ひろば 研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

官報の発行に関する法律案

2023年11月21日 00時00分00秒 | 法学(法律学)ノート

 現在開会中の第212回国会に、内閣提出法律案第8号として「官報の発行に関する法律案」が提出されています。

 このような法律案が提出されていることに驚いたとともに、法律学者の端くれである私の不明を恥じるしかありません。官報については「官報及び法令全書に関する内閣府令」があるのですが、この内閣府令は官報の掲載事項および法令全書の集録事項を定めるのみであり、官報の発行主体などを定めるものではないのです。

 官報の掲載事項を内閣府令で定めることは、行政法学において許容されない訳ではないと考えられます。

 行政法学でおそらくは最初に学ぶべきことである法律による行政の原理を振り返ってみましょう。

 まず、この原理の内容の筆頭にあげられるべきものが「法律の法規創造力の原則」です(詳細はリンク先を御覧ください)。次が「法律の優位の原則」であり、続いて「法律の留保の原則」です。官報の発行自体は国民の権利や自由を制約するものでもなければ、国民に対して新たに義務を課するような活動でもありませんから、法律の根拠がなくてもよいこととなります。これまで「官報及び法令全書に関する内閣府令」で済まされたことの理由も「法律の留保の原則」によるものでしょう。

 また、法律などの公布は官報によって行われることとなっていますが、これも日本国憲法の下において慣習法とされています。つまり、成文法の根拠はなかった訳です。

 以上の点を法律の明文によって定めることが「官報の発行に関する法律案」の意義なのでしょう。提出理由には「官報の発行主体、官報に掲載すべき事項、官報の発行の方法その他官報の発行に関し必要な事項を定める必要がある」と書かれています。

 しかし、今更、何故にこのような法律案が提出されたのか、正直なところ意図をわかりかねます。法律案の第5条を読めば、官報のデジタル化の根拠としたいのであろうと考えられますが(附則第7条も参照してください)、これは時機を逸しています。デジタル改革関連諸法案が国会に提出された2021年、第204回国会の段階において「官報の発行に関する法律案」も提出されるべきであったからです。

 以下、いくつかの規定を引用しておきます。

 第1条:「この法律は、官報の発行主体、官報に掲載すべき事項、官報の発行の方法その他官報の発行に関し必要な事項を定めるものとする。」

 第2条:「官報の発行は、この法律の定めるところにより、内閣総理大臣が行う。」

 第3条第1項:「日本国憲法改正、法律及び法律に基づく命令(最高裁判所規則その他の規則で内閣府令で指定するものを含む。以下「法令」という。)、条約並びに詔書の公布は、官報をもって行う。」

 第3条第2項:「内閣法(昭和二十二年法律第五号)第二十五条第五項、内閣府設置法(平成十一年法律第八十九号)第七条第五項若しくは第五十八条第六項若しくは宮内庁法(昭和二十二年法律第七十号)第八条第五項、デジタル庁設置法(令和三年法律第三十六号)第七条第五項又は国家行政組織法(昭和二十三年法律第百二十号)第十四条第一項の告示で次に掲げるものの公示は、官報をもって行う。

 一 処分(行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為をいう。)の要件を定める告示

 二 前号に掲げるもののほか、これに類する告示として内閣府令で定めるもの」

 第4条第1項:「官報には、前条の規定により官報をもって行うこととされる公布又は公示の対象となる事項(以下「公布等事項」という。)のほか、次に掲げる事項を掲載するものとする。

 一 法令の規定に基づき国の機関が行う告示の対象となる事項

 二 前号に掲げるもののほか、公示、公告その他の公にする行為であって他の法令の規定により官報に掲載する方法によりしなければならないこととされているものの対象となる事項」

 第4条第2項:「公布等事項及び前項各号に掲げる事項のほか、官報には、次に掲げる事項を掲載することができる。

 一 基本方針、基本計画その他の閣議にかけられた案件に関する事項その他の行政機関(内閣、法律の規定に基づき内閣に置かれる機関若しくは内閣の所轄の下に置かれる機関、宮内庁、内閣府設置法第四十九条第一項若しくは第二項に規定する機関、国家行政組織法第三条第二項に規定する機関若しくは会計検査院又はこれらに置かれる機関をいう。次号において同じ。)の諸活動に関する事項で、一般に周知させるべきものとして内閣府令で定めるもの

 二 国の機関(行政機関を除く。以下この号において同じ。)の諸活動に関する事項で、一般に周知させるべきものとして内閣総理大臣と当該国の機関とが協議して定めるもの

 三 前二号に掲げるもののほか、前項第二号に掲げる事項に密接に関連する事項その他の官報に掲載する方法により一般に周知させることが特に必要なものとして内閣府令で定める事項」

 第5条第1項:「内閣総理大臣は、官報を発行しようとするときは、内閣府令で定める官報の種別ごとに、内閣府令で定めるところにより、官報を発行する年月日、当該年月日に係る公布等事項及び前条に規定する事項その他内閣府令で定める事項(以下「官報掲載事項」という。)を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。第十二条及び第十三条第一項において同じ。)を内閣総理大臣の使用に係る電子計算機に備えられた官報掲載事項を記録するためのファイル(以下この条、次条及び第十三条第一項において「官報ファイル」という。)に記録しなければならない。」

 第5条第2項:「官報の発行は、内閣総理大臣が、官報ファイルに記録された官報掲載事項(以下「電磁的官報記録」という。)について、内閣府令で定めるところにより、当該官報ファイルを電気通信回線に接続して行う自動公衆送信(公衆によって直接受信されることを目的として公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことをいい、放送又は有線放送に該当するものを除く。第十四条第三項において同じ。)を利用して公衆が閲覧することができる状態に置く措置をとることにより行うものとする。」


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