ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR九州の在来線は厳しさを増す

2024年08月21日 19時00分00秒 | 社会・経済

 気付いたのは今日(2021年8月21日)ですが、昨日(2024年8月20日)の夕方にJR九州に関する報道がなされていました。gooに、昨日の19時40分付で「JR九州、利用者減の在来線で赤字55億円 線区別収支を公表」という記事が掲載されており(https://news.goo.ne.jp/article/mainichi/business/mainichi-20240820k0000m020249000c.html)、これは毎日新聞のサイトに昨日の19時40分付で掲載された「18区間赤字55億円 JR九州、低輸送密度路線」という記事(https://mainichi.jp/articles/20240821/ddp/041/020/003000c)からの転載です。また、朝日新聞社のサイトには昨日の20時0分付で「JR九州、1日2千人未満18区間で赤字55億円 23年度収支公表」という記事(https://digital.asahi.com/articles/ASS8N3D6FS8NULFA00LM.html)が掲載されています。そして、JR九州が昨日付で「2023年度 線区別ご利用状況等の公表について」(https://www.jrkyushu.co.jp/common/inc/news/newtopics/__icsFiles/afieldfile/2024/08/20/240820_2023_senkubetsu.pdf)という文書を公開しています。

 まず、goo転載記事を取り上げると、同記事には「JR九州は20日、利用者が減少している在来線の2023年度線区別収支を公表した。対象は輸送密度(1キロ当たりの1日平均乗客数)が2000人未満の13路線18区間で、営業赤字は総額約55億円に上った。18区間のうち自治体や鉄道事業者が要請して国が設置する『再構築協議会』の目安とされる輸送密度1000人未満は13区間だった」と書かれています。また、同記事には2023年度に営業赤字額が最も大きかった路線・区間として日南線の田吉駅〜油津駅(7億300万円)、輸送密度が最も低かった路線・区間として同じ日南線の油津駅〜志布志駅(179人)とあげられています。また、goo転載記事には日田彦山線BRTの輸送密度も書かれており、2016年度のそれが131人、2023年度のそれが164人であると書かれています。

 次に、朝日新聞社記事です。この記事には「1キロ当たりの1日平均利用者数(輸送密度)2千人未満を基準に収支を公表したのは12路線の18区間。コロナ禍からの回復もあり、22年度より2区間減った。ただ、収支の厳しさは続いている」と書かれており、「18区間の営業損益は、宮崎空港線田吉―宮崎空港を除く17区間が赤字で、合計では約55億円の赤字だった。前年度と比較可能な17区間の損益は約1.5億円悪化した」と続いています。そして、赤字幅が大きかった路線・区間として日南線の田吉駅〜油津駅、日豊本線の佐伯駅から延岡駅(5億3300万円)、指宿枕崎線指宿駅〜枕崎駅(4億6200万円)が挙げられています。赤字幅が最も大きかったのは日南線田吉―油津の7億300万円。日豊線佐伯―延岡(5億3300万円)、指宿枕崎線指宿―枕崎(4億6200万円)が続いた。また、同記事には輸送密度が低い路線・区間として日南線油津駅〜志布志の他に豊肥本線宮地駅〜豊後竹田駅の193人が書かれています。

 JR九州が公表した文書も見てみましょう。この文書ですが、平均通過人員(とりあえず輸送密度と同じと考えておきましょう)については全路線・全区間のそれが示されています。JR九州発足年度である1987年度と2023年度とが示されているので読んでみると、興味深いことに、1987年度より2023年度のほうが平均通過人員の数値が高くなっている区間があります。次の通りです。

 ①鹿児島本線

 全線(門司港駅〜鹿児島駅):1987年度は25138、2023年度は30838。←1987年度においては、現在の肥薩おれんじ鉄道の営業区間である八代駅〜川内駅も鹿児島本線でした。

 小倉駅〜博多駅:1987年度は68929、2023年度は74753。

 博多駅〜久留米駅:1987年度は46908、2023年度は60889。

 鹿児島中央駅〜鹿児島駅:1987年度は9962、2023年度は10936。

 ②日豊本線

 国分駅〜鹿児島駅:1987年度が9875、2023年度は10250。←これ以外の区間では減少しています。そのため、全線を通じての数値も低くなっています。

 ③篠栗線

 吉塚駅〜桂川駅:1987年度が109875、2023年度は10250。

 吉塚駅〜篠栗駅:1987年度が13712、2023年度は32551。

 篠栗駅〜桂川駅:1987年度が8698、2023年度は13634。

 ④長崎本線←以下の2区間以外は減少しているので、全線を通じての数値も低くなっています。

 鳥栖駅〜佐賀駅:1987年度が24187、2023年度は27881。

 喜々津駅〜浦上駅:1987年度が2640、2023年度は4182。←おそらく、長与駅経由(いわゆる旧線)でしょう。

 ⑤筑肥線

 姪浜駅〜伊万里駅:1987年度が7557、2023年度は9265。←全線を通じての数値が高くなっているのですが、それは次の区間の数値が高くなったためです。

 姪浜駅〜筑前前原駅:1987年度が13593、2023年度は42727。

 ⑥佐世保線

 江北駅〜佐世保駅:1987年度が5651、2023年度は7313。←西九州新幹線の開業が数値を押し上げた可能性が高いでしょう。

 ⑦香椎線

 西戸崎駅〜宇美駅:1987年度が3299、2023年度は6566。

 西戸崎駅〜香椎駅:1987年度が2921、2023年度は5078。

 香椎駅〜宇美駅:1987年度が3690、2023年度は8102。

 ⑧久大本線

 久留米駅〜日田駅:1987年度が3040、2023年度は3931。←これ以外の区間では減少しています。そのため、全線を通じての数値も低くなっています。

 ⑨大村線

 早岐駅〜諫早駅:1987年度が3197、2023年度は4203。

 ⑩豊肥本線

 熊本駅〜大分駅;1987年度が2963、2023年度は3172。←全線を通じての数値が高くなっているのですが、それは次の区間の数値が高くなったためであり、それ以外では激減しています。

 熊本駅〜肥後大津駅:1987年度が4902、2023年度は12889。

 (日南線南宮崎駅〜田吉駅および田吉駅〜油津駅の平均通過人員は2129ですが、この頃には宮﨑空港線が開業していなかったので南宮崎駅〜油津駅の平均通過人員として書かれています。2023年度の南宮崎駅〜田吉駅は3621、田吉駅〜油津駅は948となっています。南宮崎駅〜田吉駅では増えていることになりますが、これは宮﨑空港線のためでしょう。)

