ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

JR九州の減量ダイヤ改正

2017年12月17日 00時52分31秒 | 社会・経済

 何度も書いていることではありますが、私は1997年4月から2004年3月まで大分大学教育学部に講師および助教授として勤務しており、2004年から2012年まで西南学院大学および福岡大学での集中講義を担当しました。大分大学時代には月に何度か豊肥本線のディーゼルカーや日豊本線の電車に乗りましたし、集中講義のために福岡に滞在していた時には地下鉄、西鉄、JR九州の路線によく乗りました。そのため、九州の鉄道路線の動向には強い関心を持っています。

 2016年10月、JR九州は東京証券取引所第1部に上場しました。いわゆる三島会社では唯一であり、JR四国およびJR北海道よりは基盤が固いとも言えるのでしょうが、それは本業と言える鉄道事業によるものではありません。むしろ、鉄道事業の赤字は続いています。そのような中で、JR九州が減量ダイヤ改正を行う意向であることが、毎日新聞社により報じられました。12月15日21時20分付の「<JR九州>ダイヤ改正で運転117本減 事業効率化を図る」(https://mainichi.jp/articles/20171216/k00/00m/020/120000c)です。

 3月と言えばJRグループのダイヤ改正が行われる月ですが、2018年のダイヤ改正は3月17日に行われる予定です。JR九州は、その改正によって全路線の運転本数を3118本から3011本に減らし(3.7%減となります)、平日における1日あたりの運転距離を185,000㎞から172,000㎞に減らします(7%減です)。これは1987年にJR九州が誕生してから最大となる減少であり、新幹線も、在来線の特急も、快速も普通も本数が削減されたり区間が短縮されたりします。

 とくに本数削減が目立つのは鹿児島本線の大牟田〜荒尾で、136本から90本になるようです。また、肥薩線の人吉〜吉松は10本から6本に減るといいます。現在は5往復ですので3往復に減るということになります。日豊本線の佐伯〜市棚も普通列車が3往復しかありませんが、こちらは特急が何往復か走っています(但し、佐伯駅以外の駅には止まりません)。肥薩線の人吉〜吉松には特急が走っていないので、ダイヤ改正によって営業列車は純粋に3往復しかないということとなります。また、肥薩線の吉松〜隼人(さらに日豊本線を経由して鹿児島中央まで)には「はやとの風」という観光列車が走っていますが、これを不定期化するようです。

 私も大分市に7年間住んでいましたので、九州のほぼ全域が自動車社会であることは承知しています。乏しい経験からしか記せませんが、それでも福岡県内、佐賀県内、長崎県内および大分県内の全鉄道路線を利用したことがありますので、自家用車がなくとも首都圏でのように生活できると私が感じるのは、福岡市営地下鉄空港線および箱崎線の沿線、西鉄天神大牟田線の西鉄福岡(天神)〜西鉄二日市(もう少し頑張れば筑紫まで、または太宰府線の太宰府まで)、長崎電気軌道の路面電車が走る一帯、熊本市電が走る一帯、という程度でしょうか。

 そのため、この記事に限らず、同類の記事に書かれている沿線自治体の関係者の意見・コメントを読んでも、白々しいというか、「今更何を言っているのだ?」という思いが強く出てきます。例えば、吉松駅がある鹿児島県湧水町の担当者のコメントとして「高齢者や観光客にとって利便性が悪くなる。地域の交流人口の増加を目指そうとしているのに痛手だ」という意見が掲載されていますが、それは何時からのことかと尋ねたくなります。高齢者はともあれ、観光客については、沿線自治体はむしろ高速道路、国道、県道などの整備を声高に主張してきたのではなかったのでしょうか。九州に限られた話でもないのですが、少なからぬ観光地は、自家用車で向かうことを前提として整備されてきたような節があります。

 観光地に限りません。都市についても同様と言えるでしょう。

 JR九州にも問題がない訳ではないでしょう。収益を呼ぶと思われてきたようなものであっても、見直さなければならないものがあるはずです。たとえば、豪華寝台列車と位置づけられている「ななつ星in九州」は、鉄道事業の収益、鉄道の利便性などにどれだけ貢献しているのでしょうか。登場時点では大きな話題を呼んでも、利用できる客が限定されているのであれば、成長をそれ程見込むことはできないでしょう。また、JR九州と言えば水戸岡鋭治氏のデザインによる車両(鹿児島本線の特急「つばめ」で有名だった787系、博多〜大分・佐伯の特急「ソニック」用の883系など)が有名ですが、こうした車両もどこまで鉄道事業に貢献してきたのか、冷静な検証が必要でしょう。

