私が大学院修士課程生であった時に、早稲田大学法学部の或る先生が「大学にとって図書は貴重な財産である」という趣旨の発言をされていました。その通りであると思っています。仕事柄、大学の図書館、図書室をまわりますが、やはり蔵書数が少ないと、大学の質を疑わざるをえないとも言えます。
一方で、蔵書が増えるとなれば、管理に困ることは明白です。昨年、私自身も研究室にある本の整理をしなければならなくなり、泣く泣く、かなり多くの本や雑誌を処分しました。大学図書館によっては、置く場所がないということで文献を別置扱いとすることもあります(その前に無駄な空間が多い建物をどうにかすれば、置く場所も増えるとは思うのですが、ただの素人考えなのでしょう)。また、雑誌を3年保存として期間が経過したら廃棄する、紀要などの今後の購入を中止する、加除式の新規購入は受け付けない、などという図書館もあります。
図書の管理は悩ましいもので、私も時々「どうしようかな」と思うことがあり、今日も少しばかり考えていたところに、たまたま、朝日新聞社のサイトに今日(2020年3月17日)の10時15分付で「『大学蔵書を大量廃棄』 梅光学院に作家ら106人抗議」という記事(https://www.asahi.com/articles/ASN3J72STN3JTZNB001.html)が掲載されていたのを見つけました。
山口県は下関市にある梅光学院大学の図書館が、大学の紀要など、7万冊から8万冊を廃棄したとして、「梅光学院大学図書館を守る会」が学校法人梅光学院に抗議したということです。この会には、村田喜代子さん、高橋源一郎さん、伊藤比呂美さんなど、作家、詩人など106人(厳密な数かどうかはわかりません)が名を連ねているそうです。
廃棄された蔵書の数はわかりません。記事に書かれている「梅光学院大学図書館を守る会」側の調査、発言内容を見ると「2017年度に重複している蔵書の廃棄が増え始め、これまでに史料価値のある新聞縮刷版や辞書辞典類、図録、江戸後期に刷られた和古書などの廃棄を確認した」とのことです。重複している蔵書の廃棄はやむをえないとも思うのですが、そうでない蔵書が廃棄されたとすると問題があります。
また、梅光学院大学は財産目録をサイトで公開しているそうで、朝日新聞社記事に「19年3月末現在の図書は約36万冊。7年前より約2万5千冊減っている」と書かれていたので、同大学のサイトを見てみました。たしかに財産目録が公開されており、次のようになっています。
2011年度(2012年3月31日現在):蔵書は384,539冊
2012年度(2013年3月31日現在):蔵書は389,035冊
2013年度(2014年3月31日現在):蔵書は392,141冊
2014年度(2015年3月31日現在):蔵書は388,843冊
2015年度(2016年3月31日現在):蔵書は388,328冊
2016年度(2017年3月31日現在):蔵書は385,421冊
2017年度(2018年3月31日現在):蔵書は313,881冊
2018年度(2019年3月31日現在):蔵書は359,551冊
2011年度から2018年度までを見ると、たしかに24,978冊の減となっています。2013年度までは蔵書数が増えているのですが、2014年度から2017年度までは減少の一途をたどっています。
ただ、2016年度から2017年度までを見ていただくと71,540冊の減となっており、異常とも言える減り方となっています。おかしいと思って財産目録をもう一度参照しましたが、私が書き誤った訳ではないということがわかったので、財産目録に誤りがあるのか、何か別の理由があるのか、ともあれ減っていた訳です。重複しているものを処分したということだけで説明ができると思えない冊数です。さらに記すならば、2017年度から2018年度にかけて45,670冊も増えているのは、いかなる理由によるものでしょうか。新学部か新学科を設置するということであれば、わからない話でもないのですが、それにしては多いと考えられます。
あるいは、財産目録には図書とは書かれていても図書館の蔵書とは書かれておらず、内訳のようなものも示されていないので、図書は図書館の蔵書に限定されていないのかもしれません。
村田喜代子さんは、記者会見において「本は大学だけのものではない。日本の歴史が詰まっている。電子書籍もあるが図書館という根本のところが紙で所蔵しないのは問題だ」という趣旨のことを述べたそうです。また、中原中也記念館長の中原豊さんも「文学、文化軽視が蔓延し、実はどこの大学でも起こっているのではないか。図書館は未来の読者への責任を負っており、無秩序な廃棄はやめるべきだ」という趣旨のことを述べたということです。両者の指摘はいずれも重要ですが、私はとくに中原豊さんの指摘に注意しておきたいと思っています。
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