ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

伊予鉄道の坊っちゃん列車も11月から運休

2023年10月14日 07時00分00秒 | 社会・経済

 愛媛県の県庁所在地である松山市を中心に鉄道網を展開する伊予鉄道には、有名な坊っちゃん列車があります。松山市内線を土休日に運行するもので、夏目漱石の有名な小説にあやかって名付けられました。明治時代に運行された蒸気機関車および客車を再現したものですが、実際にはディーゼル機関車であり、客車にはビューゲルという集電装置が付けられています(但し、ダミーです。松山市内線ではポイント操作のためにトロリーコンタクターという装置を使うため、ビューゲルが付けられています)。

 その坊っちゃん列車が、11月から運休となるようです。時事通信社が、2023年10月13日20時45分付で「坊っちゃん列車、11月から運休 『深刻な運転士不足』―愛媛・伊予鉄」として報じています(https://www.jiji.com/jc/article?k=2023101301265&g=eco)。

 運休の理由としては、今や全国的な、2023年問題と表現してもよい問題、すなわち、深刻な運転士不足があげられています。

 実際、伊予鉄道および伊予鉄バスの連名で10月13日に発表された「郊外電車郡中線・市内電車・路線バスのダイヤ改正について」という文書には「電車・バスの深刻な運転士不足および2024年問題に対応するため」に11月1日にダイヤ改正を行うと書かれています。この文書によれば、郡中線の土休日ダイヤ、市内電車松山市駅線の平日ダイヤおよび土休日ダイヤ、市内電車本町線の平日ダイヤが改正されることにより、運転間隔が広がり(現行のダイヤを見て、郡中線で15分間隔となっていることに驚きました)、本町線に至っては14時台以降は全く電車が走らないようになります(現在でも土休日には運行がありません)。

 バスの減便も目立ちます。例えば、松山観光港リムジンバスは、道後温泉行きについては現在の11便から3便に減らされると共に、松山観光港行きについては全便運休とされます。

 四国で最も人口が多い松山市(NHKラジオ第1放送の列島リレーニュースでは松山放送局から四国の情報が流されます)においてこのような状況です。他の地域でも推して知るべしということになってもおかしくありません。まして、観光輸送の目玉となっている坊っちゃん列車を運休せざるをえなくなっているのです。季節による変動を考えるとしても、観光列車を運休させてでも事態に対処しなければならない訳で、伊予鉄道だけでなく、松山市、さらに愛媛県にとっても打撃となるでしょう。

 妙な表現になってしまいますが、2023年秋になってから、日本各地で運転士不足のドミノ倒しが生じているような気がします。

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韓国でもモンスターペアレントの問題は深刻なようです

2023年10月13日 12時30分00秒 | 社会・経済

 今日(2023年10月13日)の朝日新聞朝刊8面14版△に「世界発2023」の「保護者の苦情 韓国でも悩む 23歳教師の自殺引き金 抗議広がる」という記事が掲載されていました。

 「韓国でもモンスターペアレントの問題は深刻なのだな」と思いました。

 モンスターペアレントの存在自体は、何も最近発生したものではないでしょう。私自身の幼少時代を思い返しても、そのような親がいたような記憶があるのです。ただ、この何年かで急速に問題化したのは、少子化の進行と関係があるのではないでしょうか。

 その少子化ですが、韓国の場合、日本以上に進行しています。上記朝日新聞朝刊記事には次のように書かれています。

 「韓国は昨年の合計特殊出生率(女性1人が生涯に産むと見込まれる子どもの数)が0.78と、日本を上回るペースで少子化が進む。子どもが減り、『一人っ子』にかける親の期待はより大きくなる。さらに、小学生のときから大学受験を見据えた受験競争が始まる。競争のストレスを受けた子どものいじめや学級崩壊も珍しくなく、親の苦情につながりやすい。」

 これではモンスターペアレントが増えてもおかしくはないでしょう。勿論、学校側、あるいは教師個人の問題がないということではないでしょう。実際、学校の隠蔽体質が報じられることはよくありますし、いじめ、飲酒、不倫などの問題を抱える教師の話も耳にします。それに、モンスターペアレントとされる人の主張をよく読むと、意外にも筋が通っている部分があったり、正論が含まれたりしているのです。しかし、たとえそうであっても一方的に何度も繰り返されたら、筋が通っているも正論も何処かへ吹っ飛びます。教師も一人の人間ですから、人格、しまいには存在自体を否定されるような言動を甘受する筋合いはないのです。

 9月16日、ソウルの国会議事堂の前に、およそ3万人の教師が集まりました。韓国全土からということなので、相当に深刻な問題が教師たちを襲っていたということでしょう。

 そのきっかけは7月18日、ソウル市の小学校教師であったAさんが勤務先で自殺したことでした。まだ23歳、教師になって2年目であったとのことです。あれこれの悪戯だの何だのを繰り返す児童への対処にもまだ慣れていないでしょうし(「慣れることなんてない!」かもしれません)、モンスターペアレントに文句を言われた際の処理方法にも慣れていないことでしょう。或る意味でモンスターペアレントにとっての格好の標的であったのかもしれません(彼らも相手を選ぶでしょうから)。

 Aさんは日記やメモを残しており、「クラスの子どもへの無力感、業務ストレス、同僚との関係、そして保護者」という箇条書きも見つかったそうです。

 9月7日には、テジョン(漢字表記は大田)でも自殺を図った小学校教師のBさんが亡くなりました。Bさんは「保護者から児童虐待の疑いで通報されていた」とのことで、「保護者ら2人が2019~22年に計16回、この教師への苦情を申し立てていたという」のです。これが事実であれば、テジョンの教育庁は一体どういう対応をしたのかという疑問も浮かぶのですが、実際のところはどうなのでしょうか。

 韓国の公立小中学校の教員で自殺した者は、2018年から2023年6月末までで100人で、2022年には19人、2023年には6月末までで11人です。今年に入ってからペースが速くなっているのかもしれません。全教員に占める割合がわからないので何とも言えない部分があるのですが、少ないなどとして無視することはできないでしょう。

 上記朝日新聞社記事を読み進めると「『虐待』証拠なしで通報可能」という小見出しが気になりました。どう考えてもおかしな話だろうと思ったからです。小見出しに続いて、次のように書かれていました。

 「さらに、韓国で教師が保護者からの苦情に強い負担を感じる背景として指摘されるのが、14年に施行された児童虐待処罰法だ。証拠がなくても、疑いさえあれば虐待として誰でも捜査機関などに通報できる。教師も強い言葉で指導すれば、通報され、場合によって起訴されるかもしれない。」