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行政法1A・行政法1B(大東文化大学)、行政法1(国学院大学)で扱った判決(2)

2017年12月17日 00時00分00秒 | 法律学

 今回は、信義誠実の原則、および、権利または権限の濫用などに関する判決です。

 

 ●東京高判昭和41年6月6日行裁例集17巻6号607頁(文化学院非課税通知事件)

 事案:原告Xは民法上の財団法人である。Xは、自らが保有し、直接教育の用に供している土地および建物について固定資産税を非課税とするように求める文書を東京都千代田税務事務所長に提出した。同事務所長は、本件土地および建物が地方税法第348条第2項第9号に該当するものと誤認し、本件土地および建物については非課税とする趣旨の決定を行い、通知した。しかし、それから8年ほど経ち、同事務所が調査したところ、Xの土地および建物は非課税物件ではなく、課税物件であることが判明した。そこで、同事務所長は本件土地および建物について固定資産税を賦課徴収するという趣旨の決定をし、Xに送付した。Xは固定資産税を納めなかったので、Y(東京都知事)が土地について差押処分を行った。Xは、この差押処分の取消を求める訴訟を提起し、固定資産税賦課処分の無効も主張した。東京地判昭和40年5月26日行裁例集16巻6号1033頁は、本件について信義誠実の原則(同判決では禁反言の原則)の適用を認め、差押処分を取り消したが、Yが控訴した。東京高等裁判所は、次のような趣旨を述べてXの請求を棄却した。

 判旨:税務事務所長の通知が何らの法的効果を生ずるものでもなく、単に所長の関係や部内の方針を知らせた事実上の通知にすぎず、他方でXが学校法人でもないのに本件土地建物が非課税物件であると誤解しており、通知が誤解を深めたという程度にすぎない。このような「誤解に基づく違法な取扱いは少しでも早く是正されるべきであ」る。

 

 ●最三小判昭和62年10月30日判時1262号91頁

 事案:Xは、Aが経営する酒屋に勤めており、しばらくしてからは実質的に経営をなすようになった。Aは青色申告について所轄税務署長Yの承認を受けており、昭和29年分から昭和45年分まで、事業所得に関する青色申告はAの名義で行われていた。しかし、昭和47年3月に行われた昭和46年分の青色申告はAの名義ではなく、Xの名義で行われている。Xは青色申告についてYの承認を受けていなかったが、何故かYはX名義の青色申告書を受理し、その後、昭和47年分から昭和49年分についても青色申告用紙をXに送付し、Xの青色申告を受理していた(なお、Aは昭和47年秋に死亡している)。或る日、YがAの相続人について相続税の調査を行った際に、Xが青色申告の承認を受けていないことが判明した。そこで、Yは昭和48年分および昭和49年分の青色申告の効力を否認し、白色申告とみなして更正処分を行った。Xは、この更正処分が信義誠実の原則に違反するとして処分の取消訴訟を提起した。福岡地判昭和56年7月20日訟務月報27巻12号2351頁および福岡高判昭和60年3月29日訟務月報31巻11号2906頁はXの主張を認めた。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、次のように述べて破棄差戻判決を下した。

 「租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、右課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、右法理の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて右法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、右特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、のちに右表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の右表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならない」

 〔黄色マーカー部分をまとめると、信義誠実の原則が適用されるためには、次の3点が必要である。

 ①信頼の対象適格性:行政庁が、納税者(例.青色申告者)に対して信頼の対象となる公の見解を、通達の公表など一般に対し、あるいは申告指導のように個別に示したこと。

 ②信頼保護の正当性。行政庁の表示を納税者が信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて、納税者に帰責事由があるか否か(帰責事由があれば保護されないこととなる)。

 ③信頼保護の必要性。②で納税者に帰責事由がなく、後に行政庁の表示と異なる行為(処分)が行われたために、納税者が経済的不利益を被ったか否か、〕

 

 ●最三小判昭和56年1月27日民集35巻1号35頁

 事案:Xは、沖縄県のY村に製紙工場を建設する計画を立てた。Y村の当時の村長であったAは、Xからの陳情を受け、工場を誘致してY村所有の土地をXに譲渡する旨の議案を村議会に提出した。これが可決されてから、AはXの工場建設に全面的に協力する旨を言明し、さらに手続を進めた。Xも、村有地の耕作者に対する補償料の支払い、機械設備の発注の準備などを進め、工場敷地の整地工事も完了させた。ところが、ちょうどその頃に村長選挙が行われて工場誘致反対派のBが村長に当選し、就任した。BはXに対し、工場の建設確認申請に同意しない旨を伝えた。Xは、工場の建設や操業ができなくなったとして、Y村を相手取って損害賠償を請求する訴訟を起こした。第一審判決および第二審判決はXの請求を棄却したが、最高裁判所第三小法廷は破棄差戻判決を下した。