 次に2023年度の平均通過人員が2000人を下回る路線・区間をあげていきます。参考までに、カッコ内に1987年度の数値も示しておきます。

 ①日豊本線

 佐伯駅〜延岡駅:907(←3428)。

 都城駅〜国分駅:1368(←2029)。

 ②長崎本線

 江北駅〜諫早駅:908(←9108)。西九州新幹線の開業に伴うものであることは明白でしょう。

 ③筑肥線

 唐津駅〜伊万里駅:224(←728)。

 ④宮﨑空港線

 田吉駅〜宮﨑空港駅:1792(宮﨑空港線は1996年度に開業しました)。

 ⑤筑豊本線

 桂川駅〜原田駅:384(←2981)。

 ⑥後藤寺線

 新飯塚駅〜田川後藤寺駅:1319(←1728)。

 ⑦唐津線

 久保田駅〜西唐津駅:1808(←3528)。

 久保田駅〜唐津駅:1861(←3649)。

 唐津駅〜西唐津駅:833(←1315)。

 ⑧豊肥本線

 肥後大津駅〜宮地駅:935(←2711)。

 宮地駅〜豊後竹田駅:193(←1028)。

 豊後竹田駅〜三重町駅:863(←2384)。

 ⑨肥薩線

 八代駅〜隼人駅:479(←1400)。

 八代駅〜人吉駅:2023年度は被災のために運休中(←2171)。

 人吉駅〜吉松駅:2023年度は被災のために運休中(←569)。

 吉松駅〜隼人駅:479(←1109)。

 ⑩三角線

 宇土駅〜三角駅:859(←2415)。

 ⑪吉都線

 都城駅〜吉松駅:402(←1518)。

 ⑫指宿枕崎線

 喜入駅〜指宿駅:1988(←3687)。

 指宿駅〜枕崎駅:222(←942)。

 ⑬日南線

 南宮崎駅〜志布志駅:637(←1423)。

 田吉駅〜油津駅:948(前述のように、1987年度は南宮崎駅〜油津駅として2129となっています)。

 油津駅〜志布志駅:179(←669)。

 〔日田彦山線については、煩雑になるので省略しました。〕

 そして、JR九州の文書には、平均通過人員が2000人/日未満の線区に限定しての線区別収支が掲載されています。宮﨑空港線のみ、営業曽根機が2300万円の黒字であり、他は赤字です。

 ①日豊本線

 佐伯駅〜延岡駅;▲5330万円。

 都城駅〜国分駅:▲3500万円。

 ②筑肥線

 唐津駅〜伊万里駅:▲1570万円。

 ③筑豊本線

 桂川駅〜原田駅:▲1000万円。

 ④後藤寺線

 新飯塚駅〜田川後藤寺駅:▲2030万円。

 ⑤唐津線

 久保田駅〜唐津駅:▲3940万円。

 唐津駅〜西唐津駅:▲2380万円。

 ⑥豊肥本線

 肥後大津駅〜宮地駅:▲2170万円。

 宮地駅〜豊後竹田駅・▲3320万円。

 豊後竹田駅〜三重町駅:▲1500万円。

 ⑦肥薩線

 八代駅〜人吉駅および人吉駅〜吉松駅は長期運休中。

 吉松駅〜隼人駅:▲3720万円。

 ⑧三角線

 宇土駅〜三角駅:▲3050万円。

 ⑨吉都線

 都城駅〜吉松駅:▲4280万円

 ⑩指宿枕崎線

 喜入駅〜指宿駅:▲2320万円。

 指宿駅〜枕崎駅:▲4620万円。

 ⑪日南線

 田吉駅〜油津駅:▲7030万円。

 油津駅〜志布志駅:▲4180万円。

 こうして、平均通過人員が2000人/日未満の路線・区間についてのみ線区別収支を公表したのは、多くの方も推察されるとは思いますが、今後の存続に関する議論のためでしょう。現に、指宿枕崎線については、2024年8月19日に「指宿枕崎線の将来のあり方に関する検討会議」の初会合が開かれています〔朝日新聞社のサイトに2024年8月20日10時0分付で掲載された「指宿枕崎線の検討会議始まる 独自の将来像模索」(https://www.asahi.com/articles/ASS8M4HLHS8MTLTB003M.html?iref=pc_ss_date_article)によります〕。この検討会議は地域公共交通活性化再生法による法定協議会ではないのですが、何らかの方向性が示されることになるのではないかと思われます。

 指宿枕崎線の指宿駅〜枕崎駅よりも平均通過人員の数値が低い路線・区間が2つありますが、このうち問題となりうるのは日南線のほうでしょう。豊肥本線の宮地駅〜豊後竹田駅も低いのですが、この区間が存廃論議の対象になるとは思えない部分があるからです。御存知の方も多いと思われますが、かつて志布志駅には日南線の他に志布志線および大隅線が通っていました。また、日南線の北郷駅〜志布志駅も本来は志布志線の一部でした。志布志駅に発着していた3路線はいずれも国鉄の赤字ローカル線であり、要件の適用の厳格性を高めたりするならば日南線が廃止されてもおかしくなかったのです。また、志布志線および大隅線が廃止されてから、日南線はかなり長い盲腸線となっていますし、沿線人口の減少の度合いなどを考慮しても、存続のほうが難しい路線であるとも考えられます。

 JR九州は、現在、むしろ不動産事業などに力を入れています。そうすることによって企業の存続を図る訳ですが、鉄道事業があまりに低調になってしまうと、不動産事業にも負の影響が出てしまうことでしょう。一企業として、切り捨てられるものは切り捨てようとしているのも理解できます。

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平成筑豊鉄道への追加支援は?