 現場を見て即通報というのであれば理解できます。また、場合によっては証拠が残らない虐待もあるでしょう。しかし、「証拠がなくても、疑いさえあれば」というのは行き過ぎでしょう。肝心の児童虐待処罰法を目にしていませんので、これ以上は書かないようにしますが、「教師も強い言葉で指導すれば、通報され」るというのはたまったものではないでしょう。児童が悪いことをしても叱れないし、教え諭すことすら困難になりかねないのです。学校でのまともな教育環境を作れないのではないでしょうか。モンスターペアレントがどの程度まで自分の子どもにまともな躾ができているのかわからないでしょうから。

 9月、韓国では初・中等教育法などの改正案が可決されました。そこで「『教員の正当な生活指導は虐待とはみなさない』と定められた」とのことです。しかし、児童虐待処罰法はそのままでした。

 韓国の過酷なほどの競争社会、とくに日本以上の学歴社会、進学熱は、日本でもよく話題にされます。そのためか、日本でも生じた問題が韓国でも生じており、深刻さは日本と韓国で同等、あるいは韓国のほうが日本を超えている、という状況に見舞われているのかもしれません。このブログに2019年8月1日21時54分30秒付で掲載した「韓国でもひきこもりの問題が」において「考えてみると、韓国は日本を超える競争社会です。その点において、ひきこもりの問題が日本以上に起こりやすく、それでいて無視されやすいという状況にあるのでしょう。兵役があるかどうかは関係がないようです。しかも、韓国でも日本でもひきこもりの現状は似ているそうです」と書きました。競争社会の歪みが、ひきこもり、モンスターペアレントなど、様々な形で現れているのでしょう。

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2024年問題どころか2023年問題?

2023年10月12日 13時00分00秒 | 社会・経済

 2023年度に入ってから、路線バスや鉄道路線の減便のニュースをよく見かけるようになりました。9月に発表された金剛自動車のバス路線全廃は衝撃的ではありましたが、或る程度は予想されていることであったのかもしれません。あまり良くない表現かもしれませんが、金剛自動車の件は昨今の公共交通機関の現状をよく示す象徴と考えてもよいでしょう。

 世に2024年問題と言われますが、これは2024年4月から事業用自動車(バス、タクシー、トラックなど)の運転手の労働時間規制が始まること、例えば残業時間に対する規制が厳しくなることから、旅客輸送、貨物輸送の双方に減便その他の影響が出る問題をいいます。COVID-19のために首都圏の深夜バスが軒並み運休となり、生活スタイルの変化なども起こったことで廃止されたりもしていましたが、それで話は終わらず、路線バスの減便などに至ることとなりました。一方、やはりCOVID-19のために、否、それ以前からネットショッピングの普及によって宅配業者の利用件数は増えたでしょうが、これからはその方面にも影響が出ることでしょう。旅客輸送、貨物輸送のいずれについても、運転手の過酷な労働の実態はよく知られておりますし、バスやタクシーでは高齢化も進んでいます。その意味において、運転手の労働時間規制は必要です(そもそも、ここまで過酷になったことの一因は規制緩和のためでしょう)。公共交通事業者は、この2024年問題に対処するために列車やバスの減便ダイヤ改正を進めている訳ですが、利用者の生活に影響が出ることも否めませんし、既に減便が実施されている地域も存在するため、2023年問題と表現してもよいのではないかと考えたのです。

 また、人口の減少、モータリゼイションの深化などにより、各地の公共交通機関は維持可能か否かが問われる水準と同じか下回るような状況に追い込まれています。そのため、従来からの路線を維持するにも費用ばかりかかりますし、運転手が不足することにもなります。さりとて、公共交通機関空白地帯が増えるならば、各都道府県、各市町村の産業政策や観光政策に負の影響が出ることとなります。私自身が大分市に住んでいた頃(今から20年程前です)に九州各地の観光地などを訪れて思ったのは、公共交通機関を利用するのでは不便に過ぎる観光地、言い換えれば自家用車で訪れることが前提になっている観光地など、遠方からの客を呼べる訳がないということです。自家用車で訪れるならば宿泊の必要もない場合が多いですし、鉄道路線もなく、バスの本数も極端に少なければ、行先とすることをあきらめる、そこまでいかなくとも戸惑うことでしょう。

 さて、本日(2023年10月12日)は長崎県の話題です。朝日新聞社のサイトに、本日の10時付で「長崎バスが来年4月から16区間を廃止 2024年問題うけ」(https://www.asahi.com/articles/ASRBC7QVPRBCTOLB00B.html)という記事が掲載されていました(以下の引用も、原則として同記事からのものです。なお、長崎バスは、長崎自動車が運行しているバスの通称です)。

 記事によると、長崎自動車は、2024年4月1日に9路線16区間を廃止することを昨日発表しました。合計で23.41kmとのことです。それだけでなく、32箇所のバス停も廃止されます。そのうちの29箇所は、2022年度における平日1便あたりの利用者が0.9人以下であるとのことで、これでは廃止されても仕方のないことでしょう(残りの3箇所の廃止理由が書かれていないのは気になるところですが)。

 9路線16区間の廃止の理由は「自動車運転者の労働時間改善のため、同月から労働時間の基準が厳しくなり運転者不足に拍車がかかる一方、沿線の人口減少と少子高齢化でバス利用者が減り続けていること」と説明されたようです。しかも、日本各地で多く見られるように「新規に募集しても応募が少ない『なり手不足』で運転者を確保しづらい状況で、他路線も将来的には減便など見直しがなされる可能性もあるという」訳ですから、かなり深刻な状況にあると言わざるをえません。

 記事には「影響をうける区間」が示されていますが、あまり詳しく書かれておらず、記事にも長崎自動車のサイトに掲載されている「路線(区間)の廃止について」を参照するように書かれていたので、実際に参照してみました。次の路線・区間が廃止予定とされています。

 ①式見経由桜の里線

 畝刈〜大見崎〜相川(5.9km。廃止される停留所は、吉原、沖平東、沖平南、大見崎、田熊の浦。)

 式見〜手熊〔海岸通り。1.3km。廃止される停留所は、式見(海岸通り)、手熊(海岸通り)。〕

 ②岬木場(野母崎)線

 岬木場〜諸町(5.1km。廃止される停留所は、岬木場、根井路、長迫、黒瀬、井上、小泊、製氷工場前。)

 ③岬木場(川原)線

 川原公園前〜岬木場(4.9km。廃止される停留所は、池田、川原木場、木場公民館、岬木場)

