ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

また新幹線? 国鉄赤字ローカル線の二の舞になるのでは?

2017年12月20日 02時06分44秒 | 社会・経済

 私が生まれ育った川崎市には、中原区に東海道新幹線が通っているものの、駅はありません。武蔵小杉駅がすぐそばにあるのに、まさしく通っているだけです。また、中原区、高津区、宮前区および麻生(あさお)区は、リニア新幹線のルートにもなっているのですが、やはり駅ができる予定はありません。新幹線が通る政令指定都市で、駅がないというのは川崎市だけです。しかし、駅を作れという運動は聞いたことがありません。

 どうでもいい話はここでやめて、本題に入りましょう。

 2017年12月18日(月)付の朝日新聞朝刊4面13版●に「360° 我が町に新幹線 再び熱 全5ルート確定『次の計画決めるのでは』」という記事が掲載されていました。これを読んで、すぐに「国鉄赤字ローカル線の二の舞になるのではないか」と考えてしまいました。何せ、二の舞が大好きで、「二度あることは三度ある」が好きな国民性です。

 折しも、このブログに12月17日(日)0時52分31秒付で「JR九州の減量ダイヤ改正」という記事を載せました。そこではあまり強調しなかったのですが、九州新幹線でも減便する方向性が採られています(「さくら」と「つばめ」を合わせて6本とのことです)。また、新玉名駅のように、駅そのものは有人駅でもホームに駅員がいないという駅もあります。それ以上に在来線の状況がよくなく、JR九州の全駅の過半数が既に無人駅ですが、いっそう増えることとなるようです。

 北海道新幹線の営業状況も芳しくないと聞きます。もっとも、こちらは部分開業ですから何とも言えませんが、青函トンネルを含む区間で貨物運輸も行わなければならない関係で東京駅から新函館北斗駅まで4時間を切ることができなかったことは大きいようです。この4時間というのが、新幹線か飛行機かを選択するのに重要なポイントであるとも言われており、4時間を超えると新幹線に勝ち目はないらしいのです。私自身も、京阪神地区へ行くなら新幹線を選びますが、福岡へ行くとなれば飛行機を選びます。

 本題に戻りましょう。全国新幹線鉄道整備法が制定されたのは1970(昭和45)年のことです。その6年前、つまり1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業しますが、国鉄が赤字に転落したのもその年でした。当時の鉄建公団が建設を担当した赤字ローカル線を国鉄が引受けさせられたりするなど、様々な問題があり、1970年代になると、鉄道敷設法において予定線とされた路線の建設が、予算などの関係で滞るようになります。先送りも大好きな日本国民の特性は、こういうところで生かされ、結局、巨費を注ぎ込みながらも建設中止という、或る意味で最悪の結果を各地で生んでしまいました。

 それから何十年も経つと、当時の記憶は薄れるのでしょうか。このところ、計画に留まっている新幹線路線の整備路線への格上げを求める動きが顕在化しています。今年の春に、北陸新幹線の京都〜新大阪が決まって整備新幹線の全ルートが確定したことが大きいようです。

 上記朝日新聞朝刊記事に登場するのが四国新幹線です。勿論、四国島内だけを走るのではありません。大体、大阪市から四国を通って大分市までというルートのようです。明石海峡大橋および大鳴門橋も、実は四国新幹線のルートの一部であり、大鳴門橋は新幹線の走行が可能であるように建設されていますが、明石海峡大橋は道路専用橋梁です(当初は新幹線の走行も想定されていたそうですが、変更されました)。

 四国新幹線の整備路線格上げを求める署名は12万人分程が集まったそうですが、地方公共団体はともあれ、住民はどれほど欲しているのでしょうか。JR四国は積極的な態度を示しているようです。状況からして理解できますが、自動車からどれだけのシェアを奪い返せるか、疑問が残ります。地域柄、京阪神地区との連絡については優位に立てる可能性もありますが、首都圏との連絡となると難しいでしょう。

