英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

『相棒』 暴発  ~右京、暴走?~

2010-12-03 18:19:29 | ドラマ・映画
「何人も平等に法に守られ、法を守らねばならず、裁かれなければならない」……右京(水谷豊)の信念……≪法の下の平等≫である。

 右京の発言から見える法の捉え方や信念が見えてきますね。
尊(及川光博)「協力者が裏切り者として命を狙われる恐れがあります」
右京「(協力者に対して)警護義務はないはずです。警察が現行法の中で協力者をどこまで守れるかは別の話で、必要なら法を変えるべきだという話です」

尊「法を変えるなんてすぐにできませんよ」
右京「だから(協力者・後藤を守るため)後藤の罪状を変えて送検するのですか」
尊「それも一つの選択肢だと思います」
右京「後藤が被害者を撃ったのなら、後藤は殺人罪で裁かれるべきです」
 法律に不備があって不都合や理不尽さが生じても法に則って裁くべき、裁かれるべきという右京の強い信念


 潜入捜査官がその協力者に射殺されたという事実を公にして警察に何の得があるのかという麻薬取締部(以下「麻取」)五月女に対し
罪を捌くのは損得ではなく、法律です
損得勘定でしか動かない上層部(刑事部長や組織犯罪対策部長)とは対照的意見です。
右京「正しい法で裁かれなければなりません。我々捜査側の不都合を隠すために代わりの法律で裁くなんてことは絶対にあってはなりません。 麻取の潜入捜査は合法です。隠すことではありません。もちろんそれが失敗し死者が出たことが公になれば、一時的には興味本位で騒がれるかもしれません。その責任を取った上で捜査上の不備を徹底的に直し、そこからやり直すべきです」
早乙女「公にすれば、麻取という組織の存在も危うくなるんです」
右京「今は組織の保身論など持ち出す持ち出す時ではありません」
早乙女「公になれば、後藤の身にも危険が及ぶんだ」
右京「それは別に対策を考えるべきことです」

 徹底した遵法精神です。
 麻取がダメージを受けて麻薬の取り締まりが弱体したら、薬物被害が広がる可能性が大です。協力者・後藤の身も危うくなります。
 小事にこだわって大事を失うことにもなりかねない右京の信念です。
 しかし、捜査員の命を危うくさせる潜入捜査はやめるべき(現在は合法)、潜入捜査をするなら捜査員や協力者を守るべき法を整えるべきだ。そうすれば、今回のような理不尽なことは起きず、薬物取り締まりも大いに進むことになる。大きなスパンで考えれば、一時的に後退しても、大きく前進できるはずという右京の理念です。

 さらに、今回の事件は、疑われた潜入捜査官がこれまでの1年費やした内偵捜査が無駄にならないため、自ら命を絶ったという真相が浮かび上がってくる。
尊「もう……もう、この辺でいいんじゃないですか」と右京を止めるが
右京「真実の追求に、もうこの辺でいいなどということは絶対にありません
 尊は命を掛けた潜入捜査員、麻取の窮地、協力者の身の安全を思い、右京を止めるため証拠データの削除など実力行使した。

