おそらく地元ではだいぶ前から噂にはなっていたはずなのですが、井笠鉄道の事業廃止、そして会社の精算は、あまりにも突然の、あるいは唐突な話である、と評価してもよいでしょう。もっと早いうちに手を打っておかなかった、あるいはおけなかったことが悔やまれます。
さて、この問題の続報とも言える話が、今日の読売新聞岡山版に取り上げられているようです。同紙のサイトには「井笠鉄道路線を『公設民託』に」という記事(http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/okayama/news/20121016-OYT8T01351.htm?from=popin)が掲載されており、今後の公共交通機関のあり方を考える上で参考になると思われます。
中国バスへの移管の話は、前にも取り上げました。この中国バスという会社は岡山県の両備グループの傘下にあるのですが、広島県東部にも路線網を持っているということになります。さて、その両備グループは、井笠鉄道のバス路線を引き継ぐことになる訳ですが、無条件で、ということにはならないようです。具体的には「公設民託」方式の導入を求めているのです。あまり聞き慣れない言葉かもしれません。鉄道であれば「公設民営」とか「上下分離」という言葉のほうがなじみ深いでしょう。東北本線の一部であった目時~青森を運行する青い森鉄道がこの方法で運営しており、線路などの施設は青森県が所有し、電車の運行を同社が行っているのです。こうすると固定資産税の負担なども減ることとなります。
井笠鉄道のバス路線はすべて赤字であり、とても全路線を引き受けて中国バス単独で運行することができない、という判断があるのでしょう。両備グループは、バス車両、車庫、営業所などを地方自治体(おそらく笠岡市など)が所有し、運行のみを中国バスが行うという方式を提唱しています。同じような方法をコミュニティバスが採用していますが、それよりもっと踏み出しています。コミュニティバスの場合は、バスの車両を地方自治体が所有している訳ではないからです。
しかも、現在の井笠鉄道のバス路線の半分ほどは廃止する、という方針を示しています。そこまで行かなくとも減便の必要性を主張しています。こうなると、いっそう不便になることは明らかで、いまや県庁所在地でも珍しくない公共交通機関空白地帯が増加するでしょう。人口減少が加速することも考えられます。
以前から気になっていることは、日本では公共交通機関といえども民間会社が運営する以上は独立採算制を原則としている、という建前です。実際のところは破綻していると思われるのですが、建前は維持されています。従って、現在でも政府関係者の間に根強い規制緩和、民営化、民間活力、自己責任などの思考(新自由主義的思考)によれば、バス路線や鉄道路線が赤字だからといって運営会社が地方自治体に補助金なり赤字補填なり活性策なりを求めることはおかしいのであって、バス会社や鉄道会社の「甘え」なり「おごり」なりとしか言えないはずです。私がこうした思考を持つ地方自治体関係者(知事、市町村長)などであれば、こんな「甘え」や「おごり」を拒絶して、それこそ自己責任で処理しろとでも言うでしょう。しかし、実際にはそんな関係者はほとんど存在しません。なければ困るものであるからです。
中国バスは、とりあえずは11月から5ヶ月間について、井笠鉄道のバス路線の代替運行をするということで、中国運輸局に申請しています。来年の4月以降がどのようになるのかが注目されますが、おそらく、廃止路線が少なからず発生することでしょう。