ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

あまり例を見ない規定

2021年10月15日 00時00分00秒 | 法律学

 2021年10月14日に衆議院が解散されましたが、ほぼ任期満了ということなのに解散とは、どの程度の意味があるのでしょうか。ほぼ無意味に近いのではないでしょうか。まさか、衆議院の任期満了は望ましくないとでも考えられているのでしょうか。

 さて本題。オンデマンド方式の講義が増えたことにより、小課題を作成する機会が増えました。今日も作業を進めていますが、e-Govで国立国会図書館法(昭和23年法律第5号)を見たら、日本ではあまり例を見ない規定があることがわかりました。

 例を見ないと記したのは、規定の構造において、ということです。

 まず、第4条第2項です。これは「館長は、職務の執行上過失がない限り在職する。館長は、政治活動を慎み、政治的理由により罷免されることはない。館長は、両議院の議長の共同提議によつては罷免されることがある。」と定めています。

 一見すると何の変哲もない規定に見えますが、この項では三つの文が一行にまとめられており、実はこれがあまり例を見ないものとなっているのです。

 私も法律学者の端くれですし、地方自治総合研究所の「地方自治立法動向研究」の一員でもありますので、改正法を含めて多くの法律、政令、省令などを参照します。そのため、法律の条文を作成する際のルールは何となくわかってきます。その一つが、条であれ項であれ号であれ、一つの段落は一つか二つの文で構成されるということです。よく前段、後段、本文、ただし書きといいますが、これは二つの文から構成される条文について使う言葉です。三つ以上の文から構成されるのでは前段、後段などという表現を使うことができませんから、ドイツの法律のように第1文、第2文、第3文という言葉を使わざるを得なくなります。

 国立国会図書館法第4条第2項は三つの文により構成されています。そのため、「館長は、職務の執行上過失がない限り在職する」という文を前段ということはできません。第1文と呼称すればよいのでしょうか。

 手元に石毛正純『法制執務詳解』〔新版Ⅲ〕(2020年、ぎょうせい)という本がありますので参照してみました。

 48頁には「一つの条は、通常ワンセンテンスにされるが、二つ以上のセンテンスにされることもある。この場合に、その二つ以上のセンテンスが、条文の段落としての性質を有するときは、それぞれ別行にして書くこととされ、この別行にして書かれた部分を、『項』」という」と書かれています。ついでに記すならば、「項」は段落と考えてよく、日本国憲法の原文や昔の法令を参照すると、現在の法令と異なって項番号が記されておらず(現在も第1項については項番号を書かないのが流儀です)、第二段落が第2項というような形になっています。

 また、50頁には「条文がツーセンテンスから成る場合でも、そのツーセンテンスをそれぞれ別項にするまでもないと考えられるときは、ツーセンテンスを含んだ一つの条又は項とされる。このように、一つの条・項が二つの文章から成る場合には、前の文章を『前段』といい、後の文章を『後段』という。後段は、『この場合において、……』又は「……についても、同様とする」という表現の文章になるものが多い」と書かれています。

 同書の記述からして、一つの条または項は一つの文で書かれることが望ましく、多くても二つの文で書かれることが暗黙のルール(?)となっていることがわかります。勿論、これに拘泥することが望ましいとは思えません。例えば、租税特別措置法の規定は、無理に一つか二つの文に収めようとするためか、一つの文が非常に長く、かっこ書きを多用して税務六法の何十行にもわたる長文もあります。これなら短くして項に分けてもらったほうが理解し易いというものです。

 こういう条文を読むと思い出すことがあります。フランスの哲学書や文学書の訳書に、一つの段落が何頁にもわたるようなものがあり、非常に読みにくいのです。原文がそうであるとしても日本語訳に際しては適宜改行してほしいものです。それと同じようなものが日本の租税法の規定です。

 国立国会図書館法に戻りましょう。第4条第2項は三つの文から構成されることを見ました。館長に関する規定として対照的なのが、国立国会図書館関西館に関する第16条の2です。次のようになっています。

 第16条の2第1項:「中央の図書館に、関西館を置く。」

 同第2項:「関西館の位置及び所掌事務は、館長が定める。」

 同第3項:「関西館に関西館長一人を置き、国立国会図書館の職員のうちから、館長がこれを任命する。」

 同第4項:「関西館長は、館長の命を受けて、関西館の事務を掌理する。」

 仮に関西館が東京の本館と同時期に設置されていたら、関西館に関する規定も第4条第2項と同じような構造となっていたことでしょう。第16条の2のほうが、条文の構造としても読み易いと言えます。

 制定の時期によるのか別の理由によるのかわかりませんが、国立国会図書館法には第4条第2項と同じような構造の規定が他にもあります。私が最初に気付いたのは第9条で、次の通りです。

 「国立国会図書館の副館長は、一人とする。副館長は、館長が両議院の議長の承認を得て、これを任免する。副館長は、図書館事務につき館長を補佐する。館長に事故があるとき、又は館長が欠けたときは、副館長が館長の職務を行う。」

 御覧のように四つの文で構成されています。現在であれば第16条の2のように項に分けるでしょう。例えば、次のようになると思われます。

 第1項:「国立国会図書館の副館長は、一人とする。」

 第2項:「副館長は、館長が両議院の議長の承認を得て、これを任免する。」

 第3項:「副館長は、図書館事務につき館長を補佐する。」

 第4項:「館長に事故があるとき、又は館長が欠けたときは、副館長が館長の職務を行う。」

 続いて第10条第2項です。これは「図書館の職員は、国会議員と兼ねることができない。又、行政若しくは司法の各部門の地位を兼ねることができない。但し、行政又は司法の各部門の支部図書館の館員となることは、これを妨げない。」というものです。三つの文から成り、しかも最後の文が但し書きになっています。「又、」という部分が、いかにも無理をしたようにも見えます。「又、」以降を改行して第3項とし、「図書館の職員は、行政若しくは司法の各部門の地位を兼ねることができない。但し、行政又は司法の各部門の支部図書館の館員となることは、これを妨げない。」とするほうがよかったのではないでしょうか。

 三つの文で構成される条文はまだあります。

 第19条:「行政及び司法の各部門の図書館長は、当該各部門に充分な図書館奉仕を提供しなければならない。当該各図書館長は、その職員を、国会職員法又は国家公務員法若しくは裁判所法の規定により任免することができる。当該各図書館長は、国立国会図書館長の定める規程に従い、図書及びその他の図書館資料を購入その他の方法による受入方を当該各部門の長官若しくは館長に勧告し、又は直接に購入若しくは受入をすることができる。」

 第23条:「館長は、国立国会図書館の収集資料として、図書及びその他の図書館資料を、次章及び第十一章の規定による納入並びに第十一章の二及び第十一章の三の規定による記録によるほか、購入、寄贈、交換、遺贈その他の方法によつて、又は行政及び司法の各部門からの移管によつて収集することができる。行政及び司法の各部門の長官は、その部門においては必ずしも必要としないが、館長が国立国会図書館においての使用には充て得ると認める図書及びその他の図書館資料を国立国会図書館に移管することができる。館長は、国立国会図書館では必ずしも必要としない図書及びその他の図書館資料を、行政若しくは司法の各部門に移管し、又は交換の用に供し、若しくは処分することができる。」

 第19条、第23条のいずれも三つの文から構成されていますが、接続詞もないために文のつながりがあまりよくありません。改行して項立てしたほうがよいものと思われます。

 また、二つの文から構成される条文でも、構成に難があるのではないかと思われるものがあります。例えば第24条の2第1項です。御覧ください。

 「地方公共団体の諸機関により又は地方公共団体の諸機関のため、前条第一項に規定する出版物が発行されたときは、当該機関は、同項に規定する目的のため、館長の定めるところにより、都道府県又は市(特別区を含む。以下同じ。)(これらに準ずる特別地方公共団体を含む。以下同じ。)の機関にあつては五部以下の部数を、町村(これに準ずる特別地方公共団体を含む。以下同じ。)の機関にあつては三部以下の部数を、直ちに国立国会図書館に納入するものとする。」

 下線を引いた部分は、二つのかっこ書きが並べられています。租税法であればかっこ書きの中にかっこ書きを入れるのですが、そのようにもなっていません。。詳しく調べた訳ではないものの、改正の際にいずれかのかっこ書きが追加されたものと見受けられます。特別区は特別地方公共団体の一つであることに鑑みれば、二つのかっこ書きを並存させるのではなく、一つにまとめるべきではないでしょうか。

 難があるということでは、ここにもう一つだけあげておきましょう。第21条第1項です。次のようになっています。

 「国立国会図書館の図書館奉仕は、直接に又は公立その他の図書館を経由して、両議院、委員会及び議員並びに行政及び司法の各部門からの要求を妨げない限り、日本国民がこれを最大限に享受することができるようにしなければならない。この目的のために、館長は次の権能を有する。

 一 館長の定めるところにより、国立国会図書館の収集資料及びインターネットその他の高度情報通信ネットワークを通じて閲覧の提供を受けた図書館資料と同等の内容を有する情報を、国立国会図書館の建物内で若しくは図書館相互間の貸出しで、又は複写若しくは展示によつて、一般公衆の使用及び研究の用に供する。かつ、時宜に応じて図書館奉仕の改善上必要と認めるその他の奉仕を提供する。

 二 あらゆる適切な方法により、図書館の組織及び図書館奉仕の改善につき、都道府県の議会その他の地方議会、公務員又は図書館人を援助する。

 三 国立国会図書館で作成した出版物を他の図書館及び個人が、購入しようとする際には、館長の定める価格でこれを売り渡す。

 四 日本の図書館資料資源に関する総合目録並びに全国の図書館資料資源の連係ある使用を実現するために必要な他の目録及び一覧表の作成のために、あらゆる方策を講ずる。」

 ここで柱書きに注目しますと、「最大限に享受することができるようにしなければならない。この目的のために、館長は次の権能を有する」となっています。これも、管見の限りではあまり例がないものです。他の法律の条文であれば、第1項を「最大限に享受することができるようにしなければならない」で終わらせ、改行の上で、第2項として「前項の目的を達するため、館長は次の各号に掲げる権能を有する」と書かれるところでしょう。

 戦後の混乱期に制定された法律であるとはいえ、立法の作法が確立されていなかったとも思えないのですが、いかがでしょうか。

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分数の計算ができていないのか、単に条文を読んでいないのか?