 また、促進運動を見ていると、歴史は形を変えながら繰り返すのかもしれない、と思われてきます。国鉄赤字ローカル線についても、我田引水ならぬ我田引鉄と言われる現象があり、少なからぬ地方公共団体が建設促進の旗を高く掲げました。しかし、人口、貨物量などからして期待できる程のものではなかった上にモータリゼイションが急速に進むなどの社会情勢があり、建設にストップがかかるのは当然の流れでした。新幹線計画についても同様でしょう。

 四国新幹線の終点(?)とも想定される大分県には、東九州新幹線計画もあります。概ね、小倉駅から鹿児島中央駅までというルートのようで、日豊本線の線増と考えてもよいでしょう。国鉄時代には、東海道新幹線も山陽新幹線も在来線である東海道本線、山陽本線の線増として扱われており、別路線とは考えられていなかったのでした。

 さらに、記事には山形新幹線と秋田新幹線が登場します。どちらもミニ新幹線と言われていますが、実はどちらも正式には新幹線ではなく、在来線です。山形新幹線の福島駅から新庄駅までは奥羽本線、秋田新幹線の盛岡駅から大曲駅までは田沢湖線、大曲駅から秋田駅は奥羽本線です。しかも田沢湖線は地方交通線であり、輸送量が多い訳ではないのです。今でも山形新幹線と秋田新幹線の営業区間には「?」がつきますが、「新庄駅から大曲駅までを新幹線の区間として秋田まで延伸し、田沢湖線は在来線で残したほうが、まだよかったのではないか」と考えるのは浅すぎるでしょうか。両新幹線のために奥羽本線がズタズタに引き裂かれ、東日本大震災を受けての迂回運輸(とくに貨物)に支障が出たという話もよく耳にするのです。

 その山形新幹線と秋田新幹線については、ミニ新幹線ではなく、フル規格の新幹線を目指そうという動きが、山形県と秋田県にあるようです。山形新幹線をフル規格化した上で奥羽新幹線として秋田駅まで伸ばし、さらに羽越新幹線の実現を目指そうということのようです。

 しかし、夢は夢、現実は現実です。やはり整備新幹線の工事だけでも予算が足りないようです。北海道新幹線、北陸新幹線、九州新幹線長崎ルートの工事に3兆円以上が必要だというのですが、毎年度の予算は700億円台だというのです。これも鉄道敷設法施行時とあまり変わらない状況です。よく「バラマキ予算」と言いますが、言い換えれば「広く薄く」の予算で、メリハリが全くありません。今年度の予算では調査費が2億8000万円ほどとなっていますが、人口減少社会に新幹線を建設し、開業させるだけの意味がどれほどあるのでしょうか。

 書名などを忘れてしまいましたが、私は東京への一極集中を論じた本を何冊か購入しており、その中の1冊に、一極集中の原因の一つが新幹線であると論じたものがあるのを覚えています。高速道路についてもストロー現象が指摘されますが、それと同じようなものが新幹線についても存在するというのです。どこまで当たっているかはわかりませんが、理解できる話ではあります。たしかに、交通が便利になれば、あちらこちらに支社・支店を置かず、東京にある本社から出向けばよい訳です。日帰りが可能であれば、わざわざ東京以外の地域に支社・支店を置く必要もなくなるでしょう。ビジネスだけでなく、観光についても、どこへ行っても判で押したような観光地へ行くならば、東京のほうが面白いということになりかねません(いや、多少はそうなっているでしょう)。