 ④無線中継所線

 無線中継所前〜開〔0.9km。廃止される停留所は、無線中継所前、星取、開(中継場線)。〕

 ⑤七工区線

 七工区中央〜金堀団地(0.95km。廃止される停留所は、七工区中央、七工区、金堀団地。)

 ⑥サンセットマリーナ線

 福田車庫前〜福田サンセットマリーナ(0.6km。廃止される停留所は、福田サンセットマリーナ。)

 ⑦ミニバス“元気くん”

 大学病院構内など5区間〔1.53km。廃止される停留所は、大学病院玄関前、歯学部玄関前、大橋(車庫内)〕

 ⑧ミニバスけやき台線

 三川橋〜けやき台(1.0km。廃止される停留所は、下けやき台、中けやき台、上けやき台、けやき台。)

 ⑨プレミアムライナー川平バイパス線

 上横尾〜(直行)〜横尾中央など3区間(1.23km。長崎自動車は「運行系統はR5年5月に廃止済み」と記しています。廃止される停留所はありません。)

 このブログに掲載することは避けますが、長崎自動車のサイトには地図も掲載されています。⑤のみ時津町で、他は長崎市内です。⑦は市街地と言ってよい場所であり(近くに長崎電気軌道の大学病院前電停があります)、その他は市街地から離れた場所です。⑧は、地図を見る限りではニュータウン路線ではないかと思われます。ここでもニュータウンによくある問題が見られるのでしょうか。

 長崎県を訪れたのが3回か4回、長崎市を訪れたのが1回(しかも20年以上も前)しかなく、長崎県内で路線バスを利用したことがないので(鉄軌道と徒歩だけでまわりました)、事情などはよくわかりません。ただ、今回、改めて長崎市の地図を見ると、思っていたよりもかなり広い面積を有していることがわかりました。これは、平成の大合併という大波の結果であり、2005年1月に香焼町、伊王島町、高島町、野母崎町、三和町および外海町を編入し、2006年に琴海町を編入したことによるものです。同年の長崎市の人口は45万人を超えていましたが、2023年9月における推計人口は40万人を下回っています。当時、合併のメリットがあれこれと言われていたことを思い出しますが、結局、人口は減少した訳です。おそらくは地理的な条件によるところが大きいのでしょうが、様々な社会的条件が重なっていることは言うまでもありません。

 今回は長崎県の例を扱いましたが、日本全国、各都道府県でこれからも減便ダイヤ改正の話題に溢れることでしょう。もとより、理由には各地で共通のものと各地に固有のものとがあるでしょう。それぞれの事情を観察しなければなりません。しかし、高度経済成長期、あるいはそれ以前から見られた一極集中(全国的には東京への)、モータリゼイション、鉄道敷設法に基づいたローカル線建設も一因となった日本国有鉄道の弛緩さらに破綻、公共交通機関に独立採算制を求める日本の政策などが、公共交通機関の衰退につながったと言えるでしょう。これまで、各都道府県および各市町村が公共交通機関の維持・発展にどれだけの関心(しかも真剣なもの)を向けてきたのか、疑わしいところもありますが、まちづくり、地域づくりを進めるためにも、地域の公共交通は柱の一つとして考えられる必要があります。

 それだけではありません。地方公共団体にのみ公共交通機関の維持・発展の役目を押しつけるのは筋違いです。理由は簡単で、交通のネットワークは基本的に各地方公共団体の枠を超えるものであるためです。少なくとも、ネットワークの維持のための基本線については、国が積極的に関与すべきです。勿論、地方分権の考え方を忘れてはなりませんが、地方公共団体に全てを丸投げすることとは意味が異なります。その意味において、今年の通常国会で成立し、今月1日からほぼ完全に施行された地域公共交通活性化再生法には一定の評価を下すことができますが、不十分であると考えられるのも事実です。

 ※※※※※※※※※※

 書いているうちに、九州新幹線長崎ルート、一般的な呼称では西九州新幹線のことを思い出しました。2022年9月23日に佐賀県の武雄温泉駅と長崎駅との間で開通したのですが、本来であれば九州新幹線の新鳥栖駅から長崎駅までの路線なのであり、新鳥栖駅から武雄温泉駅までの区間の開通が何時になるのか全く見込めません。これは、佐賀県の費用負担問題があるためで、同県はフリーゲージトレインの導入を条件としていたようです。在来線を活用できるからでしょう。しかし、フリーゲージトレインの開発は断念されました。フル規格で進めるしかないのです。佐賀県の立場も尊重する必要はありますが、いつまで現在のように、博多駅から武雄温泉駅までは鹿児島本線、長崎本線および佐世保線を走る在来線特急を走らせ、武雄温泉駅で新幹線に接続するという方法を採るのでしょうか。九州新幹線(鹿児島ルート)と異なり、かなり長引く蓋然性が高いと思われます。そうなれば、高速バスに乗客を奪われることも十分に想定できます。元々、九州では高速バス路線網が発達しており、利用客も多かったからです。

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金剛自動車のバス路線の存続に向けて

2023年10月11日 10時40分00秒 | 社会・経済

 金剛自動車が2023年12月20日に全バス路線の廃止を表明したのは9月11日のことでした。今日でちょうど1か月が経過したことになります。

 その理由の一つが乗務員不足でした。世に2024年問題と言われていますが、それを先取りしたような話であり、むしろ2023年問題と表現すべきであるかもしれません。日本各地で、路線バスや鉄道の乗務員不足が原因となる減便が相次いで報じられていますが、金剛自動車は或る意味において究極的な形を選んだということになります。

 また、路線バスの乗務員不足は、JR西日本、JR北海道などの赤字ローカル線の存廃問題に大きな影響を与えることとなるかもしれません。鉄道路線を廃止してバス路線に転換したところで通勤通学輸送には対応できないでしょうし、むしろバス路線のほうが先に廃止される可能性もあることから、消極的な選択として鉄道路線の維持という(様々な問題を先送りする)結果につながるでしょう。これについては北陸鉄道石川線の存続を例として見ることができます。

 また、この何年か、MaaS(Mobility as a Service)が何かと話題になっています。MaaSは、国土交通省の「日本版MaaSの推進」(https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/japanmaas/promotion/)によれば「地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです」と説明されており、AIオンデマンドバス、カーシェア、シェアサイクルなども活用しながら「都市・地方が抱える交通サービスの諸課題を解決することを目指」すこととされています。端的にみて、通勤通学輸送、とくにローカル線にとっては通学輸送という大量輸送には向きませんし、自家用車、乗用車の活用が前提となっていると考えられます。また、既存のコミュニティバスの多くは(少なくとも首都圏の状況を見ると)利便性が高いと評価することができないように思われます。路線バスの乗務員不足は、路線バス事業への参入に設けられていた規制の緩和の結果でもありますが、MaaSの普及には別の規制緩和が必要となります。場合によっては、現在の地域公共交通体系を根本から見直し、再構築をしなければならないでしょう。