2021年10月14日 00時00分00秒 | 受験・学校

 この数年、法学特殊講義2B(相続税および贈与税)という科目を担当しています。この科目の内容を学ぶためには、まず民法第5編の規定、とくに第900条に定められる法定相続分を理解しなければならないのですが、その計算問題(勿論、比較的簡単なケース)を出したのですが、意外に「できていない」のです。

 まずは問題を御覧ください。

 

 2.次の(1)〜(3)に登場する相続人の法定相続分を答えなさい。但し、特記なき場合には相続開始時に相続人が死亡していないものとします。

 (1)A:被相続人。

    B:被相続人の配偶者。

    C、DおよびE:被相続人の子。

 (2)A:被相続人。

    B:被相続人の配偶者。

    C:被相続人の子。但し、相続開始時の2年前に死亡。

    D:被相続人の子。

    EおよびF:Cの子。

    GおよびH:Dの子。

 (3)A:被相続人。直系卑属はいない。

    B:被相続人の配偶者。

    CおよびD:被相続人の親。

 

 ここで直ちに正解を示すことはせず、タイトルに示したことについて書いておきましょう。

 まず、民法の条文を読んでいないのだろうと思いました。また、この講義については私が資料を作っており、法定相続人および法定相続分についても記しているのです。民法第900条の各号を読めば、法定相続分は理解できるでしょう。

 次に、分数の計算ができていないのではないかと思われる解答がいくつも見受けられました。各法定相続人の法定相続分を合計すると1を超えて4分の5、2分の3、2などということになるはずがないのですが、意味を理解していないのだろうと思わざるをえません。仮に1を超えてしまうと、法定相続分の合計が被相続人の遺産総額を超えるというミステリーが生じてしまう訳です。

 例えば、被相続人がA、その配偶者がB、子がCおよびDとします。民法第900条によると、配偶者の法定相続分は2分の1、子の法定相続分は子全員で2分の1で、その2分の1を子の人数で等分するのです。子が2人であれば子の法定相続分は1/2÷2=1/2×1/2=1/4、3人であれば1/2÷3=1/2×1/3=1/6ということです。従って、Bの法定相続分は2分の1、Cの法定相続分は4分の1、Dの法定相続分は4分の1です。合計すれば1になります。

 それでは、(1)〜(3)の正解を記しておきましょう。

 (1) B:2分の1   C:6分の1   D:6分の1   E:6分の1

 このケースでは配偶者Bの法定相続分が2分の1、子の相続分が3人合わせて2分の1です。C、DおよびEのそれぞれの法定相続分は、2分の1を3等分することによって得られるから、6分の1となります。

 (2) B:2分の1   C:0(相続開始時の2年前に死亡しているため)  D:4分の1  E:8分の1(Cの子であるため、代襲相続人となる)

     F:8分の1(Cの子であるため、代襲相続人となる)   G:0   H:0

 基本的には(1)と同じですが、Cが相続開始時の2年前に死亡していた点に注意してください。

 代襲相続人が存在する場合には、次の手順で考えるとよいでしょう。

 ①まず、Cが相続開始時に生存していたと仮定すると、法定相続人はB、CおよびDとなるので、法定相続分は次のようになります。

 B:2分の1  C:4分の1  D:4分の1

 ②実際にはCが相続開始時より前に死亡していたので、Cの子であるEおよびFが代襲相続人となります。EおよびFの法定相続分はCを引き継いだものとなるため、Cの法定相続分を代襲相続人の数で等分することとなります。従って、Cの4分の1を2等分して8分の1となるのです。 一方、GおよびHはDの子であり、Dは相続開始時に生存しているため、Dが相続欠格事由に該当する場合、または廃除された場合を除き、法定相続人となりえません。

 (3) B:3分の2  C:6分の1  D:6分の1

 このケースではAに直系卑属がいないため、親、つまり直系尊属であるCおよびDが法定相続人となります。法定相続分は配偶者が3分の2、直系尊属が2人合わせて3分の1ですから、CおよびDの法定相続分は、それぞれ、3分の1を2等分して得られる6分の1です。

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横浜高速鉄道Y500系Y514F

2021年10月13日 00時00分00秒 | 写真

今回は、横浜高速鉄道Y500系Y514Fです。

各駅停車渋谷行きとして自由が丘駅6番線に入線し、急行和光市行きの待ち合わせをします。

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いつまで走るか 東京メトロ7000系7134F

2021年10月12日 08時40分00秒 | 写真

有楽町線用として製造された7000系の廃車が進んでいます。10両編成はなくなったようで、8両編成が残っていますが、全面引退も時間の問題です。

各駅停車和光市行きとして、自由が丘駅6番線に入線した7134Fです。

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第46回 行政組織法その4 公物法

2021年10月11日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.公物法

 端的に言えば、行政の遂行に役立つものとして存在する物を公物という(例.道路、公園、河川)。公務員が行政の人的手段であるならば、公物は行政の物的手段である、ということになる。なお、公物は行政法学上の用語であり、法令用語ではない。

 参考.営造物とは、国または公共団体などの行政主体によって公の目的に供用される人的および物的施設の総合体のことである。例として、国公立学校、病院、図書館などがあげられる。

 (1)公物法とは何か?

 公物に関する統一的な法典は存在しないが、公物法に関する一般理論が行政法学によって構成されてきた(公法と私法との区別を前提とする)。

 ①公物管理法

 公共用物については、道路法、都市公園法、河川法、海岸法など(いずれも公物管理法)が整備されてきた。また、地方公共団体は、地方自治法により、条例で公の施設に関する定めを置くことができる。

 ②公物管理規則

 個別の公物管理法が適用されないものについては、公園管理規則(公園管理法の適用がない公園に関するもの)など、公物管理規則が制定されることがある(その場合には、公物管理権者の支配権に制定の根拠を求めることになる)。なお、地方公共団体の場合は、やはり条例主義が採用されることとなる。

 ●最大判昭和28年12月23日民集7巻13号1561頁(皇居外苑使用不許可事件、Ⅰ―65)

 事案:原告の総評(日本労働組合総合評議会)は、昭和26年11月20日に、翌年5月1日に皇居外苑を使用するために、被告の厚生大臣に許可を申請したが、厚生大臣は翌年3月に不許可処分を行った。総評は国民公園管理規則(厚生省令)の趣旨を誤解するなど違憲・違法の処分であるとして、取消しを求めて出訴した。

 判旨:最高裁判所大法廷は、既に昭和27年5月1日を過ぎてしまったために総評に法律上の利益がないとして上告を棄却した。その上で、「公共福祉用財産」が「公の用に供せられる目的に副い、且つ公共の用に供せられる態様、程度に応じ、その範囲内において」国民が利用しうるとし、「国有財産の管理権は、国有財産法五条により、各省各庁の長に属せしめられて」いるから「公共福祉用財産」の利用の許否は「公の用に供せられる目的に副うものである限り、管理権者の単なる自由裁量に属するものではなく、管理権者は、当該公共福祉用財産の種類に応じ、また、その規模、施設を勘案し、その公共福祉用財産としての使命を十分達成せしめるよう適正にその管理権を行使すべきであ」ると述べる。なお、この判決においては、公園管理規則の法的性質や根拠についてとくに論じられていない。

 ③庁舎管理規則

 庁舎は公用物であり、庁舎管理規則が訓令として定められる。法律の根拠を必要としないというのが通説である(最一小判昭和57年10月7日民集36巻10号2091頁も参照 )。

 ④財産管理法

 国有財産法、地方自治法第238条以下(この他、物品管理法、民法)である。国有財産・公有財産は普通財産である。

 行政財産は、公用財産のことであり、行政法学上の公用物にほぼ対応する(不動産のみ)。

 公共用財産は、行政法学上の公共用物にほぼ対応する(不動産のみ)。

 (2)公物とはいかなる物か?

 ①公物のメルクマール

 a.行政主体が物に対して権原(支配権のこと。但し、所有権に限られない)を有すること。

 b.公の用に供されていること(そうでなければ公物とは呼べない)。

 c.行政主体が公の用に提供していること。

 d.有体物であること。動産か不動産かを問わない。従って、公立図書館の書籍も公物である。また、鉱物や石油などのように消費されるものは公物ではない(なお、河川の流水は公物にあたる)。

 ②公物の種類

 a.公共用物と公用物

 公共用物とは、公衆の用に供されるものである。道路、河川、公園、海岸などが該当する。

 公用物とは、直接的には官公署の用に供されるものである。役所の敷地と建物が該当する。国公立学校も公用物である。

 b.自然公物と人工公物

 c.国有公物、公有公物、私有公物 公物であっても私人の所有権が肯定されることがある。

 d.自有公物と他有公物 所有権の帰属で判断される。

 e.動産公物と不動産公物

 この他、法定外公共用物が存在する。河川法の手続を経ていない河川(普通河川)、道路法の適用を受けない道路(里道)など。なお、皇居外苑や新宿御苑、千鳥ヶ淵戦没者霊園などは、法定外公共用物ではないが、制定法の適用を受けていない。

 ③公物に民事上の強制執行は及びうるか?

