2015年も押し詰まりました。カンボジア総合研究所チーフエコノミスト鈴木博の選ぶ「カンボジア経済2015年10大ニュース」です。
第1位 カンボジア産業開発政策 始動
8月26日、カンボジア産業開発政策(Cambodia Industrial Development Policy 2015-2025)の公式発表式典が開催されました。産業開発政策の目的は、カンボジアの産業を労働集約型から技術駆動型に進化させていくことです。重点産業としては、(1)高付加価値でクリエーティブ、高競争力の製品を製造する新産業・ベンチャー製造業、(2)中小企業、(3)農産品加工業、(4)サプライチェーンにリンクするサポーティング産業、(5)国際的地域生産ラインに資する産業等となっています。
今般の産業開発政策には、通常の途上国であればありがちな大規模産業開発(製鉄所や自動車産業等)は、含まれておらず、カンボジアの身の丈に合った地道な政策である点が高く評価されます。今後の確実な政策実施とその結果としてのカンボジア経済の順調な発展が大いに期待されます。
9月1日 「カンボジア産業開発政策」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/6968c226deb8a80ea2c7c2089793297a
第2位 つばさ橋開通
4月6日、日本の支援で建設された「つばさ橋」の開通式が開催されました。カンボジアの国道1号線は、プノンペンからベトナム最大の都市ホーチミンにつながる最も重要な幹線道路です。しかし、これまでこの道路は、ネアックルン地区でメコン河により分断され、川を渡るにはフェリーを利用するしかありませんでした。この地点はメコン地域における輸送の最後で最大のボトルネックとなっていました。
このような状況に対し、日本は橋梁の建設を支援してきました。カンボジアと日本のさらなる関係の発展を祈って「つばさ橋」と名付けられたこの橋は、南部経済回廊を通じた物流に大きな効果を与えるものと期待されます。
4月9日 「つばさ橋 開通式典」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/c1c9612cd5b80831c4754559258b0212
第3位 ワールドカップサッカー カンボジア代表 日本に善戦
サッカーの2018年ワールドカップロシア大会のアジア2次予選、日本対カンボジア第1戦は9月3日、さいたま市の埼玉スタジアムで行われ、日本はカンボジアを3対0で下しました。カンボジアは、守りに徹して、日本を苦しめ、3点を失ったものの善戦しました。ゴールキーパーであるヤティ選手の神がかり的なスーパーセーブも素晴らしいものでした。
日本対カンボジア第2戦は11月17日、プノンペンのオリンピックスタジアムで行われ、日本は2対0で辛勝しました。カンボジアは、守りを固めて、鋭いカウンターを何度も繰り出し、日本を苦しめ、2点を失ったものの善戦しました。前半は0対0で、互角と言っても良い奮闘でした。後半早々の岡崎選手のペナルティキックをゴールキーパーのセレイロアト選手がスーパーセーブで阻止した際にはスタジアムの盛り上がりは最高潮に達しました。
11月21日 「サッカーワールドカップ2次予選 日本対カンボジア第2戦」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/443f72375a738b8902eca9c1ae719c1d
9月6日 「サッカーワールドカップ2次予選 日本対カンボジア」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/6cb62585725788ffe98632e6d40b704e
第4位 プノンペン港湾公社 証券取引所に上場
12月9日、プノンペン港湾公社(PPAP)は、IPO手続きを経て、カンボジア証券取引所に上場しました。初値は、5200リエル、当日終値は5140リエルでした。公募価格は、5120リエルでしたので、上場初日は小動きでした。
カンボジア証券取引所には、プノンペン上水道公社(PPWSA)、縫製企業のグランドツイン社の2社のみの上場でしたが、ようやく3社目の上場となりました。上場を目指して、プノンペン経済特区社(PPSEZ)、シアヌークビル港湾公社、縫製企業のTYファッションの3社が、準備を進めています。PPSEZは、今年中にもIPO手続を開始したいとしています。
これまで、株価、出来高共に低迷を続けていたカンボジアの株式市場も、上場企業が増えることにより、活性化が期待されます。