2024年08月07日 00時00分00秒 | 社会・経済

 平成筑豊鉄道が法定協議会の設置を打診したのは6月28日のことでした。どのようになったのかと気になって、過去の記事を検索していたら、朝日新聞社が2024年8月1日10時30分付で「平成筑豊鉄道、2.5億円の追加支援打診 沿線9市町村が対応協議」(https://www.asahi.com/articles/ASS704V6FS70TIPE00DM.html?iref=pc_area_fukuoka_list_n)として報じているのがわかりました。

 記事によると、平成筑豊鉄道の沿線自治体である9市町村は、2024年度において既に3億4000億円を経営安定化助成金として平成筑豊鉄道に交付しています。しかし、平成筑豊鉄道は、追加で2億5000万円の支援を打診したとのことです。7月31日、田川市役所において9市町村の担当課長会議が行われた際に、平成筑豊鉄道は資金不足額などを説明したそうで、その折に「材料費の高騰など」を理由としてあげました。つまり、車両の修繕コストなどが増えたということです。

 既に「平成筑豊鉄道が法定協議会の設置を要請した」(2024年7月4日10時0分0秒付)において記したように、平成筑豊鉄道について、今後は年間で約10億円の赤字が継続的に発生すると見込まれており、助成金も同程度が必要であるということになるようです。それで「今後30年鉄道を存続する」ことができるのかどうかはわかりませんが、1年間に10億円程度の助成というのは市町村にとって軽い負担と言えないでしょう。

 それだけに、9市町村は今後対応を協議した上で意見の集約を図ることにしました。鉄道の必要性については意見が一致しているものの、資金繰りについては意見がまとまらなかったようです。当然のことと言えるでしょう。

 ただ、気になるのは、9市町村が平成筑豊鉄道を一体として考えているのか、それとも線区別に考えているのかということです。乗客の利用実態がわかりませんが、伊田線、田川線、糸田線をひとまとめにして残すか残さないかを議論するのは非現実的ではないでしょうか。むしろ、線区別に存廃を考えるほうがよいものと思われます。また、現在は全線複線となっている伊田線の単線化などを検討する必要があるでしょう。

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美祢線 鉄道での復旧か、他の交通手段に切り替えるのか

2024年08月01日 00時00分00秒 | 社会・経済

 JR西日本の美祢線が全線不通となったのは2023年6月のことです。それから1年以上が経過していますが、2021年度の平均通過人員は366、2022年度のそれは377と、JR西日本が積極的に鉄道での復旧に乗り出すとは思えないレヴェルに留まっています。実際に、「美祢線の復旧はいかにあるべきか」において記したように、今年(2024年)5月に開かれた美祢線利用促進協議会の総会においてJR西日本は単独での復旧や運行が困難であると表明しました。

 さて、美祢線利用促進協議会の臨時総会が7月30日に山陽小野田市で開かれました。朝日新聞社が、2024年7月31日の10時30分付で「美祢線復旧と他の交通手段、両方を検討する部会設置へ JRや沿線市」(https://www.asahi.com/articles/ASS7Z4TW2S7ZTZNB001M.html)として報じていますので、この記事を引用または参照しつつ、記していきます。

 今回の臨時総会ですが、これは5月の総会においてJR西日本が「持続可能性などを議論する部会の設置を提案」したことを受けたものです。もっとも、臨時総会で決定されたのは「鉄道の復旧と、鉄道以外の交通手段の両方を検討する部会の設置」、つまり「復旧検討部会」の設置に留まります。これが全会一致で決まったのは、やはり1年以上も美祢線が運休していることによります。

 選択肢は、JR西日本の鉄道としての復旧、上下分離方式による鉄道としての復旧、日田彦山線の添田駅から夜明駅までの区間において採用されたBRT、完全な路線バス(つまり代替バス)、というところでしょうか。勿論、その他もありえますが、ここでは鉄道、BRT、路線バスを候補としておきましょう。部会において利便性、復旧費、運行費などを調査の上で検討することになるとのことです。当然、過去の実例も調査検討の対象になるでしょう。

 おそらく、JR西日本は既に結論を用意していることでしょう。一応は「部会で鉄道の復旧費や運行費を提示する考え」であり、「部会では、ふさわしい交通手段を一つに絞らず、検討結果を総会に報告するという」のですが、「前提を置かない」ことになっている点には注意を要します。

 また、臨時総会では「利用ニーズを把握するための住民アンケートの実施や、代行バスの運行本数を増便したうえで、停留所の拡充や快速便の導入などの実証をすることも決めた」とのことです。以前に記したことに関連しますが、この住民アンケートは安易な方向に流れやすいように思われます。仮に「普段は利用しない」と「鉄道路線として残したい」という回答数がともに多い場合には、「普段は利用しない」を優先して判断すべきです。「利用しないが、鉄道路線として残したい」という意見ほど無責任なものはないからであり仮にこのような意見が多いようであったら即座に美祢線の廃止を決定すべきですし、このような意見を沿線自治体が支持するのであれば、その自治体は無責任極まりないものであり、公共交通を語る資格はありません

 ただ、鉄道、BRT、路線バスのどれを選ぶにしても、難題であることは否定できません。

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楽観論はやはり目を曇らせる

2024年07月18日 11時00分00秒 | 社会・経済

 2024年7月17日付の朝日新聞朝刊7面13版に「消費増税1カ月 楽観に染まる日銀」という記事が掲載されています。

 読んでいて「何だかなあ」という気分になりました。

 日本銀行は、金融政策決定会合の議事録を公開しています。こう書きましたが、10年が経過してからのことです。検証の必要性という観点からすれば、もう少し早くできないものかと思うのですが、それは脇に置いておくこととしましょう。今回は、消費税・地方消費税の税率が引き上げられた2014年の1月〜6月の議事録が公開されたという話です。

 上記記事には「『2年で物価上昇率2%』の実現を目指す『異次元』の金融緩和が始まって1年が経ち、物価は1%台半ばまで伸びていた。14年4月の消費税率8%への引き上げの影響についても、日銀内では強気な意見が大勢だった。その後、物価も個人消費も落ち込み、緩和は長期化していく」と書かれています。強気な意見が支配的であったというのは、当時の雰囲気などからして理解できますが、こういう場合には反対意見のほうが往々にして正しいという事実の実例にもなったようです。

 問題は税率引き上げが経済に与える影響、さらに日本経済の先行きです。以下、職名などは当時のものです。

 まず、2014年1月の金融政策決定会合です。白井さゆり審議委員は、税率引き上げによって「所得や雇用の改善が遅れる懸念がある」ことを「当面の金融政策のリスク要因」に入れるように求めました。今となっては白井審議委員の発言が(完全にとまでは言えないとしても)正しかったと評価できるでしょう。しかし、中曽宏副総裁が「消費税を念頭に置いているとすると、それ自体があらぬリスク感覚」を引き起こすと発言するなど、白井審議委員に反対する意見が続出しました。