 金剛自動車の話に戻ります。先週のことですが、10月5日、大阪府の河南町で、金剛自動車のバス路線の代替手段などについての協議会が行われました。毎日新聞社が10月5日19時56分付で「金剛自動車の路線バス廃止、利用者多い5路線の維持目指す」(https://mainichi.jp/articles/20231005/k00/00m/040/303000c)、朝日新聞社が10月6日7時45分付で「バス全路線廃止で市町村など協議会 5路線優先し支援バス会社と協議」(https://www.asahi.com/articles/ASRB56VX7RB5OXIE01D.html)として報じています。

 協議会に参加したのは富田林市、太子町、河南町および千早赤阪村です。ここで、金剛バスの運行エリアを次のように分けました。

 太子町エリア:2022年度の利用者数は19万人。

 河南町北部エリア:2022年度の利用者数は25万人。

 河南町南部エリア:2022年度の利用者数は24万人。

 千早赤阪村エリア:2022年度の利用者数は16万人。

 富田林市東南部エリア:2022年度の利用者数は26万人。

 以上のように分けたのは、地形、利用者数の観点によるものです。その上で、各エリアで利用者が多い路線を優先的に運行を維持する路線と位置づけました。それらは次の通りです(カッコ内は、金剛自動車の公式サイトに掲載されている路線図を基に記したものです)。

 喜志循環線(近鉄長野線喜志駅から太子四つ辻、磯長小学校前、推古天皇陵前を経由して喜志駅に戻る路線。)

 阪南線(喜志駅から太子四つ辻、阪南一須賀を経由して近つ飛鳥博物館前までの路線。)

 さくら坂循環線(近鉄長野線富田林駅から河南町役場前、さくら坂一丁目を経由して富田林駅に戻る路線。)

 千早線(富田林駅から森屋西口、千早赤坂役場前を経由して千早ロープウェイ前までの路線/富田林駅から森屋西口、松本橋を経由して楠公誕生地前までの路線/富田林駅から森屋西口、松本橋、水分を経由して水越峠までの路線。この3つのうちのいずれかが残るのかなど、詳細はわかりません。)

 東條線(富田林駅から板持、東条小学校、蒲、甘南備を経由して吉年またはサバーファームまでの路線。途中の蒲から福祉センターまでは蒲中央を経由する便もあります。)

 以上については近鉄バスおよび南海バスと協議を進めていくとのことです。

 残りの路線については、路線バスにこだわることなく、自家用有償旅客運送、乗合タクシーなどの手段も含めて検討するようです。ここで、自家用有償旅客運送とは、市町村、NPO法人、医療法人、社会福祉法人などが主体となって自家用車を使用して有償(但し、ガソリン代、人件費、事務所経費などの実費の範囲内であることが基本です)の旅客輸送を行うというものです。実際の運行はバス会社やタクシー会社に委託することも可能です。当然、ナンバーは営業車の緑ではなく自家用車の白となりますが、一定の要件を満たすことによって白タクとならず、有償の旅客輸送を行うことができるのです(道路運送法第78条第2号、同第79条以下を参照)。詳しいことは、国土交通省自動車局旅客課がまとめた「自家用有償旅客運送ハンドブック」を御覧ください。

 富田林市、太子町、河南町および千早赤阪村の協議会は、今月中にあと2回開かれるようです。そこで代替交通案をまとめるとのことですが、金剛自動車のバス路線の全てが何らかの形で存続するかどうかはわかりません。金剛自動車のバス路線図を見る限りでは上記5路線以外にも一定の需要を見込める路線がありそうなものですが、地域の事情を知らない者は経緯を見据えていくしかないのでしょう。

 私自身も、鉄道路線ほどではないですが路線バスを利用することが少なくありません。そのためもあって、路線バス網の縮小には大きな関心を寄せざるをえません。

 ※※※※※※※※※※

 このように書いていて思いだしたことがあります。「再び、大分市大字河原内」という記事に書いたことですので、御覧いただければ幸いです。バスの乗務員不足の話ではないのですが、当時のバス会社の状況をうかがうことができるかもしれません。

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やはり、JR西日本が再構築協議会の設置を要請した

2023年10月05日 08時00分00秒 | 社会・経済

 10月1日に地域公共交通活性化再生法の改正法が全面的に施行されました。

 この改正法の目玉が再構築協議会の設置です。おそらくは芸備線が再構築協議会の設置の第1号になるだろうと予想されましたが「やはり」ということになりました。10月1日から、朝日新聞社のサイトには芸備線に関する記事がいくつか掲載されるようになり、朝日新聞10月2日付朝刊1面14版△には「ローカル線再編 議論後押し 自治体と事業者 国が協議の場」、同3面14版には「赤字ローカル線協議 JR西以外は静観」という記事が掲載されました。また、10月3日の11時45分付で朝日新聞社のサイトに「JR西、赤字ローカル線の存廃協議を国に要請 全国初、芸備線が対象」(https://www.asahi.com/articles/ASRB26G7NRB1PITB005.html)として報じており、他にも関係記事が多く掲載されました。そして、10月4日付の朝日新聞朝刊30面14版に「JR西、再構築協設置を要請 広島・岡山の芸備線 国や沿線と存廃議論」という記事が掲載されました。

 再構築協議会の設置は、JR西日本から国土交通省に要請されました。岡山県および/または広島県から設置が要請されることはないだろうとは思っていました。このブログに2023年6月29日7時0分付で掲載した「『議論の場』ではないというなら、一体何の場所?」に記したように、今年の5月10日に開かれた会合の冒頭で、広島県の地域政策局長が「芸備線の『あり方』についての議論の場ではございません」と発言したとのことですから、存続を前提とするのでなければ協議はしないという立場をとるのでしょう。しかし、JR西日本は、京阪神地区で稼いだお金を他の地方の赤字路線の維持に費やしているのであり、岡山県や広島県のみならず、北陸地方(Yahoo! Japan Newsに富山県の城端線および氷見線についての記事が掲載されています。また、2024年の北陸新幹線の延伸開業によって越美北線が孤立路線となってしまうため、同線の平均通過人員の低さと相まって動向が気になるところです)、山口県、鳥取県および島根県にも問題となる路線を抱えています。JRグループの経営姿勢に何の問題もないとは記しませんが、地元の姿勢にも「真剣に議論するつもりがあるのか」、「地元の将来像を考えているのか」など疑問が湧きます。