12月14日 「プノンペン港湾公社 証券取引所に上場」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/ae801220eb1fc43f0eb8ce77972f9ea2
第5位 2016年の最低賃金140ドルで決着
2016年1月1日から適用されるカンボジアの最低賃金は、140ドル/月で決着しました。現在は128ドルで、9.4%の上昇となります。最近の最低賃金の上昇は、2012年61ドルから2013年80ドル(31.1%増)、2014年100ドル(25.0%増)、128ドル(28.0%増)と、急激なものがありましたが、今回は1桁台の上昇に留まりました。
最低賃金は、政府、雇用者、労働組合の3者の代表28名が参加する労働諮問委員会で討議されてきました。10月8日の会議で投票が行われ、政府案の135ドル(5.5%増)が多数を得て、労働大臣に答申されました。この結果を受けて、フン・セン首相は、鶴の一声で5ドル増額を加えることを決定し、最終的に140ドルで決着しました。
内需振興のためにも、最低賃金の引き上げは必要不可欠ですが、急激な上昇は外国投資家の懸念となっていました。カンボジア政府では、最低賃金の検討に当って、今年から労働生産性上昇率や物価上昇率等の客観的基準を使用し始めており、雇用者側も労働者側も納得感が高い決定方式が次第に定着していくことが期待されます。
10月19日 「カンボジアの2016年の最低賃金 140ドルで決着」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/81ad526f96ab40de1432a901ac733b4f
第6位 フン・セン首相訪日
カンボジアのフン・セン首相は、7月4日に東京で開催された日本・メコン地域諸国首脳会議に出席するため、日本を訪問しました。この際、安倍首相とも会談し、二国間関係の強化にも取り組みました。また、プノンペンの水道への支援を行っている北九州市を訪問し、親交を深めました。北九州市は、1999年から、カンボジアの水道分野に多大な技術協力を行っています。フン・セン首相も「これまでの活動に心から感謝する」と述べました。北橋健治市長は「北九州空港がアジアに開かれた国際空港だというPRとともに、水道や環境の技術についてもアジア各国に宣伝できる画期的な訪問になった」と述べました。
日本は、カンボジアに対して、独立の際の支援、内戦終結のための支援、内戦後のPKOの派遣、ODAの供与など、様々な協力を行ってきました。カンボジアでは、政府でも国民レベルでも、これらの協力について感謝しており、日本に対する親近感も強いものがあります。「親日国」であるカンボジアと、日本との関係が更に強化されることが期待されます。
7月7日 「第7回日本・メコン地域諸国首脳会議」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/1ab1e80a2b49026cf31b459fde24aa59
7月7日 「日本カンボジア首脳会談」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/b746c595ff42272248687794151b46c9
7月10日 「フン・セン首相 北九州市等を訪問」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/1f8fcb726a8298ac8bb33bf9e813a689
第7位 カンボジアに過去最大の230億円の円借款を供与
3月15日、安倍晋三内閣総理大臣は、フン・セン首相と会談し、プノンペンからタイ国境に向かう国道5号線の拡幅整備のための円借款を供与することを表明しました。3月30日、プノンペンにおいて,隈丸優次駐カンボジア大使とハオ・ナムホン副首相兼外務国際協力大臣との間で、総額230億2400万円の円借款2件及び総額42億9100万円の無償資金協力3件に関する交換公文の署名が行われました。
円借款案件は、プノンペン首都圏送配電網拡張整備計画(フェーズ2)(第一期)(供与限度額38億1600万円)と国道五号線改修計画(スレアマアム-バッタンバン間及びシソポン-ポイペト間)(第一期)(供与限度額192億800万円)の2件です。供与条件は、金利0.01%/年、償還期間40年(当初10年間の据置期間を含む)という大変譲許的なものです。
