ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

法学(法律学)ノート(1):法とは何か、法律とは何か

2014年11月04日 00時32分33秒 | 法学(法律学)ノート

 〔まえがき〕

 2011年度および2012年度に1年生の「現代社会と法」、2013年度および2014年度に2年生の「基本法学概論」を担当しています(いずれも大東文化大学法学部法律学科の必修科目です)。内容に法学概論の一部を含むため、私なりの「法学」または「法律学」のノートをホームページで公開したいと考えておりました。

 1997年度から2003年度まで、大分大学教育福祉科学部で「法律学概論I」、「法律学概論II」などの科目を担当しておりましたので、ノートを作成しました。その一部を、このブログでとりあえず公開し、今後に生かしたいと考えております。御意見などをいただければ幸いです。なお、現在の状況に合わせるために、修正を施しております。

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 法学または法律学は、法を対象とする学問である。それでは、そもそも法(law ; Recht ; droit)とは何か、法律とは何か。

 実は、法の概念そのものについても、法哲学において論争がある。しかし、ここでは、一般的に説かれていることを中心にして、私なりの見解を示しておきたい。

 まず、法律という言葉の意味を確定しておく。広い意味では法と同義である。すなわち、法=法律である。ドイツ語のRechtswissenschaftにあたる日本語を法学としたり法律学としたりするのも、法律を広義に捉えることに由来するのであろう。

 しかし、学問上、法律という言葉は狭い意味で用いられるのが通常である。別の機会に取り上げるが、法には様々な種類のものがあり、成文法をあげても法律、政令、省令、内閣府令、条例などがある。そのため、法=法律と捉えるのでは厳格さを欠くし、日本の法体系を理解することに対する妨げになってしまう。

 ここで日本国憲法第59条を参照することとしよう。次のように定められている。

 第1項:「法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。」

 第2項:「衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の三分の二以上の多数で再び可決したときは、法律となる。」

 第3項:「前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。」

 第4項:「参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて六十日以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。」

 便宜上、全ての項を掲げたが、第1項から明らかであるように、狭義の法律とは、立法機関(日本においては衆議院と参議院との双方からなる国会)の議決を経て成立した法をいう。そして、憲法第41条が「国会は、国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である。」と定めることから、法律を制定する権限を有するのは国会だけであることが明らかである。

 〈余談であるが、時折、憲法と法律を区別しない者がいる。困ったことに法学部の学生でも見られる。憲法は国内法で最高の地位にある法であって、法律はその下位にあるものである。混同してはならない。〉

 それでは、法とはどのようなものであるのか。様々な機能が考えられるが、代表的なものと考えられる事柄を以下に示しておく。

 ①まず、法は社会に妥当・通用する規範(ルール)の一種である。すなわち社会規範である。しかし、道徳、宗教、習俗なども社会規範であるから、これだけでは充分でない。

 ②同じ社会規範であっても、道徳、宗教、習俗などには、国家による強制力が伴わない。これに対し、法は、国家の強制力を背景とする社会規範である。すなわち、法は強制規範である。

 強制規範という表現から、法に違反する者に対して制裁が予定されていることを思い浮かべる者は多いであろう。その通りである。刑法が典型的である(例として、殺人罪を定める第199条を参照すること)。刑罰という制裁が用意されている訳である。違反者に対して刑罰を科すことを定める規定は、刑法のみならず、所得税法第238条以下、会社法第960条以下など、多くの法律に置かれている。

 また、強制規範が常に刑罰を用意するとは限らない。法に従って行為をなす者には、法の力によって効力が担保される、という趣旨の規定がある。これも強制規範の一種である。法に従わなかった者に刑罰が科される訳ではないが、従わなかったという事実により、その者の意思に沿った効果が生じないのである。