 裏取引で麻取が麻薬捜査を取り仕切っているので、右京は一課に殺人容疑で動かそうとしたが、上層部は業務上過失致死(暴発として処理)で送検を決定し右京を捜査からはじき出してしまう。
 麻取が後藤(協力者)を送検してしまう前に、右京は後藤を取り調べようとする。一課トリオのうち伊丹が右京に追従、ふたりで後藤を取り調べる。
 その最中、五月女が表れる。
五月女「真実は銃の暴発だ」
右京「銃の暴発で、あなたは鎌田さん(潜入捜査員)を、自分の部下を、二見会の構成員として、一介のやくざとして終わらせるおつもりですか
 後藤が右京の推論通り、鎌田が後藤を庇うために、内偵調査を無駄にしないために、自殺した(後藤に撃たせた)ことを認めた。
 そして、右京はあくまでも真実を明らかにしようとする(公表しようとする)。
五月女「後藤の容疑は、薬物と銃刀法違反と過失致死です。後藤もその罪状で納得している」
右京「罪は納得したかどうかで決まるものではありません
伊丹「奴の供述通りなら、鎌田さんは自殺です」
右京「鎌田さんに要求され、銃を構えた可能性は残ります。だとしたら、自殺ほう助です。よって、警察は最低でも自殺ほう助で送検し、その後の判断を検察に任せ、後は裁判によって…」(五月女の言葉によって遮られた)
五月女「それでは鎌田の死が無駄になる」
右京「そうは思いません。そもそも、捜査官に命を絶たせる捜査は間違っています
五月女「それでも、私は鎌田を誇りに思う」
右京「本心でそうおっしゃっていますか?胸を張ってそう言えますか?」
五月女「…胸を張って言えるはずがないじゃないですか。それでも私は、私の部下の鎌田が、命を懸けて守ろうとしたものは絶対に守る。薬物の売買をしていた後藤が銃の暴発で仲間の鎌田を撃った。それが私の真実だ。……………警察には約束通りの容疑で送検してもらう」(五月女、立ち去る)
右京「伊丹さん、鑑識に連絡してここ(現場)を調べさせてください」
伊丹、複雑な表情で右京を見て、目をそらす。

捜査一課のトリオも複雑な心境でした。
★芹沢
 黙々と送検の書類作成をしているが、無理やり納得しようとしている顔。
「丸く収めるための礼状です」という言葉で伊丹に説明。
「納得いきませんか」と疑問を投げかける。
★伊丹
 業務上過失致死容疑の逮捕状を見て、芹沢の問いかけに、
「わからん。だが、あんなことをした鎌田の気持ち、こうせざるを得ない五月女の気持ちは……わかる気がする」
★三浦
 右京のところに来て、事件の処理の結果を告げる。(わざわざ来たのは、後ろめたさのようなものを感じているのかもしれない)
 「弾を入れた弾倉を拳銃に込めている最中、鎌田がふざけて銃を奪い取ろうとして暴発」という供述書を見せる。
右京「そんな調書を作るように、どなたかに入れ知恵入れ知恵されましたか?」(尊が部長に提言したと思われる)
三浦「いいえ、警部殿、私はね、自殺じゃなく、暴発事故にしてやりたい、そう思ったんです」


★ラストシーン(花の里にて)
尊「すみませんでした。……ですが、ぼくは自分のしたことを間違っているとは思っていません」
右京「君のしたことをとやかく言うつもりはありません。ですが、罪を取り換えて償うことなど決してできない、僕は今でも、そう思っています。


 深すぎてすっきりしないお話でした。
 まあ、深いお話ですから、すっきりと出来るはずもないですよね。世の中、そんなに簡単に割り切れるものばかりじゃないです。10個のお菓子を兄弟3人で分け合うと、残りの1個でけんかになっちゃいます。残りの1個をきっちり3等分するのは困難なので、1個は誰かにあげてしまったほうが丸く収まりますよね。
 右京の言うことは正論ですが、あまりにも法律・規則を絶対視するのも無理が生じます。多くの人はどこかで実情や人情と折り合いをつけています。
 右京は「法律といえど人間が作ったものなので、不備がある」とも認めています。しかし、「不備あれば改正すればいい。改正されないうちはその方を守らねばならない」というスタンスです。これは、極端に見れば危険な思想ともいえます。明らかにおかしい法であったとしても、それに従うということになります。
 そんな明らかにおかしい法律なんてそうはないだろうと思いますが、変化が激しい現代社会に対応し切れていない法律はありそうです。最新犯罪に関してそれを取り締まる法律がないという言葉を時々耳にしますが、こういう場合、右京は見過ごすのでしょうか?まあ、彼は賢いですから、現行法に適応させて罪状をひねり出すかもしれませんが。
 今回は暴走気味の右京でしたが、右京の頑な過ぎる信念は、法律という現代社会の基準を個人が捻じ曲げてしまったら、社会が崩壊してしまうという理念からだと解釈しています。
 ただ、あまりにもすっきりしないのは、1時間ドラマの限界かもしれません。
 右京の「法律の絶対視」を前面に出しましたが、右京がそう考える根拠を示すべきだったと考えます。
 また、今回の右京の行動は、「潜入捜査への批判」がその因だったと感じます。
 しかし、ドラマでは
「麻取の潜入捜査は合法です。隠すことではありません。もちろんそれが失敗し死者が出たことが公になれば、一時的には興味本位で騒がれるかもしれません。その責任を取った上で捜査上の不備を徹底的に直し、そこからやり直すべきです」
「銃の暴発で、あなたは鎌田さん(潜入捜査員)を、自分の部下を、二見会の構成員として、一介のやくざとして終わらせるおつもりですか」
「捜査官に命を絶たせる捜査は間違っています」
 と、潜入捜査について言及していますが、「法を守るべき」と主張するためのついでの(補助の)理由にしかなっていないからだと考えます。
 五月女へ向けた最後の言葉「本心でそうおっしゃっていますか?胸を張ってそう言えますか?」が、五月女の心境を思いやって静かな口調で発せられましたが、もし、右京が潜入捜査への批判が強いという設定だとしたら、ここは激昂してほしかったです。
 尊のとった行動は、大人の対応だったと思います。
 ただ、亀山だったらどういう行動をとったのだろうかと、どうしても思ってしまいます。

