前書き:法学特殊講義2B(大東文化大学法学部)において相続税法を扱っています。そのためには、相続、遺贈および死因贈与の意味を理解していなければなりません。私は、この講義の最初のほうで相続法の基礎を説明していますので、このブログにも掲載しておきます。なお、相続税法の学習・研究の前提として必要最小限と思われる部分のみを記していますので、御注意ください。
1.相続の意味
相続とは「死者の生前にもっていた財産上の権利義務を他の者が包括的に承継すること」である〈高橋和之・伊藤眞・小早川光郎・能見善久・山口厚編集代表『法律学小辞典』〔第5版〕(2016年、有斐閣)811頁〉。民法第882条は「相続は、死亡によって開始する」と定めているから、生前相続は、現行法において認められていないこととなる。
但し、胎児は、相続に際しては既に生まれたものとみなされる(同第886条第1項。同第2項に注意すること)。また、失踪宣告を受けた者は、同第30条第1項の期間の満了時または同第2項にいう危難が去った時に死亡したものとみなされるので、その時点において相続が開始されることとなる。
また「相続は、被相続人の住所において開始する」(同第833条)。ここで被相続人とは相続される人という意味であり、「財産上の権利義務」が受け継がれる人のことである。これに対し、相続人は、被相続人が持っていた「財産上の権利義務」を受け継ぐ人のことである。
なお、同第884条および同第885条も参照されたい。
2.相続の効力(効果)
民法第896条は「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない」と定める。この規定から、次のことがわかる。
第一に、原則として、相続人は、被相続人が持っていた「財産に属した一切の権利義務」を承継することである。すなわち、相続人は、プラスの財産(例.土地、建物、各種債権)だけでなく、マイナスの財産(借金など各種債務)も承継する(同第920条、同第921条も参照)。相続税対策などを行う際に注意しなければならない。
第二に、一身専属的な権利および義務(例.生活保護受給権、年金受給権)は承継されない。なお、祭具や墓などの所有権については、同第897条を参照すること。
世の中には様々な相続が生ずるが、多くの相続においては複数の相続人が存在する。そのため「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する」(同第898条)。もっとも、相続財産が全相続人の共有に属するのは、遺産分割協議(遺言をそのまま執行することもありうるが、その場合でも遺産分割協議を行うこととなる)による遺産分割までの話であり、遺産分割の後に「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する」(同第899条)。
3.法定相続人
民法第5編は、相続(第2章以下)と遺贈(第7章では「遺言」)とを区別している。これは、相続については相続人の範囲が法定されているのに対し(なお、法定相続人の推定については同第892条を参照)、遺贈の場合には遺言を残した者の財産を承継する者が相続人に限定されていないからである(相続分についても同様)。そこで、以下、相続については適宜「法定相続」と記すことがある。
民法は、法定相続人を血族相続人と配偶相続人とに分け、範囲を定めている。また、血族相続人については順位があり、第一に被相続人の子、孫などの直系卑属、第二に被相続人の父母、祖父母などの直系尊属、第三に被相続人の兄弟姉妹である。
〔1〕血族相続人
(1)直系卑属
前述のように、被相続人に直系卑属が存在する場合には、直系卑属が相続人となる(同第887条)。
①子
まず、子がいる場合には、子が相続人となる(同第1項)。子は、実子はもとより、養子も含まれる(同第809条により、養子は縁組の日から養親の嫡出子としての身分を取得する)。但し、普通養子については、相続税の基礎控除額の計算の際に特別な規律を受ける(但し、一部例外がある)。また、前述のように、胎児にも相続権がある(同第886条)。
②代襲相続人
次に、被相続人の子が相続開始以前に死亡していた場合、被相続人の子が相続の欠格事由に該当する場合(同第891条)、または被相続人の子が推定相続人としての地位を廃除された場合(同第892条、同第893条)には、被相続人の子は相続権を失ったこととなるので、孫が相続権を有することとなる。この場合の孫を代襲相続人という〈曾孫が代襲相続人となる場合もありうる(同第887条第3項)〉。
代襲相続人は被相続人の子の地位を引き継ぐ。そのため、代襲相続人が複数存在する場合には、被相続人の子の地位を共同して引き継ぐこととなり、各代襲相続人の法定相続分は同一である(同第901条第1項)。仮に本来の法定相続人となるべき者全員が相続開始前に死亡している場合には、全ての被相続人の孫が代襲相続人となる〈最近では、相続人の全員が代襲相続人であったという事例も見受けられる(執筆者自身も経験した)〉。
(2)直系尊属
相続人となるべき直系卑属がいない場合には、父母、祖父母などの直系尊属が相続人となる(同第889条第1項第1号)。
(3)兄弟姉妹
相続人となるべき直系卑属がおらず、直系尊属もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる(同第2号)。なお、その兄弟姉妹が相続開始以前に死亡していた場合、被相続人の子が相続の欠格事由に該当する場合、または被相続人の子が推定相続人としての地位を廃除された場合には、その兄弟姉妹の子が代襲相続人となる(同第3項。但し、同項は同第887条第3項を準用しないので注意すること)。
〔2〕配偶相続人=配偶者
被相続人の配偶者は常に相続人となる(同第890条)。相続人の順位についても、同第887条または同第889条により相続人となるべき者と同じである。
4.法定相続分
