英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

「すごい」と「すごく」 【加筆、修正あり】

2015-09-22 14:20:43 | 時事
 コーラのCMだったと思うが、中居正広が「すごいおいしい」を連発していた。
 また、最近の『しゃべくり007』で向井理が「すごい大変だった(おもしろい、楽しい)」を連発していた(「すごい」の後に続く形容詞が何だったかはっきり覚えていません)。向井理は大学で遺伝子工学を専攻した、言わば“インテリ”であるはずだが…
 しかも、その後登場した佐藤健&神木隆之介のどちらかが、この言い方を連発……

 もはや、この用法は、「食べれる」に代表される「“ら”抜き言葉」と同様に、押し留められない誤用であるようだ。
 で、私も諦め、記事にするのを躊躇していた。

 ところが、私のお気に入りのドラマの『リゾーリ&アイルズ』の二人のヒロインの会話(新たな情報を持ってきた同僚に訊ねたシーン)

ジェーン(リゾーリ)「すごい知りたい
モーラ(アイルズ)「“すごく”!
ジェーン「訂正されると、むかつく(怒)」
モーラ「変な言葉使われると、むかつくっ(にっこり)」
 このやり取りに、私は意を強くしたのである。

 横道に逸れるが、『リゾーリ&アイルズ』はボストンを舞台にする刑事ドラマ。
 捜査(謎解き)も面白いが、皮肉やウイットに富んだ会話が面白い。例えば…

上司「(腰を痛そうに、呻き)ヨガで無理してな」
モーラ「腰痛は、合衆国で2番目に悩んでる人が多い疾患なの」
ジェーン「じゃあ一番の悩みの種は、あんたの薀蓄?」
 ちなみに、一番は頭痛とのこと。

 また、同窓会で
同級生1「俺の会社が今や、業界トップに成長した記事は読んでるよなあ」
ジェーン「私は大きいニュースしか読まないの」

同級生2「スタイルいいわねぇ~、あなたまだ、子どもいないでしょ」
ジェーン「まあ、拾った犬を数に入れなきゃね」

 この『リゾーリ&アイルズ』については、いつか記事にしたい。


 で、この誤用であるが、世に氾濫している理由は存分にある。
1.「すごい」(「すごく」)の被修飾語(直後の言葉)のちょっとした違いで使い分けなければならない
 コーラのCMの場合、被修飾語は「おいしい」。この「おいしい」は形容詞なので「すごい」の副詞的用法ができる連用形の「すごく」を使わなければならない。用言(動詞、形容詞、形容動詞)を修飾する場合、形容詞の連用形、形容動詞の連用形、副詞を用いる。例えば…
 速く(形容詞の連用形)+走る(動詞)
 静かに(形容動詞)+歩く(動詞)
 かなり(副詞)+美しい(形容詞)
 とても(副詞)+軽やかだ(形容動詞)

となるわけだが、被修飾語が名詞化できるのがややこしくさせている。例えば…
 「おいしい」→「おいしさ」
 「走る」→「走り」
 「歩く」→「歩き」
 「美しい」→「美しさ」
 

名詞化された場合は形容詞(形容動詞)は連体形(終止形と同じ)を用いる。
 「すごくおいしい」→「すごいおいしさ」
 「速く走る」→「速い走り」
 「静かに歩く」→「静かな歩き」
 「かなり」と「とても」は副詞で活用できない(変形できない)ので、名詞は修飾できない。

 という訳で、被修飾語の変化に対応できず、一緒くたに「すごい」が使われていると考えられる。

 ただ、誤用の理由はこれだけではなさそうだ。


2.「すごい」が感動詞的に使われている
 「嗚呼」「まあ」「おお」「何と」が代表的な感動詞。現代では、「すごい」が、この感動詞的使われ方をしているとも考えられる。
 まず、美しさや強さなどに「すごい!」と感動して、その後に、具体的な形容が続く。「すごい!、きれい!」という心の動きだ。これが「すごいきれい」や「すごいおいしい」という表現に繋がったのではないだろうか。
 この動きを助長させたのが、SMAPの木村拓哉であると、私は考えている。かれが頻繁に発する「すげえ」「すっげぇ!」がそうである。彼の影響力は大きい。


3.「形容動詞」と「名詞+だ」が紛らわしい
 形容詞の終止形は「~~だ」であるが、「名詞+だ」と形が同じである。
 よく「静かだ」と「学校だ」を例に挙げ、「静かな」というふうに「~な」(連体形)に活用(変化)できるのが形容動詞で、「名詞+だ」は「学校な」とはならない、と説明される。
 この説明は正しくて、分かりやすいが、実際にはもっとややこしい例がある。
 「臆病だ」「平和だ」「円満だ」「活発だ」は形容動詞であるが、その語幹の「臆病」「平和」「円満」「活発」は名詞でもある。
 しかも、①「彼は臆病だ」、②「彼の欠点は臆病だ」と2種類の「臆病だ」が存在する。①は形容動詞で、②は「名詞+だ」である。

 「すごい大変」という表現であるが、「大変」が一見、名詞に思えるので、「すごい」を使いたくなるが、「大変だ」という形容動詞なので「すごく」を使用するのが正しい。(「大変」は「大きな変事。大変な出来事。大事」という意味の名詞の場合もあり、「すごい大変」という表現は文法的には存在する)


 そんなわけで、「すごいおいしい」などの表現については、その理由を理解はできる。今後も更に氾濫するであろう。
 しかし、CMで連用したり(少し前(一昔前?)のCMでは「すぐおいしい、すごくおいしい♪」というフレーズが使われていたはず)、向井さんが大学の実験の話で「すごい大変でした」を連発するのは、やめてほしい。(大学の実験の話なんて、インテリの極地の話題だよ)。
 
 モーラではないが、「変な言葉使われると、むかつくっ(にっこり)」のである。むかつくほどではないが「、すごく気になる」「すごく引っかかる」のである。


【加筆、修正】
 エスカルゴさんからコメントをいただいて、謎がかなり解けました。
 『話し言葉か、書き言葉かで、誤用度(許容度)が変わる』ようです。
 話し言葉、つまり、言葉を発する時は瞬間瞬間で言葉を組み立てます。とくに、「すごい(すごく)」という心の動きを伴う時には、感じたことをそのまま口に出します。
 「程度の甚だしいことに心が動いて、まず(感嘆詞的に)「すごい」と言い、その後、何に心が動いたのか説明の形容詞(“おいしい”など)を続ける」となるわけです。
 いちいち文全体を考えて、「すごく○○だ」と言うのは、ストレートに感動を口に出していません。

 書き言葉になると、文全体で組み立てるので、「すごくおいしい」では変ですし、読むほうも違和感を感じます。

 『話し言葉だと「すごいおいしい」は許容範囲かも』と修正します。
 
コメント (15)
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