 公物についても民事上の強制執行が可能であるとするのが通説であるが、その場合でも公物としての性格は否定されない。

 ④公物について時効取得は認められるのか?

 最二小判昭和51年12月24日民集30巻1号1104頁(Ⅰ―32)は、公物(例.水路)について黙示の公用廃止があった場合には時効取得を認める。通説も同旨と思われる。

 ⑤公物を土地収用法の対象とすることは可能か?

 学説などにおいて議論があり、定説を見ない。

 (3)公物の成立と消滅

 成立:人工公物のみについて、とくに公共用物について問題となる。

 公用開始(供用開始):公物を公の用に供し始めること(公物を成立させること)。

 公用廃止(供用廃止):公用を廃止すること。

 公用開始行為および公用廃止行為は行政行為の一種である、とするのが通説・判例である。公用開始行為の場合には、公物という法的地位が与えられ、私人との関係においても効果が発生するためである。

 (4)公物管理権

 ①法的根拠は何か?

 公所有権説:公法的効果→公権と考える。

 私所有権説:私人の所有権と同様に考える。

 包括的管理権能説:所有権云々ではなく特別な包括的権能であり、公物法によって与えられるとする。

 比較的多数の説は包括的管理権能説か?

 ②公物管理権の主体

 国有財産:国有財産法第5条により、各省各庁の長とされる。

 公有財産:地方自治法第238条の2により、長などの各執行機関が行使する。

 法定外公共用物:原則として市町村が主体となる。

 ③公物管理権の内容

 a.公物の範囲の確定

 b.公物の維持と修繕

 c.公物に対する障害の防止(行為規制のこと)

 d.公物隣接区域に対する規制

 e.他人の土地の立入や一時使用

 f.使用関係の規制

 ④公物管理権の範囲

 ⑤公物管理と公物警察

 公物管理:公物の本来の公用の維持や増進に関する作用。

 公物警察:一般統治権に基づいて国民に命令や強制をなす作用のうち、公物上においてなす作用。

 ⑥公物管理の法的性質

 単なる事実行為:維持保存工事など。

 行政行為としての性質:公用開始行為および公用廃止行為、公物の使用許可

 行政規則としての性質:公物利用規則

 原状回復命令や退去命令など:法律上の根拠が必要である。これらの命令に従わない場合の罰則、直接強制などの実力行使についても同様である。

 (5)公物の使用関係はいかなる関係か?

 ①公共用物の使用関係:行政行為の分類に対応する。

 一般使用(自由使用):これが一応の基本である。道路交通や河川での就航など、何らの意思表示を必要とせず、公物を利用することが公衆に認められていることをいう。但し、法律または公物管理者の定める制限に服したり、公物警察による制限に服したりすることもある。

 許可使用:これは、あらかじめ公物の使用禁止を定めておいた上で、申請に対する許可により、この禁止の解除をなすというものである。これも公物管理作用としてのものと公物警察としての警察許可とに分かれるが、両者が渾然一体となっているようなものもある。

 特許使用(特別使用):これは、公物管理権者から特別な使用権を設定された上で公物を使用することである。自由使用の反対で、特定の者に排他的利用を認める。河川の流水の占用や道路に電柱を建てることなどが例としてあげられる。

 ▲公共用物の使用は、現に公の用に供されていることが前提であるとして、単にその自由を容認しているだけであり、使用の権利まで認めることにならないのか?

 判例:一般公衆としての道路利用者は、道路廃止処分について原告適格を有しない。これに対し、日常生活や業務に著しい支障が生じるという者は、道路廃止処分について原告適格を有する。

 ▲公用廃止は管理権者の完全な裁量に属するものではない。

 ▲一般使用(自由使用)が認められている場合に、私人によりその使用が妨害されているならば、民法上の不法行為の問題となる〔最一小判昭和39年1月16日民集18巻1号1頁(Ⅰ―17)〕。

 ②公用物の使用関係

 本来的な使用:当該建物に関する特定の行政目的のために供されるのであり、管理者はその目的に合致するような管理をなす義務を負う。また、そこに立ち入る者は、管理者の管理権限(これも完全な裁量ではない)に服することになる。

 目的外使用(国有財産法第18条第3項および地方自治法第238条の4を参照):法的性質は行政行為(許可)である(通説・判例。国有財産法および地方自治法も許可制度を定める)。もっとも、地上権の設定などが認められるし、そもそも目的外使用なのかそうでないのかが判別し難いことがある(役所内に職員用の食堂や売店を営業させる場合など)。

 庁舎の管理は、庁舎管理規則で定められるのが通例である。

 ●前掲最一小判昭和57年10月7日

 事案:全逓労組昭和瑞穂支部は、庁舎の掲示板を当時の郵政省庁舎管理規程に基づく一括許可により使用した。郵政省は組合掲示板について一局一箇所の原則を示し、これに基づいて昭和郵便局長は庁舎内の一掲示板を廃止して別の掲示板についてのみ使用を許可することを組合に伝えた。しかし、組合側は同意せず、何度かの話し合いでも了解に達しなかった。そのため、郵便局長は一掲示板を撤去した。組合は原状回復と損害賠償の請求を行った。名古屋地方裁判所および名古屋高等裁判所は組合の請求を棄却し、最高裁判所第一小法廷も、次のように述べて組合の上告を棄却した。

 判旨:本件許可は、国有財産法第18条第3項に規定される行政財産の目的外使用の許可に該当せず、庁舎管理規程によるものである。この規程に定められる許可は「専ら庁舎等における広告物等の掲示等によってする情報、意見等の伝達、表明等の一般的禁止を特定の場合について解除するという意味及び効果を有する処分であ」り、許可を受けた者が掲示板を使用できるとしても、それは許可によって禁止を解除され、行為の自由を回復したにすぎない(公法上または私法上の権利が設定されたりするようなものではない)。「庁舎管理者は、庁舎等の維持管理又は秩序維持上の必要または理由があるときは、右許可を撤回することができる」。

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第45回 行政組織法その3 公務員法

2021年10月10日 00時00分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.公務員法とは

 (1)日本国憲法の下における公務員法制の一応の原則

 日本国憲法において、公務員法制は、次の三つの原則から構成されなければならない。

 ①民主的な公務員法制の原理

 ②基本的人権の尊重

 これは「第5回 行政法上の法律関係において扱った特別権力関係からの脱却を目指す。

 ③能率性および公正性の原則(科学的人事行政の原則)

 この原則があるために、政治的任用の許容性という問題がある。

 (2)公務員とは?

 「公務員」は、日本の法制度上、一義的に決められている訳ではない。

 ①憲法第15条の「公務員」

 これだけで「公務員」の範囲が明確になる訳ではない。同条は民主的な公務員法制度の原理を明らかにするが、だからと言ってすべての公務員を国民が選挙するということにはならない(通説である)。また、同条によると、公務員の勤務形態などは民間企業の勤務形態と異なるということが導き出されうることになる。憲法上の基礎が異なるということになるが、そのことから直ちに具体的な差異(とくに絶対的な差異)が導かれる訳でもない。実際には両者が近似化する傾向にあるし、昨今の経済情勢などにより、公務員法制にも徐々に変化がもたらされている。

 ②刑法の「公務員」

 刑法第7条第1項によると、国家公務員法および地方公務員法の「公務員」の他、議員、委員なども含まれる。

 なお、最三小判昭和35年3月1日刑集14巻3号209頁は、一般論ではあるが、最二小決昭和30年12月3日刑集9巻13号2597頁を参照しつつ、「法令により公務に従事する(中略)職員」について「公務に従事する職員で、その公務員に従事することが法令の根拠にもとづくものを意味し、単純に機械的、肉体的労務に従事するものはこれに含まれない」(原文を一部修正)とした。その上で、当時の郵便局の外務担当事務員の公務員性を認めている。

 また、個別の法律によって公務員とみなされる者が存在する。この場合には刑法上、公務員とみなされる(日本銀行の職員、一部の独立行政法人の職員など)。但し、国家公務員法や地方公務員法の適用を受けない。

 ③国家賠償法第1条の「公務員」

 これは、不法な行為を行った者の身分に着目するのではなく、その行為が公権力の行使であるか否かで決せられる。「第39回 国家賠償法の構造/国家賠償法第1条」を参照されたい。

 ④国家公務員法および地方公務員法の「公務員」

 これが一般的なものとも考えられるが、いくつかの点に注意すべきである。

 まず、国家公務員法第2条第1項は国家公務員を一般職と特別職に分類するが、「別段の定がなされない限り、特別職に属する職には」国家公務員法を適用しないと定める。

 同様に、地方公務員法第3条第1項は地方公務員を一般職と特別職に分類するが、第4条第2項は、地方公務員法に「特別の定がある場合を除く外、特別職に属する公務員には適用しない」と定める。

 一方、警察は都道府県の組織であり、地方公務員法における一般職に該当するはずであるが、都道府県警察の職員のうち、警視正以上の階級にある警察官は一般職の公務員であるとされ(同第56条第1項)、その他の都道府県警察の職員は地方公務員法における一般職とされる(同第2項)。

 なお、独立行政法人のうち、国の特定独立行政法人の職員の役職員は国家公務員である(このうち、役員は特別職の国家公務員である。独立行政法人通則法第51条、国家公務員法第2条第3項第17号)。