 次に、2014年4月30日に開かれた金融政策決定会合です。中曽副総裁は、日本銀行が想定したと思われる反動が生じていないとした上で「影響はさほど長引かないとの見方が多いと思う。家計支出は早晩、底堅い動きへ戻ると考えてよい」と発言したようです。また、岩田規久男副総裁は「(物価上昇率が)2%に達する可能性は、導入当時に私が考えていたよりも、確実性は高まっている」という趣旨の発言をしました。いくら何でも評価が早過ぎると言わざるをえませんが、それなりの裏づけはあったようです。上記記事には、次のように書かれています。

 「円安株高の流れが進み、14年3月末の日経平均株価は1万4800円台をつけ、1年前より約2割上がった。マイナスだった消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率は14年1~3月に1.3%、4月は消費増税の影響を除いて1.4%まで伸びた。増税後の景気減速を抑えるため、政府は13年度補正予算に5.5兆円計上するなどして備えていた。こうした状況を背景に、日銀内は強気な見通しが目立った。」

 この見通しは、少なくとも6月までは続いていたようです。岩田副総裁は「金融緩和と財政による消費増税の反動減緩和に支えられ、7月以降は再び堅調に推移する」、黒田東彦総裁は「駆け込み需要の反動を受けつつも、基調的には緩やかな回復を続けていくとの見方で一致していたのではないか」という趣旨の発言をしていました。

 しかし、こうした楽観論は夏に吹き飛んでしまいます。そもそも、足下を見ていれば、回復などすぐにできないことくらいわかったのではないかと疑いたくもなりますが「経済は生もの」あるいは「経済は水物」ということでもあるでしょう。それだからこそ、楽観論は禁物であるはずです。上記記事には「米国のシェールオイルの生産拡大などで原油価格が急落。増税の影響で国内の消費回復も遅れた。物価上昇率は14年8月に1.1%、9月に0.9%と鈍化し始めた」と書かれています。これらの事態を想定することは難しいでしょうが、抽象的であるとしても何らかのリスクを考えておくべきで、もしや日本銀行の幹部はそうしたリスクを全く想定していなかったのかとも首を傾げるでしょう。楽観論に支配されたので目が曇ったのでしょう。あるいは「夢よもう一度」なのでしょうか。そうであるとすれば、このブログで何度も記しているように「成功は失敗のもと」なのです。

 その後、日本銀行は、2014年10月末に国債やETFの購入を増やすという追加緩和策を決定します。当時も批判的な意見をよく目にしていましたが、こうした意見が正しかったことが証明されてしまったと言えるでしょう。2014年11月18日、安倍晋三内閣総理大臣は消費税および地方消費税の税率引き上げを1年半先送りすることを表明しました。その3日後に衆議院が解散され、12月に衆議院議員総選挙が行われました。とりもなおさず、政府は日本銀行の金融政策が失敗であり、消費税および地方消費税の税率引き上げについての見通しが誤っていたことを認めたのでした。しかも、2014年11月19日23時29分22秒付の「先送り解散?」で記したように、衆議院解散によって景気や財政、社会保障の問題が先送りされたのでした。

 全てが日本銀行の楽観論に起因する訳でもありませんが、2015年になってからも物価上昇率は0%台が続きます。そればかりか、同年7月にはマイナスになります。もう迷宮に入ったというべきでしょうか、2016年2月にはマイナス金利政策が採られるようになり、同年9月には長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)に進んでいきます。

 10年も異次元緩和という名の異常事態が続きましたが、何ら目ぼしい成果はなく、むしろ円安が進んで日本はもはや先進国と言えないような国になりつつあるのでした。自国の通貨が弱いことを理想とするのは、一体どういう神経なのでしょうか。

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平成筑豊鉄道が法定協議会の設置を要請した

2024年07月04日 10時00分00秒 | 社会・経済

 仕事の都合もあって気付くのが遅かったのですが、朝日新聞社が2024年6月29日の10時30分付で「平成筑豊鉄道『今後を考える場を』 沿線自治体に法定協要請」(https://www.asahi.com/articles/ASS6X51YVS6XTIPE002M.html?iref=pc_area_fukuoka_list_n)として報じていました。

 やはり、という印象も否めないのですが、とりあえず、この記事に沿いつつ、見ていくこととします。

 平成筑豊鉄道は、福岡県の福智町に本社を置く第三セクターの鉄道会社です。国鉄の路線であった伊田線(直方〜田川伊田)、田川線(行橋〜田川伊田)および糸田線(金田〜田川後藤寺)が特定地方交通線に指定されたことにより、福岡県、田川市、直方市などが出資して、1989年に会社が設立され、3路線を引き受けたのでした。また、北九州市が第三種鉄道事業者である門司港レトロ観光線の第二種鉄道事業者として、同線を運行しています。

 さて、平成筑豊鉄道が法定協議会の設置を要請したという話ですが、これは6月28日に株主総会が開かれた際に、社長から9市町村の首長に対してなされたことです。記事からでは詳しいことがよくわからないところもあるのですが、平成筑豊鉄道の輸送人員は1990年代前半がピークで342万人ほどであったのですが、それからは減少傾向が続いているようです。また、2023年度決算によると、同年度の輸送人員は2022年度より36000人ほど増加、旅客運賃収入も2022年度より1200万円ほど増加したとのことで、しかも2期連続の増加ですが、それでもCOVID-19より前の水準には達しておらず、ようやく8割程度であるとのことです。むしろ懸念すべきは赤字で、2023年度の営業損益は5億1890万円の赤字でした。営業赤字としては27年連続ということです。また、同年度の純損益は前年度よりも5459万円も悪化しており、5807万円の赤字となりました。国、福岡県、沿線市町村から経営安定化助成金や補助金として合計で5億8700万円の支援を受けたそうですが、それでも状況は悪くなっているという訳です。

 赤字が増えている理由は、輸送人員の減少や修繕費の増加ということのようです。修繕費については、記事に「枕木の老朽化など」と書かれています。さらに、記事には次のように書かれています。

 「株主総会後に記者会見した同社の河合賢一社長は、現状分析と今後の収支シミュレーションの結果、無線やレールなどの設備更新などで年間約10億円の赤字が継続的に発生する見込みとなったこと、26年以降は沿線市町村に現在の3倍以上の助成金をお願いすることが必要となる見通しを明らかにした。