 12月11日(月)に、新幹線の台車に亀裂が入って台車枠が破断寸前に至っていたにもかかわらず、異常がわかってからも運行を続けていたという事件がありました。よくインシデントという言葉が使われていますが、incidentには偶発事件という意味もあれば事変という意味もあります。accidentよりは小さいのですが、脱線事故などというaccidentにつながって死傷者が出なかったのが幸いです。新幹線の車両は在来線の車両より高速で走り、一日あたりの走行距離も長い(一年当たりでも同じでしょう)ということもあって寿命が短く、しかも高額です。線路などの施設も、在来線より高額となります。それだけのコストをかけるには、多くの乗客が見込まれるのでなければなりません。いや、見込みでは甘くなるので蓋然性というくらいの表現が適切でしょう。地元の何とかという(端から見れば意味不明の)感情論は最も危険であって、避けなければならないのです。さもなければ、開業しても利用者が少なくて「お荷物」どころかゴミになりかねないと言えるでしょう。そうでなくとも、人口減少が進んでいく日本社会です。整備新幹線に格上げされたリニア新幹線にしても、莫大な費用などをかけてどれだけの有意義な路線になるのか、見通しは不透明であるとしか言えません。

 地元の政治家や地方公共団体は未来に向けて資産を形成したいということで新幹線の整備を叫ぶのでしょう。しかし、将来の世代にとっては、朝日新聞の不定期連載の表現を借りるなら不動産ならぬ「負動産」と同じようなもので、持っていても負担になるだけなので処分したいが、そうしたくても処分できない負債になりかねません。まあ、親が作った負債を子が返すというのは、或る意味で最大の親孝行であるとも言えますから、今の世代は採算など一切考えず、やりたいことをやるのが正解なのかもしれません。

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行政法1A・行政法1B(大東文化大学)、行政法1(国学院大学)で扱った判決(5)

2017年12月20日 00時00分00秒 | 法律学

 今回は、行政行為に関する判決です。

 

 ●最一小判昭和39年10月29日民集18巻4号1809頁

 事案:東京都は、既に所有していた土地にごみ焼却場を設置するという計画案を都議会に提出した。都議会は昭和32年5月30日にこの計画案を可決した。東京都は、同年6月8日に議会の可決を公報に掲載した上で、建設会社と建築契約を締結した。これに対し、近隣住民は、本件ごみ焼却場設置場所が環境衛生上最も不都合な土地であって清掃法第6条に違反する、煤煙や悪臭などによって保健衛生上の損害を受けるおそれがある、などとして、東京都による一連のごみ焼却場設置のための行為の無効確認を求める訴訟を提起した。東京地方裁判所は訴えを却下し、東京高等裁判所も控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷も、次のように述べて上告を棄却した。

 判旨:「行政事件訴訟特例法一条にいう行政庁の処分とは、(中略)公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」。本件の場合は、東京都が私人から買収した土地の上に私法上の契約により設置されたものであり、東京都が計画案を議会に提出した行為は東京都の内部的手続行為に留まり、いずれも行政庁の処分に当たらない。

 (注意:下線は、この判決が行政「処分」の定義を示した部分である。現在の行政事件訴訟法第3条第2項にいう「処分」についても、この判決の趣旨が妥当する。)

 

 ●最三小判昭和30年12月26日民集9巻14号2070頁

 事案:かねてから賃借権に関して争いのあった農地につき、某村農地委員会がX(原告)に賃借権ありとする裁定処分をしたが、これに不服のY(被告)が上級機関である茨城県農地委員会に訴願(当時)をした。茨城県農地委員会は一旦棄却したが、Yの申出によって再審議をした結果、Yに賃借権ありという裁決を下した。そこで、XはYに対し、本件土地についての耕作権の確認および引渡を求めた。水戸地方裁判所(判決日不明。民集9巻14巻2077頁参照)はXの請求を棄却し、東京高判昭和30年12月26日民集9巻14号2078頁参照もXの控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷も、次のように述べた上で、茨城県農地委員会の裁決(これも行政行為である)が取り消されていないことを理由としてXの請求を棄却した。

 判旨:「行政処分は、たとえ違法であつても、その違法が重大かつ明白で当該処分を当然無効ならしめるものと認むべき場合を除いては、適法に取り消されない限り完全にその効力を有するものと解すべきところ、茨城県農地委員会のなした前記訴願裁決取消の裁決は、いまだ取り消されないことは原判決の確定するところであつて、しかもこれを当然無効のものと解することはできない。」