 これまで、ただ芸備線としか記していなかったのですが、同線の全区間ではなく、備中神代駅から備後庄原駅までの68.5キロメートルの区間です。この区間の2019年度における輸送密度は48人であったとのことです。JR西日本はもっと細かく区分していますので、「データで見るJR西日本2022」60頁によりつつ、2022年度の平均通過人員を見ておくこととします。

 備中神代駅~東城駅(18.8キロメートル):89

 東城駅~備後落合駅(25.8キロメートル):20

 備後落合駅~備後庄原駅(23.9キロメートル):75

 備後庄原駅~三次駅(21.8キロメートル):327

 三次駅~下深川駅(54.6キロメートル):988

 下深川駅~広島駅(14.2キロメートル):8529

 全区間(159.1キロメートル):1170

 東城駅から備後落合駅までの区間の数値は、おそらく、JRグループで最低でしょう。この区間の数値は、2018年度において9、2021年度において13でしたので、上昇しているのです。おそらく、鉄道系YouTuberなどの鉄道ファンがわざわざ出かけては乗車しているのでしょう。実際、YouTubeを見ると芸備線を取り上げている動画がかなり多いのです。その意味では、地元民の利用は増えていないのかもしれません。

 沿線人口が減少し、公共交通機関(鉄道は勿論、路線バスなども含みます)の維持が非常に困難になっている地域で、旅客輸送の手段を残す意味があるのか。これは非常に深刻な疑問でしょう。自動車、例えば乗用車の自動運転のレヴェルが上がれば、高齢者の運転免許の問題などもかなり高い確率で解決される可能性もあります。自動運転がコミュニティバスやオンデマンド交通の不便さを解消することにつながるのであれば、鉄道や路線バスはますます不要になるという結果になりかねません。

 交通権論者がどのように考えているのかわかりませんが、交通政策基本法第5条第1項は交通手段の適切な役割分担を定めており、交通政策から自動車(自家用車などであって、公共交通機関に含まれないもの)を排除していません。つまり、自家用車から公共交通機関への転換(モーダルシフト)を意味しないのです。これは、交通基本法案の検討の段階において自動車業界から強い反発を受けたことによるものです。車社会と公共交通機関の共存あるいは並存と役割分担が、交通政策の基本に置かれるべきであるとしている訳です。その点において、交通政策基本法と地域公共交通活性化再生法との間には、矛盾とまでは言えなくとも食い違いがあります。

 また、赤字ローカル線の存続の意味として、2024年問題に絡めて貨物輸送の強化を検討する地方公共団体もあるものと思われますが、その場合には線路等級を念頭に置かなければなりません。新幹線や東海道本線などの主要幹線であれば1メートルあたりの重量が大きいレールを使っているでしょうし、路盤なども整備されているでしょう。しかし、赤字ローカル線のレールはどうでしょうか。レールや路盤などがしっかりしている路線でなければ、貨物輸送は難しいかもしれません。中国地方のJR西日本の路線には、保線の合理化という理由の下に最高速度が時速15キロメートルに制限されている区間もあることもあげておきましょう(私が知る限りでは芸備線や福塩線の一部にあります)。これとは別に、JR貨物は自己の路線をあまり保有しておらず、他のJRグループ(など)に線路使用料を支払って貨物列車を運行していますから、現状のままでは貨物輸送の強化をするとしてもダイヤの編成などで困難を抱えることでしょう。物資によっては鉄道での輸送に向いていないものもあるかもしれません。

 今、鉄道路線の維持を求める地方公共団体に望まれることは、何故に維持を求めるのかについて明確な理由を示すこと、維持される場合と廃止される場合とに分けた上で合理的かつ冷徹な検証を行うことです。夕張市などのように「攻めの廃線」(石勝線夕張支線の廃止)を行った結果、バス路線網まで崩壊の瀬戸際に立たされるのではどうしようもありません。逆に、空気しか輸送していないような鉄道路線を維持しても、ただ問題を先送りするだけでますます手が付けられなくなります。

 逆に、最も行ってはならないことといえば、感傷、ノスタルジー、抽象的なメリットの列挙です。いずれも、公共交通機関の存続にとっては有害無益なものです。その意味では、鉄道ファンの思考に頼らないほうがよいかもしれません。これは私自身への戒めでもあります。

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交通事業者の赤字は回復不可能か

2023年09月30日 00時00分00秒 | 社会・経済

 今日(2023年9月29日)の12時38分付で、朝日新聞社のサイトに「鉄道・バス事業者3割が『赤字の回復不可能』 今後2年が正念場」(https://digital.asahi.com/articles/ASR9Y3WB7R8FPPZB006.html)という記事が掲載されていました。

 岡山県に地域公共交通総合研究所という機関があります。両備グループの研究機関であるとのことです。

 その地域公共交通総合研究所が、今年の5月から6月にかけて調査を行いました。5回目であるそうで、鉄道事業者(機動事業者を含みます)、バス事業者および旅客船事業者の計504社を対象にアンケートを行い、111社から回答が得られたとのことです。

 回答率が低いことは、どこまで交通事業者の意見なり実態なりを反映しているのかという点において気になるのですが、とりあえず進めましょう。

 まず、輸送人員です。2019年度と2022年度とを比較すると、次の通りです。

 「10~30%減」:68%←2020年11月の初調査時には14%であったそうです。

 「30~50%減」:12%←初調査時には過半数を占めていたそうですが、何年度と何年度との比較であるのかはわかりません。

 次に、累積損失額です。2023年3月末時点での額です。

 「10億~50億円」:33%←初調査時は13%であったとのことです。

 具体的な数値は不明ですが、COVID-19によって痛めつけられた交通事業者の「赤字は回復不可能と見立てた事業者は30%に。特に鉄軌道事業者は40%以上と高めに推移していたが、今回は52%に上った」とのことです。やはり、大量輸送機関の鉄道事業者にとって大きな打撃であったことがうかがいしれます。内訳を知りたいところですが、中小私鉄や第三セクターの鉄道会社の中には非常に深刻な状況にあるところが多いものと推察されます。とくに、COVID-19とは関係なく、高松琴平電気鉄道、弘南鉄道の例をみればわかるように、中小私鉄の場合は施設の老朽化が激しく、根本的な打開策を採るか廃止するかの2つしか選択肢がないという状況に追い込まれています。