 また、人口減少や、災害の頻発もあって、経営を巡る厳しさは『質的にも一段と変わってきた』と述べ、法定協設置への協力を呼びかけた。」

 読んだ瞬間に「そういう部分はあるだろう」と感じました。というのは、伊田線が全線複線であるからです。旧国鉄路線で第三セクターに転換されたものとしては唯一の例であり、往時の石炭輸送を思い知らされます。ただ、現在においては過剰設備ではないかと思えます。伊田線直方駅の時刻表を見ると、最も多い時間帯である午前7時台でも3本ですから(1990年代にはもっと本数が多かったかもしれませんので、今回はこれ以上のことを記しません)。

 平成筑豊鉄道は、JR九州より伊田線、田川線および糸田線を引き受けてから、新駅を設置するなど、積極的な乗客増加策をとりました。そのために沿線を走っていた西鉄バスが減便や路線廃止に追い込まれた程でしたが、その勢いも長くは続かなかったようです。同鉄道の営業エリアは筑豊地域および京築地域で、伊田線、田川線、糸田線のいずれも石炭輸送のための路線であったと言ってよいだけに、炭鉱が次々に閉山となって沿線の人口も貨物輸送も減少していました。産業構造の問題が人口の増減に関わるだけに、平成筑豊鉄道の輸送人員が減少していったのも自然の流れであったとも言えます。1970年代および1980年代、主として筑豊地域において、あの宮脇俊三が最後まで覚えられなかったという程に複雑な国鉄の路線網が解体・縮小されており、特定地方交通線に指定された路線の上山田線、添田線、宮田線、室木線、勝田線、香月線は完全に廃止されています(漏れがあるかもしれません)。後藤寺線がJR九州の路線として残っていますが、私が利用した時に思ったのは「よくぞ残った」ということでした。本数も少なく、乗客も少なく、沿線の人口も多くなさそうでした。一方、伊田線、田川線および糸田線は平成筑豊鉄道の路線となった訳ですが、貨物輸送もない現在、どの程度まで通勤通学運輸を担えているのかが気になります。

 上記記事には、株主総会に出席した行橋市長のコメントが掲載されています。「現状、今後の見通しを考えた場合、この地域全体で鉄道のあり方を検討していくことは避けては通れない」というものです。法定協議会の設置および参加の意向と考えられます。ただ、行橋市民が田川線の存在意義をどのように考えているのかが気になります。よく見られるように「乗らないけど必要」というのは論外で、そのようなことは口にすべきではありません。素直に「乗らないから不要」と表現すべきです。私は、内心で「乗らないから不要」と考えている人が多いのではないかと邪推しているのですが、いかがでしょうか。

 私は、大分大学に勤務していた時に田川線および伊田線を利用したことがありますし、大東文化大学に移ってからは西南学院大学での集中講義の機会を利用して糸田線および門司港レトロ観光線を利用しました。門司港レトロ観光線は名称通りの観光路線という性格なので別の話となりますが、残りの路線は典型的なローカル線以外の何物でもないという印象でした。とくに田川線は山間を走る抜けるようなコースをとっており、石炭輸送も遙か昔の物語ということがよく理解できました。一方、伊田線と糸田線は比較的平坦な場所を通りますが、伊田線は前述の通り全線複線で存在感にあふれるものの、石炭輸送で活気があった頃の名残という感じでしかありません。何しろ、1両編成か2両編成の気動車でワンマン運転、本数もそれほど多くありません。かつて富士重工が製造していたLE-DCというレールバス、現在は新潟トランシスが製造するNDCが運行されていますから、乗客数も推察できます。また、糸田線はと言えば、私が乗った時に私以外の乗客がどれほどいたか覚えていませんし、何度か田川後藤寺駅で見たものの、糸田線の乗り場はとくに閑散としていましたので、3路線の中で最も利用客が少ないであろうと思われます(そもそも距離が短いのです)。

 平成筑豊鉄道の伊田線の起点が直方駅ということで、もう一つ、私が気になっている鉄道路線があります。筑豊電気鉄道です。黒崎駅前から筑豊直方まで、鉄道路線でありながら路面電車タイプの連接車が運行されるところですが、最近は乗客減が続いているようで、そのためもあって減便が続いています。西鉄の子会社であるため、今のところは大丈夫ということなのでしょうか。

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丸広百貨店東松山店が閉店する

2024年06月26日 00時00分00秒 | 社会・経済

 今週の月曜日、つまり6月24日の夕方に知りました。

 東松山市の中心街にある丸広百貨店東松山店が、8月18日をもって営業を終了するとのことです。公式サイトでも案内されています(https://www.maruhiro.co.jp/events/view/12737/3)。

 仕事の関係で東松山駅周辺に行くことがあり、何度か百貨店の前を通りましたし、中に入ったこともあります。今の場所で営業を始めたのは1970年とのことで、築50年以上が経過しているようです。いつのことかは覚えていないのですが、5階にある丸善を見てみようと思って入ってみました。天井が低く、入った日が平日の昼間であったからか、丸善を除いてほとんどお客がいません。店員もあまりおらず、気のせいかもしれませんが店の中で薄暗い場所もあったように記憶しています。

 正直なところ、駅前商店街はあまり人通りもないですし、商店もあまりありません。シャッター街というほどではないのですが、商店街というには閑散としているという印象があります。

 その一方、東松山駅から少し南のほう(都幾川のほう)に歩くと、ビバモール東松山があります。典型的な郊外型ショッピングモールですが、こちらのほうはお客が多いようです。また、高坂駅東口から少し離れた所にもピオニウォーク東松山があり、こちらも郊外型ショッピングモールでお客が多いようです。どちらも大型駐車場があり、停まっている車の数で或る程度は様子がわかるというものです。他にも郊外型の店舗が点在しており、自動車社会というべき市町村となっています。百貨店を営むには厳しい環境であると評価すべきでしょう。

 ※※※※※※※※※※

 それにしても、日産のサクラという車のCMでアクセントがおかしいのは気になります。桜の意味であれば、頭の「さ」を強く読むのではないはずです。標準語であれば「さ」を低く、「くら」を高く読むでしょう。それとも、車の名前は人名を基にしたのでしょうか。少なくとも、CM製作者であれば日本語のアクセントにもっと関心なり注意なりを向けてほしいものです。

