現在、参議院において審議中とのことですが、今国会(第196回国会)における衆議院議員提出法律案第12号として「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律案」があります。衆議院のサイトに掲載されていますが、ここで取り上げさせていただきましょう。
法律案の提出者は「内閣委員長」となっています。衆議院が受理したのは4月11日で、委員会における審査が省略され、翌12日は衆議院本会議において全会一致で可決されています。同日に参議院に受理されていますが、その後の経過は示されていません。
第1条には「目的」という見出しが付けられています。次のような条文です。
「この法律は、社会の対等な構成員である男女が公選による公職又は内閣総理大臣その他の国務大臣、内閣官房副長官、内閣総理大臣補佐官、副大臣、大臣政務官若しくは大臣補佐官若しくは副知事若しくは副市町村長の職(次条において「公選による公職等」という。)にある者として国又は地方公共団体における政策の立案及び決定に共同して参画する機会が確保されること(以下「政治分野における男女共同参画」という。)が、その立案及び決定において多様な国民の意見が的確に反映されるために一層重要となることに鑑み、男女共同参画社会基本法(平成11年法律第78号)の基本理念にのっとり、政治分野における男女共同参画の推進について、その基本原則を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、政治分野における男女共同参画の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、政治分野における男女共同参画を効果的かつ積極的に推進し、もって男女が共同して参画する民主政治の発展に寄与することを目的とする。」
第2条には「基本原則」という見出しが付けられています。
第1項:「政治分野における男女共同参画の推進は、衆議院議員、参議院議員及び地方公共団体の議会の議員の選挙において、政党その他の政治団体の候補者の選定の自由、候補者の立候補の自由その他の政治活動の自由を確保しつつ、男女の候補者の数ができる限り均等となることを目指して行われるものとする。」
第2項:「政治分野における男女共同参画の推進は、自らの意思によって公選による公職等としての活動に参画し、又は参画しようとする者に対するこれらの者の間における交流の機会の積極的な提供及びその活用を通じ、かつ、性別による固定的な役割分担等を反映した社会における制度又は慣行が政治分野における男女共同参画の推進に対して及ぼす影響に配慮して、男女が、その性別にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮できるようにすることを旨として、行われなければならない。」
第3項:「政治分野における男女共同参画の推進は、男女が、その性別にかかわりなく、相互の協力と社会の支援の下に、公選による公職等としての活動と家庭生活との円滑かつ継続的な両立が可能となることを旨として、行われなければならない。」
第3条には「国及び地方公共団体の責務」という見出しが付けられています。
「国及び地方公共団体は、前条に定める政治分野における男女共同参画の推進についての基本原則(次条において単に『基本原則』という。)にのっとり、政党その他の政治団体の政治活動の自由及び選挙の公正を確保しつつ、政治分野における男女共同参画の推進に関して必要な施策を策定し、及びこれを実施するよう努めるものとする。」
施策の策定および実施が努力義務となっています。従って、策定がなされなかったとしても、または策定はされたが実施されなかったとしても、法的に問題があるという訳ではありません。法的拘束力を持たせることに問題があるということも考えられますが、或る程度の数値目標を設ける必要性はあるのではないでしょうか。諸外国の例がどのようになっているかも参照しなければならないでしょう。
第4条には「政党その他の政治団体の努力」という見出しが付けられています。
「政党その他の政治団体は、基本原則にのっとり、政治分野における男女共同参画の推進に関し、当該政党その他の政治団体に所属する男女のそれぞれの公職の候補者の数について目標を定める等、自主的に取り組むよう努めるものとする。」
ここも努力義務となっています。政治団体が基本的に自主的組織であり、また、政治的信条が様々である以上、努力義務とせざるをえなかったのでしょう。
第5条には「実態の調査及び情報の収集等」という見出しが付けられています。
第1項:「国は、政治分野における男女共同参画の推進に関する取組に資するよう、国内外における当該取組の状況に関する実態の調査並びに当該取組に関する情報の収集、整理、分析及び提供(次項及び第九条において『実態の調査及び情報の収集等』という。)を行うものとする。」
第2項:「地方公共団体は、政治分野における男女共同参画の推進に関する取組に資するよう、当該地方公共団体における実態の調査及び情報の収集等を行うよう努めるものとする。」
ここでは、第1項において努力義務とされていないのに対し、第2項において努力義務とされています。まずは国から、ということでしょうか。
第6条には「啓発活動」という見出しが付けられています。
「国及び地方公共団体は、政治分野における男女共同参画の推進について、国民の関心と理解を深めるとともに、必要な啓発活動を行うよう努めるものとする。」
ここを努力義務としたのはいかなる理由によるものでしょうか。政治団体への干渉になるのでなければ、むしろ啓発活動を積極的に行うべきではないかと思われます。衆議院で全会一致により可決されたのが、私には不思議なことに思われます。どの政党も真剣に考えていないのかどうかはわかりませんが、そう思われても仕方がないでしょう。
第7条には「環境整備」という見出しが付けられています。
「国及び地方公共団体は、政治分野における男女共同参画の推進に関する取組を積極的に進めることができる環境の整備を行うよう努めるものとする。」
ここも、努力義務に留めた理由を知りたいものです。
第8条には「人材の育成等」という見出しが付けられています。
「国及び地方公共団体は、政治分野における男女共同参画が推進されるよう、人材の育成及び活用に資する施策を講ずるよう努めるものとする。」
これについても、努力義務に留めた理由を知りたいものです。予算の都合によるのかもしれません。
第9条には「法制上の措置等」という見出しが付けられています。
「国は、実態の調査及び情報の収集等の結果を踏まえ、必要があると認めるときは、政治分野における男女共同参画の推進のために必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。」
努力義務に留められていませんが、不確定概念や裁量でおなじみの「必要があると認めるとき」という言葉が使われています。「とき」ですから「必要があると認められるならば」という意味です。
提案理由は、次のように述べられています。
「政治分野における男女共同参画が、国又は地方公共団体における政策の立案及び決定において多様な国民の意見が的確に反映されるために一層重要となることに鑑み、政治分野における男女共同参画を効果的かつ積極的に推進するため、男女共同参画社会基本法の基本理念にのっとり、政治分野における男女共同参画の推進について、その基本原則を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、政治分野における男女共同参画の推進に関する施策の基本となる事項を定める必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」
地方議会では女性議員の比率が高いところもあります。神奈川県の大磯町が代表的な例です(他に隣の二宮町も有名でした)。しかし、全体的にみれば、世界的にも低いほうです。「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律案」の「案」がとれて「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が成立したとして、どの程度の効果があるのでしょうか。長期的な視点を持つ必要があるのですが、徐々に比率を高められるならば効果がある、と判断すべきなのでしょう。