論者によって内容や順番が異なることも多いが、租税法学の理論上の体系は、概ね、次のようになっている。なお、多くの教科書においては、とくにシャウプ勧告に焦点を当て、近代国家になってからの日本の租税の歴史を扱うのであるが、この講義においては省略し、後に必要な部分について若干触れるに留める。
元々、租税法は行政法各論において扱われた分野であり、租税法学として独立してはいるが現在でも行政法の一分野であることに変わりがないため、体系については行政法学と共通する部分が多い。
1.租税法の基本原則
租税の意義、租税法律主義、租税法の解釈、課税上の原則など、租税法の全体に共通する原則を扱う。租税法総則、または租税法の基礎理論とも言われる。この部分のみに関する解説書もあるほどで、理論的な難題も少なくない。
2.租税実体法
所得税法、法人税法、消費税法などの個別租税法について、課税要件などを扱う。多くの体系書が租税実体法に膨大な頁数を充て、租税法の中心的な存在となっているとともに、一般国民にとっても最も関心の高い分野であろう。個別の租税実体法に関する概説書なども多く出版されている。
3.租税手続法
根本的には、行政法学における行政手続法と同じものである。納税義務が成立してから具体的に租税が納付されるまでの手続である。例えば、申告納税は、納税義務者が納めるべき税額を納税義務者自らが確定し、申告して納付するが、場合によっては税務署に認められず、納税義務者が修正申告をするか、税務署が更正処分を行う。滞納処分に至る場合もある。こうした一連の過程を扱う。
見方によっては、租税処罰法や租税争訟法も租税手続法に入るのであるが、これらは事後手続であるため、租税手続法とは別に扱われる。この点も行政手続法と同じである。但し、租税手続については行政手続法が適用されず、国税通則法や国税徴収法などが適用される場合が多い。
4.租税争訟法
行政法学における行政争訟法と根本的には同じである。更正処分や滞納処分などを受けた納税義務者が救済を受けるための手続を扱う。租税法の場合は、行政不服審査前置主義が採用され、しかも行政不服審査法ではなく、国税通則法の規定が適用される。そのため、税務署長に対する異議申立て、国税不服審判所への審査請求を経てから、裁判所に訴訟を提起することとなる。なお、租税訴訟に関する特別法は存在しないので、行政事件訴訟法などが適用される。
5.租税処罰法(罰則法)
行政法学における行政刑法と根本的には同じである。個々の租税の確定や徴収、納付に直接的に関連する犯罪と、それに対する制裁(刑罰などの処罰)を扱う。
中心となるのは脱税犯である。これは、次のように細分される。
逋脱犯(狭義の脱税犯):納税義務者または徴収納付義務者が、偽りその他不正の手段により、租税を免れ、またはその還付を受けたことを構成要件とする犯罪である。帳簿書類への虚偽記入、二重帳簿の作成などの手段によることが多いが、単純な無申告や過少申告であっても逋脱犯に該当する場合がありうる。課税主体の租税債権を直接的に侵害する犯罪と位置づけられる。
間接脱税犯:外国貨物の密輸入や酒類の密造など、一般的に法律により禁止されている行為を行った場合が該当する。
不納付犯:徴収納付義務者が、徴収し納付すべき租税を納付しない、という事実を構成要件とするものである。
滞納処分脱犯:滞納処分の執行を免れる目的により、財産の隠蔽や損壊、その他租税債権者の利益を害する行為が該当する。
脱税犯とは別に、租税危害犯の概念が存在する。これは、課税主体の租税債権を直接的に侵害するものではないが、租税確定権や租税徴収権の行使を妨げるために可罰的であるとされる行為を犯罪とするものであり、主なものは次の通りである。
虚偽申告犯:文字通り、納税申告書に虚偽の記載をすることが構成要件とされる犯罪である。
単純無申告犯:正当な理由がないにもかかわらず、納税申告書を提出期限内に提出しないことが構成要件とされる犯罪である。但し、偽りその他不正な行為と結びついている場合には、単純無申告犯ではなく、逋脱犯とされる。
不徴収犯:源泉徴収などの徴収納付義務者が、納税義務者から徴収すべき租税を徴収しない場合をいう。
検査拒否犯:これは、次のような行為を構成要件とする犯罪である。
①税務職員の行う質問に対して答弁をしない、
②税務職員の行う質問に対して偽りの答弁をする、
③税務職員の行う検査を拒否する、
④税務職員の行う検査を妨げる、
⑤税務職員の行う検査を忌避する、
⑥質問・検査の際に偽りの記載がなされた帳簿書類を提出する。
▲第3版における履歴:2019年9月28日掲載。
▲第2版における履歴:「第1部:租税法の基礎理論 第01回:租税とはいかなるものか」を参照。本記事は、第2版における「01 租税と租税法」の一部を分離独立させたものである。
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