 

 ●最二小判昭和36年4月21日民集15巻4号850頁

 自作農特別措置法に基づく土地買収計画の無効確認を求めた訴訟である。訴訟中にこの買収計画が取り消されたため、訴えの利益がなくなったとして請求は棄却されたが、判決において「行政処分が違法であることを理由として国家賠償の請求をするについては、あらかじめ右行政処分につき取消又は無効確認の判決を得なければならないものではない」と述べられている。

 

 ●最一小判平成22年6月3日民集64巻4号1010頁

 事案:原告は名古屋市内に冷凍倉庫を所有していた。ところが、昭和62年度より平成18年度まで、名古屋市長はこの倉庫を一般倉庫と評価し、固定資産税および都市計画税の賦課処分を原告に対して行っていた。この処分に従って原告は両税を納めていたところ、同市の某区長(同市長から権限の委任を受けていた)は平成18年5月26日付で、原告所有の倉庫が冷凍倉庫に該当するとして、登録価格を修正した旨の通知を原告に対して行った上で、平成14年度から平成18年度までの5年度分については固定資産税および都市計画税の減額更正をした。さらに、名古屋市長は原告に対してこの5年度分の納付済み税額と更正後税額との差額を還付した。そこで原告は、昭和62年度から平成13年度までの分について固定資産税および都市計画税の過納金相当額等の支払を請求する訴訟を提起した。名古屋地判平成20年7月9日判例自治332号43頁は原告の請求を棄却し、名古屋高判平成21年3月13日判例自治332号40頁も控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、以下のように述べて原審判決を破棄し、名古屋高等裁判所に差し戻した。

 判旨:「行政処分が違法であることを理由として国家賠償請求をするについては、あらかじめ当該行政処分について取消し又は無効確認の判決を得なければならないものではな」く(前掲最二小判昭和36年4月21日参照)、「このことは、当該行政処分が金銭を納付させることを直接の目的としており、その違法を理由とする国家賠償請求を認容したとすれば、結果的に当該行政処分を取消した場合と同様の経済的効果が得られるという場合であっても異ならないというべきであ」り、「他に、違法な固定資産の価格の決定等によって損害を受けた納税者が国家賠償請求を行うことを否定する根拠となる規定等は見いだし難い」から、「たとい固定資産の価格の決定及びこれに基づく固定資産税等の賦課決定に無効事由が認められない場合であっても、公務員が納税者に対する職務上の法的義務に違背して当該固定資産の価格ないし固定資産税等の税額を過大に決定したときは、これによって損害を被った当該納税者は、地方税法432条1項本文に基づく審査の申出及び同法434条1項に基づく取消訴訟等の手続を経るまでもなく、国家賠償請求を行い得るものと解すべきである」。

 

 ●最二小判昭和53年6月16日刑集32巻4号605頁

 事案:「行政法1A・行政法1B(大東文化大学)、行政法1(国学院大学)で扱った判決(1)」に掲載した最二小判昭和53年5月26日民集32巻3号689頁と同じである。

 判旨:この判決は、本件の被告会社による営業を「規制しうる児童福祉法7条に規定する児童福祉施設の存在についての証明を欠くことになり、被告会社に無罪の言渡をすべきものである。したがつて、原判決及び第一審判決は、犯罪構成要件に関連する行政処分の法的評価を誤つて被告会社を有罪としたものにほかならず、右の違法は判決に影響を及ぼすもので、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める」と述べる。

 

 ●最一小判昭和29年1月21日民集8巻1号102頁

 不可変更力に関する判決:自作農創設特別措置法に基づく農地委員会の裁決に不可変更力を認めた。

 