 また、地方特定独立行政法人の役職員は地方公務員である。このうち、役員は特別職の地方公務員である(地方公務員法第3条第1項・第3項第6号)。

 ⑤一般職と特別職

 国家公務員法および地方公務員法は、原則として一般職の公務員にのみ適用される。

 a.特別職に該当しないとされるものが一般職である。

 b.特別職については、裁判所法、防衛庁設置法、自衛隊法など、個別の法律に規定を置く(内閣法、国会法なども該当する。規定を見ていただきたい)。

 c.特別職については、人事院の人事行政に服しない(このことくらいしか共通点がない)。

 d.一般職と言ってもその職務内容などは雑多であるが、一律に適用するのが原則である。但し、労働基本権については差異が設けられているし、任用についても特別の扱いがなされることがある。

 (4)公務員法の法源

 国家公務員についての法令としては、国家公務員法の他、人事院規則(国家公務員法の委任立法)、国家公務員の職階制に関する法律、一般職の職員の給与に関する法律、一般職の職員の勤務時間、休暇等に関する法律、国家公務員退職手当法などがある。また、特例法として、教育公務員特例法、外務公務員法、国営企業労働関係法などがある。

 地方公務員についての法令としては、地方公務員法の他、地方自治法、地方公務員等共済組合法、地方公務員災害補償法がある。また、地方公務員の給与や勤務時間、分限や懲戒の手続、定年、などについては条例で定められることとなっている。なお、特例法として、教育公務員特例法、地方公営企業法、地方公営企業労働関係法などがある。

 (5)公務員の人事を担当する機関

 例外も多いが、一般的に、政治的中立性の確保と科学的人事管理の観点から、次のようなシステムが採用されている。

 ①国家公務員(一般職)の場合

 a.個々の公務員の任免、服務監督などについては、各省各庁の長が行う。

 b.独立の人事行政機関として、国家公務員法第3条により、内閣の所轄の下に、補助部局として人事院を置く。

 人事院は人事官3人(任期は4年)による組織で、次のような機能を有する。

 行政的機能:給与に関する勧告(同第28条第2項)、試験の実施(同第42条)、研修計画の樹立(同第73条第1号)、兼業の承認(同第103条第3項。同第1項および第2項も参照のこと)。

 準立法的機能:人事院規則の制定(第16条)。

 準司法的機能:職員の意に反する降給などの処分に対する不服申立ての審査機関(同第90条)、株式所有の関係などに関する人事院の通知に対する異議申立ての審査機関(同第103条第6項・第7項)

 c.内閣総理大臣は、人事院の所掌に属しない部分について、人事行政機関としての地位を有する(同第18条の2。なお、補佐する機関は総務省である)。

 ②地方公務員(一般職)の場合

 a.個々の公務員の任免、服務監督などについては、知事、市町村長、議会の議長、選挙管理委員会、教育委員会など、地方公務員法第6条に列挙された機関が、地方公務員法、条例などによって行う。

 b.独立の人事行政機関として、地方公務員法第7条により、人事委員会または公平委員会を置く(地方自治法第180条の5により、執行機関の一つとされる)。

 都道府県、指定都市(同第259条の19第1項):人事委員会

 指定都市を除く人口15万人以上の市、特別区:人事委員会または公平委員会(いずれにするかは条例による)

 人口15万人未満の市、町、村:公平委員会

 人事委員会と公平委員会は、ともに人事行政機関であるが、権限に多少の違いがあり、人事委員会の権限のほうが広い(同第8条を参照)。

 

 2.公務員の勤務関係

 (1)公務員の勤務関係

 大日本帝国憲法時代には、公務員の勤務関係は特別権力関係であるとされていた。しかし、日本国憲法の下において、特別権力関係説が妥当する余地はない(仮にあったとしてもごくわずかである)と解すべきであろう。このため、現在においても特別権力関係説を維持する見解は存在しない。

 現行の公務員に関する法律は、勤務条件法定主義を採用する。これに対し、行政法学には労働契約関係説も存在する。しかし、或る種の部分社会の存在を否定できないのではないか、と思われる。

 (2)勤務関係の成立

 公務員の勤務関係の法的性質については、包括的に考えるのではなく、段階あるいは場面に応じて考察すべきであろう。まずは勤務関係の成立、すなわち、国家または地方公共団体が或る人を公務員として任用するところから検討する。

 公務員の場合は採用といわず、任用という。

 公務員の任用行為の性質については、公法上の契約説と、相手方の同意に基づく行政行為説とがある。公法上の契約説は大日本帝国憲法以来の説であるが、現在では少数に留まっている。これに対し、相手方の同意に基づく行政行為説は、相手方の同意がない限りは公務員の勤務関係が成立しないとする点においては公法上の契約説と同じであるが、勤務関係の内容について当事者間の合意による形成の自由が存在しないことから、公務員の任用行為を行政行為(特許)と捉える。

 相手方の同意に基づく行政行為説が通説である。ちなみに、現在の日本の法制度において、勤務関係の消滅については、契約ではなく、行政行為としての処分が行われることが前提である。

 なお、通説・判例は、勤務関係の成立の時期を、辞令書の交付またはこれに準ずる行為の時点とする。採用内定およびその取り消しは、採用発令の手続のための準備手続であり、事実上の行為であって、勤務関係成立の時期とは考えられていない(最一小判昭和57年5月27日民集36巻5号777頁)。

 勤務関係の成立にも要件がある。次の3点である。

 ①欠格条項に該当しないこと(国家公務員法第38条、地方公務員法第16条)。

 ②能力主義(成績主義)の原則により、受験成績や勤務成績などにより行われること(国家公務員法第33条、地方公務員法第15条・第17条第3項)。

 ③国籍については、外務公務員法を除いて明文の規定がないので争いがあるが、国家公務員であれ地方公務員であれ、政府の公定解釈によれば「公権力の行使又は国家意思の形成への参画に携わる公務員となるためには日本国籍を必要とする」。但し、実際には法律の制定により、どのようにでもなりうる(例.国立又は公立の大学における外国人教員の任用等に関する特別措置法)。

 (3)勤務関係の変更

 勤務関係の変更として、昇任、転任、配置換え、降任が考えられる。これらはいずれも行政行為としての性格を有すると考えるべきであろう。いずれも能力主義の原則が妥当するのであるが、実際には勤務成績による場合が多い。

 また、実際に多用されているものとして、派遣がある。これは、公務員としての身分を持ちつつ、他の団体などの職に従事するというものであり、地方自治法第252条の17や災害対策基本法などに規定されている。また、国家公務員に関する国と民間企業との間の人事交流に関する法律、公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律が制定されている。

 (4)勤務関係の消滅

 勤務関係も法的関係であるから、成立、変更があれば消滅もある。一般的な消滅原因は公務員の離職であり、失職、免職、辞職などがある。

 失職とは、法律の規定により、とくに処分などを必要とせず、当然に退職となる場合のことである。欠格事由に該当する場合の他、定年、公職選挙に立候補した場合がある。

 免職とは、公務員本人の自発的な意思に基づかない退職のことであり、分限免職と懲戒免職とに分かれる。懲戒免職については、対象となる公務員に懲戒処分が到達することにより、その効力を生じる。

 辞職とは、公務員の自発的な意思に基づく退職のことである。但し、公務員の辞職願を任命権者が承認しなければ、離職の効果は生じない。

 ●最二小判昭和34年6月26日民集13巻6号846頁(Ⅱ―128)

 事案:或る村の小学校に勤務していた講師Xは、当時出されていた方針(55歳以上の教員に退職を求めるというもの)に従い、昭和29年3月31日付で退職する旨の辞職願を提出した。しかし、周囲に55歳以上で退職しない者が存在することを知り、同月26日になって退職願の撤回を申し出た。Xは3月31日以降も引き続いて勤務していたが、4月20日、教育委員会から3月31日限りでの解職を内容とする辞令の交付を受けた。そこで、Xは免職処分の取消しを求めて出訴した。仙台地方裁判所はXの請求を棄却したが、仙台高等裁判所は逆に認容したので教育委員会が上告したが、最高裁判所第二小法廷は次のように述べて教育委員会の上告を棄却した。

 判旨:「退職願の提出者に対し、免職辞令の交付があり、免職処分が提出者に対する関係で有効に成立した後においては、もはや、これを撤回する余地がない」。退職願の撤回は原則として自由である(退職願そのものが独立して法的な意義を持つ訳ではないので)。しかし、「免職辞令の交付前においても、退職願を撤回することが信義に反すると認められるような特段の事情がある場合には、その撤回は許されない」。本件については「特段の事情」が存在しない。

 

 3.公務員の権利および義務

 (1)公務員の権利

 身分保障と分限について、国家公務員法第74条・第75条、地方公務員法第27条の規定がある。いずれも、分限事由について限定列挙としている。

 分限は官職の移動を伴うが、責任追及の要素は含まれない。

 免職および降任は国家公務員法第78条、地方公務員法第28条第1項に定められた事由による。

 休職は、国家公務員法第79条、地方公務員法第28条第2項に定められた事由による。

 この他、人事院規則や条例で定めることがある(職員の意に反するとは言えないものもある)。

 分限処分は行政行為であり、不服申立て前置主義が採られている(国家公務員法第89条、地方公務員法第49条)が、任命権者には要件裁量も効果裁量も認められている。

 定年は、国家公務員法第81条の2、地方公務員法第28条の2に規定される(いずれも昭和56年に追加された)。国家公務員の場合は60歳であり、地方公務員の場合は条例で定められた年齢である。なお、定年との関係で任期つきの任用を定める特別法がいくつか存在する。

 研修は、国家公務員法第73条第1項第1号、地方公務員法第39条に定められている。いずれも、任命権者に研修の実施の義務を課する。また、特別法で特例が定められている。