 判旨:「地方公共団体の施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則は地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則であり、また、地方公共団体のような行政主体が一定内容の将来にわたつて継続すべき施策を決定した場合でも、右施策が社会情勢の変動等に伴つて変更されることがあることはもとより当然であつて、地方公共団体は原則として右決定に拘束されるものではない。しかし、右決定が、単に一定内容の継続的な施策を定めるにとどまらず、特定の者に対して右施策に適合する特定内容の活動をすることを促す個別的、具体的な勧告ないし勧誘を伴うものであり、かつ、その活動が相当長期にわたる当該施策の継続を前提としてはじめてこれに投入する資金又は労力に相応する効果を生じうる性質のものである場合には、右特定の者は、右施策が右活動の基盤として維持されるものと信頼し、これを前提として右の活動ないしその準備活動に入るのが通常である。このような状況のもとでは、たとえ右勧告ないし勧誘に基づいてその者と当該地方公共団体との間に右施策の維持を内容とする契約が締結されたものとは認められない場合であつても、右のように密接な交渉を持つに至つた当事者間の関係を規律すべき信義衡平の原則に照らし、その施策の変更にあたつてはかかる信頼に対して法的保護が与えられなければならないものというべきである。すなわち、右施策が変更されることにより、前記の勧告等に動機づけられて前記のような活動に入つた者がその信頼に反して所期の活動を妨げられ、社会観念上看過することのできない程度の積極的損害を被る場合に、地方公共団体において右損害を補償するなどの代償的措置を講ずることなく施策を変更することは、それがやむをえない客観的事情によるのでない限り、当事者間に形成された信頼関係を不当に破壊するものとして違法性を帯び、地方公共団体の不法行為責任を生ぜしめるものといわなければならない。そして、前記住民自治の原則も、地方公共団体が住民の意思に基づいて行動する場合にはその行動になんらの法的責任も伴わないということを意味するものではないから、地方公共団体の施策決定の基盤をなす政治情勢の変化をもつてただちに前記のやむをえない客観的事情にあたるものとし、前記のような相手方の信頼を保護しないことが許されるものと解すべきではない」。

 

 ●最二小判昭和53年5月26日民集32巻3号689頁および最二小判昭和53年6月16日刑集32巻4号605頁

 事案:X社は、個室付公衆浴場の設置を計画し、山形県公安委員会に営業許可を申請した。しかし、この計画を知った余目町(現在は庄内町の一部)は、個室付公衆浴場の予定地である場所から200mも離れていない場所にA児童遊園を設置するために県知事に認可を申請し、X社への営業許可よりも早い日に認可を得た。X社は個室付公衆浴場を開業したため、同県公安委員会から営業停止処分を受け、また、風俗営業等取締法違反に問われて起訴された。そこで、X社は、営業停止処分の取消を求めて出訴するとともに(途中で山形県に対する国家賠償請求訴訟に変更した)、刑事訴訟においては無罪を主張した。

 判旨:「所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし是認することができ、原判決に所論の違法はない。そして、原審の認定した右事実関係のもとにおいては、本件児童遊園設置認可処分は行政権の著しい濫用によるものとして違法であり、かつ、右認可処分とこれを前提としてされた本件営業停止処分によつてX社が被つた損害との間には相当因果関係があると解するのが相当であるから、X社の本訴損害賠償請求はこれを認容すべきである」。(前掲最二小判昭和53年5月26日から引用)

 「本来、児童遊園は、児童に健全な遊びを与えてその健康を増進し、情操をゆたかにすることを目的とする施設(児童福祉法40条参照)なのであるから、児童遊園設置の認可申請、同認可処分もその趣旨に沿つてなされるべきものであつて、前記のような、X社のトルコぶろ営業の規制を主たる動機、目的とする余目町のA児童遊園設置の認可申請を容れた本件認可処分は、行政権の濫用に相当する違法性があり」、X社による個室付き公衆浴場の「営業に対しこれを規制しうる効力を有しないといわざるをえない」。(前掲最二小判昭和53年6月16日から引用)

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