ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

津山市で私立大学の公立化を求める声

2025年02月19日 00時00分00秒 | 受験・学校

 ここ15年程でしょうか、私立大学の公立化が行われるようになっています(厳密に言えば公立大学法人化ですが、便宜上、公立化と表現します)。例えば、2009年に高知工科大学(高知県香美市)、2010年に名桜大学(沖縄県名護市)、2014年に長岡造形大学(新潟県長岡市)、2017年に長野大学(長野県上田市)が公立化しています。これら4大学は元々が公設民営方式で設立されたものですが、2016年に成美大学が公立化されて誕生した福知山公立大学(このブログでも取り上げています)は公設民営方式で設立されたものではありません。

 さて、今回は岡山県津山市の話です。同市に美作(みまさか)大学という私立大学があります。学部は生活科学部のみで、この学部の中に食物学科、児童学科および社会福祉学科が設置されています。一方、大学院として生活科学研究科(修士課程のみ。食物学科に対応するようです)および人間発達学研科(修士課程のみ。児童学科に対応するようです)が設置されていますが、何故か社会福祉学科に対応する大学院の研究科がありません。また、短期大学部も設置されています。

 美作大学の公式サイトには2024年3月6日付の「社会福祉士国家試験、合格率93.3%」という記事が掲載されており、2023年度の社会福祉士国家試験の合格率が、中国地方、四国地方および九州地方の私立大学25校中で8年連続第1位と宣伝されています。ちなみに、全国の大学159校中第28位、全国の私立大学129校中第12位とも書かれていますが、全国の大学159校、全国の私立大学129校の具体的な意味は書かれていません。生活科学部社会福祉学科社会福祉士養成課程の記事なので、社会福祉関係の学部や学科を設置する大学のことでしょうか。

 岡山県北部では唯一の私立大学である美作大学ですが、2023年12月7日付で「美作大学短期大学部の学生募集停止について(2025年度以降)」を公表しています。そのため、短期大学部の学生募集は2024年度入学生をもって終わるということになります。募集停止の理由などについては「18歳人口の減少と四年制大学志向など近年の社会状況の変化に伴い、志願者が減少し、短期大学部は定員を充足できない状況が続いております。そのような状況の下、本法人は短期大学部の今後について慎重に検討を重ねてまいりました。その結果、2024年4月入学生の受け入れをもって短期大学部の学生募集を停止することといたしました」と書かれています。

 しかし、事態は短期大学部の募集停止では済まされない状況になっています。私自身も大学の教員ですから他人事ではありえません。そのために関心を寄せざるをえません。

 おそらく、志願者の減少は大学にも及んでいるはずです。少々わかりにくいですが、学科ごと、入試方式別のの募集人員と受験者数、合格者数を見ると、一部で定員割れが生じています。そのためでしょう、津山市が美作大学の「公立化を検討する方針を明らかにした」と、朝日新聞社が報じています。同社のサイトに、2025年2月18日18時付で「美作大の公立化、岡山県津山市が検討へ 『地方創生の核に』」(https://digital.asahi.com/articles/AST2K43GMT2KPPZB004M.html)という記事が掲載されていました。

 さすがに美作大学のサイトには掲載されていませんし、学校法人美作学園のサイトにも書かれていないのですが、2024年1月に、美作学園は公立化の検討を津山市に対して要望していたようです。また、美作大学の同窓会や後援会も公立化を求める署名活動も行われており、2024年8月におよそ29000筆の署名を津山市に提出しています(ちなみに、2025年2月1日における津山市の人口は、住民基本台帳ベースで94924人です)。さらに、岡山経済同友会津山部会、津山市医師会、津山市連合町内会も、美作大学の存続あるいは公立化の検討を求めて、津山市に要望書を提出しているとのことです。

 これらを受ける形で、ということでしょうか。津山市は2025年度一般会計当初予算(案)で関連費用として1600万円を計上した、とのことです。どのくらいの数かはともあれ、存続あるいは公立化の声はありますから、津山市も調査に乗り出そうという訳でしょう。上記朝日新聞社記事によれば、津山市は美作大学の存続を「地方創生の核」と位置づけているようです。たしかに、美作大学の学部構成を見ると、大学での教育や研究が津山市やその周辺の市町村に貢献しうると判断できるかもしれません。

 また、美作学園の歴史はかなり古く、100年を超えています。1915年に津山高等裁縫学校が設立されており、1951年に美作短期大学が、1967年に美作女子大学が開学しています。1978年に美作短期大学が美作女子大学短期大学部となり、2003年美作女子大学が共学化の上で美作大学に改称されています。津山市に根付いた私立学校であるということでしょう。

 津山市が予算に費用を計上したということは、同市が美作大学の公立化に積極的であると考えることもできるでしょう。上記朝日新聞社記事によると、津山市長は「高等教育機関を存続させる意味合いでは公立化は効果的、現実的な選択ではないか」という趣旨の発言をしていますし、津山市は2025年度に「公立化した場合の長期的な収支見通しや地域ニーズなどについて調査、分析を行い、大学運営の専門家や教育関係者らによる有識者会議を立ち上げる方針。専門的、客観的な見地から評価してもらう」とのことです。

 ただ、検討は慎重に行われるべきでしょう。最初の段落で記したように、私立大学の公立化については実例がいくつもあります。しかし、事情は個別的でしょう。公設民営方式で設立されたのであれば公立化は比較的容易であると思われるのですが、美作大学は公設民営の大学ではありません。また、地域の人口、学部・学科のニーズなど、考慮すべき要素は複数にのぼります。さらに言えば、公立化によって受験生の学力水準が上がり、志願倍率が上昇することも見込まれるかもしれませんが、それがいつまで続くのか、という問題もあるでしょう。津山市の財政に重大な影響が及ぶ可能性も検証しなければなりません。

 もう一つ、気になることがあります。

 美作学園には、美作大学だけでなく、岡山県美作高等学校および美作大学附属幼稚園があります。高校と幼稚園は美作学園が引き続き運営するのでしょうか。おそらく、同学園が引き続いて経営するのでしょう。ただ、幼稚園のほうは、美作大学生活科学科児童学科の教育や研究と密接な関係を持っているはずです。大学の公立化によって大学と幼稚園との関係に何らかの影響が出るのでしょうか。


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