被相続人が遺言によって共同相続人の相続分を定めている場合はそれによるが(同第902条第1項)、遺言がない場合(この場合が圧倒的に多い)は、同第900条に定める法定相続分によることとなる。この法定相続分は、相続税の計算の際に非常に重要な意味を有するので、常に頭に入れておいていただきたい〈どのように遺産分割を行おうとも、相続税額の総額を計算する際には法定相続人が法定相続分に従って相続するものとの仮定の下に置かれるからである〉。
まず、配偶者および子(代襲相続人がいる場合も含む)が相続人である場合には、配偶者の法定相続分が2分の1であり、残りの法定相続分である2分の1を子が等分する(同第1号・第4号)。例えば、配偶者のA、子のBおよびCが相続人であれば、Aが2分の1、Bが4分の1、Cが4分の1である。
次に、配偶者および直系尊属が相続人である場合には、配偶者の法定相続分が3分の2であり、残りの法定相続分である3分の1を直系尊属が等分する(同第2号・第4号)。例えば、配偶者のD、被相続人の父Eおよび母Fが相続人であれば、Dが3分の2、Eが6分の1、Fが6分の1である。
そして、配偶者および兄弟姉妹が相続人である場合には、配偶者の法定相続分が4分の3であり、残りの法定相続分である4分の1を兄弟姉妹が等分する(同第3号・第4号)。例えば、配偶者のG、被相続人の兄Hおよび姉Iが相続人であり、かつ、HおよびIはいずれも父母の双方を同じくする兄弟姉妹であれば(同第4号ただし書きを参照)、Gが4分の3、Hが8分の1、Iが8分の1である。
ここで、直系卑属、被相続人の配偶者が登場する相続について、例を示すこととする。
2022年11月24日に被相続人であるAが死亡した。Aには配偶者のB,長男のC、長女のDおよび次男のEがいるが、Cは2022年10月31日に死亡していた。CにはFおよびGという2人の子がいる(すなわち、FおよびGはAの孫である)。この場合、FおよびGが代襲相続人となるので、相続人はB、D、E、FおよびGである。
また、各人の法定相続分は、次の通りである。
B:2分の1
D:6分の1
E:6分の1
F:12分の1(本来であればCが相続するはずであったが、既にCが死亡しているため。)
G:12分の1(本来であればCが相続するはずであったが、既にCが死亡しているため。)
△あくまでも、法定相続人となりうるのは被相続人Aの配偶者であるBのみである。Cの配偶者、Dの配偶者、Eの配偶者、Fの配偶者およびGの配偶者は法定相続人ではない。欲深い人は往々にしてこのことを知らないので、注意すること! 何よりも、将来の皆さんのため!!
△△FおよびGが代襲相続人となるのは、Cが相続開始以前に死亡していたからである(Cが相続欠格事由に該当する場合、または廃除された場合についても同様である)。
5.遺贈
〔1〕遺贈の意味
遺贈とは、単独行為たる遺言(同第960条以下)による贈与のことである。遺言は非常に厳格な要式行為であり、法定の方式に従わないものは効力を持たない(同第960条)。
ここで、遺贈者は、遺言をした人(=遺言者)、すなわち、遺言により財産を与える人をいう。また、受遺者は、遺言により財産を与えられる人のことであり、遺贈者が自由に決めることができる。従って、法定相続人でない者、さらに法人なども受遺者とすることができる。なお、15歳以上の者は遺言をすることができる(同第961条。同第962条および同第963条も参照)。
遺贈には包括遺贈と特定遺贈とがある(同第964条)。包括遺贈は、遺産に対する割合を示す方法をいう(例.相続財産の3分の1をEに遺贈させる)。これに対し、特定遺贈は、遺贈する財産を具体的に示す方法(例.相続人Fに東京都板橋区高島平一丁目▲番●号の土地■㎡を相続させる)。
〔2〕遺言の種類
民法においては三種類の遺言が定められている。
第一に、自筆証書遺言である。遺言者は、自ら全文、日付、書名を書き、押印しなければならない(同第968条第1項)。但し、自筆によらない(例えば、PCで作成した)財産目録を自筆証書に添付したり、預貯金口座の通帳のコピーや不動産の登記事項証明書などを目録として添付したりすることが認められるが、この場合でも添付書類の全てに遺言者が署名押印をしなければならない(同第2項)。自筆証書中の加除などの変更については、遺言者が変更場所を指示し、変更の旨を付記して特に署名押印しなければ効力を有しない(同第3項)。
なお「遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする」(同第1004条第1項)。
また、自筆証書遺言を法務局(支局や出張所などを含む)において保管することができる(法務局における遺言書の保管等に関する法律第1条以下)。法務局に置かれる遺言書保管官は、自筆証書遺言(原本)を保管するとともに、自筆証書遺言の画像情報などを作成し、遺言書保管ファイルに記録する(同第6条・第7条)。
第二に、公正証書遺言である(同第969条)。公証人役場において作成される遺言であり、費用はかかるが、家庭裁判所の検認が不要である(同第1004条第2項)など、自筆証書遺言よりも利便性が高いとも言える。
第三に、秘密証書遺言である(同第970条以下)。秘密証書遺言の場合、遺言者が証書に署名押印を行った上で(証書の作成は遺言者の自筆によらなくともよい)、証書を封じて封印し、その封書を公証人1名および証人2名以上の前に提出し、遺言書である旨ならびに氏名および住所を申述する。これを受けて、公証人が証書提出の日付および遺言者の申述を封紙に記載し、遺言者および証人とともに署名押印する。公正証書遺言と異なり、公証人も証人も遺言の内容を知ることはできない。また、秘密証書遺言の開封は家庭裁判所における相続人またはその代理人の立ち会い、および家庭裁判所の検認も必要とする。
6.死因贈与
死因贈与は、贈与契約(同第549条)のうち、贈与者が死亡することによって効力が生ずるものをいう(同第554条)。
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