 財産的な権利として、給与、退職金、退職年金、公務災害補償等がある。国家公務員法および地方公務員法に規定があるが、個別法により、具体的に定める。また、給与法定主義(国家公務員法第63条、地方公務員法第25条)が妥当しており、基本的には職務給の性格である。なお、俸給請求権の放棄は許されるか、という問題がある。これについては、公権であるから放棄は許されない、とする説もある。

 公務員の基本的人権については、問題がある。公務員も勤労者であって、労働基本権の享有主体であるはずである。そして、基本的人権の享有主体であるはずである。但し、制約が課される。

 公務員は、保障請求権、勤務条件の措置要求権(国家公務員法第86条以下、地方公務員法第46条以下)を有する。これは、公務員については労働組合法の適用がなく、団体協約締結も否定されるためである。対象は、対象は、あらゆる勤務条件(給与など)とされており、不利益な処分に関する人事院、人事委員会・公平委員会への不服申立ても認められている。

 (2)公務員の義務

 憲法第15条第2項が公務員を「全体の奉仕者」と位置づけることから、国家公務員法第96条、地方公務員法第30条にも「服務の根本基準」が示されている。

 ①服務の宣誓義務(国家公務員法第97条、地方公務員法第31条)

 これは、新たに任用された職員が行うべきものとされている。但し、宣誓を行わなかったからといって、任命行為に直ちに何らかの影響が及ぶものではない。

 ②職務専念義務(国家公務員法第101条、地方公務員法第35条)

 基本的な義務であるが、それだけに問題もある。

 ●最三小判昭和52年12月13日民集31巻7号974頁(目黒電報電話局事件)

 これは国家公務員法が適用されたものではなく、日本電信電話公社法および日本電信電話公社就業規則が適用されたものであるが、参考までに紹介しておく。事案は、目黒電話局内で勤務時間中に組合活動の一環としてベトナム戦争反対のプレートを着用していた被上告人が懲戒処分を受けた、というものである。最高裁判所は、プレート着用行為が職場の同僚に対する訴えかけという性質を有することから、身体活動の面では職務の遂行に特段の支障が生じなかったとしても、精神的活動の面では注意力のすべてが職務の遂行に向けられなかったものと理解される、などとして、電話局内の規律秩序を乱すものであると判示している。

 職務専念義務については、別に、私企業からの隔離(国家公務員法第103条、地方公務員法第38条)もあげられる。また、国家公務員の天下り規制(国家公務員法第103条第2項)も、私企業からの隔離の一つである(十分ではないが)。

 ③法令遵守義務および上司の命令に服従する義務

 国家公務員法第98条第1項、地方公務員法第32条に定められる。いずれも法治主義の実現のためであるが、上司の命令に服従する義務は、行政組織の統一的かつ効率的な運営の確保のために課されるので、両方の義務が抵触する可能性も高い。

 職務命令について、 職務に関するものであれば、服装などを含めて対象となる。また、違法な職務命令についても、その違法性が重大かつ明白なものでない限り、職員は服従義務を負うとするのが通説である。

 ④争議行為等の禁止

 現行の法制度においては、次のようになっている。

  団結権((職員団体を結成する権利)) 団体交渉権 争議権
警察職員、消防職員、自衛隊員、海上保安庁職員、警察施設職員 × × ×
国家公務員のうちの非現業職員(上記以外)
地方公共団体の非現業職員
△(団体交渉そのものは認められるが、団体協約締結権は認められない) ×
行政執行法人職員
地方公共団体の現業職員
○(団体協約締結権も含む) ×

 このような法制度について、最大判昭和28年4月8日刑集7巻4号775頁(政令201号違反事件)は、公務員が「全体の奉仕者」であり、公共の利益のために勤務することから、こうした制限は当然であるとしている(公共の福祉による制約と言えるか)。

 このような、一律的かつ全面的な制限は合憲なのであろうか。日本国憲法制定当初から現在に至るまで激しく争われている。そして、最高裁判所の判例は、二度にわたって変更されている(いずれも、憲法判例としても重要)。

 まず、最大判昭和41年10月26日刑集20巻8号901頁(全逓東京中郵事件)は、現行法による制限そのものを合憲としつつも、合憲限定解釈を採用し、争議行為であっても刑事罰の対象にならないものが存在するとしている。続いて、最大判昭和44年4月2日刑集23巻5号305頁(都教組事件)は、合憲限定解釈を明確に採用したものであり、「きわめて短時間の同盟罷業または怠業のような単純な不作為のごときは、直ちに国民全体の利益を害し、国民生活に重大な支障をもたらすおそれがとは必ずしも言えない。地方公務員の具体的な行為が禁止の対象たる争議行為に該当するかどうかは、争議行為を禁止することによって保護しようとする法益と、労働基本権を尊重し保障することによって実現しようとする法益との比較較量により、両者の要請を適切に調整する見地から判断することが必要である」と述べている。また、最大判昭和44年4月2日刑集23巻5号685頁(全司法仙台事件)も合憲限定解釈を明確に採用した。

 しかし、最大判昭和48年4月25日刑集27巻4号547頁(全農林警職法事件)は、全逓東京中郵事件、都教組事件および全司法仙台事件以来の流れを覆したという意味において重要な判決であり、合憲限定解釈を否定し、再び、現行法の一律的かつ全面的な制限を完全に合憲と判断している。この判決は、公務員の地位の特殊性と職務の公共性一般を強調しており、国民全体の利益への影響を重視している。その上で、完全に合憲とされるべき理由として、勤務条件法定主義(争議行為が議会制民主主義と抵触する、という趣旨)、財政民主主義、市場の抑制力の問題、人事院の勧告などによる代償措置の存在をあげている。

 ⑤政治的行為の制約(国家公務員法第102条および人事院規則14-7、地方公務員法第36条)

 これに対する違反は懲戒処分の対象となる。また、国家公務員については刑事罰の対象となる(国家公務員法第110条第1項第19号。地方公務員法には規定がない)。最高裁判所判例は、行政の中立的運営の担保と考えているようである。例えば、「第6回 行政立法その1:行政立法の定義、法規命令」において取り上げた最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁は、禁止される政治的行為の具体的な中身について大幅に人事院規則14-7へ委任していることが問題となった国家公務員法第102条第1項を合憲と判断した。しかし、法律の授権が包括的にすぎる、白紙委任であるとして、批判も強い。

 ▲この他、政党などのために寄付金などの利益を求めたりすること、公選による候補者となること、政党などの政治的団体の役員などになることが禁じられる。

 候補者となれば、公職選挙法第90条により、当然に失職する。

 ⑥守秘義務(秘密保持の義務。国家公務員法第100条、地方公務員法第34条)

 公務員である者に課されるもので、違反する者は懲戒処分の対象となる他、刑事罰の対象ともなる。この義務は公務員の退職後にも引き続いて課されるが、懲戒処分が及ばないため、刑事罰による(国家公務員法第109条第12号、地方公務員法第60条を参照)。

 この場合の秘密とは、職務上知りえた秘密(職務との関係で知りえた秘密全般のこと)である。そして、職務上の秘密(職務に直接関係のある秘密)は、いずれにしても、単に形式的に秘密とされることではなく、実質的に、秘密として保護されるに値するものであることが求められる(最二小決昭和52年12月19日刑集31巻7号1053頁)。但し、現在は、秘密文書の取り扱いなどについて統一的な基準が定められており、所轄行政庁の秘密指定の判断が先行する。

 守秘義務については、情報公開法との関係という問題もあるが、情報公開法による情報の適法な開示がなされている限りは、守秘義務違反などによる責任は課されない。

 ⑦信用失墜行為(国家公務員法第99条、地方公務員法第33条)

 直接職務に関係する非道徳的な行為(例.収賄行為)の他、直接職務に該当しないが公務全体の信頼を損なう行為も対象となる(個別的に判断するしかないが、飲酒運転が該当するという扱いがある)。

 ⑧公務員倫理の保持

 国家公務員については国家公務員倫理法が存在する。これは、一般職の公務員を対象とする。

 第3条:職務に関する倫理原則として、情報についての差別的取り扱いの禁止、公私の区別(私的利益の追求の禁止)、贈与の受け取りなど国民の疑惑や不信を招く行為の禁止を定める。

 第5条:国家公務員倫理規程の制定について、政令に委任する。

 第6条ないし第9条:贈与等の報告(本省課長補佐級以上)、株取引等の報告(本省審議官級以上)、所得等の報告(本省審議官級以上)、報告書の保存および閲覧。

 第10条以下:人事院に設置される国家公務員倫理審査会に関する規定。

 第39条:各行政機関に倫理監督官1名ずつを置く旨の規定。

 (3)公務員の責任

 ①懲戒責任

 懲戒事由についても法定主義が採用される(国家公務員法第82条、地方公務員法第29条)。しかし、職務命令違反も懲戒事由になる。

 懲戒の種類:正式なものとして、免職、停職、減給、戒告がある。これらについては、不利益処分として不服申立てと訴訟が認められる(但し、行政手続法の適用はない)。なお、これらの処分と刑罰を併科することは可能である。

 懲戒処分と裁量:「第9回 行政裁量論その1:裁量の種類」において扱ったおいて扱った最三小判昭和52年12月20日民集31巻7号1101頁(神戸税関事件、Ⅰ―83)を参照。

 ②弁償責任

 国家公務員については、会計法、物品管理法、予算執行職員等の責任に関する法律がある。また、会計検査院法第32条の規定を参照のこと。いずれも、出納官吏、物品管理職員、予算執行職員に適用される。

 地方公務員については、地方自治法第243条の2に、出納長など一定の職員に関する特別の規定がある。その他の職員については、民法が適用されると考えられる。

 ③刑事責任

 刑事罰(刑法に規定されている)と行政罰(公職選挙法や国家公務員法、地方公務員法などに規定されている)

 