 例えば、民法第175条は「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」と定める。或る者が民法に定められていない物権、例えば「場所取り権」なるものを勝手に想定し、それを実行したとしても、物権としては認められない。また、同じ民法の第177条は「不動産に関する物権の変動の対抗要件」として「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」と定めており、土地や建物が自分の物であると天下万人に主張するためには登記を備えておかなければならない。そうしなければ、いくらその者が「この土地は俺の物だ!」などと主張しても、他人がわからないからである。このように、自らの意思通りに効果を発生させたければ、法の定める通りに活動を行わなければならない、という意味で、法は人々の活動を規制し、人々に一定の活動を促進する一面を持つ。これも立派な強制規範としての性格である。

 法に従わない者には、その者の意思に沿った効果が生じないという趣旨の規定は、他にもある。ここでは、典型的な例としてよくあげられる民法第960条をあげておこう。同条は「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。」と定める。遺言の方式は第967条以下に規定されており、これらの規定に従っていない遺言は、遺言として認められない。すなわち、遺言をしたものが亡くなってから遺言としての効力を発せず、法的な意味を伴わないただの文書となる。

 〈民法など、この種の強制規範も数多く存在する。探してみるとよい。〉

 ③とかく世の中には紛争がつきものである。我々は、時によって権利を有し、または義務を負う訳であるが、どのような権利を有し、またはどのような義務を負うのかがわからないようでは、無用な紛争ばかり生じてしまい、我々がまともな社会生活を送ることはできない。そこで、法には紛争予防または解決のための規範としての性格が与えられている。すなわち、第一に、人々がいかなる権利を有し、義務を負うかを明定することにより、紛争を予防する機能を有する(民法が代表例である)。第二に、紛争が発生し、当事者間だけで解決できない時のために、裁判所における訴訟手続を明示して、紛争の解決を図るという機能をも有する。訴訟手続を定める法律として、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政事件訴訟法などがある。

 ④法とはいかなるものであるかという問に対する答としては、以上の三点でまとめられることが多いかもしれない。しかし、これらのみでは、現代社会における法の存在意義として不十分である。例えば道路や下水道の新設、整備、学校教育、年金制度に見られるように、現代の国家は、単に国民から租税を徴収するのみならず、その租税を用いて国民に資源を配分している。単に事実としてこのようになっているというのみならず、国家が資源配分機能を果たすことが法的にも求められているのである(憲法第25条、第26条などを参照)。こうして、法には資源配分規範としての性格も認められる訳である。

 現代の法律には、このような資源配分機能を有するものが多くなっている。行政法の多くがこの機能を持っている(環境基本法、国家賠償法など。教育基本法や学校教育法も、この種の規範と考えることもできる。租税の再配分ということでは、地方交付税法、地方財政法のごとき法律もある)。

 以上の4つの性格は、それぞれが独立・無関係なのではなく、相互に関連する。そして、いずれの性格を有するにせよ、法は、存在(Sein)に対する当為(Sollen)としての性格を有する。また、技術的な性格を強く有する(何故なら、法は、次に示す目的を実現するための手段であるからである)。

 法はいかなる目的を有するのか。この問も古くから存在するものであるが、次の二点としておこう。

 ①人間社会における秩序の維持、そして調和の実現

 ホッブズ(Thomas Hobbes, 1588-1679)流に言えば、人間は万人に対して狼である。

 ②正義(Justice, Gerechtigkeit)の実現

 もっとも、「正義とは何か」という問題もある(Vgl. Hans Kelsen, Was ist Gerechtigkeit?)。実は、「正義とは何か」という問題に充分・満足に解答を出せるかどうかも問題なのである。しかし、これはあまりに哲学的問題であるし、追求すればするほど迷宮に入り込むので、ここでは論じない。

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 (das) Sein:存在を意味するドイツ語の中性名詞であるが、英語のbeにあたる動詞seinを名詞化したものである。日本語の仮名読みでは「ザイン」である。

 (das) Sollen:当為、義務、なすべき事というような意味を有するドイツ語の中性名詞であるが、英語のshallに相当する動詞sollenを名詞化したものである。但し、英語のshallとドイツ語のsollenは、言語の由来などからして相当関係にあるということで、意味などには違いもある。


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