 地域公共交通総合研究所の調査に戻りましょう。続いてCOVID-19対策です。

 「国や自治体から支援金や給付金を受け取った」:94%

 「受給をやめたら(中略)経営が成り立たない」:68%

 「補助や支援がない場合の経営維持は『24カ月以内』」:62%←「今後2年が正念場という実情がみられた」という表現は妥当です。

 また、「持続可能な公共交通経営に向け、国や自治体の財源確保が「必要」としたのは96%。公設民営化や、自治体と協定を結び補助を受けて運行する「エリア一括協定運行」などの制度改革は76%が必要だとした」とのことです。

 以上の結果について、地域公共交通総合研究所は、8月10日に岡山市内において「全国の公共交通8事業者の代表による会議を岡山市内で開催」しており、「持続可能な地域公共交通のあり方について国への提言をまとめ、提出した」とのことです。その提言をまだ読んでいませんが、上記朝日新聞社記事によれば「提言は『2024年問題』を見据えた人手不足への対応や、公設民営といった制度改革など6項目。公共交通を地域のインフラ整備と位置づけ、まちづくりと一体で考えるべきだとしている」そうです。

 元々、地域公共交通は都市計画、地域づくりの一環として捉えられるべきものですが、これまで道路網(高速道路網を含めて)の整備にばかり目を配り、鉄道やバスなどの公共交通機関は置き去りにされてきた憾みがあります。正直なところ、地域公共交通活性化再生法が制定されたのも遅きに失したとしか思えませんし、むしろ、地域公共交通と引き換えに、自家用車の自動運転の開発を急ピッチで進めるべきなのかもしれません。ただ、高齢化が進むならば、たとえ自動運転のレヴェルが上がっても自家用車の運転を続けることのほうに問題があり(高齢者が運転するプリウスが引き起こす事故が多いことを考えてみてください)、公共交通機関をなくしてしまう訳にもいかないでしょう。難しく、厄介な問題です。

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働く女性の割合

2023年09月28日 00時00分00秒 | 社会・経済

 昨日(2023年9月27日)の7時30分付で、朝日新聞社のサイトに「働く女性の割合、福井トップ『世代を超えて働く風土』 最下位は奈良」という記事(https://www.asahi.com/articles/ASR9Q5VHLR9QULLI001.html)が掲載されていました。興味深い記事だったので、取り上げておきます。

 タイトルには「働く女性の割合」と書きましたが、これには条件があります。「配偶者がいる女性」ということです。以下、原則としてその意味で女性と記します。

 今年の7月21日に、総務省が「令和4年就業構造基本調査」の結果を公表しました。そのうち、女性の有業率が最も高いのは福井県、最も低いのは奈良県です。京都府を挟んでいる訳で、南北でこうも違うのは何故か、ということです。

 全国平均は56.3%でした。その上で、上位5県と下位5県を示しておきます。

 ①福井県:64.6%

 ②石川県:61.5%

 ③長野県:61.3%

 ④鳥取県:61.1%

 ⑤富山県:60.7%

 (6位から42位までは省略されています。)

 ㊸宮城県:53.5%

 ㊹和歌山県:53.4%

 ㊺兵庫県:52.5%

 ㊻北海道:51.4%

 ㊼奈良県:49.1%

 上位5県のうち4県が日本海側にあり、3県が北陸地方にあること、下位5県のうち3県は太平洋側にあり(兵庫県は太平洋側というより大阪湾側、瀬戸内海側ですが)、奈良県だけが50%を下回っている点が、非常に興味深い点です。

 福井県がトップであることについては、埼玉大学の金井郁教授による「福井は歴史的に製造業が多く、通勤しやすい近さに職場がたくさんある。祖父母が同居していたり近くに住んでいたりして子どもを預けやすく、世代を超えて女性は働くものという規範が強い風土だった」という解説が載せられています。福井県の場合、「全国の生産量の9割を占める眼鏡産業や繊維、機械といった製造業で働く割合は16.7%を占め、全国平均の10.8%を大きく上回る。正社員の割合も46.4%と、全国平均の41.9%よりかなり高い」とのことです。但し、福井県における女性の管理職の割合は13.8%で、全都道府県で34位でした。

 一方、奈良県が47位であることについては、東洋大学の鈴木孝弘名誉教授による「県内に事業所が少なく、大阪や京都などに働きに出る人が多い」という指摘が載せられています。これを読んで、少々古いデータですが、2012(平成24)年度決算額に基づく「人口一人当たりの税収額の指数」を思い出しました。地方法人二税〔法人道府県民税、法人市町村民税および法人事業税(地方法人特別譲与税を含まない)の合計額〕で指数が最も高いのは東京都で247.2であるのに対し、最も低いのは奈良県で43.5でした(ちなみに、福井県の指数は99.2です)。このことと無関係ではない話が上記朝日新聞社記事に書かれています。奈良県の「県外就業率は27.3%と全国3位(20年の国勢調査)で、平均通勤時間は全国7位の46分だった(21年の社会生活基本調査)」というのです(ただ、奈良県の地理を考えると、南部にはあてはまらないのではないでしょうか)。地方法人二税の指数との関連で記すならば、福井県、奈良県の事業所数をも示していただきたいものです。

 また、福井県と奈良県の違いは、年齢別の女性の有業率にも示されています。奈良県の場合は、25歳〜29歳の有業率が最も高く(それでも全国平均より低い)、30歳〜34歳の有業率が低下すると、50歳〜54歳のところまでほぼ横ばい、それより上の年齢層になると急激に落ち込みます(ちなみに、「奈良は『夫が働き、妻は家庭』という家庭像に肯定的な人の割合が、全国で最も高いという結果が、2015年に内閣府がまとめた男女共同参画白書で出ていた」とのことです)。これは全国平均にも見られる傾向ですが、福井県には全く異なると書いてもよい顕著な特徴があります。それは、女性の有業率が最も高いのは40歳〜44歳および45歳〜49歳であり、かつ、25歳〜29歳から55歳〜59歳まで、女性の有業率が80%超のままということです。福井県の事情をよく知る者ではないので、かなり気になる点です。

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あまり類例のない譲渡 大手私鉄から大手私鉄へ

2023年09月26日 16時30分00秒 | 社会・経済

 今日(2023年9月26日)付で、西武鉄道、東急電鉄および小田急電鉄が共同で「西武鉄道と東急電鉄・小田急電鉄 『サステナ車両(※)』を授受 各社連携して、SDGsへの貢献を加速してまいります」という文書(https://www.seiburailway.jp/file.jsp?newsroom/news/file/20230926_sasutenatrain.pdf)を公表しました。