 今回、右京によって潜入捜査官の死の真相が明らかにされました。
 もし、右京が居なかったら、あの捜査官は一介のやくざの死としてまったく知られることなく(麻取は別)闇に葬られたことでしょう。それが、彼の命を懸けた行為や心を一部の者だけですが知らされ、理解されたのが、救いなのかもしれません。
 そこらあたりをもう少し描いていたら、すっきりしたかもしれません。でも、脚本家の意図には反するのかもしれないです。

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6 コメント

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罪と罰。 (tamacat)
2010-12-04 02:52:30
こんばんは。はじめまして。
記事を読んでいて思うところがあったので、コメントさせてください。

>右京「真実の追求に、もうこの辺でいいなどということは絶対にありません」
>伊丹「奴の供述通りなら、鎌田さんは自殺です」

今回釈然としなかったのは、ここかな、と思います。
罪を「明らかにする」ことと、それに対して「罰を与える」ことは別ですよね。真実を追求するだけなら、いつもの右京です。だけど、今回の右京はどうも、後藤に罰を与えたがっているように見えた。後藤の証言で「真実は自殺」と明らかになっていながら、なお「最低でも自殺ほう助」という無理筋を通そうとした。それが真実以上の事実を「盛っている」ように見えたのが釈然としなかった理由かなぁと。

何人かのブロガーさんが書かれていますが、season6の最終話での小野田官房長の台詞「杉下の正義は、時々暴走するよ」が思い出される話でした。
返信する
仰るとおりです ()
2010-12-04 11:05:22
tamacatさん、こんにちは。

>罪を「明らかにする」ことと、それに対して「罰を与える」ことは別ですよね。真実を追求するだけなら、いつもの右京です。だけど、今回の右京はどうも、後藤に罰を与えたがっているように見えた

 ええ、多分、今回多くの方がこの点に引っ掛かりを持っていると思います。
 「後藤の自殺幇助の容疑で送検して、蒲田の自殺を立証する」という方針を明確にするのがよかったと思います。
 今回、右京が頑なに後藤を処したかったのは、適正な罪状で裁判を行い、法的に認められている麻取の潜入捜査の不当性を問題にしたかったからと考えます。
 もう少し、その点を詰めてほしかったですね。もしかしたら、あえて、右京に暴走させることで、右京の法律絶対視と尊や一課のトリオ、上層部との理念の違いを描きたかったのかもしれません。
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Unknown (とりすがり)
2010-12-05 13:49:17
はじめまして、こんにちは。横から失礼します。