 ▲第7版における履歴:2021年10月10日掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月30日掲載(「第31回 行政組織法その3 公務員法および公物法」として。以下同じ)。

                                    2017年11月1日、第32回に繰り下げ。

            2017年12月20日修正。

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第44回 行政組織法その2  国家行政組織法および地方自治法の基礎

2021年10月09日 00時04分00秒 | 行政法講義ノート〔第7版〕

 1.改めて、国家行政組織法

 国の行政組織は、中央省庁等改革基本法に基づき、2001年1月6日に改編されたが、今も複雑多岐にわたる。このため、行政組織図などを参照されたい。また、「第43回 行政組織法その1 行政組織法の一般理論」も参照されたい。

 〔1〕憲法による行政機関の構成

 憲法第65条に示されているように、原則として、国の行政権は内閣に属するそして、内閣府設置法、国家行政組織法、各省設置法に基づいて組織が設けられ、権限などの配分が行われる。但し、人事院は内閣の所轄の下にあり、国家公務員法を法的根拠とする。

 憲法上、内閣から完全に独立した行政機関の存在は許容されていない。但し、それに対する唯一の完全な例外がある。憲法第90条に基づき、憲法上の機関と位置づけられる会計検査院がは、内閣から完全に独立している。

 なお、国の行政事務と考えられるもののうち、独立行政法人や特殊法人などによって担われるものがある(独立行政法人の動きなどに注意すること!)。

 〔2〕内閣

 内閣は、内閣総理大臣および国務大臣によって構成される合議体である。職務は、憲法第73条を初めとする規定に掲げられるものの他、内閣法、各個別法による。

 内閣の意思決定は、内閣総理大臣が主宰する閣議による。この閣議に基づいて、内閣総理大臣が職権を行使し、行政各部を指揮監督する(内閣法の諸規定を参照)。なお、閣議における意思決定は全会一致によるとするのが慣行であり、通説も支持する。

 国務大臣の人数は、内閣法第2条第2項本文により、原則として14人以内である。しかし、同項ただし書きにおいて「特別に必要がある場合においては」17人以内とすることが認められており、さらに内閣法附則第2項ないし第4項により、最大で20人とすることが認められる。あまり整理がなされていないように見受けられるが、次のとおりである。

 まず、附則第2項により、「国際博覧会推進本部が置かれている間」において、国務大臣は原則として15人以内、「特別に必要がある場合においては」18人以内である。

 次に、同第3項により、「東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会推進本部が置かれている間」において、国務大臣は原則として16人以内、「特別に必要がある場合においては」19人以内である。

 そして、同第4項により、「復興庁が廃止されるまでの間」において、国務大臣は原則として17人以内、「特別に必要がある場合においては」20人以内である。

 〔3〕内閣総理大臣

 内閣総理大臣は、次の三つの地位を占める(憲法第66条第1項・第68条第1項・同第2項、内閣法第4条ないし第8条、内閣府設置法第6条、国家行政組織法第5条第2項)。

 第一に、内閣の首長としての地位である。閣議の主宰、重要政策に関する基本方針などの案件の発議権、国務大臣の任免権、国会への議案提出権、一般国務・外交関係の国会への報告権、行政各部の指揮監督権、権限疑義の裁定権、中止権を有する。

 第二に、内閣府の長(内閣府設置法第6条)としての地位である。内閣府に係る事項については主任の大臣である。従って、国務大臣と同じ権限を有する。

 第三に、内閣に直属する部局(内閣官房、内閣法制局、安全保障会議)の行政事務についての主任の大臣としての地位である。

 なお、内閣総理大臣が各省の大臣を兼任することも可能である。

 第一次吉田内閣、第二次吉田内閣および第三次吉田内閣において、吉田茂内閣総理大臣が外務大臣を兼任していたことは有名である。また、第一次吉田内閣において吉田は短期間ながら農林大臣なども兼任していた。その後、石橋内閣(石橋湛山内閣総理大臣が郵政大臣を兼任)、第一次岸内閣(岸信介内閣総理大臣が外務大臣を兼任。但し、内閣改造後は藤山愛一郎が外務大臣を務めた)、竹下内閣(竹下登内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、昭和63年12月9日から24日までのみ)、第二次海部改造内閣(海部俊樹内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、平成3年10月14日以降)、第二次橋本改造内閣(橋本龍太郎内閣総理大臣が大蔵大臣を兼任。但し、平成10年1月28日から30日までのみ)、第一次小泉内閣(小泉純一郎内閣総理大臣が外務大臣を兼任。但し、平成14年1月30日から2月1日までのみ)という例がある。他にも例があるので、各自で調べてみていただきたい。

 〔4〕内閣府

 内閣の機能強化のための一環として新設されたもので、内閣に置かれ、内閣官房を支援する組織であり、内閣の事務を助ける組織である。内閣補助部局としての性質をも有する。以前の総理府と異なり、内閣府は他の省より上位の組織であり、国家行政組織法の適用を受けない。

 内閣府の長は内閣総理大臣であり、内閣官房長官も統括の役割を果たす。また、特命大臣が置かれることがある。

 〔5〕省・委員会・庁

 いずれもいわゆる3条機関であり、国家行政組織法第3条第2項、そして同法別表第一に掲げられている機関である。

 (1)

 省は内局として位置づけられている。行政事務を担当する機関であり、長は各省大臣である。

 (2)委員会

 各省または内閣府におかれる外局の一つである。各省または内閣府の一部ではあるが、一定の独立性を有する。合議制の機関であり、委員会自体が行政庁となる。また、委員の任免方法、任期、資格要件が一般公務員と異なる。

 (3)

 やはり、各省または内閣府に置かれる外局の一つである。各省または内閣府の一部ではあるが、一定の独立性を有する。包括的な行政機関である点で委員会と異なる。

 なお、委員長(委員会の長)と長官(庁の長)には国務大臣が充てられるものもある。

 〔6〕内部部局

 国家行政組織法によると、府または省の機関単位は、局・官房、部、課、室、職となる(大→小)。

 〔7〕附属機関

 3条機関に附属する附属機関であり、審議会等(国家行政組織法の条文から8条機関ともいう)、施設等機関(第8条の2)、特別の機関(第8条の3)がある。

 

 2.地方自治法

 〔1〕地方自治の基本的な意義

 a.地方自治の要素

 従来から、地方自治の要素として団体自治と住民自治の二つがあげられてきた。このこと自体についても議論があるが、ここでは通説に従うこととする。

 団体自治とは、国から独立した地域団体が設けられ、この団体が自らの事務を自らの機関により、自らの責任において行うことを指す。国家から独立した意思の形成に注目する。

 住民自治とは、地域の住民が、地域的な行政需要を、自らの意思に基づいて自らの責任において行うことを指す。住民が地域における意思の形成に政治的に参加する点に注目する。

 団体自治という側面から、地方公共団体の存立や権限行使に着目し、地方自治をいかに保障するものかという点に関して、地方公共団体が前憲法的な基本権を有することを前提として、自然権的・固有権的な基本権を保障するものであるとする固有権説と、地方公共団体は前憲法的な基本権を有せず、存立や権限行使などは国家によって決定されるものであるとする伝来説とが対立してきた。固有権説のほうが地方自治の保障に厚いとも言いうるが、歴史的にみても妥当とは言い難く、伝来説のほうが妥当性が高い。しかし、伝来説では、結局のところ、地方自治の制度自体が国家によって左右されてしまうため、憲法によって保障する意味が乏しくなる。そこで登場するのが、制度的保障説である。

 制度的保障説は、ドイツの公法学者カール・シュミット(Carl Schmitt. 1888-1985)が『憲法論』(Verfassungslehre)において提唱したものである。シュミットによると、憲法の規定には、基本的人権自体ではなく、特定の制度の存在を保障する場合がある。日本の公法学においても多くの学説や判例によって支持されている制度的保障論は、意味や範囲が論者によって異なるが、シュミット自身が最初にあげる例は地方公共団体の基本権である。彼はフランクフルト憲法やヴァイマール憲法の規定を引き合いに出して説明を行っているが、基本的な趣旨は、日本国憲法の解釈にも妥当するであろう。但し、何が制度の中心部分であるかという点が問題となる。

 なお、有力な説として、北野弘久博士による新固有権説がある。これは、制度的保障説を援用しつつも、国民主権原理と基本的人権の尊重から地方自治の固有権的な理解を導く。元々は地方税・地方財政に関する議論に由来するものである。

 b.日本国憲法における地方自治

 日本国憲法の第92条ないし第95条は、地方自治に関する規定である。このうち、第92条は「地方自治の本旨」を定めており、第93条は組織原理に関する規定である(但し、第92条と矛盾する関係にあるとも考えられる)。そして、第94条は、地方公共団体に、広範な権限を付与することを定めている。

 c.地方自治法の法源(成文法のみをあげておく)

 法源として最も基本的かつ最高の地位にあるのが憲法である。これを受けて地方自治法が存在する。そして、地方税法、地方財政法、地方交付税法、地方公務員法、地方公営企業法は、地方自治法の規定を受けて、それぞれの分野について規律をなす、という体系になっている。その他、個別法として警察法などがある。

 国の法令より下位に位置づけられるのが、地方公共団体による立法である。条例は地方公共団体の議会が制定する法であり、規則は地方公共団体の長が制定する法である。

 〔2〕地方公共団体とは?

