ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

詳しい状況を知りたくなる 奈良県VS.香芝市

2025年03月06日 23時00分00秒 | 法律学

 朝日新聞社のサイトに、今日(2025年3月6日)の19時0分付で「奈良・香芝市が県を提訴の方針 歩道橋架け替え工事の費用負担めぐり」(https://digital.asahi.com/articles/AST362SPGT36POMB00DM.html)という記事が掲載されています。気になるので、ここで取り上げておきます。

 香芝市に国道168号が通っています。この辺りでの通称は香芝王寺道路というそうです。その道路にある歩道橋の架け替え費用をめぐって、奈良県と香芝市が対立しています。

 この歩道橋を、以下では、設置されている場所より上中歩道橋としておきましょう。上中歩道橋を管理してきたのは香芝市教育委員会でした。一方、国道を管理しているのは奈良県です。2023年度に国道168号の拡幅がなされるにあたり、奈良県は上中歩道橋を架け替え、2024年4月より供用としたのですが、香芝市は架け替え費用を負担する責任はないと主張していたようです。

 いつのことかはわかりませんが、奈良県と香芝市は、少なくとも上中歩道橋の架け替え費用負担に関して基本協定を結んでいたようです。協定ということは、一種の行政契約であると考えてよいでしょう。奈良県の前知事と香芝市の前市長が両自治体の代表として基本協定を結んでいるようなので、全国知事会のサイトに掲載されている「歴代公選知事名簿(都道府県別)」の奈良県の欄を参照すると、2023年5月2日より前の話であるということがわかります(現在の香芝市長の任期は2024年6月3日より始まっています)。

 奈良県は、基本協定の存在などを理由として、香芝市におよそ5100万円の負担を求めていました。そして、3月4日に開かれた奈良県議会において、奈良県知事が香芝市に損害賠償を求めて提訴する考えを示していました。朝日新聞社のサイトに3月4日20時0分付で掲載された「奈良知事、香芝市相手に『裁判起こす』 歩道橋の工事費用めぐり対立」(https://digital.asahi.com/articles/AST343FXQT34POMB002M.html?iref=pc_extlink)という記事によると、香芝市長が2024年12月の香芝市議会において奈良県の要求の内容が地方財政法に抵触する可能性がある旨を主張しており、奈良県知事は、基本協定に基づいた正当な負担割合であるとして、香芝市に支払を求めると主張しています。そして、香芝市が支払いに応じなければ、6月議会において提訴関連の議案を提出する意向を奈良県議会において示しています。

 〈なお、有料会員でなければ全文を読むことはできませんが、奈良新聞デジタルに2025年3月5日付で掲載された「歩道橋架け替え工事費を巡り奈良県と香芝市が対立 地方財政法の解釈で平行線 山下知事、訴訟の考えも」(https://www.nara-np.co.jp/news/20250305213501.html)という記事もあります。〉

 これに対し、香芝市は、国道の拡幅も歩道橋の撤去も求めていないこと、基本協定の期限が切れていることを理由として、負担を拒否していました。もっとも、上中歩道橋の撤去費用などを除いた2200万円ほどであれば支払うとも述べています。そして、売り言葉に買い言葉ということなのか、香芝市は、奈良県を被告として、上中歩道橋の撤去に係る債務の不存在の確認を求めて提訴する方針を示しました。3月7日の香芝市議会で議決されれば、ということになります。

 上記3月6日付記事には基本協定の具体的な内容などが書かれていませんし、おそらくGoogleなどで検索をかけてもこの基本協定を参照することはできないでしょうが、問題はこの基本協定の内容にあると考えられます。地方財政法には、次のような規定があるからです。

 

 (都道府県の行う建設事業に対する市町村の負担)

 第27条 都道府県の行う土木その他の建設事業(高等学校の施設の建設事業を除く。)でその区域内の市町村を利するものについては、都道府県は、当該建設事業による受益の限度において、当該市町村に対し、当該建設事業に要する経費の一部を負担させることができる。

 2 前項の経費について市町村が負担すべき金額は、当該市町村の意見を聞き、当該都道府県の議会の議決を経て、これを定めなければならない。

 3 前項の規定による市町村が負担すべき金額について不服がある市町村は、当該金額の決定があつた日から21日以内に、総務大臣に対し、異議を申し出ることができる。

 4 総務大臣は、前項の異議の申出を受けた場合において特別の必要があると認めるときは、当該市町村の負担すべき金額を更正することができる。

 5 地方自治法第257条の規定は、前項の場合に、これを準用する。

 6 総務大臣は、第4項の規定により市町村の負担すべき金額を更正しようとするときは、地方財政審議会の意見を聴かなければならない。

 (都道府県が市町村に負担させてはならない経費)

