「こちら101列車車掌。101列車運転士どうぞ。」
「こちら101列車運転士、どうぞ」
「101列車発車!」
「10列車発車了解!」
前のほうで、短い汽笛が鳴った。
この春で運転を終了する、急行銀河。
60年近くの間、東海道を走り続けた列車は
残されたわずかな時間の中で
今日も闇の中を、夢を乗せて走り続ける。
いつもの見慣れた景色。
新橋を過ぎた頃から右側の窓の
ビルの間から見え隠れする東京タワー。
日常が非日常になる、そんな列車。
横浜を軽い衝撃とともに発車。
「今日も急行銀河にご乗車、ありがとうございます。ただいまの時刻は23時10分を回ったところでございます。既にお休みの方もいらっしゃいますので、横浜からご乗車のお客様の乗車券を拝見させていただいたのちに消灯させていただきます。明朝は朝6時前、大津到着前よりご案内をさせていただきます。
楽しい旅のお話は尽きぬことかと存じますが、どうぞ周りのお客様にご配慮のうえお休みくださいませ。」
消灯の後、時折ながれゆく赤い踏切のランプや
すれちがう列車を眺めながら
列車の揺れに身を任せているうちに
いつしか夢の中へ。
ガクン
という揺れに目を覚ますと
窓の外には減灯されながらも
煌々と輝く無人のホーム。
この列車から
この景色を見ることが出来るのもあとわずか。
ショボショボとする目を擦りながら
また夢の世界へ。
次に目覚める頃には
きっと朝日が昇っているのかな。