ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

John Coltrane, Blue World

2019年10月25日 01時03分00秒 | 音楽

 昨年(2018年)、"John Coltrane, Both Directions at Once, The Lost Album"が発売されました。購入してから何度となく聴きました。2枚組ですが、とくに1枚目の1曲目(Untitled Original 11383)、3曲目(Untitled Original 11386)、6曲目(Slow Blues)を気に入ったので、通しで聴いたのです。もう16年か17年も前に、大分フォーラスの地下にあったタワーレコードで大分大学教育福祉科学部の学生に声をかけられ、ジャズで最初の一枚を買いたいけどおすすめは何か、という趣旨のことを尋ねられ、少し悩んでコルトレーンの「バラード」(Ballads)をすすめたことなどを思い出しながら。

 今年の9月には、"John Coltrane, Blue World"が発売されました。数ヶ月前に広告が出ており、予約注文をして購入しました。1960年代前半、黄金のカルテットによる演奏です。コルトレーンがサックス(今回購入したBlue Worldではテナー・サックスのみ)、マッコイ・タイナー(McCoy Tyner)がピアノ、ジミー・ギャリソン(Jimmy Garrison)がベース、そしてエルヴィン・ジョーンズ(Elvin Jones)がドラムです。聴かない訳にはいかないだろうと思っていました。

 今回の"John Coltrane, Blue World"は、1964年6月24日に録音されたものです。あの傑作「至上の愛」(A Love Supreme)と同じ年だと思っていたら、約半年前の録音でした。期待できそうです。

 〔「至上の愛」については、アシュリー・カーン(川嶋文丸訳)『ジョン・コルトレーン「至上の愛」の真実 スピリチュアルな音楽の創作過程』(2014年、DU BOOKS)もおすすめします。ちなみに、日本語訳のオリジナルは2006年に音楽之友社から発売されており、私は音楽之友社のほうを購入しました。たしか、発売されて間もなくのことで、青葉台のブックファーストで見つけたのです。〕

 "Blue World"はスタジオ録音の作品集ですが、少々変わった経緯がありました。カナダ人の映像作家であるジル・グルー(Gilles Groulx)による映画「袋の中の猫」(Le chat dans le sac)のための録音だったのです。ただ、この映画がアンダーグラウンド系のものであったことなどから、あまり注目されなかったようで、コルトレーン・カルテットがこの映画のために録音したという事実も2007年になってから判明したそうです。また、ジャズと映画と言えばフランスのヌーヴェル・ヴァーグ(Nouvelle Vague)という連想が浮かんできますが、このコルトレーンの録音の場合は映像と無関係であったそうで、その点はルイ・マル(Louis Malle)監督の「死刑台のエレベーター」(Ascenseur pour l'échafaud)などと異なります。

 収録されているのは、コルトレーンのファンであればおなじみの曲ばかりでしょう。全てコルトレーンのオリジナルで、CDには次の順で収録されています。

 ・ナイーマ(ネイマ。Naima) Take 1

 ・ヴィレッジ・ブルース(Village Blues) Take 2

 ・ブルー・ワールド(Blue World)

 ・ヴィレッジ・ブルース(Village Blues) Take 1

 ・ヴィレッジ・ブルース(Village Blues) Take 3

 ・ライク・ソニー(Like Sonny)

 ・トレーニング・イン(Traneing In)

 ・ナイーマ(ネイマ。Naima) Take 2

 最初と最後に、コルトレーンの前妻の名をそのまま曲名にしたバラードがあります。やはり名盤である「ジャイアント・ステップス」(Giant Steps)に初収録されてから、彼は何度も演奏しているのですが、このCDでの演奏もなかなかのものです。短期間のうちに恐ろしくなる程の前進を続けたコルトレーンのことですから、同じ曲でも年によって趣がかなり異なります。

 途中に挟まれた曲にブルースが多いのも特徴でしょうか。「トレーニング・イン」は1950年代に録音された同名のアルバムにも収録されており、やはりコルトレーンが多くの録音を残してきた曲ですが、このCDではギャリソンのソロから始められており、卓越した技を聴かせてくれます。もはや伝説と言ってよい日本公演の「マイ・フェイヴァリット・シングス」(My Favorite Things)で、10分を超えるギャリソンの無伴奏ソロは有名ですが、スタジオ録音では、あまり彼のソロがフィーチュアされることもないと記憶しているので(もっとも、全てを聴いた訳ではありません)、珍しいと言えるかもしれません。その後にタイナーのソロが続き、コルトレーンは途中からいきなりのアドリブとなります。