 第27条の2 都道府県は、国又は都道府県が実施し、国及び都道府県がその経費を負担する道路、河川、砂防、港湾及び海岸に係る土木施設についての大規模かつ広域にわたる事業で政令で定めるものに要する経費で都道府県が負担すべきものとされているものの全部又は一部を市町村に負担させてはならない。

 

 また、地方財政法施行令には、次のような規定が置かれています。

 

 (都道府県が市町村に経費を負担させてはならない事業)

 第51条 法第27条の2に規定する事業で政令で定めるものは、次に掲げるものとする。

 一 道路法(昭和27年法律第180号)第12条及び第13条の規定により、国土交通大臣又は都道府県が行う一般国道の新設、改築及び災害復旧に関する工事

 二 次に掲げる都道府県道(道路法第3条第3号の都道府県道をいう。以下この号において同じ。)の新設、改築及び災害復旧に関する工事

  イ 道路法第56条の規定による国土交通大臣の指定を受けた都道府県道

  ロ イに掲げるもののほか、資源の開発、産業の振興その他国の施策上特に整備を行う必要があると認められる都道府県道

 三 砂防法(明治30年法律第29号)第6条第1項の規定により国土交通大臣が施行する砂防工事

 四 海岸法(昭和31年法律第101号)第6条第1項の規定により、主務大臣が都道府県知事である海岸管理者に代わつて施行する海岸保全施設の新設、改良及び災害復旧に関する工事

 

 さらに、道路法第12条および第13条は、次のような規定です。

 (国道の新設又は改築)

 第12条 国道の新設又は改築は、国土交通大臣が行う。ただし、工事の規模が小であるものその他政令で定める特別の事情により都道府県がその工事を施行することが適当であると認められるものについては、その工事に係る路線の部分の存する都道府県が行う。

 (国道の維持、修繕その他の管理)

 第13条 前条に規定するものを除くほか、国道の維持、修繕、公共土木施設災害復旧事業費国庫負担法(昭和26年法律第97号)の規定の適用を受ける災害復旧事業(以下「災害復旧」という。)その他の管理は、政令で指定する区間(以下「指定区間」という。)内については国土交通大臣が行い、その他の部分については都道府県がその路線の当該都道府県の区域内に存する部分について行う。

 2 国土交通大臣は、政令で定めるところにより、指定区間内の国道の維持、修繕及び災害復旧以外の管理を当該部分の存する都道府県又は指定市が行うこととすることができる。

 3 国土交通大臣は、工事が高度の技術を要する場合、高度の機械力を使用して実施することが適当であると認める場合又は都道府県の区域の境界に係る場合においては、都道府県に代わつて自ら指定区間外の国道の災害復旧に関する工事を行うことができる。この場合においては、国土交通大臣は、あらかじめその旨を当該都道府県に通知しなければならない。

 4 第1項の規定により都道府県が維持、修繕、災害復旧その他の管理を行う場合において、その行おうとする国道の修繕又は災害復旧に関する工事が都道府県の区域の境界に係るときは、関係都道府県は、あらかじめ修繕又は災害復旧に関する工事の設計及び実施計画について協議しなければならない。

 5 第7条第5項及び第6項前段の規定は、前項の規定による協議が成立しない場合について準用する。

 6 前項において準用する第7条第5項及び第6項前段の規定により国土交通大臣が裁定をした場合においては、第4項の規定による協議が成立したものとみなす。

 

 奈良県と香芝市との対立は、国道168号の拡幅および上中歩道橋に関するものなので、まずは地方財政法第27条、第27条の2のいずれに該当するのかが問われることでしょう。国道の拡幅は第27条の2のほうに該当する可能性がありますが、上中歩道橋の架け替えは第27条のほうに該当するでしょう。但し、国道の拡幅と歩道橋の架け替えとを一体として捉えるならば第27条の2、さらに地方財政法施行令第51条第1号にいう「国土交通大臣又は都道府県が行う一般国道の新設、改築及び災害復旧に関する工事」に該当するかもしれません。

 そして、基本協定の内容が国道の拡幅と歩道橋の架け替えとを一体として捉えて奈良県が香芝市に費用の負担を求めるものであれば、少なくとも部分的には地方財政法第27条の2に違反するものと解することができます。これに対し、基本協定が歩道橋の架け替えだけを対象として香芝市に費用の負担を求めるものであれば、地方財政法第27条の趣旨に合致し、かつ同第27条の2に違反しないものであると解することができます。ただ、香芝市が望んでいないという主張もあるので、そうなれば同第27条第1項にいう「その区域内の市町村を利するもの」であるのか、香芝市に「当該建設事業による受益」があるのかも問われうるでしょう。同第27条第1項の文言による限り、「その区域内の市町村を利する」か否か、当該建設事業による受益」の有無または程度は、市町村の主張や意思とは関係なく、何らかの客観的(?)基準に従って算定されるものと考えられます。基本協定の内容によっては香芝市に不利な状況とも言えますが、限られた情報だけでは何とも言えません。

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