 何時であったか、噂を小耳に挟んだことはありましたが、実際に行われるとは驚きました。大手私鉄から中小私鉄に車両が譲渡される例はたくさんありますが、大手私鉄から別の大手私鉄に営業用車両が譲渡される例はあまり、というよりほとんどないからです。私が知っているのは、名古屋鉄道が東京急行電鉄から3000系(初代)を通勤輸送用として大量に購入したことくらいです(リースというのであれば、京浜急行電鉄1000形(初代)が京成電鉄にリースされたという事実があります)。西武鉄道は、自社の工場で車両を作っていたくらいで(2000系、101系など)、他の大手私鉄から車両を購入するということは考えられなかったのです。

 ここで「サステナ車両」とは、西武鉄道が独自に定義したものであり、「他社から譲受したVVVFインバータ制御車両」を意味します。

 西武鉄道が東急電鉄から譲り受けるのは9000系、小田急電鉄から譲り受けるのは8000形です。東急9000系は、VVVFインバータ制御車両としては初期のもので、1986年から1991年まで製造されたものです。一方、小田急8000形は1983年から1987年までに製造されたもので、最初からVVVF制御車として登場したものでなく、界磁チョッパ制御車として製造されたものの、21世紀に入ってから一部が改造されたのでした。

 譲受の理由は、次のように書かれています。「西武鉄道では、本線系(池袋線・新宿線など)への新造車両の導入に加え、『サステナ車両』を支線系(国分寺線や西武秩父線など)に導入することにより省エネルギー化を加速し、2030年度までに車両のVVVF化100%達成を目指します」。

 まず、小田急8000形が2024年度から西武国分寺線に導入されることとなっています。次に、東急9000系が2025年度から西武多摩川線、多摩湖線、西武秩父線および狭山線に導入されることとなっています。いずれも2029年度までの予定で、小田急8000形および東急9000系の両系列を合わせて100両が西武鉄道に譲渡されることとなっています。

 西武秩父線はかなり勾配区間が多いはずですので、東急9000系で大丈夫なのかとも疑いたくなりますが、大丈夫なのでしょう。あるいは改造も行われるかも知れません。

 「サステナ車両」の導入効果は、次のように説明されています。

 「VVVF化100%による使用電力量削減に伴うCO2排出の削減(2030年度時点での想定)

 サステナ車両100両導入→年間約5,700t(約2,000世帯の年間排出量)のCO2削減

 ※旧型車両(直流モーター車)に比べ、使用電力量は約50%削減」

 「車両のリユースによるCO2削減

 ・新車製造時に排出するCO2の削減 約9,400t(1両あたり約94t・100両合計)

 ・車両廃棄時に排出するCO2の削減 約70t(1両あたり約0.7t・100両合計)」

 現段階ではあくまでも以上のように予定されているということですが、実現するとなれば、これはかなり大きな出来事です。また、大手私鉄であっても支線とされる線区の中には赤字を計上しているところも少なくないでしょう。車両の更新の在り方として、今後、他の大手私鉄に普及するか否かが注目されるところです。

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候補は芸備線と筑肥線か

2023年09月26日 01時11分30秒 | 社会・経済

 時事通信社のサイトに、気になる記事が掲載されていました。昨日(2023年9月25日)の20時30分付、「芸備、筑肥線で協議要請見込み ローカル線再編へ鉄道会社―交通再生法施行で都道府県調査・時事通信」です。

 今年の通常国会(第211回国会)において「地域公共交通の活性化及び再生に関する法律」の改正法律が成立し、10月1日に完全施行されます。その目玉商品とも言えるのが再構築協議会です。以前から、その第1号が芸備線になるのではないかという噂が流れていましたが、やはりそのようになるかもしれません。しかも、筑肥線の山本駅から伊万里駅までの区間(上記時事通信社記事では唐津駅から伊万里駅までの区間と書かれていますが、正確には、唐津駅から山本駅までの区間は唐津線です)も候補になるようです。

 時事通信社は、8月の下旬から9月の中旬にかけて、各都道府県を対象としたアンケート調査を行いました。その設問の中に再構築協議会の設置に関するものがあったようで、候補が芸備線の備中神代駅から備後庄原駅までの区間、筑肥線の山本駅から伊万里駅までの区間ということです。どちらも、同一路線でありながら線区によって平均通過人員の格差が激しい点が共通しています。芸備線の終点(広島駅)側のほうは、やはり政令指定都市の広島市を通る鉄道路線らしい平均通過人員の数値で、幹線にしてもよいくらいです。筑肥線に至っては全体として幹線に位置づけられていますし、姪浜駅から唐津駅までの区間では福岡市営地下鉄空港線との相互直通運転が行われています(但し、福岡市交通局の車両は、通常、筑前前原駅までしか乗り入れません)。芸備線を利用したことがないので同線については何とも言えませんが、筑肥線を利用したことはありまして、電化されている姪浜駅から唐津駅までの区間と、非電化のままで本数も非常に少ない山本駅から伊万里駅までの区間との格差(落差?)が激しい点には驚かされたのでした。昔はともあれ、現在は分断されていますし、同一路線としておくほうが不自然であると感じられます。

 芸備線については、既にJR西日本が再構築協議会の設置を要請する旨の意向を示しています。路線バス路線であったとしても低すぎる平均通過人員からして、当然のことでしょう。これに対し、筑肥線の山本駅から伊万里駅までの区間については、現在のところJR九州は何の意向も示していないようですが、佐賀県はかなり気にかけているようです。

 上記時事通信社の記事では「アンケートで、自治体側から協議会設置を求める予定があるか聞いたところ、いずれも『ない』と答えた」とのことです。記事の原文でも構造が見えにくい文章となっていますが、全都道府県(沖縄県を除く。後述)がどの鉄道路線についても自ら「協議会設置を求める予定」はないということのようです。また、事業者が設置を要請した場合の対応については、埼玉県、神奈川県、愛知県、山口県および香川県が応ずる旨の回答をしました。これに対し、秋田県および長野県は応じない旨の回答をしています(理由はよくわかりませんが、第三セクターの鉄道事業者との関係でしょうか)。その他の都道府県(沖縄県を除く)は「廃線を前提としない条件付きで応じる」などの回答をしたようです。

 今回のアンケートの全質問に回答をしなかったのが沖縄県です。その理由は、同県に鉄道事業者が存在しないということでした。「いや、沖縄都市モノレールがあるだろう?」とお思いの方も多いことでしょう。たしかに、沖縄都市モノレールは第三セクターの軌道事業者です。しかし、東京モノレール羽田線のように旧地方鉄道法に基づいて鉄道路線となっているモノレールもありますし、こんなところで鉄道と軌道とを厳密に分ける必要もないと思うのです。おそらく、沖縄都市モノレールの場合は再構築協議会の設置を必要とするだけの前提がないということなので、沖縄県は回答をしなかったのでしょう。