 ●最三小判昭和42年9月26日民集21巻7号1887頁

 実質的確定力に関する判決:自作農創設特別措置法に基づく農地委員会の買収計画および取消決定と再度の買収計画に関するもので、取消決定が確定したことにより、行政庁もそれに拘束される結果として、再度の買収計画が違法であると判断された。

 

 ●最二小判昭和25年9月15日民集4巻9号404頁

 事案:或る村の農地委員会は、Xが所有する農地を不在地主所有の農地と認定し、買収する計画を立てた。Xはこの計画について異議の申立て、さらに訴願を行ったが却下された。買収計画が県の農地委員会によって承認されたので、県知事Yは買収令書を交付し、買収を行った。Xは、訴願の却下に対しては訴訟を提起しなかったが、買収処分については訴訟を提起した。

 判旨 最高裁判所第二小法廷は、自作農特別措置法第5条の規定を参照しつつ、これに該当する農地を買収計画に入れることの違法性が買収処分の違法性でもあると述べ、原告が異議申立てや訴願を行わなかったことによって買収計画が確定的効力を有するとしても買収計画の違法性がなくなるものではないとしている。

 

 ●最一小判平成21年12月17日民集63巻10号2631頁

 事案:東京都建築安全条例第4条第1項は、建築基準法第43条第2項に基づいて同条第1項について制約を付加した規定であって、延べ面積が1000平方メートルを超える建築物の敷地は、その延べ面積に応じて所定の長さ(最低6m)以上道路に接しなければならない旨を定めている。他方、同条例第4条第3項は、建築物の周囲の空地の状況その他土地及び周囲の状況により知事が安全上支障がないと認める場合においては、同条1項の規定は適用しないと定めており、この「安全上支障がないと認める」処分を「安全認定」という。また、条文上は「安全認定」処分を行う者が東京都知事であるが、特別区における東京都の事務処理の特例に関する条例(平成11年東京都条例第106号)により、特別区長が安全認定に係る事務を処理することとされている。

 訴外Aらは、新宿区内に地上3階、地下1階の鉄筋コンクリート造りの建物を建築する計画を立て、Y区(新宿区)区長に申請した。同区長は平成16年12月22日付で「安全認定」処分を行った。これを受けてAらは建築確認を申請し、Y区建築主事は平成18年7月31日付で建築確認処分を行った。

 これに対し、この計画建築物の隣などに居住するXらが、建設予定地が安全性に欠けるなどと主張して、新宿区建築審査会への審査請求を経て、「安全認定」処分および建築確認の取消を請求する訴訟を提起した。東京地判平成20年4月14日民集63巻10号2657頁はXらの請求を却下・棄却したが、東京高判平成21年1月14日民集63巻10号2724頁は、本件安全認定についてY区長が裁量権を逸脱・濫用して行った違法なものであり、当該建築物の敷地が東京都建築安全条例第4条第1項に定められた接道義務に違反しており、本件建築確認は違法であると判断し、Xらの一部の請求を認容して建築確認処分を取り消した。Y区が上告したが、最高裁判所第一小法廷は上告を棄却した(但し、X1について控訴審判決を破棄した)。

 判旨:「安全確認」処分と建築確認処分は、元々一体的に行われていたが、条例の改正によって異なる機関が実施するものとされた経緯がある。また、「安全確認」処分と建築確認処分は「避難又は通行の安全の確保という同一の目的を達成するために行われるものである。そして、(中略)安全認定は、建築主に対し建築確認申請手続における一定の地位を与えるものであり、建築確認と結合して初めてその効果を発揮する」。また、「安全認定があっても、これを申請者以外の者に通知することは予定されておらず、建築確認があるまでは工事が行われることもないから、周辺住民等これを争おうとする者がその存在を速やかに知ることができるとは限らない」ので「安全認定について、その適否を争うための手続的保障がこれを争おうとする者に十分に与えられているというのは困難である。仮に周辺住民等が安全認定の存在を知ったとしても、その者において、安全認定によって直ちに不利益を受けることはなく、建築確認があった段階で初めて不利益が現実化すると考えて、その段階までは争訟の提起という手段は執らないという判断をすることがあながち不合理であるともいえない」。そのため、「安全認定が行われた上で建築確認がされている場合、安全認定が取り消されていなくても、建築確認の取消訴訟において、安全認定が違法であるために本件条例4条1項所定の接道義務の違反があると主張することは許されると解するのが相当である」。

