11月15日付で記した「交通基本法案⇒交通政策基本法案」にみやさんからコメントをいただいたのですが、それに対する応答(回答?)が長くなりそうなので、改めて記事にしました。
交通政策基本法は、11月15日に衆議院で可決され、同月27日に参議院でも可決され、成立しました。公布はまだ行われていませんが、法律としては成立していますので、以下、法律とのみ記します。
御指摘の事柄は、元記事で私が下線部を引いた箇所です。ここは私も気になっていました(元記事にも書いております)。
交通基本法案として最初に提出されたのは第177回国会で、内閣提出法案でした。第181回国会で審議未了の故に廃案となり、第183回国会で、衆議院議員提出法案として改めて提出されました。よく見ると、第177回国会提出法案と第183回国会提出法案とでは違いがありますが、この点については今後、何らかの形で検討結果を公表します。今回は、その端緒です。
第1条は、第177回国会提出法案でも「交通関連事業者、交通施設管理者及び国民」が責務を負う旨を記していました。この時の法案では、第1条に「交通関連事業者」と「交通施設管理者」という言葉が登場するのに、定義は第6条に示されており、構造として問題がありました(通常、法律における用語の定義は、2番目に置かれる条項に一括して規定されますし、場合によっては同じ条の別の項で示されます)。そればかりではなく、第1条の文言にもかかわらず、「交通関連事業者」の責務、「交通施設管理者」の責務を明示的に示す規定が存在しません(国民の責務に関する規定はありましたが、努力義務です)。ほとんどの規定では「連携及び協力」の相手として位置づけられています。
第183回国会提出法案でも、以上の点は変わらなかったのですが、第177回国会提出法案になかった「交通関連事業者及び交通施設管理者の責務」に関する規定が第11条として登場します(第20条も参照)。もっとも、責務とは言っても努力義務を定めるのみです。すなわち、法的義務ではありません。この点は、交通政策基本法第10条にそのまま残されています。御指摘のように、「交通関連事業者」および「交通施設関連者」に責任を押し付けないという趣旨が含まれていることでしょう。しかし、この点は第177回国会提出法案の時点から変わらないということに注意をしなければなりません。
第2条も、第177回国会提出法案から「交通に対する基本的な需要が適切に充足されなければならない」旨を示していました。これが交通政策基本法第2条で「交通に対する基本的な需要が適切に充足されることが重要であるという基本的認識」に改められています。適切な充足が求められるのですから、地域の実情に応じたものにする、ということでしょう。その点でも、まさに御指摘の通りです。
しかも、第177回国会提出法案の第21条、および第183回国会提出法案の第23条は「総合的な交通体系の整備等」という見出しの規定であり、その第1項には「徒歩、自動車、鉄道車両、船舶、航空機その他の手段による交通が、それぞれの特性に応じて適切に役割を分担し(後略)」という文言が登場します。自動車から自家用車が排除されていないことからして、公共交通機関だけが選択肢ではないことが明らかです。なお、これらの法案には何故か自転車が示されていなかったのですが、同じ趣旨を定める交通政策基本法第24条第1項には「徒歩、自転車、(後略)」と定められています。
まだ続けるべきなのかもしれませんが、私が研究を続けなければなりませんから、ここで止めておきます。交通政策基本法は、国が講ずるべき「必要な措置」を多く規定していますが(第16条から第31条まで)、必ずしも公共交通機関の保護・育成、充実ばかりを定めているものではありません。むしろ、地域の実情によっては公共交通機関が「適切な役割分担」から外される可能性を否定していないのです。高速道路網など、自家用車などの利用を前提とした交通網の整備が加速される可能性もあります。
もう一つだけ記しておくと、交通政策基本法には地方公共団体の施策に関する規定が第32条にのみ置かれています。政権交代以後、地方分権がどこかへ消え去ったかのような印象を受けているのですが、それを象徴するような規定でもあります。交通は一市町村、一都道府県に留まらない部分を多く持つため、施策を講ずるにも難しいのですが、或る意味で地方公共団体の気概なり意向なりがわかる分野でしょう。