサスが得られた内容と考えられます。全文を参照したい方は、各自、原本にあたって調べてみてください。上記文献では、癒着胎盤の頻度は0.01%(1万分娩に1回)と記載されてます。