ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

実現可能なのか? 阪急神戸線と神戸市営地下鉄西神・山手線の相互直通運転 その2

2013年12月11日 10時22分26秒 | 社会・経済

 前回に記した阪急側の事情は、多分に私の推測です。ただ、当たらずとも遠からず、と考えています。関西経済圏の縮小という大問題があることは承知していますが、それを考慮に入れても、阪急には新たなネットワークを構築する必要性があるものと判断されたのではないかと思われるのです。また、阪急阪神グループの再編なども視野に入れていると考えられます。

 かつては「永遠のライバル」とも言われ、戦前には実際に阪急(この時代は阪神急行電鉄)と多くの紛争を構えた阪神電気鉄道も、JR西日本の攻勢を受けて乗客の減少に見舞われました。JR東西線の開通も、阪神本線にとっては打撃であったはずで、大阪府内の各駅(とくに、特急が通過する駅)では大幅な乗降客減が見られました。

 もっとも、阪神西大阪線が難波まで延長して阪神なんば線となり、近鉄奈良線との相互直通運転を開始してからは、利用客が増加に転じたかもしれません。そうなると、阪急神戸線の存在は霞んできます。JR西日本の攻勢は続いており(岡本に続いて夙川に特急が停車するようになったのが象徴的です)、たとえば福知山線、東西線、学研都市線(片町線)の直通運転を行い、東海道本線・山陽本線の新快速の運転区間を拡大するなど、京阪神地区での広域ネットワークを構築しています。阪神も、遅ればせながら近鉄奈良線への乗り入れを通じて広域ネットワークを構築し、やろうと思えば近鉄名古屋から阪神なんば線、阪神本線、神戸高速鉄道東西線を経由して山陽姫路までの直通特急を走らせることができるようにまでなっています。

 広域ネットワークにはデメリットもあります。首都圏の例でわかるように、埼玉県や栃木県で人身事故が発生すると、都内は勿論、神奈川県内にまで遅延などの影響が出ます。JR湘南新宿ラインが典型的ですし、東急東横線や田園都市線でも見られるようになりました。それでも、首都圏で再構築と広域化が図られることにより、利用可能性が大幅に増えるというメリットが大きいのです。

 JR西日本の場合は自社路線だけでネットワークの広域化が可能ですし、阪神や近鉄は他社への乗り入れによって可能としています。もっとも、この点では関東の大手私鉄のほうが進んでいます(電車のバリアフリーという点でも、昔から関西は遅れています。手すりが少なすぎるのは昔から今も変わりません)。関西の大手私鉄は、阪急京都線と大阪市営地下鉄堺筋線との直通運転のような例は見受けられるものの、あまり積極的ではありません。これには、大阪市営地下鉄の影響などがあるでしょう。それにしても、近年の状況を見ると、ネットワークの再構築への積極性では態度が分かれます。積極的なのが阪神と近鉄で、とくに近鉄は大阪市営地下鉄中央線や京都市営地下鉄烏丸線への乗り入れも行っています。逆に消極的なのが京阪(京都市営地下鉄東西線への乗り入れはありますが)、南海(泉北高速鉄道への乗り入れはありますが)、そして阪急です(上記の他に宝塚線から能勢電鉄線への乗り入れがありますが、片乗り入れという状態です)。阪急の場合は、前回にも記したように山陽電鉄への直通運転を中止しているくらいですから、縮小している訳です。ネットワークを狭めるような結果になっていますし、京都側のネットワークを広げることは難しいので、神戸側の新たな可能性を模索しているというところでしょう。

 さて、阪急神戸線と神戸市営地下鉄西神・山手線の相互直通運転は、実現可能なのでしょうか。

 この問いに対しては、技術的な観点、経済的な観点など、複数の方向からの検討が必要となります。ただ、私は土木技術などについては全く手が出ませんので、かなりの程度で趣味的な視点から記していきます。

 相互直通運転を開始するには、接続駅が必要です。どちらも既存の路線ですから、どちらか一方が大幅な改造を行う必要があります。少しばかり考えると「こういう話は40年くらい前に済ましておけばよかったのに」と思うことにもなりますが、今更どうしようもありません。

 そこで路線図を見ますと、阪急神戸線と神戸市営地下鉄西神・山手線との直接の乗換駅は、三宮しかありません。しかし、阪急神戸線の三宮駅は高架線上にあるのに対し、西神・山手線の三宮駅は北側(山側)に少し離れた地下線の途中にあります。しかも、地下鉄の駅は狭い道路の下にあるためか、ホームが二層構造になっています(東京で言えば桜新町駅、麹町駅、神楽坂駅のような構造です)。このままでは直通運転など無理ですから、阪急の三宮駅を地下化するという手が考えられます。実際に、この案が示されているようです。