 

 ●最小三判昭和34年9月22日民集13巻11号1426頁

 事案:Xが所有する農地は、自作農特別措置法による買収処分を受け、この土地が小作人に売渡処分された。Xは、これらの処分の無効確認を求めた。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、違法な行政行為が取消しうべきものであるとしても、それだけで重大かつ明白な瑕疵として無効の原因になる訳ではないと述べた。その上で、無効原因については、誤認が重大かつ明白であることを具体的な事実に基づいて主張すべきであると述べ、Xの主張を退けた。なお、重大明白の主張立証責任は原告側にあるということになる。

 

 ●最三小判昭和36年3月7日民集15巻3号381頁

 事案:Xの先代Aには養子Bがいた。XとBおよびその子Cとの間には山林などの所有権をめぐる争いがあった。しばらくして示談が成立し、AとXが所有する山林などをCに贈与し、その代償として800万円を受け取ることになった。ところが、山林所得税が課せられることを防ぐために、示談契約書に800万円の金額が示されず、Cが行った山林などの立木の処分についても、立木の売買契約書の売渡人を、実際に収入を得ていたCではなく、登記名義人のAとした。Y税務署長は、Aに対して山林所得金額および所得税額の決定通知書を送り、無申告加算税を賦課した。Xは、Aは死亡しており、Aに当該年度の山林所得が全くなかったことなどを理由としてYの処分の無効確認を求めて出訴した。福島地判昭和34年3月6日税資29号204頁はXの請求を棄却し、仙台高判昭和35年4月11日訟月6巻5号1063頁もXの控訴を棄却した。最高裁判所第三小法廷もXの上告を棄却した。

 判旨:「行政処分が当然無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならずここに重大かつ明白な瑕疵というのは、『処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な瑕疵がある場合』を指す」(前掲最小三判昭和34年9月22日を引用)。「瑕疵が明白であるというのは、処分成立の当初から、誤認であることが外形上客観的に明白である場合を指すものと解すべきであ」り、「処分成立の初めから重大かつ明白な瑕疵があつたかどうかということ自体は、原審の口頭弁論終結時までにあらわれた証拠資料により判断すべきものであるが、(中略)重大かつ明白な瑕疵があるかどうかを口頭弁論終結時までに現われた証拠及びこれにより認められる事実を基礎として判断すべきものであるということはできない。また、瑕疵が明白であるかどうかは、処分の外形上、客観的に、誤認が一見看取し得るものであるかどうかにより決すべきものであつて、行政庁が怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかは、処分に外形上客観的に明白な瑕疵があるかどうかの判定に直接関係を有するものではなく、行政庁がその怠慢により調査すべき資料を見落したかどうかにかかわらず、外形上、客観的に誤認が明白であると認められる場合には、明白な瑕疵があるというを妨げない」。

 

 ●最一小判昭和48年4月26日民集27巻3号629頁

 事案:原告X1の姉の夫Aは、X1およびその夫X2からの借金の担保とするために、また、自らが経営する会社の債権者からの差押えを回避するために、自らが所有する土地および建物について、X1およびX2に無断で登記の名義を変更した。Aの事業経営が不振となったため、Aはこの土地の売却を思い立ち、売買契約書などを偽造した上で土地を第三者に売却した。Y税務署長は、調査をした上でX1に建物の譲渡に関する所得が、X2に土地の売買による譲渡所得があったものとして課税処分を行い、さらに滞納処分を行った。X1およびX2は、課税処分の無効を主張したが、横浜地判昭和40年12月21日税資41号1235頁および東京高判昭和42年4月17日税務訴訟資料47号724頁は、いずれも請求を棄却した。最高裁判所第一小法廷は、原判決を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻す判決を下した。