 一般的に、国家の三要素になぞらえる形で、地方公共団体の三要素が主張される。住民、区域、法人格(地方自治法第2条第1項)の三つである。

 「第43回 行政組織法その1 行政組織法の一般理論」において述べたように、地方公共団体は、普通地方公共団体と特別地方公共団体とに区別される。普通地方公共団体とは、都道府県および市町村のことであり(同第1条の3)、特別地方公共団体とは、特別区、地方公共団体の組合および財産区のことである。

 a.普通地方公共団体は、憲法上の自治権を保障される公法人である。

 ①市町村

 地方自治法第2条第4項により、市町村は基礎的な地方公共団体として位置づけられる。同第8条第1項は、市となるための要件を定めており、原則として、人口が5万人以上であること(同第1号)、当該普通地方公共団体の中心となる市街地を形成する区域内の戸数が全戸数の6割以上を占めていること(同第2号)、「商工業その他の都市的業態に従事する者及びその者と同一世帯に属する者の数が、全人口の六割以上であること」(同第3号)および「前各号に定めるものの外、当該都道府県の条例で定める都市的施設その他の都市としての要件を具えていること」(同第4号)とされているが、市町村の合併の特例に関する法律第7条に特例が定められている。また、地方自治法第8条第2項は、町となるための要件の定めを都道府県条例に委任する。

 市と町村とでは、組織、事務配分などで取り扱いが異なる。例えば、議会に代わる町村総会の設置(同第94条)、事務局を置かない議会の職員の配置(第同138条第4項)、出納員(同第171条第1項)、監査委員の定数(同第195条第2項)をあげることができる。

 また、地方自治法は、市を3種類に分けている。

 まず、指定都市(同第252条の19以下。一般的には「政令指定都市」といわれる)は、人口50万人以上の都市であって政令で指定されたもの(実際には70万人以上あるいは80万人以上か)を指す。2017(平成29)年1月1日現在で「地方自治法第252条の19第1項の指定都市の指定に関する政令」(昭和31年政令第254号)によって指定都市とされるのは、大阪市、名古屋市、京都市、横浜市、神戸市、北九州市、札幌市、川崎市、福岡市、広島市、仙台市、千葉市、さいたま市、静岡市、堺市、新潟市、浜松市、岡山市、相模原市および熊本市である。

 次に、中核市(同第252条の22以下)は、人口20万人以上の都市で政令であって指定されたものである。同日現在で「地方自治法第252条の22第1項の中核市の指定に関する政令」(平成7年政令第408号)によって中核市とされるのは、宇都宮市、金沢市、岐阜市、姫路市、鹿児島市、秋田市、郡山市、和歌山市、長崎市、大分市、豊田市、福山市、高知市、宮崎市、いわき市、長野市、豊橋市、高松市、旭川市、松山市、横須賀市、奈良市、倉敷市、川越市、船橋市、岡崎市、高槻市、東大阪市、富山市、函館市、下関市、青森市、盛岡市、柏市、西宮市、久留米市、前橋市、大津市、尼崎市、高崎市、豊中市、那覇市、枚方市、八王子市、越谷市、呉市、佐世保市および八戸市の48市である。

 1995(平成7)年に中核市となる要件として面積および昼夜間人口比率も定められていたが、数度の改正の度に要件の緩和または廃止が行われ、2006(平成18)年には人口30万人以上の要件のみとなった。2014(平成26)年改正によって特例市制度を中核市制度に統合することとなり〔施行は2015(平成27)年4月1日〕、併せて人口要件も30万以上から20万以上に引き下げられた。「中核市要件の変」を参照されたい。

 指定都市、中核市のいずれも、程度の差こそあれ、都道府県から権限を移譲するために設けられた制度であるため、本来は都道府県の担当すべき事務を担当することになる。この点については、同第252条の19および同第252条の22を参照していただきたい。

 指定都市、中核市のいずれにも該当しないのが一般の市である。

 なお、地方自治法第252条の26の3により、特例市の制度が設けられていた。これは2000(平成12)年度に施行されたものであり、人口20万人以上の都市であって政令で指定されたものであった。前述のように、中核市制度に統合される形で廃止された。但し、特例市から中核市へ自動的に移行する訳ではなく、2017年1月1日現在で、小田原市、大和市、福井市、甲府市、松本市、沼津市、四日市市、山形市、水戸市、川口市、平塚市、富士市、春日井市、吹田市、茨木市、八尾市、寝屋川市、所沢市、厚木市、一宮市、岸和田市、明石市、加古川市、茅ヶ崎市、宝塚市、草加市、鳥取市、つくば市、伊勢崎市、太田市、長岡市、上越市、春日部市、熊谷市、松江市および佐賀市の36市が施行時特例市となっている。

 ②都道府県

 市町村を包括する広域の地方公共団体であり(同第2条第5項)、広域にわたる事務、市町村の連絡調整に関する事務、市町村が処理することが適当でないと認められる程度の規模の事務を処理するものとされている。

 なお、本来的には、都道府県と市町村との間に上下関係はない。

 b.特別地方公共団体

 地方自治法によって創設された地方公共団体であり、憲法上の自治権を保障されない。但し、特別区については以前から議論があり、かつては憲法上の自治権を保障されないとする理解が優勢であったが、現在は保障されるとする理解のほうが多数を占めるものと思われる。

 ①特別区

 の区である(同第281条)。現在は基礎的地方公共団体として位置づけられており、基本的に市の規定が適用される(同第283条)。

 現在、都は東京都のみであるが、同第281条第1項は「都の区は、これを特別区という」と定めるに留まるから、別に東京都の23区に限定されるという意味ではない。例えば、大阪府と大阪市が合併して大阪都になった場合、現在の大阪市にある各区(行政区)は特別区に変更されるであろう。但し、特別区の設置については「大都市地域における特別区の設置に関する法律」(平成24年法律第80号)の定めるところによる。

 なお、政令指定都市(横浜市、川崎市など)の区は行政区(地方自治法第250条の20)であり、法人格をもたない。

 ②地方公共団体の組合

 一部事務組合、広域連合(介護保険などで多用された)など、複数の地方公共団体が事務を共同で処理するための、独立の法人格を有する組合組織のことである。

 ③財産区

 市町村や特別区の一部分でありながら、財産や公の施設の管理や処分を行う法人のことである。

 (3)地方公共団体の事務(同第2条第2項など)

 ①地方自治法における事務の分類

 地方分権一括法による地方自治法の改正前には、団体事務(固有事務)、団体委任事務および機関委任事務に分類されていた。このうち、団体事務(固有事務)は地方公共団体の事務であった。団体委任事務は、地方公共団体そのものに委任された事務という意味であるが、やはり地方公共団体の事務であった。

 問題は機関委任事務で、これは地方公共団体の長に委任された事務である(地方公共団体そのものに委任されるのではない)。国の事務としての性格を有し、地方公共団体の長は国の機関と位置づけられていた。数が多かっただけでなく、委任が法律によって行われるものと限らなかった。

 地方分権一括法による改正後、現在の自治事務と法定受託事務とに分類されるようになった。このうち、自治事務は、地方自治法第2条第8項により、地方公共団体の事務のうち、法定受託事務でないもの、という定義しかなされていない。そこで、同第9項に定められる法定受託事務の定義をみておく。

 法定受託事務は、第1号法定受託事務と第2号法定受託事務とに分けられる。このうち、第1号法定受託事務は、法律またはこれに基づく政令によって地方公共団体が処理すべきものとされているが、本来は国が果たすべき役割に係るものであって、国においてその適正な処理をとくに確保する必要があるものとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるものである。これに対し、第2号法定受託事務は、法律またはこれに基づく政令によって市町村または特別区が処理すべきものとされているが、本来は都道府県が果たすべき役割に係るものであって、都道府県においてその適正な処理をとくに確保する必要があるものとして、とくに法律またはこれに基づく政令に定められるものである。

 両者の区別は、国による関与の方法などによる。とくに、都道府県の法定受託事務について、同第245条の9第1項により、各大臣は「当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」。また、市町村の法定受託事務について、同第2項により、都道府県の執行機関は「当該法定受託事務を処理するに当たりよるべき基準を定めることができる」(同第3項にも注意すること)。自治事務については、以上のような処理基準を定めることはできない。

 (4)地方公共団体の権能

 地方公共団体は、自治組織権、自治行政権、自治財政権および自治立法権を有する。

 (5)地方公共団体の機関

 普通地方公共団体は、長と議会の二元主義をとる。これは、大統領制的な要素を基本とするが、議院内閣制的な要素をも含んでいる。

 ①首長主義

 地方自治法は、長(知事、市町村長)以下を執行機関とする(同第138条の2)。執行機関については多元主義がとられている(同第138条の4・第180条の5)。

 行政庁理論の執行機関と意味が異なるので注意を要する。

 長は、自治立法権限(同第15条)、条例案の提出権(同第149条第1号)を有する。他方、議会は、長に対する議会の不信任決議をなすことができるが、これに対して、長は議会を解散する権限を行使しうる(同第178条)。

 また、普通地方公共団体の議会が成立しないとき、長が議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであるとき、議会が議決すべき事件を議決しないときなど、一定の要件が充足されるならば、長は議会が議決すべき事件を自ら処分することができる(同第179条第1項。同第2項も参照)。これを専決処分といい、長は次の会議において議会に報告し、承認を求めなければならない(同第3項。同第4項も参照)。また、専決処分は、議会の議決により指定された事項についても行うことが認められている(同第180条第1項。同第2項も参照すること)。

 ②議会

 議会の最も重要な権限は議決権である(条例制定権も議決権の一種である)。議決事項は、地方自治法第96条に規定されるものである。なお、自治事務のみならず、法定受託事務についても条例制定権が認められる。また、同第100条により調査権が認められており、この他、地方自治法の第6条ないし第9条の5など、重要な事項について議決事案とされている。

 また、同第109条以下に、委員会に関する規定が存在する。

 議会議員の選挙については、長と同様に公選制がとられている。同第11条においては日本国民たる住民のみに選挙権が認められているが、この点については最三小判平成7年2月28日民集49巻2号639頁を参照。