 但し、今の高架駅の場所に地下駅を作っても、別の場所にある点は変わりません。連絡線を造るとしても、阪急の三宮駅と地下鉄の三宮駅が別々になっているのでは混乱します。下手をすれば、京都市営地下鉄東西線の山科駅と京阪山科駅との関係のようになってしまうのです。誤乗などが頻発するでしょう。

 そうなると、望ましいのは、阪急三宮駅の地下化とともに阪急と地下鉄の駅を統合することです。建設場所によっては西神・山手線のルートが変わりますが、やむをえないところです。どちらが管理するかということなどを明確化しておけば、実現の可能性は低くありません。

 ただ、この案を採用するとなると、地形的な問題、技術的な問題、財政上の問題の他に、神戸高速鉄道東西線の三宮・高速神戸間をどうするのかという問題が残ります。阪急としては、西神・山手線との相互直通運転を開始したら神戸高速鉄道東西線への乗り入れを中止することも念頭に置いているかもしれません。しかし、そうなると三宮・高速神戸間は廃止されることになりかねません。地下駅の高速神戸はともあれ、途中にある地下駅の花隈は廃駅となるのでしょうか。日本で地下鉄史上初の廃止区間、廃止駅が登場するかもしれませんが、何らかの活用方法が考えられて然るべきでしょう(神戸高速鉄道には神戸市も出資しています)。

 ここで、他の手も考えてみましょう。第二の手としては、阪急三宮駅を(高架のままに残しておくか地下化するかは別として)地下鉄三宮駅とは別のままにしておいて、県庁前駅付近から分岐線を造り、新神戸方面は地下鉄三宮駅、梅田方面は阪急三宮駅というように振り分けることが考えられます。首都圏で言えば京王線と京王新線の関係、あるいは東武伊勢崎線の曳舟・東京スカイツリー間と曳舟・押上間の関係に近い(?)ものとなります。費用はかかりますが、どのみち避けられない話です。この手のメリットは、阪急が神戸高速鉄道乗り入れの選択肢を残しておけることですが、意味がないかもしれません。

 第三の手として、阪急のほうが春日野道駅か王子公園駅から地下鉄三宮駅への連絡線を建設するという手もあります。これは、現在の阪急三宮駅を高架駅のままにしておき、神戸高速鉄道東西線への乗り入れも維持する、という前提の下で考えられるものです。

 但し、この案にも難点があります。一つには、阪急と地下鉄とで駅が別々になるという点に変わりがないことです。もう一つは、おそらく工事が非常に難しくなるということです。原因は、先程記した、地下鉄三宮駅の構造です。二層構造のため、この駅に連絡線を造るとなると、距離の問題もあれば分岐点などの問題もあります。西神・山手線は、三宮駅を出ると急カーブで北の方へ曲がり、新神戸駅に向かいます。かなり困難であることが予想されます。さらに、阪急側に資金での余裕があるかどうかです。春日野道駅か王子公園駅までの新ルートを建設しなければなりませんから、土地買収などの面で困難が予想されます。また、春日野道駅はホームの幅が狭いことでも知られていますので、改良工事を同時に行う必要もあります。このように考えていくと、あまり現実的な案とも言えません。

 その他の手としては、三宮駅で接続するのではなく、たとえば花隈駅を活用して連絡線を新たに建設するという事も考えられますが、阪急・神戸高速・神戸市と跨がるのでは面倒な話で、運賃の点でも疑問です。

 考えようと思えばいくらでもできる話ですが、最も現実的にして高い利便性を生み出す方法が最善です。莫大な費用がかかることからして、そもそも相互直通運転には慎重たらざるをえないかもしれません(むしろ、実現の可能性は低いと評価してもよいでしょうが)。しかし、検討には値するでしょう。いかなる結果が出るか、注目すべきところです。

 蛇足ですが、神戸市の中央区、兵庫区など、海から山までの南北に狭い平地に、JR東海道本線・山陽本線、神戸市営地下鉄西神・山手線、神戸市営地下鉄海岸線、神戸高速鉄道東西線(阪急、阪神、山陽に直通)が並行しているのを見る度に、実に無駄な路線網であると感じます。何度か神戸を訪れ、これらの路線を利用しましたが、その度ごとに「こんなにたくさんの鉄道路線が通っていても、食い合いで終わるだろう」と思っています。一度、海岸線を利用したのですが、乗客の少なさには驚きました。地図などを見ても、他の鉄道路線とそれほど離れていない場所を走っているのです。何のために建設したのか、意味がよくわかりません。海岸線に限りません。神戸市は、既に神戸高速鉄道という第三セクターを作り、出資していたのにもかかわらず、その東西線と並行するような形で地下鉄を建設しているのです。どのような需要予測が立てられたのか、興味深いところです。

コメント (9)
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