 判旨:「課税処分につき当然無効の場合を認めるとしても、このような処分については、前記のように、出訴期間の制限を受けることなく、何時まででも争うことができることとなるわけであるから、更正についての期間の制限等を考慮すれば、かかる例外の場合を肯定するについて慎重でなければならないことは当然であるが、一般に、課税処分が課税庁と被課税者との間にのみ存するもので、処分の存在を信頼する第三者の保護を考慮する必要のないこと等を勘案すれば、当該処分における内容上の過誤が課税要件の根幹についてのそれであつて、徴税行政の安定とその円滑な運営の要請を斟酌してもなお、不服申立期間の徒過による不可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが、著しく不当と認められるような例外的な事情のある場合には、前記の過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である」。本件の場合には「いわば全く不知の間に第三者がほしいままにした登記操作によつて、突如として譲渡所得による課税処分を受けたことになるわけであり」、X1およびX2に「前記の瑕疵ある課税処分の不可争的効果による不利益を甘受させることは」、X1およびX2「上記のような各登記の経由過程について完全に無関係とはいえず、事後において明示または黙示的にこれを容認していたとか、または右の表見的権利関係に基づいてなんらかの特別の利益を享受していた等の、特段の事情がないかぎり、上告人らに対して著しく酷であるといわなければならない」。

 

 ●最二小判昭和36年7月14日民集15巻4号1814頁

 事案:或る地区の農地委員会は、Xが所有する池沼に関する買収計画を定めた。Xはこれを不服として訴願を提起した。兵庫県農地委員会は、訴願棄却裁決を停止条件として買収計画を承認し、県知事は買収令状を交付し、本件の池沼を買収した。そして、Xの訴願は棄却された。そこで、Xは国を被告として買収計画の無効確認訴訟を提起した。神戸地判昭和26年8月10日行集2巻4号1451頁はXの請求を棄却したが、大阪高判昭和32年7月5日行集8巻7号1183頁がXの控訴を認容したので、国が上告した。最高裁判所第二小法廷は、原判決を破棄し、事件を大阪高等裁判所に差し戻した。

 判旨:「農地買収計画につき異議・訴願の提起があるにもかかわらず、これに対する決定・裁決を経ないで爾後の手続を進行させたという違法は、買収処分の無効原因となるものではなく、事後において決定、裁決があつたときは、これにより買収処分の瑕疵は治癒されるものと解するのを相当とする」のであり(前掲最三小判決昭和34年9月22日民集13巻11号1426頁参照)、本件の場合は、兵庫県農地委員会が訴願棄却裁決を停止条件として買収計画を承認したのであるから、「訴願棄却の裁決がなされる前に承認その他の買収手続を進行させたという瑕疵は、その後訴願棄却の裁決がなされたことによつて治癒された、と解すべきである」。

 

 ●最三小判昭和47年12月5日民集26巻10号1795頁

 事案:法人Xは法人税について青色申告の承認を受けていたが、事件当時は解散しており、清算手続をしていた。Xが確定申告をしたところ、Y税務署長は増額更正処分を行った。しかし、その通知書には理由が書かれているとはいえ、金額が記載されているにすぎなかった。これを不服としたXは、国税局長への審査請求を経て出訴した。なお、理由については審査請求に対する裁決書において明確にされたと主張されている。

 判旨:最高裁判所第三小法廷は、理由付記の不備を認めて違法とした上で、理由付記を求める法人税法の趣旨からすれば、国税局長の裁決によってYの理由付記の不備という瑕疵が治癒されるとすることは、法の目的に沿わず、申告者にとっても審査手続の最中に十分な不服理由を主張できないという不利益を招くとして、更正処分における理由付記の不備は、審査請求に対する裁決によって治癒されないと判断した。