右京さんは基本的に「警察は真実をすべて洗い出すこと、あとの判断(自殺なのか、自殺幇助なのか等)は警察がやるべきではない」という考え方を持ってる人です。
今回の場合、自殺というのはあくまで後藤の証言のみで成立している罪状です。たしかに状況はあきらかに自殺と思われるかもしれませんが、だからといって自殺と決め付けるのは間違っているということです。
引き金を引いたのが蒲田であっても、後藤が自殺を容認している可能性は否定できません。右京さんにいわせれば「後藤が蒲田の自殺を(積極的)自殺を阻止するような行動をしていたようには見えない」ということが気になるのでしょう。心臓を綺麗に打ち抜かれていますからね。となると自殺幇助で送検して矛盾点があれば裁判で、ということではないでしょうか。

後、右京さんが自殺幇助にするべきといったのは「捜査官に自殺を選択させる」捜査における法の不備を示すという意味もあったと思います。(現状の法律であれば協力員が自殺幇助しても罪に問われてしまう)
付け加えれば、自殺で送検する場合それに合わせたシナリオが作られてしまうという懸念もあったのでは?とも思えます。

今回の事件は久しぶりに相棒らしい話だったな、とシーズン1からのファンとしては面白かったです。
返信する
同意 ()
2010-12-05 14:29:57
とりすがりさん、こんにちは。

>右京さんは基本的に「警察は真実をすべて洗い出すこと、あとの判断(自殺なのか、自殺幇助なのか等)は警察がやるべきではない」という考え方を持ってる人

 ええ、そうですね。

>今回の場合、自殺というのはあくまで後藤の証言のみで成立している罪状です

 確かに、そうですね。

>自殺と決め付けるのは間違っているということです。引き金を引いたのが蒲田であっても、後藤が自殺を容認している可能性は否定できません。

 そう、後藤に自殺ほう助の意思があった可能性もありますし、一課の送検書面の「鎌田がふざけて後藤の持っていた銃を奪おうとした」可能性もあります。

>心臓を綺麗に打ち抜かれていますからね

 なるほど、心臓を撃ち抜かれていたという事実は、ふざけて取り上げようとしたということを疑わしくさせるだけでなく、後藤が鎌田に抵抗しなかった可能性を示唆しているとも考えられますね。

>となると自殺幇助で送検して矛盾点があれば裁判で、ということではないでしょうか。

 この点については、コメントのレスで述べた
「後藤の自殺幇助の容疑で送検して、蒲田の自殺を立証する」を「後藤の自殺幇助の容疑で送検して、蒲田の自殺を検証する」に訂正します。

>右京さんが自殺幇助にするべきといったのは「捜査官に自殺を選択させる」捜査における法の不備を示すという意味もあったと思います

 この点については、本文の
「今回の右京の行動は、「潜入捜査への批判」がその因だった」
がその意味を含んでいるとお考えください。

 コメントありがとうございました。参考になりました。
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Unknown (Unknown)
2014-03-17 00:10:26
すんごくあたりまえでかきこむのをちゅうちょしたけどかく
なんでだかわからないけどうきょうってしんじつをついきゅうすることとたにんにはほうをげんしゅさせないではいられないんだよねじぶんはふほうしんにゅうれいじょうなしのかたくそうさくなんかをするくせにたにんにはほうをげんしゅさせるこどもじみたみがってさをもちしんじつというたにんのごしっぷねたをとことんまでついきゅうするげいのうkしゃかおまけのでばがめけいかんでありほうにはんするならははおやがわがこをまもるためにいのちをかけておこなったぎそうですらあばいてそのしをいぬじににしてしまうにんぴにんこれではとうていすぎしたうきょうにぎがあるとはいえないとおもう
返信する
右京の捜査の非合法さ ()
2014-03-17 15:54:05
Unknownさん、こんにちは。

 確かに、右京は他人には法の厳守を強いる割には、違法な捜査を平気でします。
 まあ、それは特命係というアウトローさという理由で15%ぐらい大目に見ることにしています。
 あとの85%ですが……脚本サイドが上記の右京の性質を容認しているのは、そう言う右京の性質を完全な正義とは考えておらず、「右京の暴走」もありだと考えていると思われます。
 その意味で、亀山や尊の存在は価値があったのですが。
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