 コルトレーンのブルースと言えば、"Live at the Village Vanguard"に収録されている"Chasin' the Trane"という、彼がブルースの枠を超越しているような爆発的なソロを思い出すのですが(学部生時代にはまっていました)、上記の各曲にも、"Chasin' the Trane"ほどではないにせよ、ブルースという型にはまらないようなソロがある、と言えます。だから面白いのでしょう。

 ブルースでないのは「ブルー・ワールド」と「ライク・ソニー」で、前者は1962年の「コルトレーン」の冒頭に収録されている「アウト・オブ・ディス・ワールド」(Out of This World)のコード進行を基に作られた曲となっています(しかし、聴いてみると「アウト・オブ・ディス・ワールド」そのものとも思えます)。後者は「コルトレーン・ジャズ」に収録されている曲で、「ソニー」とはテナー・サックスの巨人ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)のことです。

 それにしても、コルトレーンが41歳で亡くなったのが1967年7月のことですから、もう半世紀以上が経過している訳です。黄金のカルテットでも、存命者はタイナーのみで、今年の12月に81歳になるそうです。ギャリソンは1976年に43歳で、ジョーンズは2004年に76歳で亡くなりました。

 それでも未発表録音などが次々に出てきます。コルトレーンやマイルス・デイヴィスなどであれば、これも当たり前のことなのかもしれません。海賊盤の類も多いし、正規、非正規の別を問わず、コンサートの録音や録画が多く残されているのですから(その中に海賊盤として発売されたレコードもあるのです)。YouTubeにもたくさんの動画がアップされています。

 ただ、未発表物、発掘物に「はずれ」が多いのも事実です。何らかの理由によりお蔵入りになった録音もあるのですから当然のことでしょう。私の経験を記しておくと、高校生時代からエリック・ドルフィーの演奏を好んでいたことから、彼の未発表物というLPやCDを何枚か買いました。しかし、正直なところピンと来なかったLPやCDもあります(むしろドルフィーではそのほうが多いかもしれません)。中にはSPかと思われるような音の曲もあり(それでも何故か多重録音だったりします)、何故発表されたのかと首を傾げたくなりました。その意味で、2018年に発売された"Eric Dolphy, Musical Prophet : The Expanded 1963 New York Studio Sessions"は非常に貴重な記録と言えるのです。

 そのドルフィーとコルトレーンは親しく、1960年代に何度も共演しています(但し、コルトレーンのレギュラーバンドにドルフィーが参加していた期間は短いのです)。ドルフィーは生涯、安定的な生活を得られず、そのことが額の瘤にも現れているのですが、コルトレーンは違っていました。だから未発表であった録音にも良いものが多かったのでしょう。まだ出るのか、もう出ないのか、それはわかりませんが、期待してしまう訳です。

 ★★★★★★★★★★

 10月20日、二子玉川のiTSCOM STUDIO & HALLでiTSCOM JAZZ STYLE 2019 Autumn Special Liveが行われました。出演は、渡辺香津美さん(ギター)、川村竜さん(ベース)、則竹裕之さん(ドラム)の「渡辺香津美 JAZZ 回帰 Trio」で、我々夫婦は18時からのほうに行ったのでした。真ん中の列の前から3番目という席です。

 このコンサートの2曲目がコルトレーンの"Impressions"でした。香津美さんのことですので、このモード・ジャズの権化のような曲でも自由に弾きまくるのだろうと予想していたら、その通りでした。川村さんが顔から汗を流しながらソロを弾いていたのがよくわかりました。この3人なら、ということで聴きに行こうと思っていたので、正解でした。

 また、コルトレーンも参加していた"Milestones"を、1970年代後半の伝説ともなっているKYLYNのアレンジ(と香津美さんはアナウンスしていました)で聴くことができました。彼にとっては色々なアプローチができる曲のようで、青葉台のフィリアホール(沖仁さんとのコンサート)でも全く違うアレンジで聴けました。

 私にとっては、アンコールでの1曲を除いて全て知っている曲でした。順番に、Havana、Impressions、Four on Six、遠州燕返し、Momo、Unicorn、そしてMilestonesです。

 そろそろ、新しいアルバムが出ないかな、と期待しています。


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