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美祢線の復旧はいかにあるべきか

2024年06月13日 08時00分00秒 | 社会・経済

 このブログで美祢線を取り上げたのは、2023年7月1日23時59分40秒付の「JR西日本の美祢線が気になる」でした。それから1年弱が経過しています。

 JR西日本は、美祢線について単独での復旧などが困難であると表明しています。今年の5月に、JR西日本広島支社長が美祢線利用促進協議会総会で発言しており、少なくともJR西日本単独での復旧が難しいとのことです。これに対し、山口県知事がJR西日本の姿勢に反発を示したようです。美祢線が山口県内で完結する鉄道路線であるためでしょう。朝日新聞社が、2024年6月12日10時30分付で「『被災地が割を食うのは本来でない』山口県知事、美祢線の復旧主張」(https://www.asahi.com/articles/ASS6C455CS6CTZNB004M.html)として報じています。

 6月11日に開かれた記者会見で、山口県知事は、あくまでも美祢線の復旧を求める姿勢を示しました。復旧は鉄道事業者が速やかに行うのが原則であるとした上で、上記朝日新聞社記事の表現を借りるならば「たまたま被災したところが割を食うというか、非常に不利な状況の中で、JRの見直しの中に引きずり込まれていくのは本来の在り方ではない」と述べたようです。また、JR西日本が美祢線利用促進協議会総会において「美祢線の持続可能性を議論する部会を協議会に設置し、おおむね1年以内に方針を決めるよう要請した」ことについても、JR西日本がそもそも復旧費用などを全く示していないと語っています。たしかに、これでは山口県知事が反発するのも理解できます。JR西日本が、表現はともあれ内心では美祢線の廃線を望んでいることが透けて見えるからです。

 しかし、現実的にはJR西日本単独による復旧は難しいと思われます。その理由は「JR西日本の美祢線が気になる」において記しましたが、この路線が幹線と位置づけられたのは石灰石輸送などの貨物運輸が活発であったためでして、旅客輸送のみを取り出せば地方交通線のレヴェルです。1987年度の平均通過人員は1741でしたので、貨物輸送がなければ第2次特定地方交通線に指定されたほどの水準です。このブログで何度か登場している「2022 年度区間別平均通過人員(輸送密度)について」(JR西日本)によると、美祢線の2021年度の平均通過人員は366、2022年度のそれは377でした。同じ山口県内の路線である小野田線より僅かに高い程度です。莫大な費用をかけて復旧するだけの価値があるのかどうか、答えは明らかであると言えるのではないでしょうか。

 仮に鉄道路線として復旧するということであれば、美祢線の終点で接続する山陰本線と合わせて、山口県が上下分離方式の「下」の部分を担うくらいの覚悟が必要になる可能性は高いでしょう。今後、大都市を含めて、長期的に鉄道の利用客が増加することを想定し難いことを念頭に置くと、鉄道会社の内部補助の構造を維持することの困難性が高くなるのは自明です。また、都道府県は、これまで鉄道よりも高速道路あるいは自動車専用道路の建設を優先してきたことを、決して忘れてはなりません。仮に忘れているのであれば、鉄道を語る資格はないと厳しく指摘しておく必要があります。

 それにしても、国土強靱化とは一体どういう政策なのでしょうか。

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川崎市バスも減便へ

2024年05月29日 13時00分00秒 | 社会・経済

 2023年から、このブログで2024年問題などとして、路線バスの減便問題を取り上げています。やはり、大阪府の金剛自動車が路線バス事業から撤退し、廃業するというニュースが最も衝撃的でしたが、減便は全国的な問題となっており、今年に入ってから横浜市営バスの減便が神奈川県内ではよく話題となっています。

 そして、私が住んでいる川崎市です。川崎市交通局も、5月28日に「鷲ヶ峰営業所管内における一部減便について(令和6年6月10日実施)」(以下、市バス記事と記します)を発表しました。また、朝日新聞2024年5月29日付朝刊17面14版神奈川・川崎版にも「川崎市バス 一部路線で減便へ 来月10日から 運転士不足に対応」という記事が掲載されていました。

 鷲ヶ峰営業所は宮前区にあり、宮前区はもとより、高津区、多摩区、麻生区にある路線を管轄しています。つまり、川崎市の北部に属する全区に路線網があるということです。さらに、僅かながら横浜市青葉区にも路線があります。もっとも、たまプラーザ駅を起点とする、東急バスとの共同運行の「た83」系統のみですが、横浜市交通局が撤退してしばらくしてからの参入で、少々驚きました。

 実際に足を運ぶとわかりますが、宮前区の向丘出張所が管轄する地域は、東急田園都市線と小田急小田原線の間にあっていずれの駅からも遠く、その意味では鉄道空白地帯と言ってもよいような場所です(武蔵野貨物線が通っていますが、旅客営業はありません)。かつては川崎市営地下鉄の計画もありましたが断念されました。そのため、長らく路線バスが頼りの地域です。鷲ヶ峰営業所と、その下部組織である菅生車庫(一時期は菅生営業所でした)は、こうしたエリアをカヴァーするバス路線を所轄しているのです。減便の影響は大きいものと思われます(ちなみに、東急バスおよび小田急バスの路線もあります)。

 市バス記事には、次のように書かれています。

 「市バスでは、これまで運行上の工夫や運転手の確保に努め、ダイヤを維持してきましたが、運転手の不足に対応するため、鷲ヶ峰営業所管内において平日95便、市バス全体の約2%、日中から夜間を中心に一部減便を実施します。/お客様にはご迷惑をお掛けして大変申し訳ございませんが、何卒ご理解賜りますようお願いします。」(/は原文改行箇所)

 この説明には書かれていませんが、同じページに示されている、減便となる路線、および減便されるバスの起点発車時刻の表によると、土曜日は25便、日曜日は24便が減らされます(上記朝日新聞社記事には書かれています)。

 上記朝日新聞社記事には「通勤・通学客が利用する朝の時間帯は極力避け、主に日中から夜間の時間帯で実施するという。可能な限り運行本数が多く、運行間隔が短い路線から減便し、『利用者の待ち時間が少なくなるようにした』と説明している」と書かれています(説明したのは川崎市交通局です)。

 ただ、市バス記事の表を見ると、平日の朝8時台や9時台の便もあります。溝18系統のうち、JR武蔵溝ノ口駅・東急溝の口駅の南口にあるバスターミナル(以下、溝の口駅南口バスターミナルと記します)から鷲ヶ峰営業所までの便です。この路線は、先に記した向丘出張所の管轄地域である神木本町、平、初山などを通り、本数もかなり多いほうですので、減便の本数を多くしたのでしょう。