 

 ●最大判昭和29年7月19日民集8巻7号1387頁

 事案:或る村の農地委員会は、X所有の農地を小作地と認定し、自作農創設特別措置法施行令第43条によって小作人から買収の請求があったものとして買収計画を定めた。Xは訴願を県の農地委員会に提起したが、県の農地委員会は小作人による請求がなかったと認めつつも、同施行令第45条(こちらは、法律の附則に定められた日の事実を基にして、市町村のうち委員会が買収計画の可否を審議しなければならないとしか定められていない)を適用して買収計画を相当とする裁決を出した。Xはこれを不服として提訴した。

 判旨 最高裁判所大法廷は、施行令第43条による場合と同第45条による場合とで買収計画を相当と認める理由が異なるとは認められないとして、転換を認め、Xの上告を棄却した。

 ■参考:理由の差し替え:行政行為としては全く同じであるが、基礎となる事実および法的根拠を、訴訟の段階になって変更すること。最三小判昭和56年7月14日民集35巻5号901頁(Ⅱ―193)は、法人税の青色申告に対する更正処分について理由の差し替えを認めている。

 

 ●最二小判昭和63年6月17日判時1289号39頁

 事案:民法に特別養子制度の規定が追加されることのきっかけになった事件である。Xは産婦人科などを開業する医師であり、医師会Yから優生保護法第14条第1項の指定を受けていた。しかし、Xは実子斡旋行為を行っており、これを公表した。こうした事実などが存在したため、Yは指定を「取り消した」。Xは指定取消処分などの取消と損害賠償を求めて出訴した。

 判旨:最高裁判所第二小法廷は、撤回によってXが不利益を受けることを考慮しても、その不利益を公益上の必要性が上回るような場合には、法令に直接の根拠がなくともYはXに対する指定を撤回することができると判断した。

 

 ●最三小判昭和49年2月5日民集28巻1号1頁

 事案:Xは、レストランなどの事業を営むために東京都が所有する土地を借り受けた。この土地はXの自己負担で整地されたが、程なく一部が占領軍に接収され、一部は喫茶店の敷地として利用されたが、大部分は放置された。Y(東京都)は卸売市場の用地とするため、土地の半分強についてXに対する使用許可を「取消し」た上、喫茶店の建物を残りの土地に移転することを命じた(行政代執行で実現されている)。この事件においては、使用許可を「取り消された」部分について補償金の支払いが必要か否かが争われた。東京地判昭和昭和39年10月5日判タ170号234頁はXの請求を棄却したが、東京高判昭和44年3月27日判時553号26頁はXの請求の一部を認容した。最高裁判所第三小法廷はYの敗訴部分を破棄し、事件を東京高等裁判所に差し戻した。

 判旨:行政財産の「使用許可の取消に際して使用権者に損失が生じても、使用権者においてその損失を受忍すべきときは、右の損失は同条のいう補償を必要とする損失には当たらないと解すべき」である。また、「公有行政財産たる土地は、その所有者たる地方公共団体の行政活動の物的基礎であるから、その性質上行政財産本来の用途または目的のために利用されるべきものであつて、これにつき私人の利用を許す場合にその利用上の法律関係をいかなるものにするかは、立法政策に委ねられているところと解される。(中略)本件のような都有行政財産たる土地につき使用許可によつて与えられた使用権は、それが期間の定めのない場合であれば、当該行政財産本来の用途または目的上の必要を生じたときはその時点において原則として消滅すべきものであり、また、権利自体に右のような制約が内在しているものとして付与されているものとみるのが相当である」。これに対する例外は「使用権者が使用許可を受けるに当たりその対価の支払いをしているが当該行政財産の使用収益により右対価を償却するに足りないと認められる期間内に当該行政財産に右の必要を生じたとか、使用許可に際し別段の定めがされている等により、行政財産についての右の必要にかかわらず使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特別の事情が存する場合に限られる」。

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