円借款だけで、230億円という規模は、これまでで最大の金額となります。カンボジア向けの円借款の約束額は、2010年のゼロから、2011年42.69億円、2012年71.61億円、2013年88.52億円、2014年137.85億円、そして今年230.24億円と、順調に規模を拡大してきています。カンボジアの日本に対する信頼感を更に向上させることに繋がるものと見られ、両国間の関係が更に親密になることが大いに期待されます。
4月2日 「カンボジアに対する円借款及び無償資金協力に関する交換公文の署名」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/d04933c9aaa87fca824eb665e3bbe6a0
第8位 カンボジアに初の日本人学校開設
カンボジアで初めての日本人学校が開校し、5月31日、記念の式典が開かれました。ハン・チュオン・ナロン教育大臣、隈丸優次日本大使等の両国関係者が出席しました。日本人学校は、現在のところ、小学1年生から中学2年生までの全校児童生徒21人、教職員14 人となっています。
開校式で三浦信宏校長は「カンボジアと日本の懸け橋になればと願っています。世界で一番楽しい学校にしたい。」とあいさつしました。また、ナロン教育大臣は「開校はカンボジアでの日本人の生活環境を向上させ、日本企業によるカンボジアへの投資増加につながるだろう。」と期待を示しました。
日本人学校は、プノンペン在住の日本人家族にとって基礎的なインフラともいえるもので、今後、日系企業も安心して駐在員とそのご家族をプノンペンに送り出せるようになるもの期待されます。
6月2日 「カンボジアに初の日本人学校開校」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/82475220190a7a83f0b5c73f2cdc52cd
第9位 豊田通商 ポイペトでテクノパーク事業
3月31日、豊田通商株式会社は、2015年4月にカンボジアに日系自動車部品会社の現地生産を支援する新会社 「Techno Park Poipet Pvt. Co. Ltd.(予定)」 を設立すると発表しました。タイの日系自動車部品メーカーがサテライト拠点としてカンボジアへ進出していく動きに対応するため、2015年5月に着工し、2015年末を目途に営業を開始するとしています。
アセアン経済共同体の完成や、南部経済回廊の活用によって、低賃金のカンボジアで部品を生産し、これをタイの東部臨海にある自動車工場へカンバン方式で納品していくサプライチェーン型の国際的生産体制がますます発展することが期待されます。
4月6日 「豊田通商 ポイペトでテクノパーク事業」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/591dec7180537d08cd293ecf80526e95
第10位 IMF IV条協議結果2015 マクロ経済の好調を評価
国際通貨基金(IMF)は、IMF協定第IV条に基づき、毎年加盟国政府と政策協議を行うこととなっています。本年7月に行った2015年のカンボジアとの協議結果詳細について、11月16日にIMFから発表がありました。
主なポイントは以下の通りです。(1)カンボジアは過去5年間の平均でも7%以上とアジア諸国の中でも最速レベルの成長を続けている。2015年は7.0%、2016年は7.2%と予測。 (2)物価上昇は問題なし。2015年は1.1%、2016年は1.8%と予測。(3)経常収支赤字は、輸出多様化と石油価格低下により、対GDP比で2015年11.1%、2016年10.6%と縮小傾向にある。外国直接投資と公的借款で埋め合わせて総合収支は黒字を維持している。(4)外貨準備は2015年50億ドル(輸入の4.0月分)、2016年55億ドル(輸入の4.0月分)を見込み安定的。(5)財政赤字も対GDP比で2015年2.0%、2016年2.6%と低レベルにある。なお、添付されている債務持続性分析報告書(DSA)では、カンボジアの対外債務の状況を「低リスク」に分類し、当面問題ないものとしています。
11月19日 「IMF IV条協議結果2015 マクロ経済の好調を評価」
http://blog.goo.ne.jp/economistphnompenh/e/867b9fa6e43b618590701ff3be399cdf
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