 それでは、鷲ヶ峰営業所では運転手がどの程度不足しているのでしょうか。上記朝日新聞社記事によると、2024年4月1日現在で181人です。「多い」と思われるかもしれませんが、溝の口駅南口バスターミナルから発着する市バスの本数の多さ(溝18の他にも溝15など、複数の系統が運行されています)を考えると、むしろ少ないとも言えるでしょう。実際、定員より10人少ないそうです。さらに、川崎市のサイトには、2024年2月1日付で「川崎市交通局会計年度任用職員(市バス運転手)の採用選考案内【随時募集中】」というページもあります。

 川崎市交通局としては、正規職員の確保のために、採用選考の時期を前倒しする、あるいは複数回設けるということも検討するようです。さらに、試験科目などの見直しも検討するとのことです。ただ、どれだけ人員を確保できるかはわからない、というのが本当のところでしょう。

 今後、バスのダイヤがどうなるかはわかりません。6月10日に減便した後、年内に再度減便しないという保障もないでしょう。鷲ヶ峰営業所以外の営業所(例:井田、上平間)が所管する路線についても注目しておく必要があります。

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やはり木次線も

2024年05月25日 00時00分00秒 | 社会・経済

 山陽地方と山陰地方とを結ぶ鉄道を陰陽連絡線と表現することがあります。伯備線、山口線、美祢線などが該当します。

 ただ、JR西日本が公表している資料「2022 年度区間別平均通過人員(輸送密度)について」を参照すると、陰陽連絡線には平均通過人員数が低い路線が多く、芸備線の東城駅から備後落合駅までの区間が20、木次線の出雲横田駅から備後落合駅までの区間が56、芸備線の備後落合駅から備後庄原駅までの区間が75、同じく芸備線の備中神代駅から東城駅までの区間が89となっています。路線バスでも採算が合わないであろうと思われる数値が並んでいる訳で、JR西日本がどうにかしたいと考えることも理解できますし、インターネットの世界で廃線こそが妥当という意見が多いのも当然です。

 私自身、沿線自治体の態度には怒りを感じる部分さえあります。「今更」感が拭えないからです。有名なYouTuberである鉄坊主さんなどの動画では何故か言及されていないことが多いのですが、最近存廃論議の対象となった鉄道路線には、1980年代の国鉄改革において特定地方交通線に指定される可能性が高かったものの、除外要件に該当したために存続したというものが目に付きます(例、留萌本線、日高本線、津軽線、久留里線、芸備線、木次線)。40年前の議論が(多少とも形は変わっているものの)再燃したと言えるでしょう。

 「これまで道路整備に力を入れて鉄道など見向きもしなかったくせに、今さら廃線反対なんて叫ぶのかよ!」

 「廃線協議には応じられないなんて、どの面を下げて言っているんだ?」

 「おまえたちに文句を言う資格はないだろう!」

 全てという訳ではないのですが、これまで存廃協議の対象となった鉄道路線について、上記のように感じられる所は少なくないでしょう。

 さて、今回は木次線の話です。山陰本線の宍道駅(島根県)から芸備線の備後落合駅(広島県)まで、営業キロが81.9の路線となっていす。

 この路線については、沿線自治体も存続に向けた努力をしていたようです。しかし、そもそも人口が少ない地域であり、陰陽連絡線の一つとされていても、その役割はとうの昔に終わっています。2022年度の平均通過人員をみると、出雲横田駅から備後落合駅までの区間は既に紹介したとおりであり、宍道駅から出雲横田駅までの区間でも237、全線で171となっており、鉄道で残されていることが奇跡的である、とまでは言えないまでも、鉄道路線として残すことのほうが困難であると評価することは可能でしょう。

 そして、「ついに」と記すべきでしょうか、JR西日本は木次線の今後について議論を行いとの意向を2024年5月23日に明らかにしました。ここでは、山陰中央新報デジタルに2024年5月23日21時25分付で掲載された「【図表】JR西 『木次線のあり方』奥出雲町など沿線自治体と協議の意向 丸山知事『廃止前提であれば応じられない』」(https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/579818)、同じく山陰中央新報デジタルに2024年5月24日4時0分付で掲載された「白紙強調も自治体反発 唐突な表明、広島側はJR批判 木次線在り方協議意向」(https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/579946)、および、朝日新聞社のサイトに2024年5月24日10時30分付で掲載された「JR西、利用低迷の木次線のあり方議論を 首長ら、廃止前提なら拒否」(https://www.asahi.com/articles/ASS5R43PLS5RPUUB002M.html)を参照します。

 5月23日、JR西日本山陰支社長が、定例記者会見の場で木次線の出雲横田駅から備後落合駅までの区間について、上記山陰中央新報デジタル23日付記事の表現を借りるならば「沿線自治体と公共交通の在り方を協議する意向を示し」ました。その理由としては、やはり利用の低迷があげられています。前述のように、この区間の平均通過人員が56で、地域公共交通活性化再生法に基づく法定協議会の対象になっている芸備線の東城駅から備後落合駅までの区間の20に次ぐ低さですから、やはり上記山陰中央新報デジタル23日付記事の表現を借りるならば「大量輸送を目的とする鉄道の特性を発揮できていない」ということになります。残りの区間でも237なので十分に協議の対象となりうるはずですが、外したのは観光列車の存在の故でしょうか。

 平均通過人員のデータを見る限り、木次線が沿線住民の足として十分に機能していないことは明白で、JR西日本山陰支社長もその旨を語っていました。前提を置かないで議論をしたいという発言の真意はさておき、通勤および通学のための利用がかなり限られていることは事実です。また、JR西日本がこれまで木次線の維持に努力してきたことも事実でしょう。但し、同社のローカル線の区間では合理化の名の下に設備保守が省略されていることもよく知られており、福塩線の一部区間などで最高速度15km/hに制限される箇所があるなど、およそ鉄道の役割が放棄されているとしか思えない部分も見受けられます。

 私が注意を向けたいのは、JR西日本山陰支社長の「これまでも問題提起はして」いるという言葉です。木次線の出雲横田駅から備後落合駅までの区間についての意向は、定例記者会見の場で初めて明らかにされたと記してもよい状況でした。上記山陰中央新報デジタル24日付記事によると、「JR西から沿線自治体の担当課長レベルに事前の連絡があったのは同日午前。ただ、詳細は知らされず、情報把握に追われた」とのことでした。備後落合駅は芸備線と木次線の接続地点であり、どちらの線も末期的な状況(強すぎるでしょうか?)であるだけに、JR西日本としては「当然、木次線についても意見や態度を既に示している」と言いたいのでしょう。