 ③住民

 地方公共団体において、住民は必要不可欠の存在であり、「地方自治の本旨」を充足するためには十分な権利・権限が与えられていなければならない。地方自治法においては、住民に次のような権利・権限が認められる。

 まず、直接請求である。一応のイニシアティブとしての条例制定改廃請求権、事務監査請求権、リコールとしての議会解散請求権、長など特定職員についての解職請求権(同第12条・第13条。なお、市町村合併特例法を参照) が認められている。

 次に、住民監査請求および住民訴訟(地方自治法第242条・第242条の2)である。基本的には、地方公共団体の職員が行った不当または違法な財務会計上の行為を正すことを目的とする制度であり、差止請求(1号請求)、違法な処分の取消または無効確認の請求(2号請求)、違法に怠る事実の違法確認請求(3号請求)、損害賠償または不当利得返還の請求を求める請求(4号請求)が規定されている。なお、住民監査請求では不当または違法な財務会計上の行為を対象としうるが、住民訴訟では違法な財務会計上の行為のみを対象としうる。

 住民監査の一つの問題点として、次のようなものがある。住民が適法な住民監査請求を行った。しかし、監査委員は誤って違法と判断して却下した。この場合、その住民は同一の行為または怠る事実について再び住民監査請求を行うことができるか(平成13年度国家Ⅱ種で出題された)。

 住民には、公の施設の利用権も認められる(同第10条・第244条)。ここでいう公の施設は、道路、公園、文化会館、学校、病院などであり、営造物、公共用物に対応するものが多いと言われている。設置については条例主義が採られる(同第244条の2第1項)。また、救済については同第244条の4が規定する。

 他方、住民には一定の義務も課される。同第10条が公課(地方税の他、分担金、加入金、使用料、手数料、受益者負担金などを指す)についていわゆる負担分任の義務を定める。この他、個別法に定められることがある。

 (6)国と地方公共団体との関係

 これは、日本国憲法施行当初から続いてきた問題であり、地方分権改革もこの問題に対する一定の解決を目指すものであるが、現実には課題が山積している。

 憲法第92条を受けて地方自治法第1条の2が地方公共団体の役割と国の役割などについての大原則を示し、さらに同第2条第11項および第12項において国と地方公共団体の役割分担が規定される。

 ①国の立法権と地方公共団体の立法権

 国の立法権は、地方公共団体の立法権に優先する。すなわち、条例は法令の範囲内で制定可能である。

 これは憲法および地方自治法に示される原則であり、法律先占論もここから導かれる。しかし、「地方自治の本旨」は、国の立法権に対する枠をかぶせるものである。とくに問題となるのが、条例における上乗せ規制や横出し規制であり、法律の定める規制の基準がミニマムを定めていることが明文で示されている場合、あるいは解釈から導き出される場合には認められる、という解釈が多数説になっているものと思われる。

 ②国の行政権と地方公共団体との関係

 国と地方公共団体は、常に互いに無関係あるいは独立に行政活動を展開しているのではない。国が地方公共団体に関与し、都道府県が市町村に関与することは、憲法も当然に想定していることである。 地方公共団体が私人と同様の立場で活動する場合には、とくに議論をする必要はない。これに対し、地方公共団体が私人と異なる立場で活動する場合には、国の関与が問題となる。 関与の仕方は、地方自治法第245条に定められている(必ず参照のこと!)。そして、関与の法的根拠は法律または政令でなければならない(同第245条の2・第245条の4)。

 さらに、関与の基本原則は、同第245条の3に規定されている。 もっとも、関与の法的性質については問題が存在する。以下、関与の種類などを概観する。

 助言、勧告、資料の提出の要求は、事実上の行為であり、自治事務、法定受託事務のいずれに対しても行いうる。

 是正の要求は、都道府県の自治事務に対するものである。この場合には、地方公共団体に措置をとるべき義務が課される。

 是正の指示は、都道府県の法定受託事務に対するものである。要件は是正の要件と同じであり、やはり地方公共団体に義務が課される。

 同意、許可、認可、承認は、行政行為に準ずるものと考えられる。すなわち、これらがなされない限り、地方公共団体の行為は効力を生じない。但し、同意については議論があるが、協議のうち、同意を要する場合には、上記の同意などと同じ効力があると解される〈詳細は、森稔樹「地方税立法権」日本財政法学会編『財政法講座3 地方財政の変貌と法』(2005年、勁草書房)49頁を参照〉

 代執行は、都道府県の法定受託事務に対するものである(同第245条の8を参照)。

 処理基準の設定は、同第245条の9に規定される。

 関与の手続は、同第247条以下に規定される。行政手続法に準じたものが多い。

 関与をめぐって、国と地方公共団体との間で紛争が生じることがありうる。その処理を行うのが、国地方係争処理委員会(総務省に置かれる、いわゆる8条機関。地方自治法第250条の7)である。対象となるのは公権力の行使にあたるもので、是正の要求や指示、許可の拒否などである(同第250条の13)。手続については、同第250条の14を参照。

 同様に、都道府県と市町村との間で紛争が生じることがありうる。その処理を行うのが、自治紛争処理委員である(同第251条の3。第251条も参照)。

 また、同第251条の3・第252条は、裁判による紛争処理手続を規定する。

 ③地方公共団体相互の関係 委員会等の共同設置(同第252条の7)

 事務の委託(同第252条の14)

 職員の派遣(同第252条の17)

 この他、同第252条17の2、第252条の17の3、第252条の17の4を参照。 また、紛争処理として、自治紛争処理委員による調停制度(同第251条)、境界紛争(同第8条)などがある。

 

 ▲第7版における履歴:2021年10月09日に掲載。

 ▲第6版における履歴:2017年10月30日掲載(「第30回 行政組織法その2 国家行政組織法および地方自治法の基礎」として)。

            2017年11月01日、第31回に繰り下げ。

                                    2017年12月20日修正。

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「過ぎたるは及ばざるが如し」、または「及ばざるは過ぎたるに勝れり」という言葉は音楽にも妥当する

2021年10月08日 00時00分00秒 | 音楽

 7日の夜、突然の地震に驚きました。今使っているiPhone12で初めて緊急地震速報の警戒音が響き、近所の小学校でも緊急地震速報が大音量で鳴りました。川崎市高津区は震度4だったようです。

 さて、本題。

 最近、たまたまのことですが、渋谷のBUNKAMURA地下1階にあるナディッフ・モダンで「もりでねてた 環境音楽:クラシック・ヒーリング・エレクトロニカ すべてを包み込む森林音浴」(Off-Tone)というCDを見つけました。

 店で流れていて、おもしろいと思い、店員さんに聞いて購入したのです。かつての六本木WAVEの1階でよく流れていたアンビエントやヒーリングを思い出した、ということもありました。

 収録されているのは、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」、サティの「ジムノペディ第1番」などで、ハープによる演奏です。

 しかし、店で聞くのであればともあれ、自宅で聴くにはどうかな、と思います。もっと明確に記すならば、「過ぎたるは及ばざるが如し」、または「及ばざるは過ぎたるに勝れり」という言葉は音楽にも妥当する、ということです。

 もしかしたら、ヒーリング系のものは、店舗のような場所で聴くのと自宅で聴くのとは別物なのかもしれません。書店、百貨店、飲食店などで耳にするのであればよいのでしょうか。

 クラシック音楽を知らない人であればともあれ、親しんできた人には加工が過剰すぎて原曲のイメージが湧かず、加工をしないハープの演奏を聴きたいものです。多少のエコーやリバーブならわかるのですが(CDを作成する以上は当然でしょう)、「亜麻色の髪の乙女」のフレーズが断片的になったり、意図的なノイズが入ったりしており、「やりすぎ」、「ハープでの演奏そのものを聴きたい」と思いました。

 特に感じた疑問は、このCDの「ジムノペディ第1番」でヒーリング効果がどれほど期待されうるのかということです。純粋なピアノ演奏のみで十分に、一種のヒーリング、あるいはリラクゼイション効果があるとも言われているのに、加工することで台無しになるとは言えなくとも、効果が減少することは予想できなかったのでしょうか。あるいは、それこそ人によるのでしょうか。 

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のるるんナボナ8500系

2021年10月07日 07時00分00秒 | 日記・エッセイ・コラム

たまたま、東急ストア高津店で見つけ、購入しました。

 のるるんナボナ8500系です。ナボナといえば自由が丘の亀屋万年堂のお菓子で、その亀屋万年堂と東急電鉄のコラボ商品です。今年引退したデハ8634(元TOQ BOX号)を基にしたデザインで、東急線のキャラクター、のるるんが乗車しています。急行中央林間行きと書かれています。

まだ開封していませんので、中に入っているというコレクションカードを見ていません。

のるるんナボナは、何年か前から限定品で登場しており、大井町線急行用の6000系や田園都市線用の2020系などがデザインされたものが、東急ストアや東急線の売店で売られていました。

 のるるんは東急5000系をモデルとしたキャラクターです。実物の5000系からこのような可愛らしいデザインのキャラクターが生まれるとは驚きです。屋根にパンタグラフが乗せられていますが、実物の5000系に設けられているシングルアーム式でないことは御愛嬌というところでしょうか。ちなみに、東急バスにもノッテちゃんというキャラクターがあります。

実物の8500系は1975年にデビューし、東急では最大の400両が製造されましたが、現在は4編成しかありません。おそらく2020年度中に、遅くとも2021年度までに引退するでしょう。

この箱の中にはナボナが4個入っています。

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半蔵門線大手町駅

2021年10月06日 20時54分10秒 | 写真

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