 各都道府県にはそれなりの交通事情があります。どのような選択をするのかは、各都道府県、各地域の自由です。ただ、国が全く関わらないというのは、話が違うでしょう。

 最後に少し、違う筋の話を記しておきます。地域公共交通を重視する立場の人たちから「交通税」の導入が叫ばれます。しかし、少し考えてみれば、日本では道路特定財源が存在したのであり、その硬直性が問題となったのでした。私自身、今から20年以上前に、日本税務研究センター刊行の日税研論集46号に掲載された「地方目的税の法的課題」において道路特定財源とされた地方税のいくつかについて論じており、目的税や道路特定財源の問題点について述べたことがあります(これが碓井光明先生の「要説地方税のしくみと法」で論評されており、私としても非常に光栄に思っております)。目的税や道路特定財源は、導入当初はよいものであるとしても、長く続けば悪い意味における既得権のようなものとなり、財政、さらには政治を硬直化させます。一応は租税法学や財政法学に取り組む者の立場からすれば、「交通税」を目的税や道路特定財源のようなものとして構築することに対して批判的な立場を採らざるをえません。ただ、道路特定財源が一般財源化される前に、公共交通、例えば鉄道に向けての財源に転換されることがあったならば、現在のような公共交通機関の惨状は多少なりとも防ぐことができたかもしれません。

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金剛自動車のバス路線を近鉄バスと南海バスが引き継ぐか

2023年09月13日 15時40分00秒 | 社会・経済

 今日、第二次岸田第二次改造内閣が発足しました。政策の基本線はこれまでと変わらないでしょうが、各論でならば路線の修正もありうるところでしょう。状況に上手く対応できるように政権を運営していただきたいものです。

 さて、このブログで金剛自動車が路線バス事業から撤退することを取り上げましたが、その続報がありました。読売新聞社が、今日(2023年9月13日)の10時45分付で「12月で全路線廃止の金剛バス…沿線の4市町村、近鉄・南海バスに運行引き継ぎを要請」として報じています(https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20230913-OYO1T50007/)。

 記事によると、富田林市、河南町、太子町および千早赤阪村は、12月20日をもってバス事業の廃止を表明している金剛自動車のバス路線について、近鉄バスと南海バスに運行を引き継ぐように要請したとのことです。4市町村が具体的なバス会社をあげた訳ではなく、近鉄バスおよび南海バスが読売新聞の取材に応じて明らかにしたとのことです。

 今後、おそらく「地方公共交通の活性化及び再生に関する法律」に基づく法定協議会が開かれ、国、大阪府も参加して、検討が行われることでしょう。近鉄バスと南海バスが引き受けるか、受けるとすれば妥当なところですが、両社の事情もありますから、どうなるかはわかりません。また、引き受ける場合には運行形態、路線の割り振りなどが協議されることとなります。

 記事を読んだ瞬間には、エリアからすれば近鉄バスおよび南海バスが妥当なところであると思いましたし、前に記事を書いた時にもそのように考えたのですが、両社がどのような路線を運営しているのかが気になったので、サイトを検索して路線図を見ることとしました。

 まず、近鉄バスです。金剛自動車がターミナルとしている富田林駅および喜志駅の発着となる路線はあるのですが、近鉄バスの場合は富田林駅北口または喜志駅西口から北側または西側、近鉄南大阪線や南海高野線のほうに向かう路線となっています。これに対し、金剛自動車の場合は富田林駅南口または喜志駅東口から南側または東側に向かう路線となっています。また、近鉄バスには、上ノ太子駅の発着となるバス路線がありません。上ノ太子駅が近鉄南大阪線の駅であるとはいえ、近鉄バスのエリアではないということです。敢えて記すなら、金剛自動車は上ノ太子駅から喜志駅までを結ぶ路線を運行していますので、これが近鉄バスとの接点ということになるでしょうか。

 次に、南海バスです。富田林駅、喜志駅、上ノ太子駅のいずれも南海バスのエリアではありません。千早赤阪村が運行していたロープウェイの付近で南海バス河内長野営業所の所管路線と金剛自動車の所管路線が重なる所があり〔より具体的には千早大橋バス停から金剛山ロープウェイ前(南海バス)または千早ロープウェイ前(金剛自動車)〕、千早赤阪村の一部は南海バスのエリアであると言えます。この他、富田林市も南海バスのエリアですが、太子町および河南町は南海バスのエリアではありません。

 近鉄バスおよび南海バスの乗務員事情はわかりませんが、金剛自動車のバス路線を引き受けるとしても、運行本数が減らされるかもしれません。

 一方、上記読売新聞社記事には、金剛自動車の状況が書かれています。2009年度から赤字が続いており、COVID-19の影響もあって2020年度からの3年間で計2億円ほどの赤字を計上したとのことです。また、乗客数は、2013年度には約172万人でしたが2021年度には約106万人となっています。

 9月11日にはわからなかったのですが、金剛自動車は、今年の2月に大阪府、富田林市、太子町、河南町および千早赤阪村に対して補助金の交付を要望したとのことです。勿論、経営状況の説明もなされています。しかし、詳細は書かれていないものの、何の展開もないまま4月になり、同社は近畿運輸局に対して相談をしたそうです。内容は11月での全廃です。記事には「廃業」と書かれていますので、金剛自動車はバス事業およびタクシー事業をやめ、会社の解散を検討したのでしょう。実際に、6月末日をもってタクシー事業から撤退しており、現在は路線バス事業のみを行っています。

 5月に入ってから、金剛自動車は富田林市、太子町、河南町および千早赤阪村と話し合いをしたようです。この段階では路線バス事業の継続が念頭に置かれており、6月には補助金の交付という話も出たようです。しかし、金剛自動車は「運転手確保や車両更新などの設備投資も考慮し、手遅れだと判断」して「近畿運輸局に対し、改めて12月21日以降はバス事業を廃止する方針を伝えた」とのことです。

 結局、法定協議会のようなものはこれまで行われなかったということでしょう。法的にどうなのかとは思うのですが、会社としては年内の事業廃止、そして解散を考えているということでしょう。金剛自動車のバス路線網が完全に維持されるのか、廃止路線も出てくる可能性があるのか、現段階では何とも言えませんが、利用者の立場であれば維持されることが望ましいのはいうまでもありません。

 

 なお、このブログでは、路線バス事業の廃止につき、「井笠鉄道が事業を廃止、そして会社清算へ」、「井笠鉄道事業廃止の続報」および「路線バス会社が経営破綻」として記事を掲載しております。併せてお読みいただければ幸いです。

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