 早速、沿線自治体の首長のコメントが上記各記事に掲載されています。島根県知事は、JR西日本の以降に対し、廃止前提であれば応じられない旨を述べています。理解はできます。現在、島根県と広島県とを直接結ぶ鉄道路線は木次線しかないからです(2018年までは三江線もありました)。また、島根県と山陽地方とを直接結ぶ鉄道路線は、他に山口線しかありません(山陰本線もあるではないか、と言われるかもしれませんが、山口県の日本海側は広義の山陰地方と言えます)。鉄道ネットワークの面からすれば、木次線も重要な要素であり、それが島根県知事のコメントにもうかがわれます。しかし、島根県は、どの程度まで鉄道利用促進の努力を具体的にしていたのでしょうか。むしろ、自動車専用道路の整備にこそ全力を注いでこなかったのでしょうか。

 また、奥出雲町長は、島根県知事と同じく、出雲横田駅から備後落合駅までの区間の「廃止を前提とするものであれば応じられない」とコメントしています。奥出雲町には、木次線の出雲八代駅、出雲三成駅、亀嵩駅、出雲横田駅、八川駅、出雲坂根駅および三井野原駅があります。しかも、出雲坂根駅の構内には有名な2段スイッチバックがあります。廃止されるとなれば、観光にも痛手かもしれません。ただ、現在の木次線の観光列車「あめつち」は出雲横田駅から備後落合駅までの区間を走りませんので、あまり関係がないとも言えます(キハ40系が使われているので、性能的に問題があるからでしょう)。また、記事には書かれていませんが、仮に出雲横田駅から備後落合駅までの区間が廃止されるならば、残りの宍道駅から出雲横田駅までの区間についても連鎖的に利用客が減少し、ついには全線が廃止されるかもしれないと考えられているのかもしれません。

 以上のように引用などをした上で、敢えて私は記しておきますが、木次線についての議論は、本当に唐突なものであったのでしょうか。むしろ、JR西日本の沿線自治体への伝達に多少の問題があったという程度であり、十分に予想されたことであったはずです。平均通過人員のデータは繰り返し公表されていますし、木次線の活性化の取り組みが長くなされていて、「あめつち」、その前の「奥出雲おろち号」と観光列車が運行されていたのですから、沿線自治体が現状を知らないはずがありません。JR西日本を責める前に、沿線自治体が動くべきであったでしょう。結果的には予測を外して惨憺たる結果になったものの、現在の北海道知事が夕張市長であった時代に同市長が石勝線夕張支線について「攻めの廃線」を提唱したのは、立派なものであったとも評価しえます。少なくとも、問題提起にはなっていたからです。

 もう一つ記しておきますと、木次線の出雲横田駅から備後落合駅までの区間について、沿線自治体の首長の発言と、住民の意見とは同じなのかという疑問が湧きます。乖離があるのではないかとしか思えません。より明確に記せば、沿線住民の本音は「いらない」というものではないでしょうか。鉄道の乗客がいないということは、住民が鉄道を不要と考えているからでしょう。意思が口に出されないだけであり、態度で十分に示されているのです。

 今後のために、或る意味で炎上覚悟で記しておきます。よく、ローカル線について「地域のために必要であるから残して欲しいけれども、自分は乗らない、利用しない」というようなことが書かれています。このように意味のわからない言葉も、そうは多くないでしょう。一目見て矛盾していることが明らかですし、「乗らない」、「利用しない」というのであれば、必要がないのです。より厳しい表現を許していただけるならば、無責任な発言です。JR西日本の株主や利用者は、沿線自治体などから出されるこのような発言を許してはならないでしょう。

 仮に住民アンケートで「必要だけど、自分は利用しない」という意見が多ければ、廃止に賛成であると理解すべきです。「乗らない」、「利用しない」と解答する人は、本当に「乗らない」、「利用しない」のであり、必要性など感じていません。この点は強調しておくべきでしょう。そもそも、こんな選択肢をアンケートに記すこと自体、無意味とも言えるはずです。

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津軽線の一部区間、復旧断念か

2024年05月23日 14時30分00秒 | 社会・経済

 このブログでも津軽線の話題を取り上げてきました。

 「津軽線の一部が廃止されるか?」(2022年12月19日23時35分付)で記したように、この路線は1980年代の国鉄改革において特定地方交通線に指定されるはずでしたが、除外要件に該当するということで指定から外されたところです。青函トンネルの開業のために同線の青森駅から新中小国信号場までの区間は電化され、JR北海道の海峡線とつながり、本州と北海道とを結ぶ大動脈に変わりました。しかし、残る新中小国信号場から三厩駅までの区間は、悪い表現を使えば「取り残された」路線であり、余程の好転がなければ、いつ廃線論議が始まってもおかしくない状況であったとも考えられます。

 そのため、2022年8月の大雨は、或る意味において廃線論議のための機会に過ぎなかったとも言えるでしょう。「津軽線の単独維持は困難である、ということは」(2023年4月4日0時0分0秒付)で記したように、JR東日本は津軽線の蟹田駅から三厩駅までの区間について単独維持は困難であると表明していました。

 2024年に入ってからどうなったのだろうと思っていましたが、2024年5月23日、今別町長が鉄道としての復旧を断念する旨を表明しました。共同通信社が、5月23日13時30分付で「JR津軽線『復旧断念』 地元表明、廃止議論が加速か」(https://nordot.app/1166222924848546706)として報じています。

 今別町は、今回問題となっている蟹田駅から三厩駅までの区間の沿線にある市町村で唯一(と記しましたが、今回の議論の対象となっている区間では、他に外ヶ浜町しかありません)、廃線に反対していました。津軽二股駅(北海道新幹線の奥津軽いまべつ駅のすぐそばにある駅)、大河原駅、今別駅および津軽浜名駅の所在地でもあるだけに、反対するのも当然ではあります。また、今別町は、鉄道路線を廃止したとすると冬季や災害時などに「バスなどの安全性に懸念がある」旨を述べていました。しかし、青森市内で5月23日に行われた検討会議(沿線自治体の首長によるもの)において、今別町長が「今別町が鉄路にこだわり続けても議論が進展せず、沿線や町のためにならない。苦渋の決断だ」という旨の発言をしたとのことです。

 こうなると、津軽線の一部廃線は確定の方向に進むことになります。JR東日本はバス転換を主張しているので、ここに落ち着くこととなるでしょう。

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